「コンピュータの出現以来、書かれてきたすべてのプログラムはフィルタだ」
法規書籍印刷株式会社 戦略デザイン企画室の渡辺です。
今回はこれまで展示会などでご紹介させていただいる簡易検版webサービス「Flyp」についてのお話です。
前半は直接ご紹介をさせていただいた方には重複するお話になってしまいますが少々お付き合いください。
「Flyp」ができるまで
「Flyp」は2つのPDFファイルをブラウザへドラッグ・アンド・ドロップし、対応するページ同士の画像比較を行う簡易検版サービスです。
高機能な検版アプリケーションのように版面を合わせたり、比較する基準点を設定したり、比較時のしきい値を決めたりすることはできないものの、同じページサイズ・同じページ数のPDFファイルさえ準備できれば、特別な知識や操作方法を覚えること無く比較処理をすることができます。
こういったコンセプトは実際社内の制作現場の皆さんからあがった声から固めていったという経緯があります。
これまで高機能な検版アプリを利用していたものの、以下のような要望があがり開発がスタートしました。
一般的に検版ソフトは多機能であるがゆえの設定や操作の「難しさ」や「煩わしさ」からなんとなく敬遠しがち
オペレーションに近いところで気軽に確認するぐらいのシンプルな機能のものが欲しい
コロナ禍でのテレワーク実施で「どこからでも利用できる」検版ツールが必要
また機能自体は同等で処理できるPDFファイルのページ数と比較処理結果を保持しておく件数だけが異なる2つのプランをご用意し、月単位のサブスクリプションでご提供しています。これは検版アプリが比較的高価なため、その有効性を気軽に試していただきたいというところ(サブスクであれば気軽にご利用を中断することもできます)、特定の案件による繁忙期のみに導入していただけるような「検版アプリのユーザ」としての気づきと意見を反映したかたちになっています。
実際に社内運用がスタートし、社内制作現場で制作フローでの活用が進むとともに、こういったコンセプトに共感していただける方々がいらっしゃることを知り、各所でご紹介をさせていただいて今に至るというところになります。
「Flyp」の価格やプラン内容について詳しくはFlypの紹介ページをご覧ください。
「Flyp」にある裏テーマ
少々込み入った話になりますが「Flyp」のコアとなるPDF比較処理自体はwebAPIとして開発し、フロントエンドとバックエンドを完全に分離した形でwebサービスとして提供しています。
これは社内での流し込み組版処理のフローに簡易検版処理を組み込みたいという目論見があったことが理由です。流し込みによる組版を実施したタイミングで、修正前のデータが存在していれば、組版処理と同時にその内容と比較することができるフローを構築したかったということになります。
流し込み組版においてプログラムで生成したXMLデータなどを利用する場合、そのデータの内容は見た目での判断がしづらいためデータの取り違えが発生したり、オペレータがエディタなどでテキスト編集したりする必要がある場合には、DTPオペレーションよりもミスタッチなどでの赤字外変化に気づきにくいという場面があることはなんとなく想像していただけるところかと思います。
こういった制作フローのなかではレンダリングと同時にページの見た目上で比較できることにはかなりのメリットがあると思います。例えばたった一文字のミスタッチで以降の行ズレが生じた場合、どの位置にその「一文字のミスタッチ」があるのか、ページを画像として比較するのであればその位置も一目瞭然となるからです。
こういったアイデアはプログラミング開発における「静的チェック」のような手法を紙面制作でも活かすことができないかというところがスタートになっています。流し込み組版でレンダリングがちょっとだけ気軽なものになった分、プリンタでゲラ出力する前のタイミングでPDFファイルをつかったデータチェックを「紙面制作フローでの静的チェック」としてとらえることができるのではないかという提案です。
またその実現方法も制作フローのなかで概念的にも「交換可能なもの」として開発し、いわゆる「フィルタプログラム」のようなものとして構築するべきだというコンセプトに沿っています。この考え方は私たちが想像する「流し込み組版」がそのユーザを人間だけと限定しない、つまりこれから将来的にデータ生成するプログラムが「流し込み組版」のユーザとなっていくであろうというところにも繋がっていきます。
この言葉は名著「UNIXという考え方」の98ページにある言葉です。今であれば「書かれてきたすべてのプログラムはフィルタだ」ではなく「コンピュータを使った行為はフィルタだ」といっても言い過ぎではないような気もしています。さらに「コンピュータを使った行為」にあたる部分はAIのような自律的なソフトウェアでも人間が行うことでもどんなものでも当てはまる状況になってくるはずです。そのような状況に導くことが「テクノロジーの発展」そのものなのだと思っています。
そもそも情報加工という観点からいえば「組版」をはじめとする「本づくり」自体が社会へのフィルター装置のような役割を担っているという感触もありますし、こういった発想に至ることもそこまで不自然なことではないのかもしれません。
最後に
今回は「Flyp」のご紹介から裏テーマまでお話させていただきました。
着地点は少々大げさな話になってしまいましたが、こういったことも真面目に考えつつ、これからもサービスのご提供や制作のお手伝いをさせていただければと思っています。
「本づくり」のことでお困りのことがありましたらお問い合わせページからご連絡ください。