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映画「北の食景」ジャパンプレミアと4人のシェフのフルコース
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2024年11月22日から24日までの三日間、札幌で行なわれた食の映画祭「北海道フードフィルムフェスティバル(HFFF)」の最終日。
日本初上映の映画「北の食景」を見て、記念のスペシャルディナーがあるというので行ってまいりました!
映画「北の食景」で見た北海道の美しい四季と美味しい料理
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映画「北の食景(Northern Food Story)」は、北海道の4人の料理人の姿を四季を通して追ったドキュメンタリー。
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今年の9月にスペイン・サンセバスチャンで開催された「第72回サン・セバスティアン国際映画祭」のカリナリー(料理)シネマ部門に正式招待された映画です。
この映画祭は、美食の街サンセバスチャンで毎年9月に行なわれ、過去には大泉洋主演の「そらのレストラン」が受賞し、映画を観た後で料理がふるまわれたり、街じゅうでバル(酒場)が映画にちなんだフードやお酒を提供したりで、大いににぎわっていました。
このスペインの映画祭には、「北の食景」に出てくる4人の料理人のうち、高橋毅さん(ラ・サンテ)と酒井弘志さん(味道広路)、プロデューサーの伊藤亜由美さん(オフィスキュー社長)、上杉哲也監督が参加され、今回の北海道での映画祭における凱旋上映となったのです。
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映画はノーナレーションで、まずは春の季節から。
足寄の石田めん羊牧場、安平町のアスケンのアスパラ畑が映し出され、羊の肉やホワイトアスパラが「ラ・サンテ」で高橋毅シェフによって美味しい料理に仕上げられていく様子が描かれます。
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私もこの6月に「ラ・サンテ」のホワイトアスパラとミルクラムのフルコースをいただいていたので、映像を見ているだけでも味の記憶がよみがえってきました。
(写真はそのとき撮影したものです)
そして、栗山町の田園風景にぽつんとたたずむ「味道広路(あじどころ)」では、酒井弘志さんが山に入って食材を探したり、部屋に飾る野草を摘んできたりと、静かな日常が描かれていきます。
札幌の「アグリスケープ(AGRISCAPE)」は、シェフが農業をしながら料理をつくるという、なかなか他では見当たらないスタイルのレストラン。
いわゆるファームレストラン(農家さんが素朴な料理をつくるレストラン)ではなく、シェフの吉田夏織さんが畑に行き、山へ行き、野菜からハチミツ、豚や鶏まで、できるものは何でも自分たちでつくるという日々に、体だいじょうぶか?と心配になるほど大忙しな毎日を送っていました。
一度取材に行ったことがありますが、その時よりもさらにパワーアップしています。
ススキノにある「○鮨」の川崎純之亮さんは、お客さんと会話しながら、お寿司の握り方や出し方などを工夫し、日々ネタと向き合っています。
その美しい映像に、思わず「食べたい……」とお腹が鳴りそうでした。
「北の食景」シネマディナーで美味の追体験
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「アグリスケープ」の吉田夏織さん、「○鮨」の川崎純之亮さん
映画の終了後は、スキージャンプ競技場のある大倉山のレストラン「ヌーベルプース」へ。
この映画に出てきた4人のシェフによるシネマディナーが行なわれました。
札幌に住んでいて、それぞれの店に行くことはできても、このコラボディナーは一回限り。貴重な機会に胸が躍ります。
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アミューズは、写真右より
☆AGRISCAPE「根菜のタルタル、平飼い卵、リベッシュ」
☆○鮨「備の稲荷 帯obi」
で、アグリスケープのアミューズには半熟の平飼い卵がとろ~り。映画に出てきた、あの元気な鶏の卵かなと想像もしてみました。
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アペリティフは、
☆AGRISCAPE「命をいただくをテーマに…黒豚シャルキュトリー盛り合わせ」
ここで飼われている黒豚は、通常は適度に肥育された豚を料理にしているそうなのですが、今回だけ7回もお産を経験した「経産豚」を特別に出していただきました。
ベベちゃんと名付けられた黒豚の命を、最後までまっとうしたシャルキュトリーは、とても奥深い味わいでした。
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お吸い物は、 ☆味道広路「タラとキクラゲ、ヤマドリぜんまいのさつま揚げ」にシイタケと柚子。
これも映画で、酒井さんがていねいにぜんまいを仕込んでいる姿を見てからだったので、あのまいが食べられる!とうれしくなった椀物です。
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ここで4人のシェフたちによる共同制作の八寸、
☆AGRISCAPE「250日齢のプレノワールの薪スモーク」
☆ラ・サンテ「帆立とポワローのフラン カプチーノ仕立て」
☆味道広路「羊と小豆の羊かん、シケレペ、フェンネル」と「パプリカのマリネ、ドライトマト、バジル」
☆〇鮨「鯖のバッテラ」
一緒のテーブルにいた方は、「美味しい!美味しすぎる!」と叫んでいまして、「もう食べ終わりたくない!」と、気持ちわかります……。
どれも美味しかったので、ひとつだけ挙げるとするならば、味道広路「羊と小豆の羊かん、シケレペ、フェンネル」は絶品でした。羊だから羊かん、あの羊かんとはちがい、小豆の甘さを活かした特別な羊かんで、持って帰りたかったなあ……。
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厨房を見てみると、映画に出てきたシェフたちがともに忙しく立ち回っている姿に感動。
映画では4人別々に出てくるので、4人が仲間の料理人、「ヌーベルプース」の料理人たちとチーム一体となってフルコースをつくっていることに、つくづくありがたいなあと感じました。
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一方、「〇鮨」の川崎さんは、大倉山ジャンプ競技場が見える特等席を鮨カウンターに!
