厚労省 第8回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」 議事録公開
本稿は、下記の厚生労働省のホームページに掲載された第8回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」議事録を見やすくして再録したものです。発言者と資料のページなどを太字にし、発言と発言の間を一行空けた以外、一切の変更を加えておりません。なお、第8回の議事録、第8回の配布資料ならびに最終的な取りまとめ(報告書)は下記のサイトで公開されています。議事録の中ほどで、「はじめに」を除く「とりまとめ」が読み上げられています。
(北海道ヘンプ協会)
令和3年6月11日 第8回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」 議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000031ehd_00008.html
令和3年6月11日 第8回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」 配布資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000158516_00008.html
○ 大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ(報告書) ~今後の大麻等の薬物対策のあり方に関する基本的な方向について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189913_00001.html
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令和3年6月11日 第8回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」 議事録
医薬・生活衛生局
○日時
令和3年6月11日(金)16:00~18:00
○場所
非公開
○議題
「とりまとめ」
○議事録
○事務局 それでは、定刻2分前ではございますが、ただいまから第8回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を開催させていただきます。
委員の先生方には、大変御多用のところ、御出席いただき、誠にありがとうございます。
本検討会におけるカメラ撮りにつきましては、冒頭のみでお願いいたします。御退席をお伝えしましたら、撮影の御担当者の方は御退席ください。
それでは、以後の議事進行は鈴木座長にお願いいたします。
○鈴木座長 本日の議事は、お配りしている次第に沿って進めさせていただきます。
最初に、事務局より検討会における連絡事項をお願いいたします。
○事務局 事務局から、本日の検討会の出席者について申し上げます。
本日は、12名全ての委員に御出席をいただいております。
なお、小林委員におかれましては、所用につき遅れて御出席される予定です。
続いて、連絡事項を申し上げます。
本検討会は公開とさせていただきますが、会場への入場制限につきましては、従前どおりとさせていただきます。
また、会議の議事録の公開についても、従前どおりとさせていただきます。
これまでの資料につきましては、整理して、お手元に御用意させていただきましたので、そちらを御覧ください。
本検討会におけるカメラ撮りは、ここまでとさせていただきます。撮影の御担当者の方は御退席をお願いいたします。
(カメラ退室)
○事務局 それでは、鈴木座長、お願いいたします。
○鈴木座長 それでは、議題に移ります。
今回は、前回に引き続き、とりまとめに向けた議論の3回目で最終回であります。
前回の検討会における御議論を踏まえ、とりまとめの最終案を作成いたしましたので、前回からの主な修正点について、厚生労働省から説明をお願いいたします。
○監視指導・麻薬対策課長 それでは、私のほうから資料について説明させていただきます。
まず、お手元の資料ですが、「大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ(案)」ということで、見え消しのものを、委員の皆様にはお手元で紙でも配付させていただいております。
あと、参考資料ということで、タブレットのほうに入れさせていただいております。これを基に説明させていただきますが、委員の皆様には、分厚い資料ですね、これまでの第1回から第7回までの資料150ページになりますが、御用意させていただいておりますので、適宜、必要があれば御参照いただきたいと考えております。
それでは、検討会とりまとめ(案)の前回からの変更点について、簡単に御説明申し上げます。
まず、「はじめに」のところですが、大麻の乱用が急増しているということで、6行目ぐらいにございますが、これは正確には、乱用者が増えているのではなく、大麻事犯が増えているのではないかと、委員から御指摘がありましたので、修正をさせていただいております。
また、併せて、細かい話ですが、「注」ですけれども、これは全て後ろに送りますとともに、「大麻問題の現状」については、原書を含めて「注」に記載するようにという委員の御指摘もありましたので、一番後ろのほうに「注」はまとめて付記をさせていただいております。
あと、委員から3点ほど「はじめに」について、「World Drug Report」でも、大麻は世界で最も乱用されている薬物であると記載されていること、2つ目として、大麻が引き続き条約上最も厳格な規制対象であるスケジュールIに位置づけられていること、そして、普及啓発については、一次予防、二次予防、三次予防全て含めたものであること、これを記載すべきではないかということでしたので、修正をさせていただきました。
3ページ、4ページは、記載の場所を変更させていただいたということです。
6ページ、7ページも、文章の修正です。
8ページです。これは、前回、反対の御意見がございましたので、赤字で反対理由ということで追記をしておりますが、前回、反対の御意向を示された委員の皆様と御相談をさせていただき、整理させていただきました。
修正点ですが、上から行きますと、まず3パラ目でございます。「したがって、」のところで、「大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見い出し難い」ということですが、医薬品の施用を可能とすると、不正な使用に対する罰則は科さざるを得ないのではないかという御意見もありましたので、「不正な使用の取締りの観点」を付記しております。
次のパラグラフでございますが、結論として、「大麻の使用に対し罰則を科すことは必要である」ということで、前回御提示をさせていただきましたが、反対意見がございましたので、「という意見が多かった」ということで追記をさせていただいております。反対意見につきましては読み上げさせていただきます。
「一方で、大麻には依存性を含む健康に対する有害性はあるものの、以下の理由から3名の委員より反対意見があった。『国際的には薬物乱用者に対する回復支援に力点が置かれている中で、その流れに逆行することになるのではないか』『使用罪の導入が大麻の使用を抑制することを目的とするのであれば、使用罪の導入が大麻使用の抑制につながるという論拠が乏しい』『大麻事犯の検挙者数の増加に伴い、国内において、暴力事件や交通事故、また、大麻使用に関連した精神障害者が増加しているという事実は確認されておらず、大麻の使用が社会的な弊害を生じさせているとはいえないことから、使用罪を制定する立法事実がない』『大麻を使用した者を刑罰により罰することは、大麻を使用した者が一層周囲の者に相談しづらくなり、孤立を深め、スティグマを助長するおそれがある』」ということです。
再乱用防止や社会復帰支援策を充実させることは必要という御意見は、双方とも共通した御意見ですので、そこは「いずれにせよ」という形でまとめておりますが、こういった形で反対意見についても追記をさせていただいたということでございます。
あとは、前回、この中で国内研究についての御議論がありました。参考資料のほうに付けさせていただきましたが、参考資料の1ページ目は、前回ご提出した、委員の御指摘を受けた5本の論文についてまとめさせていただいたものですが、別の委員からそのほか12本の論文がまだあるという御意見がございましたので、今回、参考までに配付をさせていただきました。
次に9ページですが、使用罪、反対の御意見が消してありますが、それは先ほど、本文のほうの「一方で」ということで追加したことに伴う削除です。
9ページの一番下ですが、これは事務局のほうで修正をさせていただきましたが、「正しく使用されているものと、単に嗜好用のものを区別して情報提供することを検討すべき」と書いてありますが、検討するというのも何か腰が引けている感じがするので、ここは「すべきである」ということで言い切る形に修正したということです。
11ページから12ページです。委員から、仮釈放期間が6か月未満の方に対して、薬物乱用防止プログラムが実施できるような仕組みを検討すべきであるということで、12ページに追記をさせていただきまして、併せて、11ページにその前提としての課題ということで記載をさせていただきました。
また、12ページですけれども、覚醒剤を使った方と大麻を使った方の記載が入り組んでいて分かりにくいのではないかという委員からの御意見がございましたので、「また」以下で、「保護観察期間終了後や満期釈放後においても、自発的に地域における治療・支援につながるような取組が必要である」ということと、「さらに、大麻事犯に多い、保護観察の付かない執行猶予者や起訴猶予となる者に対しても治療・支援が届くようにすべきである」ということで、文章を整理させていただきました。
13ページの「その他」のところですが、処方箋医薬品、市販薬、これは「適切な調査・研究を進める」ことを追記したほうがいいのではないかという委員からの御意見がございましたので、追記をいたしました。
14ページですが、「麻薬中毒者制度」の廃止に関して、麻薬中毒者相談員の活用について付記すべきではないかということで、委員の方から御指摘がありましたので、追記をさせていただきました。
15ページ、16ページは、用語の統一が取れておりませんでしたので、医薬品の「不適正使用」ということで、表記を統一させていただきました。
最後に17ページですが、「しかしながら」のところで、また、30歳未満の検挙人員が7年連続増加とか、最初の方の記載と重複しておりましたので、ここのところは記載を整理させていただいたということです。
真ん中辺り、「当事者である若年者の意見を生かしながら」「広報啓発活動等に取り組む」ということは、これは委員から御指摘があったので、追記をさせていただきます。
最後の「おわりに」のところは、若干冗長なところがあったので、記載を整理させていただきました。
私からは以上です。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの厚生労働省からの説明について、御意見や御質問がございましたら、委員の先生方からお願いいたします。
なお、本日は、とりまとめを行いたいと思いますので、御意見や御質問につきましては、事務局から説明があった修正点の範囲でお願いしたいと思います。
それでは、いかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
□□委員、お願いいたします。
○□□委員 すみません、先週はどうしても外せない所用がございまして、途中退席させていただきまして、申し訳ございませんでした。先週発言できなかった部分を含めまして、とりまとめ(案)、特に修正点に関する意見を申し述べさせていただきます。多少お時間をお取りしますけれども、お許しいただければと思います。
まず、とりまとめ(案)で言いますと、大麻の使用に対する罰則の反対意見のところの記載でございます。大麻の使用に対する罰則についてですけれども、私自身は、規制部位の大麻の所持が、日本では、また、多くの国でも犯罪とされて、刑事処罰の対象とされているという事実を忘れるべきではないと考えております。
