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『これでいいの???オジサン救急医が答える在宅医療のQ&A PART2』【#在宅医療研究会 オンライン|6月度開催レポート】

24回目になる在宅医療研究会オンライン。この研究会は、毎月1回実施していますので、今回でちょうどまる2年が経過したことになります。新型コロナウイルスのなか感染が拡大し、対面の勉強会が軒並み中止になる、恐る恐る始めたこのオンライン研究会には、これまで延5,000人を超える方々にご参加いただくことができまして、良い学びの機会となっています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

今回は、国際医療福祉大学救急医学主任教授の志賀隆先生に、2020年12月に続けて2回目のご講義をお願いしています。志賀先生は、千葉大学医学部をご卒業された後、アメリカのメイヨークリニックやハーバード大学など、世界でも一流の施設で救急医学の研鑽を積まれた、日本における救急医療のパイオニアとなる先生です。

今回は、事前に志賀先生へ質問をお送りさせていただきまして、それにお答えいただく形で講義を進めさせていただきました。


Q1.訪問時に意識レベルが低下し、酸素飽和度も60%程度まで下がっている患者さんがいた場合、在宅酸素の使用の有無での対応の違い、また利用者の基礎疾患による注意点など教えてください。

A1.意識障害を伴う低酸素⾎症の場合には、多くは急性で、かつ重度の低酸素⾎症をきたしています。そのため、心配されることが多いCO2ナルコーシス(慢性的にCO2が貯留している基礎疾患の方に酸素を投与すると呼吸が止まってしまうこと)は気にせず、⾼流量の酸素を投与しても構いません。
在宅酸素を使用しておられる方であれば、在宅酸素の流量をあげます。一般的には鼻からの投与であれば4L/分まで、状況によって最高10L/分まで、短期間であれば上げてしまって構いません。そして救急⾞を呼んで下さい。
なお、バッグバルブマスクの経験があって物品があれば、補助換気もご検討ください。

Q2.普段から⾼⾎圧で降圧剤を内服している方を訪問した時に、収縮期⾎圧が200mmHgを超えていました。昇圧に伴う⾃覚症状はありませんが、受診を勧めようにも⾎圧が⾼いのであまり動かしたくはありません。対応はどうするべきでしょうか?また、救急⾞を呼ぶべき基準はどこにあるでしょうか?

A2.⾃覚症状のない⾼⾎圧の方は、基本的に安静にして血圧を再検していただき、下がっていれば翌⽇受診で⼤丈夫です。ただし血圧が220/110以上の状態が続けば、脳出血などを発症する危険性もあるため、受診を検討することが多いのではないかと思います。
救急⾞を呼ぶ基準は、「⾼⾎圧+⾃覚症状のある場合」で良いと思います。

Q3.膀胱炎の診断後、抗菌薬を内服中の⽅です。訪問時に腰部から臀部にかけての痛みがでていましたが、尿路感染からくる内臓系の痛みなのか、筋⾻格系の痛みなのか、在宅では判断が難しいことがあります。今回は訪問医に相談して、腰痛として経過観察となりましたが、似たような状況の時に看護師がみるべきポイントを知りたいです。

A3.整形的な痛みの特徴は、体動で変化することです。内臓系の痛みは、体動の影響はあまりありません。
またもし尿路結石や腎盂腎炎などの腎臓系の痛みであれば、CVA(腰椎の脇)の叩打痛が認められることがあります。したがって、もし膀胱炎の方が熱を出し、CVAの叩打痛があれば、腎盂腎炎を起こしている可能性があり、入院が必要となる可能性もあるかと思います。

Q4.独居で⽣活をされている利⽤者で、もし訪問時何かしらの理由で亡くなられていた時の対応と流れを教えて頂きたいです

A4.継続した診療のなかで亡くなられたとき、病死することが予想できた方の場合、医師は死亡診断書・検案書を書くことができます。
しかし継続して診療していない方の場合、死因が予見できなかったものである場合、あるいは今回のように訪問したら突然亡くなっておられたような場合は、事件性の可能性を考える必要が出てきます。
これは利⽤者の⽅の主治医、そして警察に連絡を取ることになるかと思います。
もし主治医が診断書、検案書を発⾏できるのであればベストです。同時に外因死ではない、という判断も必要ですので、所轄警察への連絡が⼀般的だと思います。なお事件の可能性がある場合、病死あるいは自然死ではない可能性がある場合、医師は所轄警察に連絡することが、医師法のなかで定められています。

Q5.訪問前に転倒して頭部を打った場合。意識レベルの低下や、神経症状、腫れなどがなければ、バイタルサインに注意してリハビリの介⼊をしてもいいかどうか。その他注意点を教えてください。

