【裁判例】不告知教唆をした代理店の賠償責任
0.東京地裁令和元年7月3日判決
保険代理店の不告知教唆により保険会社が告知義務違反解除ができず、保険会社が保険金を支払うことになったため、保険代理店に対して、保険金相当額を損害賠償請求をした事案である。
まず基本となる法律の確認であるが、保険法において、保険会社は保険契約者が告知義務に違反した場合には、保険契約を解除することができる。
しかし、保険代理店に不告知教唆があった場合には、保険会社は保険契約を解除することはできない。
不告知教唆は同項第3号である(2号が「告知妨害」)。
そして、不告知教唆は(保険業法)300条違反行為である。
1.事案の概要
生命保険会社Xの保険代理店Yの媒介によって、顧客AはXとの間で、次の生命保険契約を締結した。
Aは、保険契約締結の3ヶ月である平成28年4月13日、病院において、慢性腎不全との診断がなされ、維持透析を行う旨説明を受け、その後、透析を受けており、これは本件保険契約締結の際にXに告知すべき事項(過去5年以内に、腎不全を含む一定の病気により、一度でも医師の診察、検査、治療、投薬のいずれかを受けたことの有無)に該当するにもかかわらず、Aは、本件保険契約締結の際、Yに告知しなかった。
そして、Aは、平成29年11月10日死亡し、Aの子であるBは,本件保険契約の死亡保険金受取人として、Xに対し、本件保険契約に基づく死亡保険金の請求をした。
保険会社Xは、Bからの保険金請求に対し、医療機関等の調査をしたところ、Aによる告知義務違反が判明したが、Yが、不告知教唆をしたため、保険契約を解除することができないものと判断し、平成30円3月13日、Bに対し、死亡保険金200万円及び遅延損害金1万9727円を支払った。
2.争点
本件裁判の争点は、
である。
3.裁判所の判断
まず、争点(1)保険代理店Yによる不告知教唆の有無 についてであるが、
保険代理店Yと契約者Aは、同じマンションに住んでおり、Aは、Yの紹介を受けて、平成28年4月13日から病院に通院するようになり、同病院で人工透析を受けていた。
そして、保険代理店Yは保険会社Xとの面談で、不告知教唆を認めており、その内容を記載された事情報告書(Yの署名押印有)が裁判にて証拠提出されている。
このことから、裁判所はYによる不告知教唆の事実を認めている。
よってこの点は実質的には争点にはなっていない。
そして、争点(2)保険代理店Yの損害賠償責任の有無 については、
と判断した。
不告知教唆は、保険業法300条違反行為であり(保険業法違反であること=不法行為責任ではないが)、保険会社の利益を侵害する行為であり、過失がある以上は不法行為責任が発生するといえる。
裁判例はXの長年の保険代理店業務について指摘するが、不告知教唆が違法行為なのは保険代理店業務の基本であるため、経験年数の影響はほとんどないであろう。
ちなみに、本件訴訟では、不法行為に基づく損害賠償請求が主位的請求で、予備的に債務不履行による損害賠償請求もなされているが、不告知教唆は保険会社と保険代理店間における代理店委託契約に違反する行為であり、債務不履行責任も成立すると思われる。
(不法行為責任が主位的なのは、不法行為に基づく損害賠償請求の場合においては、弁護士費用(損害の1割分)の請求が認められるためである。)
そして、争点(3)損害額 については、
として、Xの請求どおりの金額が認容されている。
4.最後に
損害賠償請求の求償(保険業法第283条4項)の事例も含め、保険会社から保険代理店に対する請求した事案の裁判例は珍しいため、取り上げた。
結論として、不告知教唆が明らかな事案で、保険代理店が保険会社に対して損害賠償責任を負うのはやむを得ないと思われる。
ただ、本件においては、保険会社は単に保険金相当額のみ損害として賠償請求をしており、保険契約の保険代理店手数料までは賠償請求をしていないこと(既にペナルティとして保険代理店が負担している?)、保険代理店から保険料相当額の損益相殺の主張(保険会社は保険手数料収入を得ており、損害額から控除されるべきという主張)がなされていないなど、もう少し争って判断をしてもらいたかったというのが外野の意見ではある。
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