要するに、大麻の規制部位を持っていることさえ禁止されて、処罰の対象となっているということからしますと、その使用が規制されていないということは、ある意味では非常におかしな話でございまして、使用の前には、必ず所持か譲受けという行為があるわけであります。その所持とか譲受けが犯罪として禁止されているということは、基本的には使用も事実上禁止されているに等しいということでありますので、日本における、規制部位の使用に関する罰則がないことから、大麻の使用が法的に許されているというような理解のほうがむしろ危険でありまして、誤っていると言っても決して過言ではないと思います。
所持とか譲受けは犯罪として規制するけれども、使用に罰則を法定しなかったということには、農家の方の「麻酔い」があるからとか、それから、能動吸煙と受動吸煙を区別できないとかといった立法の背景があるとすれば、大麻の使用は法的に自由な領域なのではなくて、それは当時の状況を前提として、法政策の観点から規制ができなかったという、法の欠缺というべき領域であります。しかし、「麻酔い」という事実がないことが明らかになり、また、受動吸煙の問題も事実認定の問題でありますことから、既に立法の背景となった事実はないものと考えられまして、大麻の使用には罰則をもって規制をかけるべきだと思います。
また、反対意見のところには、大麻の使用に罰則を設けても抑止効果はないのではないかという意見が示されていますけれども、こうした見解も一つの見解ではあろうかと思います。確かに、処罰規定を設けるだけで十分な抑止効果が出るわけではなくて、実際の検挙活動とか、それから、司法上の対応、それから、それに付随して回される教育とか啓蒙、それから、薬物依存症に対する処遇とか治療と、こういうものが合わさってこその予防効果でありますが、しかし、それは規制薬物をめぐる一連の行為は禁止されていることが前提となっていることでありますし、大麻についても、日本では所持や譲受けが禁止されて、限りなく使用も事実上抑制されてきたというわけでありまして、その結果として、生涯経験率の低さにつながっていると見るべきであろうかと思います。
一般的に言って、抑止効果というものは立証が難しいので、疑問を投げかけるのは簡単なのですけれども、こうした検討会とか、いずれ行われるでありましょう審議会の議論を経た上で、使用罪をあえて設けないということにした場合に、逆に、あたかも使用とか、さらには所持までもが許された行為だというような間違ったメッセージを国民に伝え、大麻乱用の助長につながりかねないということが憂慮されます。
それから、使用罪ができると検挙者が増えると言われておりましたけれども、通常は、大麻の所持とか使用が現認されて、それで、所持罪や譲受けの罪で検挙されることが大半であると思いますので、使用罪ができたからばんばん検挙者が増えるということにはならないかと思われます。
あと、とりまとめ(案)でも、反対意見のところに、大麻の使用を処罰することでスティグマが増えるという懸念が示されておりますけれども、これは、大麻の所持で逮捕や有罪とされた場合についても同様のはずであります。スティグマやレッテルが貼られるから駄目だというのであれば、所持罪までも廃すべきということになってしまいますし、先週も意見が示されておりましたけれども、覚醒剤の所持とか使用までも合法化しなければならなくなってしまいますけれども、スティグマを避けるために違法な行為を合法化しろというのは本末転倒であります。ですから、スティグマの回避とか、治療への動機づけというのは病院での守秘義務の徹底とか、患者さんへの告知の問題、それから、広報とか、そういうところで、別途、検討しなければいけない問題であろうと思います。
それから、同じ反対意見のところで、国際的な潮流のところが出ておりますけれども、7ページのところですね。国際的には、薬物乱用者に対する回復支援に力点が置かれている中で、その流れに逆行することではないかとありますのは、必ずしも正鵠を射たものではないという印象を受けます。確かに、国際的に薬物医療に対する回復支援を重視する傾向にあることはそのとおりだと思いますけれども、だからといって、規制薬物に対する刑事規制とか、それから処罰を全て取っ払って、疾患として治療すればよいとしているわけでも、国際機関においてそういう提案がされているわけでもありません。依然として多くの国で、大麻を含む薬物の所持を違法化して、刑事罰の対象とする一方で、単に薬物依存者を処罰するだけでは本人の回復も、再犯の防止も期待できないことから、国連においても刑事手続の過程で対象者を治療とか処遇に極力つなげる工夫をせよ、場合によっては処罰も回避することが望ましいとしているわけであります。もし、国際的な潮流を考慮するのであれば、こうした状況もきちんと踏まえるべきでありましょう。
さらに、そもそも論で言えば、我が国の法規制のあり方を検討するに当たっては、我が国が批准しています国際条約とかその他の国際的動向を踏まえなければいけないことはもちろんですけれども、ただ、海外に一定の状況や政策があるからといって、直ちに日本もそれに追随しなければいけないということにはならないことも当然でありまして、薬物政策に関して言えば、一国における薬物乱用の状況とか、歴史的な経緯とか、それから、司法制度の内容とか特徴とか、そういった当該国の状況を踏まえた上で検討しなければ、国に合った適切または効果的な対策にはならないことに注意すべきであろうと思います。
以上でございます。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは、ほかにいかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
ありがとうございます。
それでは、御意見も尽きたようですので、これでよろしいでしょうか。
(首肯する委員あり)
○鈴木座長 ただいま、□□委員のほうから御意見をいただきましたけれども、御意見を加味して、別途、事務局と相談させていただきますが、取扱いについては、私に御一任いただければと思います。
それでは、事務局から、最終確認ということで、「とりまとめ」の朗読をお願いいたします。25分程度を予定しております。事務局におかれましては、見え消しを反映させ、「案」の取れた「とりまとめ」をお配りください。
(「とりまとめ」を配付)
○鈴木座長 □□委員、修正は大丈夫ですよね。コメントという形でよかったですかね。
○□□委員 今から修正が難しいのであれば、コメントで結構です。
○鈴木座長 よろしくお願いいたします。
それでは、朗読をお願いいたします。
○事務局 それでは、朗読させていただきます。お時間の関係でちょっと早口になってしまうことを御容赦ください。
大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ
~今後の大麻等の薬物対策のあり方に関する基本的な方向について~
「はじめに」につきましては、時間の関係で省略させていただきます。
第1 大麻規制のあり方
1.大麻をとりまく状況
(1)薬物事犯に関するこれまでの経緯と取組み
我が国における薬物乱用は、ヒロポンの流出等による第一次覚醒剤乱用期を皮切りに、続く第二次及び第三次覚醒剤乱用期を経て、また近年では危険ドラッグなどの新たな薬物の乱用が見られたことや、インターネットやSNS等による薬物の不正取引形態の多様化や巧妙化が進んできたが、都度、薬物法規の改正や関係機関の連携により、取締りを強化し、薬物乱用の拡大を防いできた。
平成30年(2018)年には、薬物事犯の国際化を見据えた水際対策、未規制物質又は使用実態の変化した薬物への対応、及び関係機関との連携を通じた乱用防止対策を重点に置いた「第五次薬物乱用防止五か年戦略」(平成30年8月3日薬物乱用対策推進会議決定)を策定し、薬物乱用対策を一層強化している。
こうした取組みの結果、我が国の違法薬物使用の生涯経験率は、諸外国と比較して著しく低く、特に大麻使用の生涯経験率については、欧米各国が20~40%台であるのに対して我が国では令和元(2019)年において1.8%にとどまっている。
(2)近年の大麻に係る状況
上記(1)のとおり、諸外国と比較して、我が国の違法薬物使用の生涯経験率は著しく低い水準にとどまっている一方で、令和2(2020)年には大麻事犯の検挙人員が7年連続で増加し、過去最高を更新した。特に30歳未満の検挙人員は7年連続で増加し、全体に占める割合は65%を記録、20歳未満の検挙人員も6年連続で増加し、30歳未満の検挙人員のうち20歳未満が占める割合が26%を記録するなど、若年層での大麻の乱用が拡大している。大麻使用の生涯経験率についても、令和元(2019)年において1.8%と諸外国と比較して著しく低い水準にあるものの、平成19(2007)年の0.8%と比較すると2倍以上となっており、過去1年間の経験者数については最低でも9.2万人存在すると推計されている。
このような状況に至った背景には、インターネットやSNS等の普及により違法薬物に関する様々な情報へのアクセスが容易となり、若年層が大麻を入手しやすい環境にあることや、一部の国や州における大麻の合法化について、その合法化された背景、合法化の範囲や使用に係る制限などの正確な情報が伝わっていない一方で、大麻に有害性はない、大麻は健康に良い等の誤った情報がインターネット等で氾濫していることに一因があると考えられる。
一方、令和2(2020)年WHO勧告により、麻薬単一条約上の大麻の規制スケジュールが変更され、大麻から製造された医薬品に医療上の有用性が認められた。実際に諸外国ではエピディオレックスを始めとする大麻から製造された医薬品が難治性のてんかん治療薬として承認され、大麻由来の成分について医療用途等への活用が行われている。
(3)大麻が健康に与える影響、大麻の有害性
1 国際機関や諸外国における状況
令和3(2021)年6月現在、カナダ、ウルグアイ、米国の一部の州において、医療目的以外の目的での大麻の使用が合法化されたが、INCB(国際麻薬統制委員会)は平成30(2018)年の年次報告書において、麻薬単一条約に違反すると懸念を表明している。
また、嗜好用大麻を合法化している国や州でも、政府ウェブサイトで大麻使用の健康への悪影響を示すとともに、法律においても一定年齢未満の青少年の使用を禁止する等、使用に制限を課しており、違反した場合には厳しい罰則を規定している。WHO(世界保健機関)も、同じく大麻の健康に対する悪影響を示している。
さらに、嗜好用大麻を合法化した米国コロラド州では、交通事故発生率の増加、大麻摂取による緊急搬送数の増加、違法行為である21歳未満の大麻使用の割合の増加等の有害事象が報告されている。
なお、令和2(2020)年WHO勧告により麻薬単一条約上の大麻の規制スケジュールが変更されたものの、大麻から製造された医薬品に医療上の有用性が認められたことによる変更であり、従前と変わらず、大麻が「乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす物質」としてスケジュールIの規制を受けることに変更はない。
2 国内外における研究や調査
これまでのまとめでは、大麻の使用による健康への悪影響が指摘されている。本検討会で紹介した文献においても、大麻の薬物依存性に関しては、「覚醒剤やコカインと比較すると軽度であるとの認識が強い。しかしながら、大麻の乱用を繰り返すことにより、薬物の摂取欲求が抑えられない渇望が生じ、大麻の精神依存に陥ることはまぎれもない事実である。また、大麻を長期間乱用することにより、記憶や認知に障害を及ぼし、さらに精神障害を発症するなどの健康被害を生じる危険性がある。
こうした大麻乱用の危険性を十分に認識することが重要である。」としている。また、大麻に含まれる幻覚作用を持つ成分の含有量についても、「近年流通している大麻に含まれるΔ9-THC量が増加していることが明らかになっている。2000年にはΔ9-THC量は平均5~7%程度であったものが、2014年では12%を超えるものも出現している。本邦で押収した大麻についてもΔ9-THC量は解析されており、2010年の結果では平均10%程度であり、最大では20%を超えるものも確認されている。このように、大麻の性質自体が変化しており、以前と比較して作用の強力な大麻が流通していることは確かであり、その乱用により重篤な健康被害の発生が懸念される。」としており、以下のとおり、大麻摂取による主な作用を整理している。
表については、省略させていただきます。
