無法地帯の町|創世の竪琴・その62
そして、一行は最終目的地である、白き無の地に一番近い町、元ファダハン王国の『ファイロン』に来ていた。
ファダハン王国はその圧倒的な権力と軍力で治めていた国王を失ってから、その秩序は完全に失われ、乱れていた。
近隣の国王は白の世界が自国まで広がってくるのを恐れ、秩序を保つ為の援軍も、食料等の物資の援助もしようとしなかった。
砂漠に囲まれた町、そこは、今や完全なる無法地帯と化していた。
「イル・・何か町の人の視線が・・・・」
一行が町に入ると同時に、通りを行き交う男たちの目が集中した。
まるでまとわりつくような視線。渚は気持ち悪くなってきた。
「ああ・・女連れの旅人なんて珍しいからな。
それに、国王という抑えを失って、今や完全に無法地帯だからな。」
イルは気にしてないとでもいうように、さらっと言う。
「とにかく、宿屋でもとって、それから行ってみる事にしよう。」
一行は町外れにその町ただ1つという宿屋を見つけるとそこに入った。
「いらっしゃい、お泊まりかね?」
中に入ると、何か胡散臭そうな主人が出てきた。
「ああ、4人一緒か部屋を2つ。」
「4人様ご一緒で、という部屋はありませんので、2部屋でよろしいですか?
女の方と男の方用で?」
主人はじろじろ見ながら聞いた。
「いや、それなら、俺とこいつで1部屋、後の2人でもう1部屋。」
「イ・・」
イルは焦って大声を出しそうになった渚の口を抑え、自分の後ろに渚を押しやった。
「はいはい、かしこまりました。
では、前金でお願い致します。」
主人は宿賃を受け取ると、一行を2階の部屋に案内した。
「では、どうぞごゆっくり。
食事は真向かいの酒場でお願いします。」
主人は頭を下げると階下に戻って行った。
「渚、何してるんだ、入らないのか?」
入口で立ち止まっている渚に、先に部屋に入りイスに座ったイルが言った。
「だ、だって・・・」
渚は自分の顔が少し赤らんできたのを感じていた。
「お嬢ちゃん、あの主人を見たろ?
隙あらばって顔して。
ああでも言わないと、夜、こっそりあたいたちだけ誘拐しようとするだろうからね。」
後ろでファラシーナが笑いながら小声で渚に言う。
「そうです、渚。心配はいりません。」
リーにまで言われ、自分が何を考えていたのか、みんなに分かってしまったと、益々渚は赤くなる。
「もっとも、俺は渚の考えた方でもいいんだけどな。
いや、その方がいいな。」
「イルっ!」
意地悪そうにわざとそう言ったイルを思わず渚は睨む。
「はっはっはっ!まぁとにかく入れって!」
宿の主人が聞き耳を立てている事を予想し、全員その部屋に入って相談する事にした。
「ですが、やはり別に眠るというのは、危険だと思いますよ。」
リーが真剣そのものの顔をして言った。
「そうだな・・・」
イルも考え込む。
「あたいは・・イルと一緒でいいよ。」
2つあるベッドの1つに腰掛け、ファラシーナはイルにウインクした。
「では、私は渚と。大丈夫ですよ。ただ眠るだけです。」
いつものように静かに言うリーに、動揺しながらも、リーなら信用できるだろうと渚は思った。
「し、仕方ないから・・それで。」
「ち、ちょ・・・」
今度はイルが焦ったようだった。
何か言おうとしたのを止め、窓の外に目を向けた。
「と、とにかく、まだ泊まるかどうかは決まってはいないんだからな。
まだそう決めなくても・・」
「なにさ、あたいじゃ、不服なのかい?」
ファラシーナが不服そうに言った。
「い、いや、そう言うわけじゃ。
と、とにかく、行ってみよう、白の世界の近くへ。」
「そうね、行ってみましょっ!」
窓から遠くに見える真っ白な空を見つめ、答えていた。