公開処刑を阻止しろ!|国興しラブロマンス・銀の鷹その49
「公開処刑・・・・・・・」
急いで駆けつけたセクァヌとアレクシードを待っていたのもは、ガートランド王からの書簡だった。
それは、明後日の夕刻までに、セクァヌが王の元へ投降しなければ、農奴となっているスパルキア人を1名ずつ処刑する、といったもの。
部屋に集まり、テーブルを囲んでいた一同に動揺が走る。
「そんな・・・・・」
セクァヌの脳裏に、幼いとき自分の代わりに次々と斬首されていったガシューたちの記憶が蘇る。
「やはりそう来ましたか。」
「シャムフェス?」
静かに言ったシャムフェスをセクァヌは驚いて見る。
「予想はしていました。というより、もっと早い時期にそう言ってくるだろうとも思っておりました。己の力への過信がそれだけ強かったのでしょう。意外と遅かったといえるでしょうね。」
「私・・・私が行けばすむのなら・・・私の命で彼らが救われるのなら。」
「なりません、姫。」
「でも、それでは?」
あくまで冷静な面もちで話すシャムフェスに、セクァヌは悲痛な表情で訴えた。
「ガートランド王は、姫の命を奪う事は考えてはいないでしょう。」
「え?」
「姫を殺せば、例え我々軍の上層部の者は殺され、跡形もなく解体されようとも生き残った有志たちは、再びスパルキアの為、姫の仇を討つ為に立ち上がるでしょう。そして、農奴となっている彼らは・・・おそらく生きてはおりますまい。自分たちのために族長である姫が死んだ。それは彼らにとってそれ以上にない絶望を伴った罪悪感であるはずです。」
「でも、私が行かなければ、・・・」
シャムフェスはじっと自分を見つめるセクァヌをまたじっと見つめ返して続ける。
「彼らを救うために私達はこうしてここまで進軍してきました。」
「はい。」
「その彼らの命を救うために姫が投降する。ですが、それでは何の解決にもなりません。姫がガートランド王の元へ投降するということは、彼にとってそれ以上好都合な事はないでしょう。農奴を失わず、しかも我らスパルキア軍を手に入れることになります。」
「あ・・・・・」
セクァヌの瞳は一層暗くかげる。
シャムフェスはその瞳を見ながら少し表情を暗くして言った。
「そして、姫、あなたをも。」
ガシューらの処刑の翌日、引き出された時に見たその残忍で蛇のように冷たい視線を思い出し、セクァヌはぞくっとする。
「おそらくガートランド王は今この上なく後悔しているでしょう。姫を手元に捕らえておかなかったことを。感謝すべきは、当時姫がまだ子供で幼かったことですが・・・。」
「でも、・・・・他に方法は?」
少し青ざめた表情のセクァヌに、シャムフェスは微笑んだ。
「実は、前々からこのことを想定し、手は打ってあります。」
「え?」
「シュケル殿、レブリッサ殿。」
セクァヌは、同席していた元ガートランド国大臣であるコスタギナ夫妻を見る。
「圧制に苦しんでいるのは他国のみでなく、ガートランド国内も同様。国内にもいくつか抵抗グループがある。彼らとの連絡はすでについている。ガートランド国民を害さないと言う保証さえあれば協力すると言っていた。」
「勿論、私達にその気はないわ。」
セクァヌは即答する。
「それは私達にはよくわかってるわ。」
レブリッサが微笑みをセクァヌに返す。
「その事はもう伝えてあるの。彼らと協力して捕らえられている人たちを助け、期を同じくしてこちらからも攻撃を仕掛ける、ということでどうかしら?」
「レブリッサ!」
表情に明るさを取り戻してセクァヌは思わず叫ぶ。
「それじゃ早いほうがいいな。行くか、レブリッサ。」
「はい、あなた。」
2人がすっと立ち上がると同時にセクァヌも立ち上がる。
「私も行きます!」
「お嬢ちゃん?」
「姫?!」
シャムフェスとアレクシードが声をあげ、コスタギナ夫妻も驚く。
「お2人が説得してくれたとは言え、全員が信じているわけではないでしょう。だから、私も行って頼んできます。」
「それもいいかもしれない。」
少しの沈黙の後、シュケルが言う。
「確実に協力を得られるだろう。」
「しかし・・・」
アレクシードが心配そうな表情で言う。
「大丈夫なのか?」
「アレク・・」
セクァヌはアレクシードを見つめる。
「大丈夫、必ず彼らの協力を得てきます。裸でぶつかっていけば分かってもらえるはずです。」
「お嬢ちゃん。」
「アレクは待っていてね。」
「ど、どうしてだ?」
「だってアレクが来ると警戒されてしまうかもしれないから。」
アレクシードはスパルキア最強の戦士、同行していけばそう思われるかもしれない、と全員納得する。
「武器も置いていくわ。」
「し、しかし、お嬢ちゃん?」
頭ではわかっていても、感情が大きな不安を覚え、アレクシードは手放しで賛成できかねていた。
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