国内において、大麻使用による精神等行動の障害に該当する成人患者71名に対し行った調査では、長期間の大麻の使用や高濃度THC含有製品の使用が大麻による依存症の発症に関連している可能性を指摘している。ただし、この71例の対象中、43.7%には調査時点で何らかの精神障害が併存し、77.5%は、大麻に併行して他の精神作用物質を習慣使用していることに留意が必要である。
また、2018年9月から10月までに有床精神科医療施設に通院又は入院し診療を受けた「アルコール以外の精神作用物質使用による薬物関連精神障害患者」を対象に調査票による調査を実施し、大麻関連精神疾患症例に関して検討を行ったところ、大麻使用の影響には個人差がある可能性が高いことが判明した。
さらに、米国医師会の精神分野専門雑誌である「JAMA Psychiatry」には、「大麻の使用は、アルコール、大麻、大麻以外の薬物、ニコチン等の物質の使用障害のリスク増加と関連している」との論文や「青年期の大麻使用の蔓延は、大麻に起因するうつ病と自殺傾向を発症する可能性のある多数の若者を生み出すこととなる」との論文が掲載されている。
「令和2年版犯罪白書-薬物犯罪-」(法務総合研究所)の調査では、国内の覚醒剤取締法の入所受刑者のうち、覚醒剤の自己使用の経験がある者の約半数が大麻使用の経験を有し、さらにそのうちの約半数が20歳未満で大麻の使用を開始したという結果や、30歳未満の対象者で最初に乱用した薬物が大麻である者の割合が最も多い(42.6%)との結果が出ており、大麻は、使用者がより効果の強い薬物の使用に移行していくおそれが高い薬物(ゲートウェイドラッグ)であることを指摘している。
2.大麻規制に係る課題と見直しの方向性
(1)成分に着目した規制
大麻取締法は、制定された昭和23(1948)年当時、大麻の有害作用はどのような物質によってもたらされるかについて判明しておらず、「大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品」を除く、「大麻草及びその製品」を「大麻」と定義し、制定された。その後、1960年代に大麻草からTHCやCBDといった成分が同定され、大麻の有害作用は主にTHCが原因であることが判明している。
取締りに際しては、規制部位か否かを判断する必要があるところ、近年の取締りの実態としては、有害成分であるTHCの検出の有無に着目して大麻草に該当するかの判断が行われている。なお、化学合成されたTHCについては、大麻取締法の規制対象とならないことから、別途、麻薬及び向精神薬取締法において麻薬として規制されている。
このように、大麻取締法においては、大麻草の部位による規制が行われているところであるが、実態としてはTHCという有害成分に着目して取締りを行っていることや、規制すべき物質は有害な精神作用を示すTHCであることから、大麻草が含有する成分に着目した規制に見直すことが適当である。
成分に着目した規制に見直す場合には、含有されるTHCの濃度に関する規制基準を設けることの要否を含め、引き続き検討する必要がある。
(2)大麻から製造された医薬品の施用に関する見直し
現在、けしから抽出されるモルヒネ等の麻薬や向精神薬等については、医薬品としての施用が認められている一方、現行の大麻取締法においては、大麻を原料とした医薬品の製造や製造された医薬品の施用等が禁止されており、G7諸国の中では日本のみ大麻から製造された医薬品が承認されていない。
大麻から製造された医薬品は、米国を始めとしたG7諸国において難治性のてんかん治療薬として承認され、また、令和2(2020)年WHO勧告により麻薬単一条約において医療上の有用性が認められるなど、近年の諸外国の動向や、その医療上の有用性を踏まえて、日本においても現行の麻薬及び向精神薬取締法に規定される免許制度等の流通管理の仕組みの導入を前提として、その製造や施用を可能とすべきである。
(3)大麻の「使用」に対する罰則
麻薬及び向精神薬取締法及び覚醒剤取締法は成分規制であり、制定当初から所持に対する罰則と使用に対する罰則が規定されているところ、現行の部位規制である大麻取締法には所持に対する罰則は規定されているが、使用に対する罰則が規定されていない。
これは大麻草の栽培農家が、大麻草を刈る作業の際に大気中に大麻の成分が飛散し、それを吸引して「麻酔い」という症状を呈する場合を考慮したため等の理由による。
近時、国内の大麻栽培農家に対して作業後の尿検査を実施したところ、大麻成分代謝物は検出されなかったとともに、いわゆる「麻酔い」は確認されなかった。
したがって、制定時に大麻の「使用」に対する罰則を設けなかった理由は現状においては確認されず、今般、他の薬物法規と同様に成分に着目した規制とするとともに、大麻から製造された医薬品の施用を可能とすると、不正な使用の取締りの観点や他の薬物法規との整合性の観点からは、大麻の「使用」に対し罰則を科さない合理的な理由は見い出し難い。
また、今回、大麻の単純所持で検挙された者に調査をした結果、大麻の使用に対する罰則は規定されていないことが大麻を使用する要因となった者がおよそ2割おり、「大麻を使用してもよい」というメッセージと受け止められかねない状況となっていることから、他の薬物法規と同様、大麻の「使用」に対し罰則を科すことが必要であるという意見が多かった。
一方で、大麻には依存性を含む健康に対する有害性はあるものの、以下の理由から3名の委員より反対意見があった。
・国際的には薬物乱用者に対する回復支援に力点が置かれている中で、その流れに逆行することになるのではないか。
・使用罪の導入が大麻の使用を抑制することを目的としているのであれば、使用罪の動入が大麻使用の抑制につながるという論拠は乏しい。
・大麻事犯の検挙者数の増加に伴い、国内において、暴力事件や交通事故、また、大麻使用に関連した精神障害者が増加しているという事実は確認されておらず、大麻の使用が社会的な弊害を生じさせているとはいえないことから、使用罪を制定する立法事実がない。
・大麻を使用した者を刑罰により罰することは、大麻を使用した者が一層周囲の者に相談しづらくなり、孤立を深め、スティグマを助長するおそれがある。
いずれにせよ、本とりまとめの第2に記載されるような薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も併せて充実させるべきである。
なお、本検討会では、この他にも以下のような意見があった。
・大麻の乱用者に対しては、刑事罰を科す前に、犯罪者としないように刑事手続から外す一方で教育プログラムや治療プログラムへの参加等を義務づける刑事政策(ダイバージョン)の導入も検討すべきである。
・大麻の使用罪については、受動的に吸い込むことによる体内からのTHCの検出の可能性も含めて、検挙・立証するために必要な証拠の研究等、適正な取締りを実施するための検討が必要である。
・大麻を実際に使用してしまった者が、通報されること心配せずに相談することができる体制の整備を検討すべきである。
(4)繊維等として使用される大麻草について
大麻草は、我が国において神事や祭事、衣類の原料等に用いられ、ピーク時の昭和29(1954)年には、国内に37,313名の大麻栽培者がいたが、近年は化学繊維の普及や海外製品の輸入等により、令和元(2019)年末には35名にまで減少している。
また、大麻栽培者の免許は都道府県ごとに付与され、免許付与の事務は自治事務であるが、平成28(2016)年の大麻栽培者の免許を受けた者による大麻の不正所持の事案等を受けて、大麻栽培の管理が強化されるに至った。その結果、各都道府県の実務上、新規の免許の付与が停止されている状況や、県境を越えた流通を目的とする大麻栽培の免許の付与が事実上停止されている状況がある。
しかしながら、昨今の研究結果を踏まえると、国内で免許を受けて栽培されている大麻草は、有害作用を有するTHCの含有量が少ない品種であり、神事等に使用される大麻草の免許者による栽培に対する合理的ではない通知の見直しや指導の弾力化を図ることが適当である。
また、現在、都道府県ごとに策定している大麻取扱者の免許基準についても、全国で統一的な見解を共有することが適当である。
(5)その他
本検討会では、大麻の規制に関する議論で、以下のような指摘もあった。
・現在、大麻取締法において目的規定が存在しないため、その目的として大麻の乱用による保健衛生上の危害の発生の防止等を定める目的規定を整備すべきである。
・大麻草及び大麻については、正しく使用されているものと、嗜好用と称して乱用されるものを、区別して情報提供すべきである。
第2 社会復帰支援を柱とする薬物乱用者に対する再乱用防止対策
1.薬物事犯の再犯の現状
覚醒剤事犯について、令和元(2019)年の検挙人員は8,730人と昭和50(1975)年以来44年ぶりに1万人を下回る一方、令和元(2019)年の検挙人員に占める麻薬等犯罪の前科者の割合は66.0%と13年連続で増加し、過去最高を更新した。
平成27(2015)年に出所した覚醒剤取締法違反の出所受刑者の46.3%が、5年以内に出所後の犯罪により刑事施設に再び入所している。また、令和元(2019)年に覚醒剤取締法で入所した再入者の78.1%が、前刑罪名も覚醒剤取締法違反であり、同一罪名での再犯である。
他方、令和元(2019)年には、覚醒剤取締法違反者で刑の全部執行猶予判決を言い渡された者のうち、保護観察が付された者は9.7%のみであり、大麻取締法違反者で刑の全部執行猶予判決を言い渡された者についても、保護観察が付された者は4.3%のみにとどまる。
加えて、同年において、覚醒剤取締法違反で保護観察が付されていない、刑の全部執行猶予を言い渡された者のうち、その25.3%は執行猶予期間中に再犯に至っている。
2.再乱用防止と社会復帰支援
(1)現状の取組み
このような国内における薬物情勢を受けて、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」や「再犯防止推進計画」(平成29年12月12日閣議決定)では、薬物乱用は犯罪行為であるとともに薬物依存症という病気である場合があることを十分に認識し、社会復帰や治療のための環境整備に努め、社会資源の活用を行った上で、再乱用防止施策を推進する必要があるとの考え方が盛り込まれている。
これらの計画に基づき厚生労働省や法務省では以下の取組みを実施している。
これらの取組みについては、省略させていただきます。
9ページの中段から。
また、平成28(2016)年6月より、刑の一部執行猶予制度が導入され、薬物使用者等の罪を犯した者に対し刑の一部について一定期間執行を猶予するとともに、その猶予中保護観察に付すことが可能となり、地域社会への移行、社会復帰後の生活の立て直しに際して、指導者・支援者等がより緊密に連携し、必要な介入を行えることとなった。
(2)現状の取組みに関する課題
全部実刑の仮釈放者に対しては、薬物再乱用防止プログラムが実施されているところ、仮釈放期間が6月未満の場合は期間が短く、特別遵守事項による受講の義務付けまではなされていない。
また、保護観察中は、必要な支援を受けることができるよう、保健医療機関等との連絡調整が実施されているところ、上記1のとおり、そもそも保護観察に付される事例が多くない中で、薬物事犯保護観察対象者のうち保健医療機関等による治療・支援を受けた者の数は、令和元(2019)年度で566人と平成28(2016)年度以降毎年増加しているものの、割合は7.0%にとどまっており、未だ十分とは言えない状況である。また、保護観察期間終了後や満期釈放後は、継続的な治療・支援を受けるか否かは対象者の自発的な意思に委ねられており、治療・支援に継続的につなげるための動機付けに関する施策が十分ではない。
さらに、薬物依存のある刑務所出所者等に対する支援に関し、関係機関及び民間支援団体が、相互に有効かつ緊密に連携し、その責任、機能又は役割に応じた支援を効果的に実施することができるよう「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」を平成27(2015)年に公表し、関係機関で連携を進めているが、現状、相互の連携が必ずしも十分ではない。
(3)今後の取組みの方向性
薬物事犯者の薬物再乱用の防止を目指し、厚生労働省や法務省では、刑事司法関係機関等における社会復帰につなげる指導・支援、医療提供体制及び地域社会における本人・家族等への支援体制等の充実・強化に取り組み、一定の成果を挙げている一方で、それぞれの取組みに関して、課題も認められている。薬物事犯者に対する息の長い支援を目指し、中長期的な視点も含め、関係機関が連携しながら、以下のような総合的な取組みを具体的に進めていく必要がある。
