タバコが大好きだった
タバコが大好きだった。
あの匂い、味、風味のすべてが…。
いまだに、匂いを感じると吸いたくなってしまう。
そんなに好きだったタバコを一緒に暮らす孫の「やめてね」の一言でやめた。
孫には勝てない。
仕方がないので、銘柄の遍歴だけ残しておこうと思う。
思春期から還暦を過ぎるまでの約半世紀弱の間、主にこの四銘柄を嗜んだ。
最初はオヤジからの『くすねタバコ』だった。銘柄は「チェリー」。最初からむせることも咳き込むこともなかった。少し辛口だったけど旨かった。しばらくしてクラクラするのも心地よく好きだった。
どうやらニコチン中毒の血筋なのだろう。ジイさんは病床でもタバコを吸っていたし、オヤジもそうだった。二人とも死ぬまでタバコを手放せなかった。
血筋なのだからニコチン中毒になっても仕方ないと思った。
チェリーの次は「セブンスター」だった。
相変わらず『くすねタバコ』だったが、最初の一本の味を今でも記憶している。
あまりの旨さに虜になり、ニコチン中毒の道を歩み始めた。
丁度、高校を卒業して専門学校に進学し、すぐに給付型の奨学金を得たので、当時月3000円程度のタバコ銭に不自由しなくなったのも良くなかった。
セブンスターの次は「マイルドセブン」だった。このタバコも旨かった。
結局、この銘柄を一番長く嗜んだ。
もう完全にニコチン中毒者だった。
時代は移ってメンソールが持て囃され、その時流に乗ってしまった。
色々試してみて「ラークメンソール7mg」が一番口にあった。
この頃は、もう一日一箱以上吸う重度のニコチン中毒者で、月の小遣いがほぼタバコ代に消えた。
『のむ、打つ、買う』の三道楽のうち、嗜んだのはお酒とタバコを「のむ」だけだったので、妻も大目に見てくれた。感謝している。
ただ、これだけタバコが毛嫌いされるとは思わなかった。時代の流れは急で逆らえないから恐ろしい。
今はただ紫煙を燻らせていたあの頃を懐かしく思うだけである。
<了>