北海道のむかし話 1 (摩周湖-弟子屈町)
島になったおばあさんー弟子屈(てしかが)町
むかし、蝦夷地の北の方に、上のコタン(村)と下のコタンがありました。
上と下のコタンは仲が悪く、いつも何か、もめごとがありました。
ある時、下のコタンの酋長が上のコタンの酋長のだまし討ちにあって、殺されてしまいました。
それがもとで、上と下のコタンは、激しい戦いとなり、ついに下のコタンは、全滅してしまいました。
下の酋長の母親は、孫のトンクルを連れ、闇にまぎれて下のコタンから逃げました。コタンにいたら、上のコタンの者に殺されてしまいます。おばあさんは、孫の命を守らなければと、固く心に決めたのでした。
おばあさんは、トンクルを連れ、見つからないように、野や山をあてもなくさまよっているうちに、かわいい孫のトンクルを、見失ってしまいました。
おばあさんは、死に物狂いになって、探し廻りました。
「トンクル、トンクル・・・・・」大声で呼び続けおばあさんの声も、だんだんと枯れていきました。
すっかり疲れ切ったおばあさんは、そこから一歩も動けなくなりました。
のどがやけるようでした。しかし、水はありません。
おばあさんは、それでもトンクルを探しながら、山を歩き続けました。
そして、大きな湖にたどり着くことができたのです。おばあさんは、湖の神にお願いしました。
おばあさんは、がっかりしてしまいました。焼けつくような喉をさすりながら、疲れ切った体を引きずって、こんどは摩周湖にたどりつきました。
おばあさんは、また、湖の神にお願いしました。
おばあさんは、大喜びで、きれいな冷たい摩周湖の水を、腹一杯飲みました。水を飲むと、いっぺんに疲れが出たのでしょう。おばあさんは、いつの間にか眠ってしまいました。
すると、おばあさんの夢に、強いカムイ(神)に手をひかれたトンクルが現れました。
といいました。
おばあさんは、はっと目を覚まし、それが夢だと知ってトンクルを思い出し、何日も、泣き続けました。
おばあさんは、考えました。きっと、トンクルは生きているに違いない。また、摩周湖の神に頼みました。
神は、おばあさんの願いを、すぐ聞いてくれました。
おばあさんは、湖の中の小さな島になって住み着くようになりました。
そして毎日、トンクルの帰りを待ちました。おばあさんは、摩周湖に人が訪れると、それをトンクルだと思って、うれし涙を流すので、この涙のために摩周湖が曇ってかすんでしまい、嬉し泣きになくので、夏には雨が降り、冬になると吹雪になるのだと伝えられています。
こうして、摩周湖の中にある小さな中島を、カムイフッカムイ(神さまの老婆神)と呼ぶようになり、かわいそうなおばあさんと孫のトンクルの物語と、今も語り伝えられています。
ところで、山でおばあさんと別れてしまったトンクルは、その後、ナラの木の神に救われ、立派に育てられました。
やがて、亡びたコタンをもとのようにして、立派な酋長になり、コタンも平和に栄えたということです。
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