1 刑事司法関係機関等における社会復帰につなげる指導・支援
保護観察対象者のうち仮釈放期間が6月未満の者に対しても、薬物再乱用防止プログラムを実施できるような仕組みを整備することについて検討すべきである。
また、保護観察期間中に治療・支援につながるよう働きかけを強化するとともに、保護観察期間終了後や満期釈放後においても、自発的に地域における治療・支援につながるような取組みが必要である。
さらに、大麻事犯に多い、保護観察の付かない執行猶予者や起訴猶予となる者に対しても治療・支援が届くようにすべきである。
加えて、米国のドラッグコート等薬物依存症からの効果的な回復措置として実施されている取組みも参考にしつつ、社会復帰を促進するため、刑事司法関係施設で行われている施設内処遇及びそれに続く社会内における処遇や支援を効果的に行うための方策を中期的に検討することが望ましい。
2 医療提供体制に係る取組みの継続
居住する都道府県にかかわらず、薬物依存症者が適切な治療や支援を受けられるように、質の充実を図りながら、専門医療機関や相談拠点の整備を引き続き進めるべきである。
また、地域支援の受け皿となるこれらの機関で治療・支援を行う者の育成を引き続き進める必要がある。
3 地域社会における本人・家族等への支援体制の充実
刑事司法関連機関、地域の医療・保健・福祉機関、民間支援団体等との連携体制の構築に関して、それぞれの機関における役割や取組みについて相互理解を一層深める必要がある。
また、広く国民に対し、乱用により薬物依存症という健康問題になり得ること、薬物乱用は犯罪行為であることの認識を共有するための普及・啓発活動を進める必要がある。
さらに、薬物乱用や薬物依存の背景事情も考慮に入れ、薬物依存等にまつわるスティグマを解消し、薬物依存症からの回復や、社会復帰を目指す者を地域共生社会の一員として社会全体で支えていくような取組みを進める必要がある。
4 その他
本検討会では、以下のような意見もあった。
・薬物の乱用対策としては、違法薬物の乱用にとどまらず、処方箋医薬品や市販薬の乱用にも留意し、適切な調査・研究を進める必要がある。
・違法薬物の使用等に起因して職を失うことが多く、また、家庭や友人を失う等の社会的な孤立を深めていくため、就労支援等の観点も重要な視点である。
3.麻薬中毒者制度
麻薬中毒者制度については、昭和36(1961)年頃より深刻な問題となっていたヘロイン等の麻薬の乱用に関して、当時の精神衛生法(現 精神保健及び精神障害福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)ではヘロイン等の麻薬中毒者への入院措置が十分とは言えない実情があったことを受けて、昭和38(1963)年の麻薬取締法(現 麻薬及び向精神薬取締法)改正により設けられた。
しかしながら、平成11(1999)年の精神保健及び精神障害社福祉に関する法律の改正に伴い、精神障害者の定義に薬物依存症も対象とされたことで、麻薬中毒者については、実質的に同法並びに麻薬及び向精神薬取締法の2つの法律で重複して措置が可能な状況となった。
このような状況もあり、平成20(2008)年以降、麻薬及び向精神薬取締法に基づく麻薬中毒者の措置入院は発生しておらず、麻薬中毒者制度は実務上も機能していないことから、廃止することが適当である。
なお、この際、都道府県の麻薬中毒者相談員の活用について、検討すべきという意見もあった。
4.医師の通報について
違法薬物を使用した患者を診察する医師たちの間には、違法薬物の使用を警察に必ず通報しなければならないという誤解が広まっているとの指摘もある。これらの誤解を解消するためにも、医師には守秘義務があり、犯罪の通報等に当たっては医師に一定の裁量があることを周知することが望ましい。
第3 医療用麻薬及び向精神薬の規制
1.麻薬の流通管理、適正使用
麻薬は、適正に使用されれば医療上有用であり、我が国では麻薬216物質のうち、モルヒネ、コデイン等の13物質が医療用麻薬として用いられている。
もっとも、国民の麻薬に対する負のイメージにより、実消費量と適正使用量を比較した研究において、我が国の実消費量は適正使用量に比べて著しく低い状況であり、厚生労働省では医療用麻薬の適正使用に関する講習会を実施し、医療用麻薬の適正使用の普及・啓発を推進している。
一方で、同研究において適正使用量に比べ実使用量が多い米国では、処方薬であるオピオイドの過剰摂取により平成29(2017)年にはおよそ47,000人が死亡する事態となり、当時の米国大統領が公衆衛生上の非常事態宣言を宣言するに至った。
このように、麻薬が乱用された場合、乱用者自身の精神及び身体への障害をもたらすほか、薬物入手のための各種犯罪の発生など社会全体に対して危害をもたらすおそれが大きいことから、我が国では麻薬及び向精神薬取締法等に基づき、麻薬の不正な流通や乱用の防止を図っている。
具体的には、流通段階において、1)製造・輸入の段階から施用の段階に向けた一方通行が原則、2)業態ごとの免許が必要、3)譲受証・譲渡証の交付等による流通過程の明確化等を講じることにより、麻薬の厳格な管理を実施、実現している。
こうした取組みを踏まえ、医療用麻薬について、不適正な使用がなされないような対策を講じつつ、適正使用の普及・啓発を引き続き推進すべきである。他方で、がん疼痛や慢性疼痛の緩和に医療用麻薬が処方されているが、治療後も医療用麻薬を不適正に使用し続けているとの指摘もある。
一方、麻薬が医療目的で適正使用される場合も不正流通により悪用される場合も一様に「麻薬」と呼んでいるため、医療用麻薬を含めて負のイメージを与えており、適切な名称を検討することが望ましい。
加えて、麻薬の厳格な管理を維持しつつ、弾力的な運用が可能となるよう現状の麻薬元卸売業者と麻薬卸売業者の役割分担のあり方について検討することが適当である。
2.向精神薬の流通管理、適正使用
向精神薬についても、麻薬と同様に麻薬及び向精神薬取締法で規制されているが、医療用途や危険性の程度等も鑑み、麻薬ほど厳格な管理は行われていない一方で、不正流通や不正流通に基づく不適正な使用等がこれまでも度々社会問題となった。
また、日本はG7の中ではドイツに次いで2番目に多く向精神薬が消費されていることから、向精神薬の適正使用の推進が課題である。
現状、一部の向精神薬(麻薬や覚醒剤原料の一部を含む。)の医薬品については、不正流通や不適正な使用を防止する観点から、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第79条の規定に基づく承認条件が付され、当該医薬品の製造販売業者において医師登録等の流通管理体制の構築が行われているが、引き続き関係機関とも連携し、不正流通や不適正な使用の防止と適正な使用を推進するための施策を講じることが適当である。
特に、不正流通や不適正な使用が行われるおそれが高い向精神薬等については、医薬品医療機器等法に基づく承認条件ではなく、麻薬及び向精神薬取締法の枠組みによる流通管理の仕組みを検討することが望ましい。
第4 普及啓発及び情報提供
厚生労働省はじめ、関係省庁においては、薬物乱用の一次予防を目的とした「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」をはじめ、青少年に対する普及啓発運動を実施している。これまでの普及啓発運動は、日本における違法薬物使用の生涯薬物経験率が諸外国と比較して著しく低く抑えることに大いに寄与してきた。
しかしながら、昨今、大麻に有害性はない、健康に良いなどといった誤った情報が氾濫しており、大麻事犯については、前述のとおり若年層での大麻の乱用が拡大している。
このように大麻に関する誤った情報が氾濫し、若年者の大麻事犯が増加し続けている現状に対しては、大麻の乱用について、1 開始時期が早いほど、2 使用量が多いほど、3 乱用期間が長いほど依存症になるリスクが高まることなど、科学的なエビデンスに基づいた大麻の有害性に関する正確な情報を取りまとめ、単に薬物使用の恐怖をあおることなく、当事者である若年者の意見を活かしながら、SNSの活用や教育の現場におけるわかりやすい広報啓発活動等に取り組むことが肝要である。
また、これまでの我が国の普及啓発運動は、違法薬物に手を出させない一次予防に重きが置かれ、それが薬物依存症者に対する差別を助長しているのではないかといった指摘もある。
したがって、今後の我が国の薬物対策は、違法薬物に手を出させない一次予防のみならず、違法薬物を使用してしまった者の早期発見及び早期介入、早期治療を行う二次予防、さらには薬物依存症者に対する再発防止や社会復帰等を支援する三次予防にも重点を置いていくべきであり、今後の普及啓発活動についてもこれらの政策の目的・趣旨に配慮したものとして進めていく必要がある。
おわりに
厚生労働省は関係省庁と連携を行いつつ、本検討会のとりまとめの具体化に向けた検討作業を速やかに進め、法改正等の一定の時間を要する提言についても、可能な限り速やかに取り組むことを求める。
以上です。
○鈴木座長 ありがとうございました。
これをもってとりまとめとさせていただきたいと思いますが、多少文言の修正が必要な部分がありましたので、私のほうで精査の上、最終的なとりまとめとさせていただき、後日、正式に発表させていただきます。
それでは、監視指導・麻薬対策課長から補足説明があるとのことですので、お願いいたします。
○監視指導・麻薬対策課長 私のほうから、お時間をいただきまして、今、読み上げましたとりまとめについて、幾つか補足的に御説明と御報告をさせていただきます。
まず、5ページの大麻由来医薬品について、改めてお話をさせていただきたいと思います。
今般、制度的に認められていない大麻由来医薬品というものについて、制度として認めようと、要すれば、大麻を原料としていることをもって医薬品として認めないということではなくて、効能効果があるのであれば、麻薬と同様、医薬品として認める道を開こうという方向でとりまとめいただいたということだと考えています。
裏返すと、今、FDAで承認されている抗てんかん薬「エピディオレックス」ですね。この方向で法律改正がされたのであれば、我が国においても、医薬品としての承認申請の道は開かれるわけですが、一方で、そうはならないと思うのですが、日本人で治験を行ったら、効能効果が認められなかったという可能性も全くないというわけではないということです。
申し上げるまでもないのですが、医薬品として承認されるかどうかというのは、承認申請があって、PMDAが審査をして、科学的なエビデンスをもって有効性・安全性が確認されて初めて認められるということですから、あまり過剰な期待をしないでいただきたいというか、裏返すと、過剰な期待をあおるようなことはやめていただきたいということです。
何でこんなことをあえてこの場で申し上げるのかといいますと、早速といいますか何と申しますか、今月、今回の検討会における議論と関連した週刊誌の記事が掲載されましたが、大変驚いたのですが、「海外では試験管の中でがん細胞にCBDを投与することでがん細胞が死んだとの報告や、がん患者にCBDを投与したら寿命が延びたという報告があります」とか、「大麻はがんだけでなくリウマチや睡眠障害などにも効果があります」というコメントをされている方々がいて、何か大麻が万能薬みたいな書かれ方をしている記事を拝見して、本当に驚きました。
私は、エピディオレックスだけではなくて、がんに伴う嘔吐治療、疼痛緩和ですね。これに効能効果がある海外の大麻由来の医薬品については、第2回検討会の場で御紹介させていただきましたが、がんそのものの効能効果が認められた大麻由来医薬品というものの存在は聞いたことがありません。ですから、こういった報道がされると、大麻由来医薬品を認めていくということは、エビデンスのないもの、分かりやすくかみ砕いて申し上げると、「キノコでがんが治る」といったような胡散臭い話と一緒にされてしまって、大麻由来医薬品を認めるということはよくないのではないか、やめておいたほうがいいのではないかという議論が拡大しかねないことを大変懸念し、また、大変危惧をしているところです。
