対人援助職として患者に寄り添う医療とは?-関わりをとおして見えてくる医療者と患者の世界-【#在宅医療研究会オンライン|9月度開催レポート】
毎月オンラインで開催している「在宅医療研究会オンライン」、8月度のレポートをお届けします。
講演:対人援助職として患者に寄り添う医療とは?-医師と患者の両方の視点から-
演者:小田瞳先生(日本外科学会専門医、日本内分泌・甲状腺外科学会専門医、日本甲状腺学会認定専門医)
常に多忙な業務に追われる医療現場、そこに訪れた『コロナ禍』―。先が読めない社会情勢で医療体制が日々変化していく中で、医療従事者や対人援助職と患者との良質な人間関係が求められています。そんな中で今回は、医師と患者の立場の両方を経験している小田先生から、「対人援助職として、どのようにして患者に寄り添っていくべきか?」について話していただきました。
小田先生略歴
・医師(日本外科学会専門医、日本内分泌・甲状腺外科学会専門医、日本甲状腺学会認定専門医)
・重度障害者(身体障害者1級)
・分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」パイロット
・健康相談アドバイザー
小田先生は、早稲田大学人間科学部に進学後、愛媛大学医学部へ編入し2009年に医師免許を取得。ご自身が甲状腺の病気となり手術を受けたことをきっかけに、甲状腺外科医の道に進み、専門医を取得。その後、2019年に神経難病である多発性硬化症・重症筋無力症を発症しました。
生命活動にとって重要な中枢神経系が脱髄(神経の線がむき出しになる状態)し、神経の脱髄部位によって視力障害・運動障害・感覚障害・認知症・排尿障害など様々な症状が起こる多発性硬化症。末梢神経から神経筋接合部において、筋肉側の神経受容体の働きが阻害され筋力低下などが進行する自己免疫疾患・重症筋無力症。
ご自身の子供が生まれて1歳半だったという時期に、日常生活が大きく阻害される疾患を発症。悩み葛藤した小田先生ですが、現在は「これも自分の人生」「何か楽しいことはないか」と前向きに捉えて日々を模索し、その重度障害者という「特性」を活かして人生を楽しみ、絶えず夢を持って実現し続けることを目標に、日々の仕事や生活を楽しんでいます。
分身ロボットを通した活動「オリヒメ母さん」
小田先生は現在、大阪府吹田市の「みんなの保健室」にて分身ロボット「OriHime」を用い、通称「オリヒメ母さん」として健康相談アドバイザーとして活動しています。
OriHime(オリヒメ)とは
子育てや単身赴任、入院など距離や身体的問題によって行きたいところに行けない人のもう一つの身体、それが「OriHime」です。「誰かの役に立つことをあきらめない」「寝たきりで声を失っても会話できる」「今の自分に合った働き方ができる」OriHimeは、距離も障害も昨日までの常識も乗り越えるための分身ロボットです。
(オリィ研究所HP「OriHime」紹介ページより引用)
OriHimeは遠隔操作を通し、本人に代わってうなづいてくれたり、拍手してくれたり、大阪特有の「なんでやねん」とツッコミをすることも可能だそう。小田先生は、見たい方向や風景をOriHimeの目を通して見ながら、距離・障害・時間を越えて働きつづけています。
障害を持ったことで苦労したこと
<行政とのやりとり>
「本当は戦う相手ではないんですけどね」と明るい声で前置きをしながらも、行政とのやりとりを“戦い”に例え、その苦労を話してくれた小田先生。
特殊な車椅子の使用許可など、生活に必要な申請をするために、懇願書や申請書などの書面を何度も準備し、何度もやりとりを行われました。自分も行政側の事情を知らない、相手(行政側)も自分のことを知らない――。そんな状況下で、お互いの理解がなかなか進まないことに苦労したそうですが、回を重ねるごとにやりとりがうまくいくようになり、お互いに腰を据えて話すことや理解を深めていくことの大切さを感じたそうです。
障害を持ってから支えになったこと
<患者同士の支え合い>
体幹障害や両下肢麻痺が現れ、どこにいっても原因や病名の診断がつかず、路頭に迷っていた小田先生は、あるとき朝起きると首から下が動かなくなり起きられなくなります。そして入院し、原因が分からぬまま動かない身体に悩み鬱々とした気持ちで日々を過ごす中、救いになったのは患者同士のつながり。骨折などをして同病院に入院していた患者たちが、話し相手になってくれたり、のちに車椅子を押して散歩に連れ出してくれたりと、大きな支えになったそうです。
<医療者たちの協力・さまざまな人との縁>
どんな検査をしても「原因不明」。そんな中で、以前に股関節の疾患で手術を受けた病院の医師やリハビリスタッフたちが協力してくれて、関西のすべての病院にコンタクトを取ってくれたそうです。ですが、診断がつかないために受け入れてくれる病院がなかなか見つかりません。そんな中で転機になったのは、患者仲間からのつながりで、世界で仕事し活躍している人と出会ったとき。「世界は広い。日本の論文だけではなく、英文も見てみてはどうか」と助言や激励を受け、調べていく中で現在の東京都内の病院を見つけ、診断に至ったそうです。現在も症状は進行しているものの、診断がつき治療を受けながら明るく楽しい日々を過ごされているそうです。
<重度障害者同士のつながり>
診断がついて治療が落ち着いた頃、今後の生活・子供と生活する道を考え始めた小田先生ですが、障害者の生活についてはまったくの初心者で、何からやっていけばいいのか分かりませんでした。そんな中で小田先生の“家庭教師”となったのが、同じ病室に入院していた重度障害の患者。「ヘルパーがいれば、子供も一緒に、普通に地域で暮らせるから大丈夫」と励ましてくれ、難病申請・身体障害者手帳の申請の手順などを教えてくれたそうです。教えを受けながら書類を作成し、月724時間のヘルパー利用の申請に至り、在宅生活を送れるようになりました。