A5.多くの場合、転倒した方は転倒した後も元気にしている方が多いかと思います。複数の研究結果によると、頭を打ったあと、意識レベルの低下がなく、けいれんもなく、元気にしておられる方に、緊急手術が必要となるような問題が頭のなかに起こっている可能性は、極めて低いことがわかっています。
しかし、手術が必要にならないけれど、画像を撮ると出血していることがあります。
例えば65歳以上の⾼齢の⽅である、心房細動の既往やステントを留置しているなどの理由があって抗血小板薬を飲んでいる方たちは、出血のリスクが高くなるので、画像検査の適応と考えて良いと思います。実際のところ、手術が必要にならない程度の脳出血の発見が遅れたとしても、リハビリやその後の生活には影響は与えません。しかし日本は安全・安心に対する意識が高い国でもありますので、手術を必要としない程度の出血も、できる限り受傷直後に見つけるようにする方が良いのかもしれません。
リハビリについては、画像検査の適応になっていなければ介入しても良いと思います。神経疾患などで転倒時の外傷の危険性が高い場合には、画像検査後にリハビリをするほうが良いと思います。
なお転倒後の診察では、頸部や脊椎の診察も重要です。

Q6.意識障害の方に関する質問です。
慢性腎不全、透析を週に3回している⽅です。家族より、ベッドでおにぎりを食べていたが、そのまま寝てしまい起きない、と報告がありました。JCSは2桁、すぐ閉眼してしまいます。バイタルサインには変わりなく、対光反射はあり。糖尿病はありません。
主治医(透析クリニック)に連絡したところ、連れて来られないなら、救急車を要請するように指⽰がありました。救急隊が到着すると、JCSは1桁へ回復。病院に着く頃にはさらに回復しており、精査しましたが原因分からず、加療なしで退院になっています。この場合、主治医に連絡する前に救急要請した方が良かったのでしょうか?病院を受診する可能性はあるでしょうか?


A6.訪問診療の現場では、できることが限られています。目の前に意識障害の方がおられる場合、今の日本では訪問診療の場で解決するよりは、救急車を呼ぶことが適切だと考えています。
●すぐに救急要請した⽅が良かったか?
開眼して会話ができるのであれば、往診医の判断を仰いでもよいのではないかと思います。
●病院受診の可能性は?
⾼いと思います。やはり、⾎糖、電解質、脳卒中、感染症など複数の疾患の可能性があるので、診察だけで終了することは難しいと思います。

Q7.慢性⼼不全の利⽤者様で、前回訪問時より浮腫が増強、不整脈あり。呼吸苦も増強しており、臥位で呼吸苦があるため、あまり眠れていない。このような状況の場合の対応⽅法を教えて頂ければと思います。


A7.体位は座位をとることが大切です。息が苦しいひとは横にしない、が原則です。
過去、私が直接診療した方に呼吸が苦しくなり、入院していただいたCOPDの患者さんがおられます。このときトイレに行く負担を軽減するため、横になっていただいて看護師が尿道カテーテルを挿入していたのですが、10分ほどの処置の間に心肺停止になってしまったことがあります。これは臥位になったことが原因でした。
また浮腫や呼吸困難が悪化したのであれば、救急搬送の適応と考えます。酸素飽和度が保たれていても⼼不全が悪化することはよくあります。
Q8.81歳⼥性プリオン病で要介護5の方に関する質問です。
全⾝の硬直があり、ミオクローヌスが頻繁に出現する方です。最近は、けいれんのようなものがたびたび出現することもありました。この方のために⼿作りした、持続吸引チューブの先についていたスポンジブラシの先端部分が、何かをきっかけに外れて誤飲してしまいました。連絡を受けた際、「スポンジが外れてしまった。さっきまで唇が⻘かったが今は普通の⾊になっている。咳を繰り返している。SpO2は85%」との情報を聴取しています。
チアノーゼが短時間で改善していることから、気道はかろうじて開通しているのではないかと判断し、救急⾞ではなく、すぐに医師に連絡するように指⽰しました。在宅酸素の設備がありましたが、酸素投与を開始する指⽰はしませんでした。医師の往診を依頼したところ、15分後に到着し、その後救急⾞で病院に搬送されました。搬送後の検査で、気道にスポンジはなく、⾷道に入ったことが確認されました。

A8.今回の事例は、咳き込みやチアノーゼがあったことから、気道の部分閉塞は起こっていた可能性が高いと考えられます。
●どのような情報を聞き取り、どのような対応が望ましかったのでしょうか?
ストライダー(吸気時の喘鳴)、頻呼吸、頻繁な咳がある、酸素飽和度が低い
これらがあれば、救急車を呼ぶべきです。
●窒息の可能性が少しでもあったらすぐに救急⾞を呼ぶべきでしょうか?
はい。お願い致します。また同時にハイムリッヒ法や背部叩打をぜひお願い致します。
本症例は上気道閉塞があったものが、移動して⾷道に飲み込まれたのだと思います。危機⼀髪だったのだろうと思いました。

