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山崎元さんとのケンカ ~病理医と臨床医

二十四節気:小暑 七十二候:鷹乃学習(末候)

今年の1月、経済評論家の山崎元さんが亡くなりました。山崎さんは資産運用の分野で、多くの有益なアドバイスを提供しました。菩薩も山崎さんの考えを大いに参考にさせてもらいました。保険に対して否定的な山崎さんとは、Twitter上けんかしたこともあります。彼との議論を通して、菩薩はあることに気づきました。


▶「ほったからかし投資」の山崎元さん

経済評論家の山崎元(やまざき・はじめ)さんが、2024年1月1日に亡くなりました。山崎さんは、ご自身のお仕事の経験をもとに、個人が資産運用するにあたって有益なアドバイスをしてきました。本もたくさん出版されています。資産運用の分野において、山崎さんのいちばんの功績は、「ほったらかし投資」という言葉を広めたことだと私は思います。
 
「ほったらかし投資」とは、資産運用でお金を増やしたいなら、手数料の安い投資信託を買って、売り買いはせずに、ずっと持ち続けるのがベストという考え方です。たしかに、これが実際にできるのであれば、最も有効な投資方法と言ってよいと思います。
 
山崎元さんのWikipediaはこちら
https://x.gd/A4oxz 

▶本をけちょんけちょんにけなされる

菩薩は以前から山崎さんの本や記事を読ませていただき、その合理的な考え方を大いに参考にしていました。山崎さんの考え方に自分なりの考え方をプラスして、お客様に提案しました。結果として、2008年のリーマンショック発生時には、損失を被るどころか、資産を大きく増やすお客様が多数いらっしゃいました。
 
2009年にその経緯をまとめて、「預金。やめた。」という本を出版しました(ダイヤモンド社)。

この本は、机上の空論ではなく、実際にお客様が成果を出した方法を紹介しています。その具体的な方法は、別の機会にじっくり説明しますが、「暴落を予想した」といったものではありません。予想はしなくても、変化に対応する「しくみ」があれば、値下がりもこわくないというのが、この本のポイントです。
 
この本を書くにあたっては、山崎さんの考えを参考にさせていただいたので、感謝の意味を込めて、山崎さんに「預金、やめた。」を送らせてもらいました。
 
山崎さんの反応はというと...
けちょんけちょん、でした(涙)

▶山崎さんの主張

山崎さんは「保険ぎらい」で有名です(かつて保険会社にお勤めだったのですが)。Wikipediaの「保険商品に関するアドバイス」の項目には、次のような記載があります。
 
①貯蓄性の生命保険(外貨建ての終身保険など)のように実質的な手数料が明示されていないものや、自分で調べなければわからないものに関しては、「すべて」ダメだと考えていいと警鐘を鳴らしている。
 
②近年よく売られている外貨建ての生命保険など、すべて検討に値しない商品だと考えていいと述べている。手数料を知らずに商品を買うのは、控除率を知らずに馬券を買うくらい愚かなことであり、理性のある人間がすることではないと警鐘を鳴らしている。
 
③民間生保の「がん保険」は不要である。自分が将来がんに罹る確率と、どのくらいの出費が生じるかの推測と、これと保険料の負担の得失を考えると、加入者にとって損である。自身が癌になっても、結論は変わらない。保険料を毎月払うよりも、預金なり積立投資なりで蓄えたほうが合理的である。
 
なかなかの物言いですね。歯切れがよくて、いいですね。山崎さんの見解に関して、菩薩の意見はというと、①については「おおむね賛成」、②は「かなり賛成」、③は「大反対」といったところです。
 
山崎さんは、保険をすべて否定している訳ではなさそうです。それでも、③にあるように、保険料を毎月払うより、預金や積立投資で備えたほうが合理的というのであれば、保険はいらないという結論になります。ある程度長生きすることが分かっているなら、保険はコストがかかる分、預金や積立投資に劣ります。しかし、長生きするかどうかはわかりません。だから、人は保険に入ります。確率が低いということと、絶対に起きないということは違います。
 
山崎さんの主張は合理性が売り物で、そこが大きな強みです。ただ、山崎さんは実際にお客様と向き合った経験はあまりないのではと思います。ひとりひとりの人生にしっかり向き合うという観点で、山崎さんの主張はちょっと深みが足りないという印象を受けます(歯切れはいいですが)。
 
参考までに、私が書いた次の記事もお読みください。

 ▶山崎さんとのケンカを通して気づいたこと

山崎さんと私には共通する部分も多いものの、大きな違いもあります(特に保険に対する見解)。その結果、Twitter(現 X)上で、おおげんかになりました。お互い自分の主張に自信があるので、議論はどこまでいっても平行線です。正直、かなりむかついたので、Twitterの画面を見るのが嫌になり、フェードアウトしました。これは、菩薩の黒歴史です。
 
少し時間が経ってから、そのときのやりとりを思い返してみると、あることに気づきました。山崎さんと私のどちらかが正しいという訳ではなく、実際はどちらとも正しいのだということにです。
 
二人の間の違いは、「役割の違い」から生じていたのです。医者の例で説明します(下図)。 

病理医と臨床医

医者には2種類の医者がいます。「病理医」と「臨床医」です。「病理医」は、患者さんと直接接することはなく、組織や細胞を観察して病気の診断をすることが役割です。「臨床医」の役割は、患者さんと直接接して、病気を治すことです。
 
医者に2種類の医者があるように、お金の専門家にも2種類あります。ひとつは、山崎さんのように理論的にお金についてお話をされる専門家です。図では「お金の専門家=FP」として、「病理のFP」としています。それに対して、私のように実際にお客様と接する専門家もいます。こちらは「臨床のFP」です。「臨床のFP」の役割は、理論を参考にしつつ、お客様の願いを実現させることです。
 
両者の違いについて、もう少し説明します。また医者の例になりますが、「全身麻酔」はどうして効くのかご存じですか?実は完全にはわかっていないらしいです。もし、なぜ効くのかが100%わかるまで麻酔は使わないということであれば、手術できない患者がたくさんいることでしょう。理論的に麻酔を研究することは続ける必要はありますが、完全にわかるまで使わないということはありえません。患者さんが実際に助かるのであれば、麻酔は使うべきでしょう。
 
お金の世界でも同じことがいえます。理論的に正しいといっても、実際にお客様が不安を感じたり、実行できなかったりしたら、意味がありません。私たち「臨床のFP」の役割は、山崎さんのような「病理のFP」が主張する理論を参考にしながら、お客様の実際の行動を手助けすることです。人間は合理性だけでは動きません。人間は「感情」に従う動物だからです。その「感情」の部分までをくみ取るのが、「臨床のFP」である私たちの役割だと思います。
 
「病理医」と「臨床医」というかたちで頭の中を整理したおかげで、すっきりしました。山崎さんのおっしゃることも、スーッと頭に入るようになりました(以前はむかついていましたが・笑)。山崎さんがこれまで残してくださったことを参考にして、目の前のお客様の願いがかなえられるよう、引き続き精進していきたいと思います。 

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