贔屓の球団が消えた…
1988年10月19日、私が28歳の時だった。
夕方、勤務時間が終わって一息ついていた時だった。
「阪急も身売りだってなぁ」。
ダイエーに身売りが噂される南海ファンの上司が、阪急ファンの私に突然話し掛けてきた。
私は「なに言ってるんですか、冗談はやめて下さい」と言って取り合わなかった。
彼は『同病相憐れむ』的な表情を浮かべ、こう続けた。
「本当に知らないのか?」。
さっきテレビのニュースで知ったと小声で教えてくれた。
私は慌ててテレビの前に行った。
本当だった。
にわかには信じられなかったが、何故か妙に冷静だった。
憤りや怒りの感情は全く無く『まるで夢の世界にいる』状態だった。
テレビでは、新聞記者から色々な情報を教えてもらっている阪急の選手達が映し出されていた。
夜になると、断片的だった情報が徐々に集約されてきた。
身売り先は『オリエント・リース』。
聞いたことのない会社だった。
ずっと現実のことと受け止められず、まるで夢の中で起きている出来事のようだった。
発表された新しい球団名は『オリックス・ブレーブス』。
ブレーブスという名前は残ったが、私の中で贔屓にしている球団が消えた。
この時は、まだ何も感じなかった。
いや、感じられなかったというのが正しかった。
それからしばらくして、私は今までに経験したことのない類いの感情に次々と襲われることをこの時はまだ知る由もなかった。
<了>