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「全てが曖昧で、情報に振り回されて大変でした。」吃音がある幼稚園児のお母様にインタビューしました。

こんにちは。北海道吃音・失語症ネットワーク代表の三谷です。
このnoteでは吃音や失語症など、ことばに悩みを抱える当事者やそのご家族などにインタビューを行い、体験談や想いを発信しています。

今回インタビューをさせていただいたのは、吃音がある幼稚園児の息子さんを持つお母さん(以下、Aさん)。
当団体にご相談いただいた後、受給者証の取得に向けて様々に行動を起こされましたがスムーズにいかず、とても困った経緯がありました。受給者証取得のために奔走された当時のことを詳しくお話いただきました。


Aさんのご紹介

札幌市在住。1児のお母さん。
「大学時代からバンドを組んで歌を歌っていました。長野県では子育てメインだったこともありほとんどお休みしておりましたが、古巣の札幌に帰ってきて、昔の仲間たちと音楽活動を再開しています🎤あとは温泉とカメラが好きなので、また北海道の温泉をめぐりながらいい写真を撮りたいです!」

息子さんの吃音に対する支援の経緯について

三谷) まずは、息子さんの吃音に対して、これまで取り組まれてきた内容について簡単に聞かせてください。

Aさん) 札幌に引っ越してくる前、長野県の比較的大きな市に住んでいました。息子が幼稚園に入園する時、園児全員に対してプリントもらったんですね。それが吃音に関するプリントで、吃音の症状や「先生に相談しましょう」といった内容のものでした。そのプリントは、あるS T(言語聴覚士)の先生が作成したものだったらしく、「吃音のことが、もっと周知されてほしい。」「とても大切なことだから、正しい知識を幼少期から知って欲しいし、母親や色んな大人に啓蒙したい。」という思いで、自分から幼稚園に足を運び配り歩かれていたそうなんです。
毎年配られていたので、私は少しばかり吃音に関する知識がありまして、「もし子供に吃音があったら、すぐに相談しよう」ってインプットされてたんです。それで、息子が「吃音かも」ってなったときに、そのことを幼稚園の先生に伝えたら、そのS Tの先生に繋いでもらうことができたんです。
一応、かかりつけの小児科の先生にも息子の吃音について相談したんですが、「吃音に触れちゃいけない。小学校に上がるまで様子を見ましょう。」と言われたんですよね・・・。でも、そのS Tの先生は、「それはいけない。そうじゃないんだ。」ということをおっしゃっていたので、そのSTの先生にお世話になることにしました。

三谷) 熱心なSTさんに出会えたんですね!就学後の「ことばの教室」や「放課後デイサービス(以下、放デイ)」といった相談先についての情報は、そのS Tの先生からうかがったんですか?

Aさん) そうですね。でも、ことばの教室というのは、なんとなく聞いたことはあったのですが、放デイについてはほとんど知らなかったです。

三谷) そうですか。実際、吃音のお子さんとなると、まだまだ放デイの利用を選択される方は少なく、利用までのスムーズな流れも作られていない地域が多いです。発達障害がある子や重度心身障害がある子などと違い、吃音がある子へのサポートという点では課題が多い現状がありますよね。


受給者証の取得に向けて動き出す

三谷) 札幌に引っ越してこられ、息子さんの今後の小学校生活を考えたときに放デイという場所があることを知り、放デイを利用するには受給者証が必要であることを知った訳ですが、その後、取得までの具体的な動きを教えてください。


Aさん) まずは、役所に電話で相談しました。そこでは、「医療機関から『療育を受ける必要がある』という診断書がもらえれば、受給者証が取得できる」と言われました。
そして、小児精神科に電話をしたところ、「予約待ちが多く、すぐには受診できない状況である」ことと、「何度も通院する必要がある」ことを言われました。これまでも私は、吃音について息子とオープンに話してきましたが、息子を病院に連れて行くとなると、ちょっとハードルが高いと感じまして、「その病院に通おう」という気持ちにはなれませんでした。

