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北海道のむかし話47 洞爺湖の神と中島

洞爺湖(とうやこ)の神と中島(なかじま)

むかし、松前の藩士に文武両道に通じた武士がおった。この武士には、二人の男と一人の女の子がおった。二人の男の子は武士の子として、剣道や学問を教えられたが、兄は何でも一度で覚えたが、弟は何度教えられても、何をやっても読み書きすらできなんだ。父親はある日、弟を呼び寄せていった。

「お前は、人一倍立派な身体をし、容姿もすぐれているのに、どうしてそんなに物覚えが悪いのか。お前のような者を家においておくことは、我家の恥になる」といって、大小の刀をあたえた。
弟は、自分がいることで、家中に恥をかかせることは申し訳ないと悟り、一人旅に出た。

行く当てもなく歩いて行くと、大きな川の畔ほとりにでた。そこには自分と同じ年頃の美しい若者がおった。若者はと見ると、やはり大小の刀を腰こしにさしている。
若者は弟を見ると、ニコリと挨拶をして、一通の手紙を差し出した。

文字が読めないばかりに、家を追い出され旅をしてきたのに、人を侮辱するにもと、怒おこり、いきなり太刀を抜いて若者に斬りかかった。
すると、若者は風のように舞い上って川の向こ岸へ鳥のように舞い降りた。くやしさのあまり、やはり風のように飛んで向こう岸に舞い降りた。それを待っていたかのように若者が斬りつけてきた。若者の太刀先より早く、飛び上がり風のように舞い戻った。若者もあとに続き、何十回と激しい斬りあいをしたが、勝負はつかなかった。

洞爺湖

「ちょっと待ってくれ、そして聞いてくれ」といって若者が話しかけてきた。
「自分は松前の藩士の末子だ、あなたも同じであろう」といった。やはり若者も、弟と同じで、何も出来なかったので家を出たのだという。そして、旅をしてここまでくると、川の神(サンピラタ)に逢った。

この川の神が話すには、人間の国にアブタという所があって、そこには大きな湖がある、しかし、そこを護る者がいないため危あぶないところになっておる。そこでアブタの湖を守らせるために、私達が選ばれたということだ。

「私達を無能者にして家を追い出したのも、神の考えで、また二人を斬合あいをさせたのもサンピラタの神が腕前を見たかったということだ。ここに二本の神酒が徳利に入れられて神の国から送られて来ておる。それより先ずこの手紙を読んでみたまえ」手紙を若者から受け取って読むと、すらすらと読めた。若者の話すことと同じことが書かれていた。

若者二人は、アブタの湖をめざして六日、六晩歩き続けて湖に着いた。湖畔に腰をおろし神酒をくみ交わすと、不思議にも神通力がつき、人間の国も神の国も、よく見えるよになった。二人は飲み終わって空になった徳利を湖の中へ投げ入れると、たちまちそこに二つの小山ができたので、渡ってみると、そこには二人の住む黄金造りの家が建ち、家の中には美しい宝物が積まれており、妻となる美しい娘が出迎えてくれた。

洞爺湖の中島は、若者達が投げ入れた徳利であるという。

                      更科源蔵 アイヌ伝説より

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