年の瀬、利用者さんの急な体調不良に東奔西走する保健師の話
冬になって寒くなると体の動きが悪くなる。
若い人でもそうだけれど、高齢者の方は特に気を付けなければならない。
転倒して骨折でもしたら一大事。
今日は、そんな寒い冬の日に骨折してしまった戸山さんのお話。
戸山さんは80歳の女性で、賃貸に一人暮らししている。
アパートは昔ながらの造り。
お風呂は五右衛門風呂みたいな造り。
玄関の上がり框は40㎝くらいの高さ。
台所は土間みたいな造りで、40㎝くらいの段差がある。
不便利な環境のおかげか、戸山さんは年の割に足腰丈夫だった。
しかし、ある12月下旬の朝、自宅の段差でうっかり転倒。腰を強打。
しばらく寝ていれば治るだろうと数日間ひとりでほぼ寝て過ごしていたが一向に良くならない。
あまりに腰から足にかけての痛みが続いて、動くことも困難になった。
そうしたところで、包括へようやく連絡。
黒井が訪問した時には寝返りを打つことすらままならない状態だった。
いままで元気だったので、介護保険申請もしていない戸山さん。
その場で申請書を書いてもらう。
ここで少し介護保険制度について補足。
介護保険を申請して、介護認定がついてからではないと基本的に介護保険のサービス利用までの流れがスムーズ。通常申請から認定が下りるまで1か月程度かかる。
しかし、現時点ではサービス利用希望ないのに将来心配だからとむやみに申請するのはあまり望ましくない。それに、元気な人はたとえ申請したとしても「非該当」という判定になる可能性も多いにある。非該当となると介護保険サービスは利用できない。
今回の戸山さんのように、急な状態変化によって、介護保険サービスが使いたいときでも大丈夫。明らかに介護認定が下りそうな状態の場合、介護保険の申請書を役所に出した時点で「暫定利用」という形でサービス利用を調整することが可能。
ただし、暫定利用の場合は注意が必要。申請時は体調がとても悪くても、申請中に状態が回復して、認定が「非該当」になってしまった場合、「暫定利用」で利用した分のサービスが全額自己負担となってしまうからだ。
(介護認定が出ていれば、所得に応じて1~3割負担でサービスが利用できる。)
また、今回の場合のポイントとして、戸山さんは生活保護を受給していた、ということがある。
病院受診も、介護保険サービス利用も、生活保護の担当者と連絡を取りながら行う必要がある。
しかし、今は12月下旬。役所も病院もうすぐ休みに入ってしまう。
訪問当日に介護保険申請をして、生活保護担当者にも連絡。
息子さんに連絡したところ、本日の病院受診は難しいと返答。翌日受診してもらうことになった。
ひとり暮らしであるのに加え、年末で介護保険サービス事業所も対応難しくなるので、包括としては入院してくれると安心。
しかし骨折とは難しいもので、「安静」が唯一の処置であり、医療的処置が必要でない場合も多いにある。そのような判断になるともちろん入院適応外。病院受診しても自宅へ帰されてしまう。
察しの良い方はお分かりだろう。
黒井が訪問した翌日、戸山さんは息子さんと一緒に病院受診したが、骨折の診断には至らず、そのまま帰宅。
動けないままひとりで自宅で過ごすことになった。
一応フォローしておくと、外来の医師は、戸山さんがひとり暮らしであることを知っており、入院先を探してくれた。
しかし、近くの病院はどこも入院病床が満床の状態で、断られてしまったのだ。(今回骨折の確定診断が下りなかったのも断られた要因の一つだと思われる。診断さえ出ていれば…)
そこからは包括は大忙し。福祉用具事業所に連絡して、ベッドとポータブルトイレの手配をとりあえず実施。
本人からお金を借りて、すぐに食べられるものを買ってきて枕元に置いておく。
そして包括の黒井が毎日自宅訪問して様子を確認。
これが最初に戸山さんから連絡があってから1週間の話。
怒涛の勢いでいろいろと調整していた。
今年もあと2日。そんなとき、戸山さんから包括に連絡が入った。
「もう、耐えられないくらい痛くて。救急車を呼んでも良いか」
包括管理者と一緒に自宅へ訪問。確かにいつもより痛みが強そうな様子。
だが、救急車を呼んだとしてもまた入院を断られてしまう可能性は大いにある。
そうはいっても、もう年末で、通常の外来はやっていない。受診するなら救急外来か救急車になってしまう。
悩ましいところではあったが、結果としては包括管理者の判断で、救急車を呼んだ。
そして、幸いなことに、今度は入院先が見つかった(少し遠くの病院ではあったが)。
初回の病院受診では骨折の確定診断は得られなかったが、今回救急搬送先の病院で再検査したところ、大腿骨頸部骨折の診断が下りたのだった。
(最初の病院で骨折の確定診断が下りていればこんなに苦労せずに済んだのに…とぼやく黒井)
戸山さんが心配で、仕事で頭がいっぱいの年末だったけれど、ようやく一安心。
ゆっくりと新年を迎えることができた黒井であった。
年末年始は役所も病院も事業所も基本的には休みなので、いつも以上に健康には気を付けてほしいと願う包括職員一同である。