そして療育センターに電話したところ、「診断書は必要ないです。すぐに受給者証をもらえますよ。区役所に行って、もらってください。」と言われたんです。
なので、区役所に電話をしたところ、「何もなしでは受給者証は出ません。保健センターの方に相談してください。でも1~2回通ったところでは、出ないと思います。」「クリニックにかかるなら、そこから診断書もらってください。どこの病院でもOKです。」みたいなことを言われました。

三谷) あっちではこう、こっちではこう、と色々と言われることが違ったんですね・・・。

Aさん) そうなんですよ。誰もが、「あまり分かっていない」という感じでした。


情報が錯綜し振り回される


三谷) なかなかスムーズに進まず、お母さんの苦労やもどかしい気持ちも大きかったですね。そこからは、どのように進んでいったのでしょうか。

Aさん) 三谷さんからも札幌市内で吃音も診てもらえる医療機関について情報をもらい、私自身でも探してみました。耳鼻科の病院に電話をし、受給者証の申請のために診断書も書いてもらいたい旨を伝えたところ、結論としては「小児の吃音に関しては、書類は出せない」と言われたんです。

三谷) 整理すると、療育センターに電話をしたら区役所ですぐもらえると言われ、区役所に電話したら保健センターに行くのと医師から診断書が必要と言われ、病院からは診断書を出せないと言われた、ということですね。とんでもない大混乱が起こっていますが、これが現状なんですね・・・。


Aさん) その耳鼻科さん曰く、吃音は耳鼻科領域だけではなく精神科領域も絡むため、耳鼻科だけでは診断書を出せなくなってしまったという説明でした。「では、耳鼻科と精神科のセットで出してもらうんですか?」と聞いたら、またそこも色々と曖昧らしく、「はっきりとは言えません」と言われたんです。


三谷) 札幌だけではなく全国各地域のやり方を知ることも必要に思いますが、結局、誰もはっきりとは答えてくれなかった訳ですね・・・。

Aさん) その耳鼻科の方からは、「地方からドクターが来てる小児精神科があるので、ちょっと調べてみてはどうか」という情報と、「市の教育相談にも電話をした方がいい」と言われました。
ただ、その方の見解ですと、「市の教育相談は、受給者証や放デイといった福祉の話ではなく、基本的には教育的な分野(ことばの教室)の話になると思います」ということで、「興味があれば電話したらいいと思います」ということでした。


三谷) 各々がそれぞれの分野(福祉・医療・教育)でしか話をしていなくて、社会資源としての全体が見えてない状況だったんですね。お母さんにしたら、お先真っ暗といいますか、「どうしたら良いの?」という状態が続いたんですね・・・。


Aさん) その辺りの時期に、入学前の健康診断があったのです。そのときに「個別で相談がある方はどうぞ」とアナウンスがあったので、学年の担当の先生とお話をしに行ったんです。「息子には吃音がある」ということをお伝えしたら、札幌市の教育相談についてのプリントなどをたくさんもらいました。そして私は率直に、「今、放デイの利用も考えていて、受給者証を取ろうと動いてるんですが、うまくいってないんです。」と相談しました。
その先生は、その小学校に赴任されて日が浅いようでしたが、今まで吃音の子もみてこられたようで結構知識があったんです。「息子さんの困り感をなくすために、なんとかしていきましょう。」と言ってくださったんですね。その方といろいろお話する中で、一度、市の教育相談に電話するのと、保健センターに行ってみることを決めました。
その後すぐに、地域の保健センターに電話をして、「病院から、はっきり『診断書は出せない』と言われてしまって困っています」って言ったんです。そしたら、「それでしたら、こちらでやりましょう。」となって、話が進み始めたんです!