そもそも大麻云々以前に、特定製品について、がんの治療に効果があるかのような表現を行って販売の広告を行うことは、薬機法第68条に基づく承認前の医薬品の広告の禁止に該当しますので、法律違反ということでございますが、いずれせよ、この検討会にお招きした太組先生からも、この検討会の場で、「一刻も早く、必要な薬剤を必要とする患者さんにお届けしたい。無力な脳外科医の一縷の望みでございます。」という御発言もありましたが、こうした希望を裏切ることにならないよう、まずは、海外で承認されているような医薬品がいち早く日本でも上市されるように、今、傍聴されているマスコミの皆様方におかれましても、エビデンスに基づく正しい発信をお願いしたいということがまず1点でございます。
次に、7ページに、「繊維等として使用される大麻草について」、これも第5回の検討会で、若園さんと大森さんから現場の声をお届けいただきました。実は、先週も私は別の大麻栽培者の方の勉強会にお招きいただいて、いろいろ具体的な規制緩和の要望をお聞かせいただきました。
まず御報告ですが、「大麻栽培は重労働」という大麻栽培者の方に大変評判の悪いパンフレットがございましたが、これは既にホームページから削除させていただきました。
また、とりまとめで記載いただいたように、通知の見直しとか指導の弾力化につきましても、関係者の意見をよく聞きながら速やかに見直しの議論、作業を進めたいと考えております。
次に8ページから、第2ということで「社会復帰支援を柱とする薬物乱用者に対する再乱用防止対策」ということで、この検討会の場でも、厚生労働省医薬局の検討会でどこまで議論をしてよいのかということ自体が議論になりましたが、6ページの記載にもありますとおり、薬物の規制と再乱用防止、社会復帰支援、これは当然セットで考える必要があるということは、この場で改めて申し上げるまでもないのですが、医薬局という規制当局が、検討会で、法務省や依存症対策室の皆さんの大変甚大な御協力をいただきながら、ここでもしっかり議論をいただいて、とりまとめにおいて相応の分量を割いて記載できたことは、これは大変重要なことかと考えております。
13ページの第3「医療用麻薬及び向精神薬の規制」につきましては、日本において医療用麻薬の消費量が著しく少ない等、向精神薬の消費量が世界で2番目ということで、なかなか興味深いと言ったら語弊がありますが、初めてきちんと整理してお示しさせていただいたデータでございますので、もう少しマスコミの皆様方にもお取り上げいただいたりして、国民の皆さんに問題提起していただいてもいいのかなと考えております。
検討会のとりまとめが近づくにつれて、何となく使用罪のみに焦点が当たってしまって、この1か月そうした報道や議論ばかりがなされた感もありますが、申し上げるまでもございませんが、使用罪以外にも大事な論点がたくさんございますので、あえて、コメントをさせていただいた次第です。
時間を頂戴いたしまして、ありがとうございました。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは、最終回でもありますので、委員の皆様方お一人ずつから、数分程度、本検討会に御参加されての御感想・御意見等をいただきたいと思います。
まず、□□委員からお願いしたいと思います。
○□□委員 この検討会に参加させていただきまして、いろいろなお立場の方からいろいろな情報をお聞かせいただきまして、大変勉強になりました。
このとりまとめ案にもありますけれども、こういった規制薬物に対する対策は、医療だけで解決できるものでも、また、司法だけで解決できるものでもなくて、医療とか司法、福祉、教育、報道とか、こういった様々な領域が連携して対応していくことで効果的な対応ができるものと思っております。
社会の中でこういった薬物依存に苦しむ方々が治療を受けられるような体制とか、そういった治療を行うことができる医師とか、支援者の方が拡充していくことも重要ですし、それから、司法のほうでも、このとりまとめにもありましたように、刑事手続になった者の中で、依存のある者ができれば早い段階でそういった治療とか処遇につなげるための制度とか運用といったものの改革を進めていくことも非常に重要であります。
また、薬物依存者の中には、就労ができない方とか、それから、治療に励んでいる間、そういった一時的に生活の支援が必要だという方もたくさんいらっしゃるかと思いますので、医療と同時に、そういった福祉的な手当てといったものもきちんと行っていくということが必要であると思いますし、また、日本のこの低い薬物の生涯経験率があるのは、広い意味での教育とか、それから、報道といったものが果たしてきた役割が大きいのではないかなと思いますので、今後の薬物対策の上でも、教育機関とか報道機関といったものが、薬物教育とか、それから、適切な報道を進めていくことが重要なのではないかなという印象を持っております。
本当にこの検討会の委員を務めまして、いろいろなことを考えさせていただきました。この検討会のとりまとめが今後の薬物の医療への道とか、大麻等の農家の方の振興、それから、乱用者の再犯防止もしくは依存の克服につながっていくということを期待したいと思います。
どうもありがとうございました。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは、続きまして、□□委員からお願いいたします。
○□□委員 □□です。ありがとうございました。
私は、今回いろいろな方にお話を聞かせていただく中で、発表される方とかたくさんいらっしゃったと思うのですけれども、ほかにももっと呼べる方もいらっしゃったのかなというような感覚がありました。医療用にかかわる大麻なので、医療用は、日本で行われてないというのが前提ではあると思うのですけれども、それについての何か情報だったり知識を有している方等がいなかったりとかというのがありましたし、産業用の方たちも来ていただいて、あと、医療の難治性てんかんを診ていらっしゃる先生方の話もあったのですけれども、支援をされている当事者というのも、委員としては私だったのですけれども、それ以外の方がどういった形で依存症の支援に対して現場で困っているかということを発表していただく機会などがあったら大変うれしかったなと、振り返って思っております。
私自身は依存症という病気を持っていて、薬物をやめ続けて生活しているのですけれども、何でもそうだと思うのですけれども、病気になった人しか分からないことというのは、その人にしか分からなかったりする部分は、自分自身も感じていますし、生涯経験率が日本はとても低いので薬物使用者も少ないのですけれども、少ないからこそ声が届かないという部分で、今回、違った病気ですけれども、難治性てんかん薬が治験に向かっていく可能性が見えたということは、私としてはすごく喜ばしいことだなと感じております。
この話し合いは今回これで終わりですけれども、今後、どういうふうになっていくのか分からないのですが、大麻が世界的にも嗜好用だったり、医療用ということが認められている国が少しずつ増えていく中で、それを誤ってというか、若さゆえに好奇心を持っていろいろな形で情報を集めてしまったり、何か若さの中で楽しさ、快楽を求める方はやはりいると思うので、情報提供がこれから正確に行っていくのが、今までのような形ではない形であり得ればなと感じております。
以上です。ありがとうございました。
○鈴木座長 ありがとうございました。
続きまして、□□委員よりお願いいたします。
○□□委員 ありがとうございます。
本当に皆さんお疲れさまでした。結論ありきではなくて、それぞれの立場から本音でぶつかり合った大変意義のある検討会だったのではないかと思っています。私自身も非常に多くのものを学ばせていただきました。本当にどうもありがとうございました。
最初の会合のときに、私は、「日本は薬物の生涯経験率が欧米に比べて極めて低い。この奇跡のような状況を今後も守っていきたい」という気持ちで参加していますと発言しました。その思いは今も変わっておりません。海外で嗜好用大麻が解禁される国があり、そういう流れにあるのだから、大麻を使っても大丈夫だというような誤った情報に踊らされて、若者が好奇心から安易に手を出してしまうことがないように、今後も一次予防に力を入れるべきだと思っています。
ただ一方で、この検討会では、検挙された後に多くの人が放置されている現状も浮き彫りになったと考えています。そういう意味では「ダメ。ゼッタイ。」に続く新たなスローガンというか、社会復帰に向けた支援が必要な時代になっているのではないかという思いを強くいたしました。
厚生労働省では、取締りと併せて依存症対策も担っていらっしゃいますし、今後は、取締り一辺倒ではなくて、教育、啓発、司法も巻き込んだ、国を挙げての薬物対策をお願いしたいと思います。
とりまとめの15ページにある「普及啓発及び情報提供」のところをメッセージとして強く打ち出したいと個人的には思っておりまして、このとりまとめで終わりということではなく、これからが大切という気持ちでおりますので、引き続きよろしくお願いしたいと思います。どうもありがとうございました。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは続きまして、□□委員お願いいたします。
○□□委員 皆さん、お疲れさまでございました。
とりまとめをしていただいた監視指導・麻薬対策課の皆様ありがとうございました。それから、鈴木座長もありがとうございました。
私も、この12人の検討委員の一人として責任を感じながら毎回参加してきたつもりです。ただ、非常に論点が多岐にわたっておりまして、例えば法律のこととか、自分の専門ではないようなところの話は、正直ちょっと難しいところもあって、もっと勉強しなければいけないなと感じたところです。
これは繰り返しの話になりますが、規制を強化するだけでは、厳罰化するだけでは薬物問題の根本的な解決にはならないということは言わずもがなかなと思います。
そして、とりまとめの最後のほうにも、今後、具体的な検討作業を速やかに進めていくと書いてあるのですが、特に、再乱用防止に関して、総論的には誰も反対しないような内容、例えば大麻事犯者に多い保護観察のつかない執行猶予者や起訴猶予者となる者に対しても治療や支援が届くようにすべきであると、これは大賛成ですね。でも、問題は、それは誰がどうやるんだというところだと思うのですよね。そこをしっかり詰めていくことが今後求められるなと思っています。また、そういうときには、ぜひ当事者の意見もたくさん聴いていただいて、よりよい対策を練っていっていただきたい。そして、私でできる協力であればしていきたいと思っております。
これは、この検討会とは若干ずれるかもしれないのですが、依存症の支援という観点から考えたときに、アルコール依存症にはアルコール健康障害基本法という法律があり、また、ギャンブル依存症にはギャンブル等依存症対策基本法という法律がありますが、我が国は、薬物依存症に対する、こういった対策基本法は現状ないということにあります。ここにちょっと私自身は問題意識を感じていて、そういった法律を今後つくっていくようなことが必要ではないかと個人的には思っています。また、そういった法律の立法に当たって、必要な研究、データ、そういったものを集めたり、そういったものを分析するということであれば、協力は惜しまずにしたいなと個人的には考えております。
ということで、検討会今までありがとうございました。以上です。
○鈴木座長 ありがとうございました。
続きまして、□□委員お願いいたします。
○□□委員 □□でございます。
まずは、本検討会の構成員に選出いただきましたことに厚く御礼申し上げます。このような社会的に大変意義深い検討会に参加できるということは、本当に名誉なことと実感しております。おかげさまでボリュームのある大麻に関する勉強を短期間にやらせていただくことができ、理解が大いに深まりました。内容的に、第8回では物足りないぐらいのボリュームだったと思っています。
今回、この検討会で協議されたことで、何人かの委員の先生方からもお話がありましたとおり、大麻系医薬品が医療用として用いられて、一日も早くこういった薬を待ち望んでおられる患者さんの手元に届けばいいなというのが、私が一番大きな期待をしているところでございます。今回、大麻系医薬品の使用のためには、大麻の部位規制から成分規制に変えていただくこと、また、これを麻薬及び向精神薬取締法で規制していただくということでクリアできると考えております。
今回の検討会で、大麻系医薬品が麻向法で規制されるということは最終とりまとめ案にあったとおりでございますが、もう一つ踏み込んで、麻向法で規制されて、また、管理されていくということのプロコンとでもいうのでしょうか。メリット、デメリット。例えば大麻系医薬品として臨床の現場で実際に処方された場合の問題点とか管理方法、医療機関での受け入れとか、あと、社会的な影響ということについてももう少し踏み込んで議論されればよかったなと思っております。
