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あるローカル線の思い出

 平成元年の初夏でした。

 東北地方へ一緒に出張する上司が、なぜか行程は任せろと言い出しました。

 嫌な予感がしました。

 案の定、米沢での出張業務が終了した翌朝の八時前、否応なしに各駅停車の電車に乗せられました。

 往路では使わなかった『米坂線』というローカル線でした。

 復路にこの線を使うのは、お金も時間もロスです。

 なぜ、辺鄙なこの線を使うのか不思議でした。

 途中、小国という駅で下車して小一時間ほど待って乗り換え、お昼前に坂町という駅に到着しました。

 この間、上司は車窓からの風景を嬉々として眺め、「米坂線を制覇した」と満足げに何回も呟いていました。

 私は、『乗り鉄』の執念に、ただただ呆れ返るばかりでした。

                 <了>