ここでフルコースを食べている客たちが順番に呼ばれて席につき、握りたてのお寿司をいただくことができるのです。
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☆〇鮨「握り アジ・甘えび」と「干しカズノコ」
アジはあえて大きく切り、握ってから半分にして提供。甘えびは尻尾を互い違いにして握る。それが客の口に入って味わうまでを計算してのことで、そういうお話を目の前で聞きながらのお寿司はよりいっそう美味しい。
「干しカズノコ」も北海道の大切な食文化のひとつで、映画では残念ながら生産地のロケがカットされていたそうで、川崎さんから話を伺えたのはよかったです。映画では「〇鮨」のシーンだけ生産地が出ていないと思っていたので、お寿司の一つ一つのネタに北海道の港の仕事があることを感じさせてもらえました。
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メインは、
☆ラ・サンテ「足寄・石田めん羊牧場の20カ月のサウスダウン種の藁焼きと、白菜と大根のプレゼ、羊のスネ肉と内臓とメークインのグラタンを添えて」
「ラ・サンテ」の名物の一つ「足寄・石田めん羊牧場のミルクラム」は生まれたての赤ちゃんのラムのやわらかさと美味しさを味わえますが、ここでは大人のサウスダウン種のしっかりした旨みが堪能できました。
いかにもフレンチというより、白菜や大根などがいいダシ感を出してくれて、和食とのコラボディナーとうまく調和しているのが見事でした。
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最後はチーズとデザート、
☆AGRISCAPE「放牧ヤギのセミハード、白カビ・ラベンダーチーズ、秋の自家採取ハチミツ」
☆ラ・サンテ「羊のリコッタチーズのバスク風チーズケーキ」
☆味道広路「蒸し林檎、新ショウガの野草茶煮、ベルガモット」
☆〇鮨「厚焼き玉子」
映画「北の食景」に出てきたAGRISCAPEの放牧ヤギや、石田めん羊牧場の羊のチーズが味わえるとは!
石田めん羊牧場のチーズは、同じ足寄の「しあわせチーズ工房」の本間さんがつくる本当に美味しいチーズで、高橋シェフがサンセバスチャンに行った時の感謝の気持ちでチーズケーキにしたそうです。
AGRISCAPEでは、チーズまでつくるようになったとは知らなかったので、映画に出てくるラベンダーのチーズとともに楽しめました。
味道広路の新ショウガの野草茶煮は、蒸しリンゴと合うのはもちろん、ともに出されている「〇鮨」の厚焼き玉子とうまくつながるガリのようで、酒井さんも「3人の出される料理をまず聞いてから、その間を埋めるようにメニューを考えた」とおっしゃっていました。
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フィナーレは小菓子、
☆ラ・サンテ「庭で採れたフランボワーズのマカロン」
☆AGRISCAPE「ヤチヤナギとジュニパーベリーのチョコレート」
それぞれにレストランのそばで摘んできたものを、お菓子にしてくれた、そのやさしい気持ちが伝わります。
このコースに使われた野菜も多くはAGRISCAPEの畑からのもので、エシャロット、白菜、じゃがいも、色大根、根セロリ、ビーツ、菊芋、ポワローねぎ、山わさび、リベッシュ(ハーブ)が提供されたそうです。
このフルコースは一日限りですが、みなさんもどうぞ、この映画を観ておなかをすかせて、それぞれのお店に行ってみてくださいね!
映画「北の食景」は11月29日(金)北海道で先行ロードショー、そのほかの上映スケジュールについては公式HPをご覧ください。
(「北海道生活」編集長)
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