やっと、受給者証の取得に至る


三谷) コロッと状況が変わりましたね。何と言いますか、「これまで、うまくいかなかったのは何だったんだー」って、スッキリと納得できませんが(笑)。
人によって判断が変わってしまっていますよね・・・


Aさん) 本当に「今までなんだったんだろう」という感じで、その後は、随分あっさりと進んでいきました。その後、心理士による5歳児発達相談を受けることになったんですが、「この相談の後に隣の区役所で手続きをしていただけたら、受給者証が発行されますよ」って教えてくださりました。

三谷) その発達相談では、担当の方と、どのようなやりとりがありましたか?


Aさん) 積み木を積んだりなど、全部含めて1時間弱ぐらいの発達検査を受けました。心理士の方は吃音の知識はあまりなかった印象を受けましたが、息子のおしゃべりを聞いてすぐ、「私は専門ではないですが、吃音の支援を受けられる所があったら行ったほうが良いですね」って言ってくださって。
「発達相談を受けました」という内容が書かれた一枚の紙を渡されて、それを持って区役所の窓口に行きました。その後は、事務的な対応が続くんですが、その度に、吃音が出始めた頃から今までの経緯を全部話すことになり、大変でした・・・。
区役所の窓口に行って、4枚ほど名前などを書き、「この受給者証で何をしたいか」などを書きました。確か「本人が困ることがないように、生活していけることが一番です」みたいなことを書いたと思うんですけど、それを提出した後に担当者と簡単な面接があったんですが、「今日はどういったことで来られました?」って聞かれて・・・また経緯を話し・・・(笑)。
「あと数日で届きます」ということで、今までの苦労は何だったんだってくらい、あっさりと手続きは完了しました。


三谷)   本当に、お疲れさまでした・・・!
「病院に何回も通せるのは、この子にとってどうなんだろう」と話されていたと思いますが、役所での手続きも息子さんの同席は必要ですよね。同席のたびに、「息子さんには何て説明すればいいんだろう」といった葛藤はありましたか?

Aさん) 息子には、保健センターからの流れについては「健康診断だよ」みたいな感じで言っていました。私自身も、どんなことをやるのか、どれくらいの時間がかかるのかがイメージできなかったので、伝えるのに少し気を使いましたね。
あと、病院って、やっぱり「悪いところを治す」というイメージが強くて、特に精神科は長期間通わせるのは少し嫌かな、という気持ちがありました。


三谷) 取得までの間、たくさん苦労をされたお母さんとしては、取得までの一連の流れについて、今後どうなってほしいと思いますか?


Aさん) やっぱり、色々と一本化してほしいですよね。吃音だったら、こうしたらこうなって、そうしたらそうなるよ、ってわかりやすい流れがあったらいいですよね。今回、私が経験したことや、電話先で言われたことの全てが曖昧で、情報に振り回されて大変でした。情報不足と錯綜がありましたので。


三谷) その通りですよね。今回、お母さんは、大変な中でも本当に頑張られたと思います。
途中で面倒になったり、諦める方も少なくありません。全道どこに住んでいても、悩んだときや困った時につながれる人や場所があって、進むべき道を示してくれる人がいてくれることを切に願っています。今回、コロッと状況が変わったから良かったですが、頼みの綱だった病院から言われた最後の言葉は「出せません」ですからね。


Aさん) そうですね。相手によって話がすんなり通る・通らないという違いを強く感じました。
思い起こせば、心理検査の時に、「吃音をみてくれる放デイに通いたいので受給者証がほしいんです」っていう旨を伝えたら「そうなんですね。じゃあ、やりましよう」って話してましたし・・・。母親が、自分一人で調べて、取得するまでの半年の間、かなりの労力を割いて動き回らないといけない現状は、本当に大変です。


三谷) そこが大きな課題ですし、僕達の次の一歩になりますね!


吃音をもつお子さんに、放デイができることとは

Aさん) そうそう、吃音に対応してもらえる放デイっていうのは、札幌ではいくつかあるんでしょうか?


