小さき族長|国興しラブロマンス・銀の鷹その42
ほとんど回復したセクァヌと剣を交えながら、アレクシードは考えていた。
宝石のように輝くその瞳を見つめ、つい昔にその思いは飛んでいた。
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「明日、スパルキアのグループにお嬢ちゃんを会わせるんだが・・・・」
夜、宿の一室でアレクシードはシャムフェスと話していた。
「全て段取りはできている。髪の事も話してある。彼らは納得してくれているはずだ。だが・・・お嬢ちゃんがどうも・・な。」
残ったスパルキア人に会うことにセクァヌは不安を抱いていた。
それはやはりすっかり変わってしまった自分が原因だった。
族長の証である黒髪はなくなっていた。
誰が銀色の族長を認めるだろう。
しかもまだ幼い少女のセクァヌを。
例えその中に昔のセクァヌの顔を知っている人物がいたとしても、面影だけで納得してくれるのだろうか。
不安で仕方なかった。
「ふむ・・・一応話はついているのなら、あとは、実際に納得させるだけの族長としての威厳をみせればいいんだろ?」
「『威厳』と言ってもだな・・・・」
まだたった10歳の少女にそんなものあるはずはない、とアレクシードは目でシャムフェスに言う。
「が、そうしなければ彼らの真の信頼を得る事はできないだろう。」
そうだ、とシャムフェスに答え、アレクシードはため息と共に呟く。
「オレが横で睨みつけていても・・な。」
それでは決して納得しない。
それでは傀儡だと思わる危険性がある。そうであってはならなかった。
スパルキア人にとって族長は、絶対の信頼を寄せる、いわば民族の親のような存在。
普段は親しみを持って接するが、絶対不可侵といってもいいような感覚もあった。
「そうだな・・・・族長としての尊厳なり威圧感を見せればいいんだ。」
しばし考えていてからシャムフェスが目を輝かせて言った。
「見せる?」
「ああ、そうだ。」
ふふっと笑ってシャムフェスは任せておけ、とでも言うように、アレクシードの肩をぽん!と叩いた。
「明日の朝でいいだろ?セクァヌはもうぐっすり眠ってるだろうからな。」
「あ、ああ。」
翌朝、食事を終えると、シャムフェスは村の雑貨屋でランプや灯り用の様々な種類の油、そして厚地の布を買ってきた。
そして、その布で窓を覆い、ランプを灯す。片方は黄色、もう片方は青色の炎が踊る。
「セクァヌ、ここへ座ってくれ。」
「あ、はい。」
一体何が始まるのだろうとじっと見ていたセクァヌは、シャムフェスの言葉に素直に従う。
「いいか、これからオレの言うことをよ~く聞くんだ。」
「はい。」
「よし、いい子だ。」
素直に答えるセクァヌに、シャムフェスはやさしく微笑みながら言った。
「いいか、セクァヌ。固くならなくていいんだ。いつものセクァヌでいい。ただ、入ってきた人たちをじっと見つめるんだ。」
「じっと見つめる?それだけ?」
「ああ、そうだ。・・・そうだな、ただ見つめているだけでは退屈かもしれないから、目の前にいる人が、次に何をするか、考えながら見つめるというのはどうだ?」
「何をするか?」
「ああ。ちょっとしたことでいいんだ。次は目を閉じるだろうとか、右手を上げるだろうとか、鼻をほじるだろうとか。」
「ぷっ!・・・な、なーに、それ?」
セクァヌは思わず笑う。
「そう。その調子で気楽にいけばいい。どんな態度を取るか、自分の考えと比べるんだ。そして当たったかどうか。」
「そんなのでいいの?」
「ああ、十分だ。慣れてきたら態度ではなく、今どんなことを考えているのだろう、と観察するんだ。」
「考えてる事なんてわからないわ。」
「ん、そうだな。分からない。だけど、それでいいんだ。その態度から予想するんだ。じっと見つめて。ただひたすらじっと見据えて、そして想像するんだ。」
「見据えて・・・。」
「そうだ。・・できるか?」
コクンと素直に頷くセクァヌに、シャムフェスは満足そうに微笑む。
「何か質問されてもすぐには答えなくていい。オレの意見を聞くような振りでオレの方を見るんだ。」
「はい。」
「何も心配はいらない。オレとアレクがついている。隣の部屋にはレブリッサ殿もシュケル殿も控えている。」
「はい。」
セクァヌのにこっと笑った笑顔を見て、ふと思いついたシャムフェスは付け加える。
「それからオレが合図したら、微笑むんだ。今までで一番楽しかったことを思い出して。」
「楽しかった事?」
「そうだ。楽しかった事、嬉しかった事、なんでもいい。」
「できないかもしれないけど・・やってみる。」
「よし。」
シャムフェスはセクァヌの頭をやさしくなでる。
そして、男たちが入ってくる。
ガートランドの兵に運良く捕まらずに逃げ遂せた者や、すでに国を出て住んでいて、この事態を懸念して合流した者たちなどで結成されていたスパルキア再興を目指すグループだった。
「う・・・・・」
部屋に入った途端、男たちはその雰囲気にぎくっとする。
姫は目が光に弱いということと、髪が長期間地底にいたため、銀色に変色してしまったことは聞かされていた。が、その異様なまでの雰囲気に飲み込まれた。
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