細かい話になりますが、大麻系医薬品を麻向法で規制していく中で、今後、製薬会社等が国内で製造・製剤・販売・流通をするに当たっては、恐らく大麻系医薬品としての一番問題となるTHC濃度、この基準をどこまで麻向法で規制して管理していくかということの議論が今後必要になっていくと感じております。例えば、一定濃度以上のコデインとかジヒドロコデインは医療用麻薬ですけれども、1%以下ということになりますと、家庭用麻薬という呼ばれ方をされて、医療用麻薬の取扱いではなくなるのですね。ですから、このような概念を大麻由来のTHCにも適用するのかどうかといったことが、十分議論される必要があると思います。
今後、大麻系医薬品の医療用での道が開けることによって、国内において多くの臨床試験のデータが集積されることが予想されますので、新たな医療における活用の道も開けてくるのではないかと思います。
一方で、今回、使用罪の創設ということについては多くの議論がございました。私が思うに、大事なことは、薬物乱用をした方を単に罪人にしてしまうということではなくて、その方にとって必要な治療、社会復帰のための更生の道を開けるように、その方を取り巻く環境の改善とか整備とかそういったことに力を注いでいくべきだろうと思います。
議論の大半は大麻主体の薬物対策の検討会ということでしたが、日本における麻薬の流通規制の緩和ということについても、私は意見を述べさせていただきました。例えば、麻薬卸売業者が県をまたいで麻薬元卸売業者のように流通できるような可能性といったことについては、まだ多くの意見をいただけておりませんが、ぜひ、今後、行政の方々には関係方面の意見を聞きながら、可能な限りよりよい方向で流通の適正化を図っていただければと考えております。
また、日本において、大麻、向精神薬を初めとした乱用が今後も増えていくことがないように、この検討会での議論を契機に、規制当局また乱用防止センターの啓発活動も含めて、適正な使用を推進するための啓発活動をぜひお願いしたいと思います。
最後に、本検討会の準備・設定に御尽力いただきました関係者の方々には厚く御礼申し上げます。私からは以上でございます。
○鈴木座長 ありがとうございました。
続きまして、□□委員お願いいたします。
○□□委員 ありがとうございます。
検討会を振り返って思い起こすことが3点ございますので、それを申し上げたいと思います。
第1に、最近の国際的な潮流云々といった発言も見られましたけれども、そういうとき、世界に200近い国と地域があって、一体どこの国々を指すのであろうかと常々疑問に思っておりました。一般に、あたかも日本以外のほとんどの国で、といったニュアンスで使われることに至っては、現状からかけ離れていると思っております。しかし、もし、大麻の嗜好目的での使用を合法化した少数の国のことを指しているのであれば、国法で合法化したのは2か国のみであります。したがって、一次予防が機能しなくなってどうしようもなくなった少数の国のやり方に、日本が追随しなければならないという理由はないと考えます。
第2に、もし、国際的潮流というのが、一次予防に加えて早期発見、治療、教育、アフターケア、更生から社会復帰に至る各国での様々な創意工夫の取組のことを指すのであれば、それは何も新しいことではありません。これは1972年に国際社会が麻薬条約を改正してまで目指したことであります。そして、CNDが長年言い続けてきたことでもあります。具体的には、第38条のことです。そこでは、まず乱用の防止に特別の考慮を払い、とあるのを思い起こす必要があります。これまで、例えば我が国では、一次予防が他の国々と比較して効果を上げてきましたが、だからといって乱用防止に関する努力を怠るわけにはいきません。二次予防を必要とする人たちを増やすことに通じるわけですから。
しかし、一方、不幸にして薬物乱用を始めてしまった人々には、社会復帰に至るまでの手を差し伸べなければいけないと考えております。ちまたでは、人間は薬物を使うものだから、薬物のない世界は実現不可能だと公言する向きもあったと報告を受けました。しかし、犯罪が世の中からなくならないからといって、犯罪防止の努力をやめようという考えは出てきません。薬物問題も同じであると考えます。横流し、密造、密輸、密売、そして、乱用を我々は限りなくゼロに近づける必要があり、努力をし続けなければいけないと思っております。
第3に、「ダメ。ゼッタイ。」という標語ですけれども、これは、その昔、35年、40年前までの「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」といった、不幸にして乱用を始めてしまった人たちへ向けての呼びかけの延長などではありません。薬物乱用をしていない人たちへ向けて生まれた、初めての呼びかけでした。したがって、この場合、当事者とは、まだ乱用を始めていない多くの人たちであったということを覚えておかないといけないと思います。この標語が成立した経緯については、これまでの検討会で記録を引用して明らかにいたしました。
もしも、それに対して、誤解、曲解があるならば、まず、それを正すのが筋だと思っております。それは依存症の患者さんや御家族のみならず、その他一般の人たちが誤解、曲解しているなら、その人たちに対しても同じようにする必要があります。これは医療用麻薬の使用に関しても同様です。不幸にして乱用を始めてしまった人たちも社会復帰を果たした後に、共に呼びかける性質の標語であると考えております。この呼びかけの大切さを身にしみて理解し、実際に行動に移しておられる方々がいらっしゃいます。
例えば、私が一緒に講演したことのある、ある盲学校の先生です。この先生は若い頃シンナーを乱用して、その結果、目が見えなくなってしまった。その後、それはすさまじい努力をなさって盲学校に入り、先生になり、今は、乱用防止の活動に尽力され、「ダメ。ゼッタイ。」を強調して伝えておられます。
それから、あるヨーロッパの国で社会復帰を果たした人たちは、英語で「Never. Ever.」と言っていると報告を受けました。つまり、「ダメ。ゼッタイ。」ということですね。早期発見から社会復帰に至るまで支援しておられる方々の多くが、そのように考えているということも、覚えておかなければいけないと思います。ただ、言い募ればいいというわけではないですね。特に、若者たちが自分で考えられるようにするためにはどうしたらいいのか、一次予防から最終的に社会復帰に至るまで、それぞれの段階で効果的なメカニズムが不可欠であると考えております。
最後ですけれども、我々はみんな同じ方向を向いて協力して歩いているはずです。本来、手を携えて進むべきものであります。どの立ち位置からでも、事実にもとることを言い募って対立している場合ではないと考えます。
おわりに、監麻課長初め監麻課の皆さまの綿密な資料その他の御準備には大変感謝しておりますので、お礼を申し上げて、私のコメントとさせていただきます。
○鈴木座長 ありがとうございました。
続きまして、□□委員お願いいたします。
○□□委員 □□でございます。
今回、全8回の検討会に参加させていただきまして、非常に勉強になりました。ありがとうございました。
議論を通じての感想といたしまして、まず、大麻についてお話をさせていただきます。大麻につきましては、医療用に利用するという可能性がある、そういったものについて適正な対応ができるようなシステムを構築していくことは非常に重要であると思いました。
その中で、先ほどの説明でもありましたが、エピディオレックスというような実際に医薬品として認められているもの、こういったものについては、治験を含めて患者さんに早く届くようなシステム構築は非常に重要だということを改めて感じております。
特に、今回、米国で認可されているような大麻関連の医薬品は、特定の疾患にほかの治療薬がなかなかいいものがないという中で、適正に使用することによって効果が期待できる、そういったものが出てきているということですね。ですから、ぜひ、その辺りはルールづくりを含めて推進していただきたいと、改めて感じました。
また、そういったシステムを考える中で、ほかの委員の方からもお話がありましたが、その成分の中に含まれている精神作用を示すTHCです。この扱いをどうするかというのは非常に重要な問題になっているというのを改めて感じております。医薬品として使用することを想定しますと、そのTHCの濃度をどう考えるかということは慎重に論議していく必要があるだろうと思います。
このTHCに着目してもう一つ考えますと、いわゆる繊維として大麻を利用していくことを考えた場合も、やはり精神作用物質であるTHCが多く含まれているようなものが万が一栽培されてしまうような状況にならないように、いわゆる麻農家さんも安心して栽培できるような環境づくりが重要であると感じました。そういったものを考えたときにも、含まれているTHCに関しては慎重な検討が必要になるのかなと、改めて感じました。
また、大麻に関しましては、単一条約等の縛りがあるのでなかなか扱いは難しいのですが、我が国の中で、例えば大麻の種を維持したり、そこに含まれている成分などを、基礎研究もしくは臨床研究で、パイロットスタディレベルでも構わないのですが、研究に使用できるような研究システムも導入する必要があると思いました。大麻の評価について、その妥当性をより明確にできる、国内のデータとして集積していく必要もいよいよ出てきているのかなと感じました。その中で、大麻の栽培、維持というものについても、重要なポイントになってくると思いました。
最後に、薬物の対策という中で、例えば我が国では、麻薬や覚醒剤というような規制ルールが幾つかあるのですが、その中には規制のみではなくて、例えば医薬品に応用されるというものが海外で出てきているという実情を考えますと、その使用リスクに応じたランクによる規制システム、例えばアメリカでのスケジュール化のような、そういった物質規制というくくりの中で考えていくということも、我が国でも必要になってきているのかなという、今回の論議とは少し離れますが、そんな感想を持ちました。
各委員の先生からいろいろなお話を聞けたことは非常に勉強になりました。
最後に、本検討会のとりまとめ、資料の準備から会場設営等まで、中心になって協力していただいた事務局の方々には、感謝申し上げたいと思います。
以上です。
○鈴木座長 ありがとうございました。
続きまして、□□委員お願いいたします。
○□□委員 □□でございます。
これまで8回にわたる議論に参加させていただきまして、どうもありがとうございました。また、資料の御準備を含め、事務局の皆様、大変お疲れさまでございました。委員の皆様の議論が踏まえられて、いい形でとりまとめが作成されたと思っております。
歴史が深くて、ほかの薬物関連法と比べても、アウトオブデートになっている部分があった大麻取締法ですけれども、その制定後に明らかになった事情、昨今の医薬品の開発に関する状況、ほかの薬物関連法との整合性、そういう様々な観点から改めて整理をし直して、現在の状況に合ったものに変えていくという方向性が示されたことについて、大変意義深いと考えております。
まず、植物の部位規制となっていた規制を、THCの有害作用が明らかになっていることとか、大麻に関する取締りの実態というところを踏まえて、ほかの薬物関連法と同様に、THCという成分に着目した規制に見直すというところが、まず重要な点だと思っております。
また、現行法では承認もできないし、製造販売もできないという状況にある大麻由来の医薬品について、海外での承認状況や使用状況、国内での開発状況を踏まえて、適切に承認、製造販売、そして、施用ができるようにするという点も非常に重要だと思います。もちろん、THCを乱用することの有害性は、検討会で示された各資料からも明らかですので、大麻由来の医薬品についても、麻薬製剤や向精神薬と同様に、適切な流通管理を行う必要があると思いますし、医療機関での処方に基づく適切な施用以外の乱用的なTHCの使用については、これを防止する手立てはしっかり講じる必要があると思います。
このようにTHCという成分に着目した規制にすることに併せて、逆に、THCの乱用にはつながらないような大麻の栽培や、産業用利用については、規制を合理化して、THCの含有量が少ない産業用の大麻を真摯に栽培して産業化するという行為については、過度な規制を及ぼさないように、運用の見直しも含めて検討をすることも重要かと思います。