三谷) お母さんがイメージする「吃音がある子が安心して通えるところ」というのは、専門職がいたり、指導員にも経験があって、という放デイですよね?
現状、僕は、当法人の放デイ以外は知らないです。
吃音がある子が通っている放デイはありますが、そこで、その子にとって十分なサポートができているのか、今のその子・少し先のその子に必要な視点で考えられているのか、また学校や保護者とどういう形で連携しているのかは分かりません。最近になってようやく、放デイにSTがいるという施設が増えてきましたが、まだまだこういった現状ではないか、というのが僕の意見です。


Aさん) そうなんですね・・・。


三谷) 放デイって、小学校だけではなく高校生まで通える場所なんですね。そこでは、学年の違うお子さんもいるし、同じ吃音の困り感を持っている友達同士で支え合える姿をみることが多いです。そういった、人間的な成長や生きていく力を育む上で、放デイならではの貢献として大きな意味があると思っています。
いろんな個性に触れることで人を知り、さらに自分を知ることにも繋がりますもんね。学校以外の友達と関係性を築くことは、相手に吃音があろうがなかろうが、「自分は、こういうことで困る」とか「こうしてほしい」・「こういう風に自分はなりたい」など、自分の力で考え・伝える機会も多いですし、「ありのままの自分で過ごせる・安心できる居場所」としての意味も大きいと思っています。


Aさん) そうなんですね!
通わせ始めるときには、本人にどう説明したらいいでしょう?放課後、楽しいところがあるから行ってみようみたいな感じですか?


三谷) その放デイの特徴によって、お子さんへの説明の仕方も変わると思います。運動に力を入れた放デイとか、職業体験に力を入れている放デイとか、色んな特色があったりするので、ぜひお子さんと一緒に見学や体験に行ってみるのはどうでしょう。当法人の放デイのように、ことばの練習にも力を入れている施設も多くなっていますので、そのお子さん自身が「行ってみたい」と思えることがその放デイにあれば、「一緒に1回、行ってみようか」と伝えてみたら良いと思いますよ!行ってみないと分からないことや、直接担当の人と会ってみないと分からないことがありますもんね。


吃音のお子さんに対する支援について、お母さんが思うこと


Aさん) 今回お話をして思ったのが、私は元々、吃音は支援を受けるべきものだっていうものを、子供が吃音だとわかる前から知っていたので、こういう動きができましたけど、まだ浸透していませんよね。
少し前にも、テレビで吃音の芸人さんにまつわる問題がありましたけど、その方自身が「しゃべり方も個性」という風に言っていました。他にも、吃音当事者の方のお母さんのインタビューでは「この子の喋り方は生まれつきそうだし、病気でもない。だから、病院に通おうと思ったこともない」と言ってたんですよ。
ただ私は、「吃音は病気じゃないし、そのままでいいんだ」という考え方だけが強調されると、「支援を受けるべき対象から外れてしまう」という認識が固まってしまうのではないか、と感じました。私は、そうではなくて、「医療や福祉の支援を受けられるものだということをみんな知ってほしい」と思います。
吃音がある子の受給者証を取得しようとする人が増えたら、制度も、もう少し明確になっていくのではないかとも思いました。色々な考えがあるし、どれが正しいというわけではないけど、「分からないから動けずに諦める」っていうことは少なくしていきたいですよね。こういうものがあり、こう動けて、こういう結果につながったみたいなものを蓄積していかないことには、誰かの目に止まることもないですし、変わっていけないと思うから。


三谷) 本当にそうですね。今回感じた課題は、地道にひとつずつ、解決に向けて頑張っていきたいですね!
たくさんのお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
そして、今後、実際の生活の中で、学校に通いながら放デイやことばの教室を利用して、息子さんにとってどうだったのか。また次の機会には聞かせて頂きたいです!


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