【裁判例】グッドウイン事件

1.東京地裁令和3年2月4日判決

保険外交員搾取被害弁護団事件において、被告会社とされていたうちの一社に対する事件の判決である。

RKコンサルティング事件はすでに判決になっており、もう一件は和解になっている。結論からいえばグッドウイン事件は原告(募集人)敗訴(請求棄却)であり、RKコンサルティング事件に続いて、2件目の敗訴判決となった被害弁護団にとって厳しい結果となっている。

事案の概要としては、

グッドウインに勤務していた募集人が、退職の申し出と同時にグッドウインに対し、

①月額賃金につき手数料売上の8割の額すべてとする合意があったことを前提としたこれまでの未払い賃金
②退職後も代理店を続けることを前提に、募集人が契約した保険契約について、移管手続を進めること

をそれぞれ請求した。

これに対し、グッドウインは、募集人に対し、退職合意書※に署名押印しない限り、移管手続きには応じないと回答した。

※退職合意書には、
・秘密保持(グッドウインの秘密情報を開示、漏洩しない等)
・損害賠償(違反した場合の賠償義務等)
・契約移管の条件(保険会社や共同担当者の同意が得られない場合や、グッドウインの指示で募集人の担当となった契約は移管対象とならない等)
・退職手続(退職届の提出等)
が定められていた。

その後、グッドウインは、募集人が求めた保険契約のうち一部の保険契約のみ移管した。

これに対して、募集人がグッドウインに対し、

①売上の8割が賃金であることを前提とする未払い賃金
②退職に際する被告の言動が違法であることを理由にした損害賠償請求

を求めて、訴訟提起したというものである。

2.売上の8割すべてを賃金とする合意

グッドウインでは、募集人の給与は、
基本給の他、業績給(歩合給)として売上の8割から基本給相当額、その他在籍料、情報購入料等様々な経費等を差し引いた金額
を支給していたが、
募集人はグッドウインとの間で、売上の8割が賃金となるという合意があったと主張していた。

これに対しては、

「原告(募集人)と被告(グッドウイン)との間で原告の売上の8割すべてを賃金とする合意があったとは認められず、原告の未払い賃金請求については理由がない」

として請求を認めていない。

募集人がそのような合意があったと主張する根拠は、

・採用担当者から、「従業員の売上の8割が当該従業員の賃金、残り2割が被告(グッドウイン)の取り分となること、インセンティブボーナスも売上の8割に基づいて支払われること、それにより、当時、原告(募集人)が在籍していた生命保険会社よりも高収入を期待することができる旨の説明」があったこと
・採用担当者は保険募集人が80%を取得することができる旨記載された被告の報酬体系に関する資料が示されたこと
・採用面接において、社長から「『保険会社からの手数料と、従業員への還元率は業界最高水準』と述べ、被告においては売上の8割が従業員の取り分である旨説明し、それが業界の中で最も高い水準である旨述べて高待遇を強調した」こと

であった。これについては、

・雇用契約書には、「業績給について『勤務成績に応じて支給』と記載があるのみ」
・「給与規定においても、前月の各人の売上等に応じて業績給を支給する胸が定められ」
・原告(募集人)も被告に対し通知書(退職申し出と同日に出した代理人弁護士からの内容証明郵便)とを送付するまで、業績給の計算について明確に異議を述べていなかったこと

などから、グッドウイン主張の業績手当を支払う旨の合意があったと推認されるとしている。

そして、採用担当者の説明も基本的にグッドウインの説明どおりであり、募集人の供述も記憶が曖昧であるとして採用できないとしている。
また、社長の採用面接時の発言においては、8割が従業員の取り分である趣旨の説明をした可能性は否定できないものの、それのみで売上の8割すべてが原告の賃金となる合意があったと認めることはできないとしている。

3.退職に際するグッドウインの行為

募集人は、グッドウインによる

①違法な賃金天引き
②退職妨害の嫌がらせ
③保険契約の移管手続を適切に行わなかったこと

などを理由に不法行為に基づいて損害賠償請求をしている。

この中で概要としては、③のみ取り上げる。

募集人は、グッドウインに入社する際、採用面接において、

採用担当者から、グッドウインから転職する際には、グッドウインで獲得した保険契約を転職先の保険代理店に移管できると伝えられたことや、社長から「うちは保険契約の移管ができるから」と述べられたことなどを理由として、退職後保険契約の移管を請求していた。

しかし、これについて判決は、

「原告(募集人)と被告(グッドウイン)との間で、原告の媒介に係るすべての保険契約及び保険募集人登録を原告の退職時に無条件に関する手続を行う旨の合意が成立していたと認めるに足りる証拠は見当たらない。」

として、こちらも請求を認めていない。

その他の不法行為についても否定しており、結果的に募集人側の請求はいずれも棄却されている。

4.まとめ

RKコンサルティング事件が、賃金計算の内容については争いがない中、
「歩合給から基本保障相当額を控除するのが保険業法、労基法違反か」
という点が争点になっていたのに対し、
グッドウイン事件は、
「そもそもどういった賃金支払についての合意がなされたか」
という点が問題となった点で違いがある。
※細かく言えば、グッドウイン事件でも、業績給計算に当たり事業主負担分の社会保険料等が控除することが違法かも争われているが、RKコンサルティング事件同様、業績給算出の過程での計算式として何ら法令違反ではないとされている。

委託型募集人が廃止となり、雇用関係が中心となった保険代理店と募集人との関係で、手数料収入の8割を給与とするのは、社会保険料負担なども考慮すれば、なかなか現実的な条件ではないようにも思える。

採用段階での説明なども採用時の労働条件の内容に影響を与えるが、雇用時点において労働契約書、就業規則等において明確に労働条件を定めておくのがまずは重要である。

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