こうした規制のあり方の方向性について、とりまとめでしっかりと示されたと思いますので、これを踏まえていただいて、早期の段階で法改正がなされ、大麻由来の医薬品を待っている患者さんに医薬品が届く、そして、THCに限らず薬物乱用への対策がしっかりと講じられているという、そういう社会が実現することを切に願っております。
以上でございます。
○鈴木座長 ありがとうございました。
続きまして、□□委員からお願いいたします。
○□□委員 まず、私は使用罪には反対ということを申し上げているのですが、ただ、誤解なきように言っておきますと、大麻由来の医薬品に関しては、本当に、むしろどんどん進めるべきだと思っていて、とにかく医学的な利用の可能性についても研究が進んでいくことを期待しています。
その上で、この会議自体は、かなり使用罪のことをめぐって多くの議論が費やされたように思っています。全体を終わって、振り返って、少し残念に思うのは、別の委員も指摘していましたが、薬物の問題を抱えている方の治療とか回復支援に直接携わっている人たちの声をもう少し聴くべきではなかったのかなというか、話が、数字の話、法律の話、制度の話という感じで、大麻を使っている人がどんな人たちで、どんな状況なのかということに関して、ちょっとリアリティーを共有しながら議論することができなかったように思います。
私自身、長いこと薬物依存症の治療の現場に身を置いていて思うことがございます。まず、本当にたくさんの薬物依存症の患者さんと出会ってきたにもかかわらず、やはり大麻の問題を抱えてくる患者さんたちは相当少ないのですね。恐らく一般国民の中で一番広く経験されている違法薬物は、言うまでもなく大麻だと思うのですけれども、医療の現場に来る人たちは、それから比べると随分ボリュームが少ない。それでも来る人はまあまあいます。でも、ほかの薬物を並行して使っていて、ほかの薬物の影響のほうが強いだろうなとか、もともと別の精神疾患があるよねという方が多いのですね。
それでも最近は、様々な情報や啓発が進んでくる中で、初犯で逮捕されて保釈されて、次の公判までの間、病院に来られる患者さんも多くなりました。その中で、ある意味でピュアな大麻ユーザーと出会うことはこの数年増えております。
その中で、本当にこの数年思っているのは、特に健康被害が見当たらないのですよ。あくまでも診察室の中で様々な医学的な検査や使用パターン、精神症状について精査して、これといった問題がなく、あえて害を言えば、つかまってしまったことというか、刑罰なんですね。つまり、健康被害よりも刑罰が上回ってしまっているような状況なんです。
でも、それが法律ならば仕方がないという考え方ももちろんありますし、私自身もそう思うのですけれども、ただ、ほかの犯罪で、例えば暴力とか、あるいは性犯罪の一部ですね。こういった犯罪などの場合には、被害者との示談が成立することによって不起訴になったりしていることは結構あります。ただ、薬物の場合には、その示談をすべきその被害者というものが明確でない。たとえ病院などで再乱用防止プログラムを受けたからといって不起訴にしてもらえるという可能性もない。実は、大麻でつかまって、私どもの外来に来る患者さんたちの中には、非常に優れた実績や職業、専門資格を持っている方もいます。この人を失うのは社会的な大きな損失だなと思う方もいます。
ただ、一回つかまってしまうと、前科になってしまうと、一応執行猶予が終わった後でも、元の仕事に戻れるかというと、戻れる仕事もありますけれども、その仕事が高度であればあるほど戻れないのですね。それなりの専門資格の場合には、インターネット上の情報がいつまでも残って、職を探そうにも必ず検索されて名前が出てきてしまい、雇ってもらえない。だから、もしもつかまらなかったら、この人このくらいまで到達していたねというところには戻ることはできないのですね。絶対とは言わないけれども、極めて至難な業であると。
今回、スティグマについていえば、どの犯罪でもスティグマはあるしとおっしゃっていた委員の方がいたけれども、大麻を使うということの犯した犯罪の重みと、その後、長く残ってしまう社会的なスティグマとの間で、我々はそれをどう考えたらいいのかということを、ぜひ今後も皆様方に考え続けていただきたいと思っています。そうしないと、そこで根拠が明確にならないと、使用罪が単なる「ブラック校則」みたいな感じになってしまうのではないかと思いますし、さらに、これからも研究や治験の蓄積をして、本当にどういう害があるかを明らかにする。もちろん私は、大麻を決して安全とは思っていませんが、実際にどういう健康被害があり、とりわけどんな人たちにその害が出やすいかということを突き詰めていかないと、保健衛生上の目的を明確にするということもなし得ないのではないかと思っています。
私自身、自分自身がプレゼンテーションの時間を与えていただいたときに、最後に示したのが、2016年以降、医療機関で治療を受ける薬物依存症の患者さんたちがすごく増えていることを報告しました。でも、これは薬物問題が深刻化していることを意味するものではありません。というのも、1年以内に使ったことがあるという患者さんの数はずっと横ばいなんです。つまり、医療につながって、何とかそこでの治療や支援の中でやめている人が増えていっていることを意味するものです。さらに、自分たちの施設のデータを見てみると、年々、まだ逮捕経験のない違法薬物の問題を抱えた方たちも増えています。つまり、逮捕される前に助けを求めに来ている人たちが増え始めていて、これは刑罰よりも治療、あるいは助けてくれる場所があるよという情報が少しずつ社会に行き渡っていることの兆しなのではないかと思っています。
私は医療者であるということもあるのかもしれませんが、こう思っています。健康によろしくないものを国民がだんだん使わないようにしていくために、犯罪化することによって少数の人を見せしめにしたりいけにえにしたりして、みんな使っちゃだめだよと脅すというのも一つのやり方なのかもしれませんが、私としては、問題を抱えた方たちが安心して、そして、自分のいろいろな立場なんかの安全を保ちながら助けを求め、相談を受け、治療を受ける、そういうふうな社会になってほしい、と。そういう意味では、できるだけ薬物関連の犯罪は、全部なくせとは思わないけれども、必要最小限にすべきであると思っています。
最後に、予防についてですが、毎回、毎回、私も「ダメ。ゼッタイ。」の文句をずっと言い続けたわけですけれども、もちろんつくった側には必ずしも悪意がなかったこととか、それなりの考えがあったことは十分理解しております。
ただ、一つ考えていただきたいのは、一つのヘルスプロモーションのキャッチコピーが、30年以上同じものが使われ続ける。時代は刻々と変わっているのですよ。使われる薬物も変わっている。それは実は異常なことだと私は思っているし、それから、キャッチコピーというのは、制作者の意図を離れて、どんどん勝手に広まっていって、勝手なイメージが付与されてしまうのですよね。しばしば「ダメ。ゼッタイ。」を批判するたびに、じゃあ代わりのキャッチコピーは何なのかと言われるのだけれども、確かに、あのインパクトに匹敵するコピーはそうそう思いつかないと思いますが、逆に、インパクトがあることのデメリットも我々は考えなければいけない。
さらに、毎回、別の委員のほうから、もう一個副題のキャッチコピーがあることにも注目してほしいという言葉がいつもございました。「愛する自分を大切に」と。ちなみにだけれども、10代で違法薬物を使う子の危険因子と10代で自殺行動をする子の危険因子はすごい共通しているのですよ。どちらも自分を大切にできない方たちなんですね。自殺予防教育の中で、本来はヘルスエデュケーションでなければいけないのに、ちょっと前までは、「命は大切に」とか、「自分を大事に」とかという生命尊重教育、道徳教育にすり替わられて行われていたのですね。でも、これは自殺予防の専門家から、一番まずいタイプの自殺予防教育と言われているのですよ。つまり、自殺リスクの高い子たちは、大事にされてこなかった人たちなんですよ。自分を大事にってどうしたらいいのということになってしまうのですね。
実際、薬物乱用防止教育などでも、従来の薬物乱用の患者さんたちの話を聞いてみると、乱用防止教育で、薬物が危険だ、死んじゃうやつもいるって聞いて好奇心が湧いてやったと、こういう話は結構あるのですよ。一次予防というのは、ポピュレーションアプローチといって、リスクの高い人も含めて集団全体のそのリスクを減らしていくことがヘルスプロモーションなのですよ。リスクが低い子たちのリスクをさらに下げて、リスクが高い子たちを分断するというヘルスプロモーションでは駄目なんですね。
ですから、我々はこの啓発のキャッチコピーについて、それこそ厚労科研の研究班とかを立てて、いかなる啓発が必要なのかということをもっともっと言葉を尽くして検討し続けることが必要だと思っています。
長くなりましたけれども、私としては以上です。監麻課の皆様方には、とりまとめも含め、心より感謝申し上げます。
○鈴木座長 ありがとうございました。
続きまして、□□委員お願いいたします。
○□□委員 □□でございます。
私としては、ここにいる各委員の皆様方とちょっと立ち位置というか立場が違う、いわゆる行政で意見を言わせていただいた次第です。
今回の検討会の感想ですけれども、主に総論としての協議が中心でしたが、5回まで講義、プレゼンテーションとなり、自分としては、意見についてどこでどのように述べればいいのかよく分からなかった、難しかったと思っております。
いろいろな意見が出る中で、とりまとめ案に記載されてない意見もあったと思います。各委員の意見について、方向性として載せるべきとは言いませんけれども、こういう意見があったと、全てとは言いませんが、原則、記載していただければありがたかったかなと自分としては思っている次第です。
特に都道府県からの意見につきましては、法改正後に実際に事務を行うのは、例えば、申請とか許認可、そして、監視、司法なども入りますけれども、事務を行っていくのは都道府県という形になります。また、今回、意見、協議という形で挙げてはいませんが、その他の問題点もあると思っております。許認可のねじれとか、他法令との整合性とか、当然、法改正につきましては国の事務になりますが、今回の改正は、場合によっては大きな改正になると思いますので、改正内容の検討段階等におきまして、各都道府県の意見を聴いていただいて、可能な範囲で反映していただくことをお願い申し上げます。
最後になりますが、薬物五法、今後の方向性についての感想意見です。薬物法につきましては、麻向法、覚取法、大麻取締法、あへん法、特例法もございます。各法令で少しずつ条文というか、規制内容も違っており、用語の定義なども若干違っている部分があると思います。今すぐとは言いません。今後、5年、10年、それ以上かもしれませんが、こういった薬物関連法規を一つにまとめて、別の委員も言っておりましたとおり、国際的な規制に合わせていくことも御検討いただければと思っております。
以上でございます。ありがとうございました。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは最後に、□□委員お願いいたします。
○□□委員 □□でございます。
いろいろな方々の意見を拝聴しまして、私なりに改めてこの薬物問題を考える機会になりました。ありがとうございました。
ほかの委員の方も言われていたのですけれども、私もずっと考えていたのは、「世界の潮流」という言葉が結構出てきたのですが、世界ってどこなんだと、同じようなことをずっと思っていました。
そもそも薬物、麻薬といいましょうか、麻薬に対する考え方は、日本とヨーロッパでは根本的に違うというのが私の見方です。そもそもヨーロッパというのは、個人の自由というのが、我々の考える自由とは随分違っていて、個人の自由が全てに先駆けるといいますか、尊重されるといいますか、いろいろあるのでしょうけれども、基本的に、イギリスを中心とする個人の自由というのは、違法薬物といえども使うのは個人の自由だ。これがずっと脈々と続いていますね。
ところが、日本はそうではないですね。日本が国家として、この麻薬問題を取り扱ったのは、何と言おうが「あへん戦争」、この教えですね。要するに、乱用は駄目だよと。ここが出発点なんですね。この違いは絶大だと私は思っています。幸いなことに、生涯経験率がほかの国に比べれば桁違いに少ない。これは、当時の「あへん戦争」からの学びが脈々と各時代の政策となって今日まで来ているということだと、私は思っているのです。一朝一夕でこんな国はできない。ほかの国がここまで経験率を下げようと思ったら、100年以上はかかるだろうと個人的には思っています。ですから、これを維持するのはものすごく重要なことだと思います。