患者の立場になったことで医療者に対して感じたこと
医師だった自分が患者・障害者となったことで小田先生が感じたことは「患者が抱えている不安が、医療者には伝わっていない」ということ。医療者は治療を進めること(身体の治療をすること)を重視し「治療することで患者を良くしたい」と考えていることが多く、一方の患者は心の不安を抱えていて、精神面の支えを必要としています。また「精神ケアは精神科」というイメージも持たれがちです。「身体介助が多い職種は、身体ケアに重きを置くあまり、患者の気持ちを置き去りにしてしまうこともあるのではないか」「一歩立ち止まって、患者さんとゆっくり話す時間をつくってみてほしい」小田先生はご自身の医師としての経験も顧みながらそう語っていました。
また、「対人援助を受けるなかで、感心したことは何か?」の質問に対し、小田先生から「知識や技術にも抜かりがなかったこと」と回答がありました。対人援助職として患者に接するうえでは、心のケアや寄り添う姿勢も必要ですが、専門的な知識や技術も必要で、どちらも軽視できない重要な要素です。患者を総合的に見て関わっていく知識・技術・姿勢が大切です。
小田先生は、深刻な身体の症状があったにもかかわらず診断名がつかず、「答えや支えが欲しいのに見つからない」「どんな支援を受けられるのか分からない、必要な援助の判断ができない」と悩んだ時期がありました。小田先生のケースに限らず、同じような境遇を強いられ、悩みを抱える患者は少なくありません。だからこそ、これから心のケアや寄り添う姿勢に加えて、専門的な知識をもって対応できる対人援助職が増えていくことで、双方の理想的な姿や良質な人間関係へと近づいていくのではないでしょうか。
終わりに~コロナフレイルと人とのつながり~
小田先生は、オリヒメ母さんとしてフレイルについての講義などを行っており、講演の結びに「コロナフレイル」について語ってくれました。
フレイルとは、「身体的問題(筋力の低下、動作の俊敏性低下、転倒リスク増加)、精神・心理的問題(認知機能障害、うつ)、社会的問題(独居、経済的困窮)が複合的に密接し、健康と要介護のはざまの状態(=虚弱・老化)にある」こと。これが、新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、感染予防のために外出を控えることで体を動かす機会が減り、人との交流が少なくなることで、健康への影響がより心配されるようになりました。
フレイル予防の重要なポイントは、人とのつながり。誰かと一緒に食事をすることで、3年後のうつリスクが、男性は2.7倍・女性は1.4倍減少するというデータもあるそうです。ですが、コロナ禍で会食をすることや集うことが困難な状況の中で、どのような形でそういった人とのつながりを保つかが課題になっています。
コロナ渦で検診や病院へ行く機会が減り、早期に重大な病気が見つけられなかったという事態が、小田先生(オリヒメ母さん)の周りでも発生しているそうです。「もっと早くに相談を受けて、早くに病院受診ができていれば防げた可能性がある」と辛さや悔しさを感じることもあるそうです。「フレイルを疑ったら、まずは大きな病気がないか病院で調べましょう!」と小田先生は訴えかけていました。
壮絶な人生を送りながらも常に明るさと希望を忘れず、逆境を活かして社会に貢献し続ける小田先生。辛い闘病生活を乗り越えてきたからこそ、今後の対人援助職に必要とされる課題を見い出すことができ、それが現在の活動へとつながっています。
常に人の命に携わる医療者・対人援助職は、患者の身体的なケアを重視してしまうこともありますが、患者は心のケアも強く求めています。人対人としてケアに携わるうえでは、身体的ケアも精神的ケアも忘れてはならない大切な要素です。心に寄り添う関わりや姿勢と、専門的な知識や技術、それらが合わさって総合的なケアができることで、患者の不安の軽減につながり、よりよい患者との関係や良質なケアが生まれていくのではないでしょうか。
心を持つ「人対人」との関わりの中で、身体と心の両方の「援助」に努めること。それが両者の関係や、対人援助職の将来をより豊かにしていくのではないか―。そんな未来が想像できる講義となりました。
小田先生、ありがとうございました。
ホウカンTOKYOの夕べ(講義上映)のご案内
現在、オンライン開催となっている「在宅医療研究会」ですが、ホウカンTOKYO杉並・中野では、“ホウカンTOKYOの夕べ”として少人数での講義の上映会を開催しています。研究会当日にリアルタイムで、大きな画面で講義を見ることができます。感染対策にも配慮しながら行っていますので、近隣でご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
主催:ホウカンTOKYO杉並・中野(事業所名:ホウカンTOKYO本部)
■連絡先
TEL:03-5913-7299
FAX:050-3156-2824
■所在地
〒166-0012 東京都杉並区和田3-32-9
(丸ノ内線 東高円寺駅より徒歩約3分)
■Webサイト
https://hokantokyo.jp
今後の開催予定
今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。お気軽にお越しください。
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