北海道のむかし話34 神居の人食刀岩
神居(かむい)の人食刀岩(ひとくいかたないわ)
昔、上川アイヌの酋長の家に先祖から、どんな時でも決して開けてはならないと伝えられている刀の入った包があった。
ある日のこと、この包の中から目を射るような光がさし、その光を見ると目がくらんだ。この光は夜毎光(よごとひかり)を増し、長い尾を引いて飛び部落の家々を襲った。襲われた家の者は鋭い刃で切られて死んでおった。
不思議な妖刀の光に人々は恐れおののき、酋長も困り果て、刀の包を山の奥へ持っていき置いて帰ってきたが、酋長が家に戻らない先に、捨ててきたはずの刀が家に戻っていた。
そこで、こんどは土に埋めても、川に棄すてても、やはり妖刀は戻ってきてしまった。困り果てておる酋長の夢枕に神様が立たれた。
と告げられた。
酋長は、さっそく告げられた場所を探しあて、大岩に祭壇をもうけて祭り祈ったところ妖光ものすごく炎をあげ大岩が割れた。
その時、山の神の使者、エコンノンノ(えぞいたち)が現れ胡桃(くるみ)の実一つを食くわえてきて、アサムサクト(底なし沼)にポトリと落とした。
すると、急に沼の水面に波が立ち始めた。そこで酋長は必死に神に祈った。
といって刀の包みを沼の中に投げ入れた。
すると、波紋が消えると同時に波もおさまった。
よくよく見ると、波と思ってみていたのは波ではなく、何百、何千か知れない小さな蛇であった。それ以来、妖刀は戻ってこなかった。
この妖刀を祭ったこの岩を、エベタムシュマ(人を食う刀の岩)と人々は呼んだ。
現在は、台場ケ原と忠別太の境にある刀の形をした大岩が、人食岩だといわれています。
更科源蔵 アイヌ伝説より
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