基本的に、考え方の基本は、一次予防、二次予防、さらに、社会復帰を三次予防と言うかは別としても社会復帰ですね。この順番を間違えることなく着実にやっていくということですね。同時に、日本の場合には二次予防、その辺りが特に弱かったのは事実だと思います。ですから、今後を考えたときには、それをどうしていくかという議論がこの場とは別に必要になってくる、そういうふうに考えてきました。
「世界の潮流」ということに戻りますけれども、薬物依存症者に対する回復支援が「世界の潮流」であってもらいたいと私は思います。ただ、それも、そこで言う世界はどこなんだという話にまたなるのですけれども、切に「世界の潮流」になってもらいたい、そうあってもらいたい、そういう思いです。
ただ、もう一つ、私は、これはどこにでも言える、まさに「世界の潮流」かなと思うのですけれども、「つかまる薬物からつかまらない薬物へのシフト」なのですね。私はこれをずっと言っているのですけれども、例えば、日本では「危険ドラッグ問題」がそうでした。これは、法の網をかいくぐる、そういう手法ですね。これは世界的に起きていまして、英語ではNPS(new psychoactive substances)という言い方をしますけれども、まさに、「つかまる薬物からつかまらない薬物へのシフト」ですね。その流れの中に、どうも大麻というものが入っているのではないかと私は個人的には考えています。
どういうことかというと、大麻は明らかに害作用はあるわけですよ。これは、病院に来るか来ないかとかそんな話ではなくて、THCの有害性、これは検討会でも明らかにされているわけです。だけど、この害作用は覚醒剤とかヘロインに比べれば圧倒的に危険度は低い。これは認めざるを得ないのですね。低いからこそ実は「ゲートウェイ」なのです。要するに、そういうのを使った人が、「何だこんなものか」と感じると、その体験が心理的垣根を下げてしまうのですね。だから、次の薬物に行きやすくなる。だから、「ゲートウェイドラッグ」というのは、その薬物だけを見れば、いろいろな意味での害作用は比較的低いのですよ。だから、「ゲートウェイ」になるのですね。そこを勘違いしてはいけないのでして、害が強かったら「ゲートウェイ」じゃないですね。そういう押さえ方をした上で、大麻というものが、世界的というのは何だか分からないけれども、欧米と言うのでしょうか。いわゆるつかまらない薬物の一つとして浮上していると思っています。
以前、大麻と言えばオランダという国が日本ではすごく報道されたわけですよ。ところが今は、全然報道されないですね。何でかというと、これは私の推測です。オランダは当時いろいろな規制薬物の中でも、大麻まではソフトドラッグ、それよりもさらにいろいろな意味で害が大きいものをハードドラッグという2種類に分けたのですね。その考え方は、何しろ国民の中でのいろいろな薬物の使用経験率が高いという大前提がまずあるわけですけれども、大麻の場合にはゲートウェイドラッグであることは、全部否定できないけれども、大麻を使っている人が一気にヘロインに行くかというと、そんな簡単に行くものじゃない。とりあえずは大麻くらいで止めておこうという、何かそういう政策だったように思っています。それが、じわじわといつのまにか欧米中心にオランダ化したというのでしょうかね、個人的にはそんな見方を今回も考えたりもしました。
同時に、アメリカ、カナダもそうなのでしょうけれども、嗜好品としての大麻を認めているところは、同時にその規制も厳しいわけですね。と同時に、そこの政府ないしは自治体が関与するわけです。規制ドラッグのコントロールに国が関与するというのは、実はすごい経済的収益があるわけです。アメリカのある州などでは、州知事が堂々とそれを言っている現状ですよね。これは我々の想像を超えるわけでして、これは日本の大変な汚点でもあるのだけれども、旧満州国の国家予算は、けしの作付面積を基にして算出していたという資料もあるわけでして、とんでもないお金が動くのですね。そういうことが欧米の大麻絡みで国家間で動く可能性がある。
ということで、大麻というものは難しい植物だったわけですけれども、ここで検討された方向性は、私はおおむね間違いではなかろうと思います。長い日本の歴史の中で、低い生涯経験率を維持する一つの方法かなと、そういう考え方で対応させていただきました。
結局、世界的でも日本でもそうなのですが、つかまらない薬物にシフトしている。これはずっと頭に置いておく必要があると思います。医薬品としてリタリンという問題が出ました。これもつかまらない医薬品だったのです。その後、危険ドラッグという問題も出てきました。これもやはりつかまらなかったのです。要するに、何らかの規制をかけないとこういう問題がどんどん出てくる。これは、また、世界の一つの流れだと思います。
「世界の潮流」と言うと何だろうという話に戻るのですけれども、私は基本的に「世界の潮流」は、「つかまる薬物からつかまらない薬物へのシフト」だと考えています。結果的に、これは既にアメリカで起きていて、オピオイド・クライシスなんてまさにそうです。医薬品ですよね。医薬品の問題はこれまで以上に大変な問題になってくるだろうと危惧をしている次第です。
この検討会で私にはうれしかったことが一つあります。それは、麻薬中毒者制度を廃止するということが明確に打ち出されているということです。これは長い歴史を持っている制度ですけれども、実際は現状にそぐわなくなっている。しかも、法律二つがダブっていて、どちらを適用すればいいのだと、それにタッチする人間にしてみると、非常に悩ましい問題だったと思います。それが、今回の検討会で法の一本化という方向性が明確に出たということは、よかったなと思っています。
ということで長々しゃべらせていただきましたが、「世界の潮流」というのは、言うのは簡単なのだけれども、どこが世界なんだと考える必要を感じました。そもそも日本を考えたときに、いわゆるヨーロッパとは出発点が違うぞということは重要だろうと思います。日本の現状は一朝一夕でできたものじゃないということを個人的には皆さんにもやはり訴えたいと思いました。
それから、「世界の潮流」と言う前に大切なのは、「世界の動向」を把握することですね。「世界の動向」を把握した上で、一次予防、二次予防、社会復帰という、この順番を間違えることなく、ダイバージョンを今後考えていく必要がある。個人的には、皆さんの御意見を伺いながら、いろいろなことを改めて考えるいい機会になりました。結論的には、これからダイバージョンの実現に向けてどう検討していくか、この辺りになっていくのかなと思いました。
長々しゃべりましたが、ありがとうございました。以上です。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは、本検討会の最後に、厚生労働省医薬・生活衛生局長から御挨拶申し上げます。
鎌田局長、お願いいたします。
○医薬・生活衛生局長 御紹介いただき、ありがとうございました。医薬・生活衛生局長の鎌田でございます。
本年1月から8回、それが多いか少ないかという御議論もございますけれども、8回にわたり、座長初め委員の皆様方におかれましては、活発な御議論をいただき、ありがとうございました。
私自身、ちょうど国会の時期でもあり、また、コロナ対策ということで出席できず、また、今日も遅れて参りました。その辺は申し訳なく思っております。ただ、議事録等を通じて、あるいはスタッフからの話を通じて感じましたことを申し上げたいと思います。
医薬・生活衛生局、医薬品の流通規制とかをしているわけでございますが、私自身、よく言われていますように、考え方としては、レギュラトリーサイエンス、最新の科学や技術をどう実用化するのか、そういったことを踏まえて規制や制度をイノベーションするところだという考えの下で、私、今、仕事をしております。
新しい知見、新しい技術、新しい科学を、私たちの社会に取り込んでいく。その成果を正しく国民の皆様に提供していく。それが医薬局の役割だと思っております。むろん、それは単に科学の成果、技術の成果をダイレクトに取り込むのではなくて、安全とか社会の影響を考える、つまり倫理的な判断、そういったものが必要だと考えております。
そうした観点から大麻について、御指摘のあった大麻事犯の増加、特に若い方々の中で広がっているのをどう捉えるのか。一方で、医療用としての役割、それをどう使えるような形にしていくのかという御指摘を、今申し上げたレギュラトリーサイエンスを考えるときに、今の法体系あるいは制度のあり方はこのままでいいのかという課題をいただいております。
例えば使用罪もいろいろ御議論分かれましたが、それに併せて、社会復帰あるいは再乱用の防止対策を考えるというのも、一つの科学的知見から出てきた議論だと思っております。象徴的には、神事で使うような麻についての体系というのもそのように解釈しております。
私としては、そういった意見を踏まえて今後取り組んでまいりたいと思います。そのためには、途中、委員の先生から自主的なお申し出をいただきましたが、精神神経医療研究センターの委員の先生方に、引き続きそのサイエンスのベースとなる研究を出していただければ、それを踏まえて我々としても、規制や制度を引き続きイノベーションしていくということになろうかと思います。
本日とりまとめていただいたわけでございますので、これをどのように具体策を講じていくのかというのは我々に課された役割でございまして、これは厚生労働省一医薬・生活衛生局だけではなくて、再乱用防止、依存症対策となれば、厚生労働省のほかの部局も関係しますし、途中御指摘ございましたが、教育の問題であれば文部科学省も関係するでしょう。また、司法関係の御指摘もございました。この会議にはオブザーバーとして司法関係の方々も入っていただいております。そうしたことも我々は受け止めていただいていると考えております。
特に具体的にこの報告書の最後に、法改正と一定の時間を要する制度についても、可能な限り速やかにという御指摘をいただきました。私ども医薬・生活衛生局といたしましては、このとりまとめを踏まえて、関連する法案の提出の準備を進めてまいります。その際に、関係審議会での議論がございます。制度の細部の検討を進めてまいります。その際にも、皆様の御知見を頼る場面はありますので、ぜひ、引き続き御協力をいただけたらと思います。私どもといたしましても、できるだけ早くこの法案を作成して、できるだけ早く国会に提出してまいりたいと考えておりますので、引き続きよろしくお願いします。
どうもありがとうございました。
○鈴木座長 ありがとうございました。
それでは、最後に私のほうから一言申し上げます。
本検討会では、様々なお立場の方から、それぞれの御経験も踏まえつつ、忌憚のない御意見を数多くいただきました。
今さら、私が申し上げるまでもありませんけれども、時に検討会とは思えないぐらいの熱い議論が交わされ、一時は、本当にとりまとめができるのかと心配になりましたが、皆様の御協力のおかげをもちまして、何とか、本日、無事とりまとめに至りました。
第2回の検討会でも申し上げましたが、私も、なるべくオープンな議論をと思う一方で、テーマがテーマだけに、委員の皆様や事務局に対して、一方的な苦情や批判があったと聞いており、皆様方にも大変な御苦労をおかけいたしました。
先ほど申し上げましたとおり、最終的に、文言や文章表現の修正は私に御一任いただき、今月中には正式にとりまとめまして、公表したいと思います。
このとりまとめは、委員の皆様だけでなく、第4回の検討会にお越しいただいた聖マリアンナ医科大学の太組先生や、第5回の検討会にお越しいただいた、大麻栽培農家の大森さんや、若園さんの思いもこもったとりまとめですので、厚生労働省の皆様におかれましても、大変かと思いますが、引き続きとりまとめの実現に向けた御努力をお願いいたします。
また、最後に、事務局の皆様方には、これまでの御努力に対しまして、深く感謝を申し上げます。
それでは、以上をもちまして、第8回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を閉会いたします。
半年にわたり、誠にありがとうございました。
(了)
医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課
直通:03-3595-2436