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月神ディーゼの神殿跡にて|創世の竪琴・その41

「ここか?」
扉の前で2人は立ち止まる。

「把手も何もないんだな・・どうすりゃ入れるんだ?」

「うん・・・私もそれが分からなくて・・」

「そうだな・・・びくともしない。」
イルが押しても開きそうもなかった。

「やっぱり駄目なのかなぁ?」

渚がそう呟きながら一歩扉に近づいた時だった。渚のイヤリングが突然ぱあっと輝くと、その扉はゆっくりと開いた。
姫巫女の預言

「イ、イル・・・」

「ああ・・・・」

イルは渚の肩を抱くと一緒に警戒しながら、その部屋に入って行った。

薄暗いその部屋の中央には魔方陣が描かれてあった。
一瞬、洞窟のものと同じでは、という考えがイルの脳裏を過ったが、それはそうではなかった。

魔方陣の中央に何かある、と思ったイルは、渚を後ろに従えながら近づいた。

「・・・・・!」

2人は声も出ず、立ち尽くした。
そこには魔技と思われる老婆の首が台座の上に乗っていた。

「姫巫女様・・・・ですかな?・・いや、そんな事があるはずは・・・ない・・・姫様は、逝ってしまわれた・・。
それに、あれからもう随分時は過ぎているはずじゃ・・。」

ゆっくりと目を開けたその首は渚の姿を見つけると話し始めた。

「あ、あの・・・・。」

渚はイルの背に隠れ、イルは来るであろう攻撃に備え、身を構えた。

「警戒せんでもよい。
わしは闇の者ではない。
ディーゼ神殿に仕えていた最後の姫巫女、セイアス様の乳母を勤めていた魔技じゃ。」

「姫巫女様の?」
警戒しながらイルが聞いた。

「そうじゃ。・・・なるほど、姫巫女様の予言はどうやら具現したらしいの。」

魔技の首はイルの耳に下がっているイヤリングを見つけると悲しそうに言った。

「予言?」

「そう、予言じゃ。新たなる黒の森が現れるという予言じゃ。・・・
『太陽神ラーゼスが世を嘆き、全てを無に帰さんとする時、
その武具、闇に染まりし者の手に、移らん。
世界は白龍から黒龍の手に落ち、人の世は、ここに終わらん。』

・・・というものじゃ。」

「・・そ、そんな予言は聞いたことが・・」

「当たり前じゃ。
姫様は誰一人として口外せなんだのじゃからの。このおばば以外には。」

その首はしばらく目を閉じ、遠い昔に心を馳せているようだった。

イルと渚は身動きもせず、じっと見つめていた。

「じゃが・・・」
再び目を開けると、その首はゆっくりと話しだした。

「『異世界から来た黒髪の娘と巫女の血を引く青年が立ち向かっていくであろう。』とも姫様は申された・・・・。」

「異世界?」

「そうじゃ、そこなる娘はこの世界の者ではないであろう?そうじゃな?」

「・・・・・・。」

渚は何と答えていいか分からなかった。
確かにそうではあるが、驚いたように渚を見つめるイルに説明のしようがなかった。

おばばの話しは続く。

「よいか、そこなる男よ。
その娘を連れて、太陽神殿に行くのじゃ。
そして、今一度男神ラーゼスの心を開かさせるのじゃ。
その時、そなたの耳にある男神の武具はその輝きを取り戻し、再び黄金の光を放つじゃろう。
そして、その女神の武具を持つ娘と共に、世界を救うがよい。
よいか、これだけは忘れてはならぬ。
男よ、もしそなたが闇の心に染まれば、それは一切不可能となる。
男神の武具は漆黒の色となり、世は闇に支配される・・・。」

「な・・・」
イルは言葉が返せなかった。

「よいか、黒とはいえ、今はまだ輝きを放っておる、もしそれが輝きを失いつつあるような時は、そなたの心が疑心暗鬼にかられておるのじゃ。
利欲、悲嘆、憎悪、疑い、嫉妬、絶望、殺意、様々な負の精神が漆黒の闇色に染めていくのじゃ。
そこなる娘もまた然り。
決して闇の者の手に堕ちるでないぞ。
よいか、ゆめゆめ忘れるるなかれ、世はそなたたち2人の肩にかかっておる。
仲間は選べ、悪しき心を持たぬ者を選ぶがよい。」

「太陽神殿はどこに?」

すでに警戒も解け、逃れえない運命だと悟ったイルは、重苦しい声でおばばに聞いた。

「このタスロー大陸東、海底深くに沈んでおる。」

「じゃ、それじゃ、行けないじゃない?」
1歩近づいた渚が絶望したように言った。

「龍玉を集めるのだ。神龍である、赤龍、青龍、緑龍の持つ龍玉を。
それをその海上でかざせば、海底が隆起し、神殿が姿を現すはずじゃ。」

「で、でもその神龍とはどこで会えるの?それですぐ龍玉はもらえるの?」

「・・・・それは、分からぬ。じゃがお前たちはやらねばならぬ。・・・おばばが知っておる事はそれだけじゃ。・・・これで、やっと・・・わしも眠る事ができる・・・姫様のお側に行く事ができる・・・・。」

静かに目を瞑ると、その首は台座の上からかき消えた。

後に残ったイルと渚はしばらく声も出ず、静まり返ったその場所に、呆然と立ちすくんでいた。

おばばの言葉が2人の頭の中でいつまでもこだましていた。

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