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炎龍の住処は白い雪山?|創世の竪琴・その49

「このタスロー大陸南部の殆どを占めるファダハン王国の事じゃ。
国土の大部分が砂漠と化してから、ファダハンは緑豊かな土地を求めて領土拡大を図ったんじゃ。
その近隣諸国への侵攻は目に余るものじゃった。
・・・・酷い戦じゃった。
・・・このジプシー団にもそれで親を無くした子が多い・・・みな、飢えておっての
・・わしらのお頭が拾わなんだら・・・命はなかったじゃろう・・・。」

「シュメ・・さん・・・」

しばらくシュメはその時の事を思い出しているのか黙っていたが、思いついたようにまた話しだした。

「おお、そうじゃ、話の続きじゃ。
これは、旅人やら吟遊詩人やらに聞いた話じゃがの、半年前の事じゃ。
そのファダハンの王宮の真上で、天を裂くような雷がなっての。
なんと、王を直撃したんじゃ。人々は自業自得だと噂しあった。
じゃが、異変はそれだけでは済まなかった。
王の葬儀も出さぬうちのことじゃ。
王宮の中心から真っ白になっていくんじゃ。
不思議な白色じゃそうな。
建物も木々も動物も人さえも、それに襲われると失くなってしまうのだそうな。
辺りは一面真っ白に化し、それは少しずつ広がってきておるそうな。」

「そ・・・そんな・・・・。」

渚の目は驚きで大きく見開かれていた。

男神ラーゼスはすで実行していたのだ。
世界を創世の前に戻すという事を。

渚はゼノーの言葉を思い出していた、『始まってしまった世界の崩壊を止めることはできぬ。』という言葉を。

「い、急がなくっちゃ・・・」
慌ててテントを出ていこうとする渚をシュメが呼び止めた。

「神龍の居場所は分かっておるのか?」

「あっ・・・・」

真っ赤になりながら渚はまた水晶球の前に座った。

「水晶の精よ、我に示せ・・・神龍の居場所を・・・・」

透明だった水晶の中心から、虹色の靄が出て、やがてそれは水晶一杯に広がった。
そしてその靄の真ん中に少しずつ景色が見えて来た。
そこに見えたのは吹雪の中にそびえ立つ真っ白な山だった。
それが消えると今度は、真っ赤な炎を映し出した。

「炎って事は、炎龍よね。でも炎龍が・・・雪の中・・・?」
渚は千恵美の言葉を思い出していた。

(ほ、本当に・・・なっちゃった!)

「炎龍はこの大陸の北にある雪山、フリーアスにおる、という事じゃな。」

「遠いんでしょ、そこは?」

「そうじゃな、2、3ヵ月はかかるじゃろ。
ここ、シセーラも高山地帯じゃが、それよりはるかに高い山々が連なるところじゃ。」

シュメは大きく溜息をついた。

「で、でも行かなくちゃ。何かいい方法は、ないんですか?
あ、あの・・空間移動の魔法とか、ないんですか?」

「ふむ・・空間移動、か。
わしのじっ様もそれはできなんだ。
孫娘も無理じゃろう。
イルも・・出来るのじゃったら、わしらと会うのにわざわざ歩いては来なんだろうし・・・」

考え込むシュメを渚は祈るような気持ちで見つめていた。

「おお、そうじゃ。精霊魔法じゃ。召喚じゃ。
精霊に頼めばできるかもしれん。じゃが・・・その術師がどこにいるか・・・」

一端輝いたシュメの眼が再び沈んでしまった。

「精霊使いは、だんだんいなくなっておるでのぉ・・・・。」

「私、知ってるわ!」

渚は思わず叫んだ。山賊の術師、リーがそうだった事を思い出した。

「ありがとう、シュメさん。私、急いで行って頼んでみる。」

「それはいいが・・・もう夕刻じゃ。
娘が一人で外に出るのは危険じゃぞ。
この女不足のおりじゃ・・真っ昼間からはできんが、夜なら・・・・」

渚はシュメの言葉にどきっとして、出ていこうとした足を止めた。

「狭いが馬車に2人くらいなら寝れる。
今から宿を探すのも大変じゃろう?
足元を見られるし、女1人じゃ・・・危ないでの。」

「す、すみません。お世話になります。」

渚はほっとした。
ここにいればイルもそのうち来るかもしれない。

(イルに会ったら謝らなくっちゃ。)

シュメの厚意を素直に受けて一泊することにした渚は、みんなと火を囲み、一緒に食事をとることにする。

キャンプファイヤーを囲んで、歌え、踊れの陽気な食事タイムだったが、渚の心は晴れない。

「イル…今頃どうしてる?」
シュメには大丈夫だと言われたが、ファラシーナのことがやはり気になった。

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