雪山の炎龍|創世の竪琴・その57
-ヒュゥゥゥゥゥ・・・-
数瞬後、一行は激しい吹雪の中に立っていた。
「ここが、炎龍のいるフリーアス山・・。」
渚は一歩先も見えない吹雪の中で緊張していた。
「今度は大丈夫だったみたいだね!」
ファラシーナが嬉しそうに言った。
「洞窟へ入るぞ!」
しっかり重ね着してきたとはいえ、この猛吹雪の中ではすぐ凍えてしまう。
イルの掛け声で、周囲を見渡していた渚たちは、はっとしてイルの指し示す洞窟に入った。
「滑るぞ、気をつけろ!」
クリスタルで周囲を明るくすると、静まり返ったその洞窟の中を一行は慎重に歩いて行く。
奥へ奥へと進んでいく・・・この洞窟を守っていると思われる氷狼や氷人の襲撃に合いながら・・・。
どれほど進んだだろう・・いつまでも続くかと思われた洞窟がようやく終わった。
一行は一面氷に覆われた広い空間に出た。
「まるで、氷の宮殿ね・・・」
渚はその美しさに見とれて歩いていた。
宮殿の内部のような造りだった。
氷の柱、氷の壁、氷の床、そして、氷の台座。
その上には巨大な真紅の龍が眠っていた。
「こ・・これが、炎龍、ファイラ・・・?」
あまりにもの巨大さに一行は呆然とその前に立ち尽くしていた。
『何者だ。お前たちは?』
人の気配に気づき、炎龍はゆっくりと目を開け、低く辺りに響く声で言った。
その目は燃え盛る炎のよう。
「あ・・あの・・・」
渚はその目に見つめられ、うろたえるばかりで、用意していた言葉が出なかった。
「神龍、ファイラよ・・世界の崩壊を止める為、あなたの龍玉を貸してもらいたい。」
イルがゆっくり言った。
『龍玉を・・とな?世界の崩壊を止める為だと?』
「はい。どうか、お願いです。
男神ラーゼスに世界を無に帰すことを思い止まるようお願いする為に必要なのです。
あなたの龍玉をお貸し下さい。」
『男神がお怒りになったのは、お前たち人間の行いのせいなのだ。
我等もまた、然り。我が心臓を渡すつもりはない。』
「し、心臓?」
渚は驚いた。
いや他の仲間もその言葉に目を見張った。
『さよう。龍玉とは我等神龍の心臓の事なのだ。』
「・・・で、ですが、それがないと男神の神殿には行けないのです・・世界は・・・」
イルは炎龍をきっと見つめ言った。
『よかろう・・・見事私を倒して、手に入れるがよい・・・。』
炎龍は目を細め、笑ったように見えた。
次の瞬間、その口から業火が燃え出た。
「きゃああっ!」
「ぐっ!」
「ヒーリングっ!」
後ろからファラシーナが叫んだ。
「あ、ありがとう、ファラシーナ。」
「そんな事言ってる場合じゃないよ、渚!」
後ろを振り返り、礼を言う渚をファラシーナは叱咤した。
(そ、そうだ、そんな場合じゃないっ!)
そう思うと渚は炎龍を見直した。
倒さなければ何も始まらない。世界は崩壊する・・・・。
最後の戦いになるか、何とか倒し、龍玉を手に入れる事ができるか、神龍との戦いが始まった。
今までのように魔物ではない、強さは桁違い。心してかからなければならない。
決死の攻防が始まっていた。
「駄目だ、氷の呪文も効かないよっ!」
ファラシーナが叫ぶ。炎龍だから火炎系は駄目としても氷や水の呪文なら多少は効き目があると思ったから。だが・・どの魔法も効かない。
「ど、どうして?」
リーの精霊魔法も魔法玉も効かない。
全員、疲れ切っていた。
炎龍の業火とその翼による疾風の攻撃を防ぐだけで魔法力は使いきっていた。
回復魔法も、もはや尽きかけていた。
『私は炎龍、しかし、この宮殿は本来、水龍の物。
その守りは当然水龍の力に寄る。』
その攻撃を中断すると、台座に座ったままの炎龍は悠然と答えた。
ダメージは少しも受けていない。
「し、しかし、風術も効かない・・・」
その場に倒れたリーの苦しそうな言葉に、炎龍は目を細めて答えた。
『風は場所を選ばぬ。何処でも吹いておる。』
-ヒュォォォォ~・・・・・-
炎龍がそう言った瞬間、一行と炎龍の間に一陣の風が渦を巻きながら吹き抜けた。
渚たちはその中に、確かに龍の顔を見たような気がした。