Q9.介護事業者の方からの質問です。
【事例】
利⽤者像:男性88歳/集合住宅独居/要⽀援1
既往歴:不明(情報収集できず)
徐々に歩⾏の不安定さが増し、特に外出時のリスクが⾼まったため週2回の訪問介護(掃除と買物⾏)が介⼊しています。夏場、脱⽔症が原因となって路上転倒し、救急搬送された事例です。
【経過】
原因不明の(既往歴などなし)急な膝痛から室内移動が困難となりベッドから離床できなくなりました。徐々にADLが低下し介護者の介助のもと、なんとか座位を保持し、補⽔できる程度の状態にまで陥っています。摂⾷はヨーグルトやゼリーなど流動⾷を⾟うじて食べることができる状態。翌週も状態の回復が⾒られないため、レスパイト⼊院をケアマネージャーへ進⾔しました。ただし医師の後押しがあった⽅が確実性は⾼まると判断し、訪問診療の機会を待ちました。
翌々⽇の診察の結果、「検査の必要性あり」とのことでレスパイト⼊院ができるが、その夜急変し、翌⽇逝去となりました。※直接の死因については確認とれていません。
【お悩み】
本来は緊急で訪問介護の増回が必要な状態でしたが、要⽀援1ということで週2回が最⼤でした。⼀応ただちに区変申請をしましたが直近半年の間に2回却下されたこともあり、介護度があがることを⾒込んでの増回は、⾃費対応の可能性、つまり経済的的負担を考えると、躊躇してしまいます。そのためケアマネやリハビリさんの対応でしのぎました。早い段階で救急搬送も考えましたが、依頼をかけても搬送されない可能性もあり⾒送りました。制度下にあって最⼤限の対応を行ったと考えてはいますが、最終的な結果を受け、その判断が正しかったのか悔やまれます。ご⾒解を伺えれば幸いです。

A9.とてもむずかしい症例のご対応、ありがとうございます
私も同じように対応したのではないかと思います。病院では、このような「救急搬送≒社会的⼊院」というような事例にも対応しています。
悩むときは、遠⽅への搬送となってしまうこともありますが、救急⾞を呼んでも良いかもしれません。
Bio-Psycho-Socialモデル(生物・心理・社会モデル:BPSモデル)という考え方があります。これは、患者さんを生物学的な面と心理学的な面、そして社会的な面という3つの側面から包括的に考えるというモデルです。しかし、現在の医学、特に医学部の教育は、バイオ、つまり生物学的な面で患者さんを捉えることに偏ってしまっていて、そのほかの側面で患者さんを考えることが疎かになってしまっています。病気があると診療はできるけど、社会的なところの理解が弱い、ということがあります。
またどうしても患者さんを送るもとがクリニック、訪問診療であり、送る先は病院になります。送る先がバイオに偏ってしまっているので、はっきりした「病気」がないと、受けてもらいにくい傾向があります。
私自身が働く施設でも多くの患者さんを受けいれていますが、受ける負担が強いことがあります。というのも、患者さんの病気や臓器が決まっていると入院を受け入れてもらう診療科が決まりやすいのですが、はっきりとした病気がない方の場合、なかなか受け入れ先が決まらず、救急科である自分たちが抱えてしまうことになる。そういった方は転院先も見つからず、悩ましいです。

ここからは、ライブでご参加くださった方々からいただいた質問です。

Q.訪問看護ステーションに勤務する看護師からの、在宅でのCVポートの管理についての質問です。最近は逆血確認をしないこともあると聞きましたが、在宅の場合はいかがですか?がんのターミナルの患者さんですが、予後を考えて逆血を確認していました。

A.やらないという人がいてもいいかもしれませんが、逆血がないと不安ですよね。ただ逆流防止弁がついているようなポートであれば、むしろ逆血を確認しない方が良いようです。したがって、もともとどのようなポートが入っているかの確認はした方がいいですね。
逆血はPICCラインだと不要なのか?・・しなくても良いのではないかと思います。自分はあまりしないのですが、中心静脈カテーテルも毎回確認するわけではないので、絶対しないといけないわけではないかと思います。また挿入した時の状況がわかっているPICCは、もともと逆血があったのかどうかがわかるのでいいですが、情報がない場合は、先端が血管の外にある場合もあり、逆血がない場合は慎重に対応した方が良いのではないかと思います。

Q.軽度の麻痺のある小児の方が、スナック菓子を食べた後からむせてしまい、その後も泣きつづけているとのこと。でもSpO2の低下はなく、10分後に改めて確認したところ、落ち着いてお茶も飲めるようになったとのことです。このまま様子をみても問題はなかったのでしょうか?

A.この経過であれば大丈夫です。気道に異物がある場合は、咳が止まらないことが一般的です。ときに気道閉塞の程度が強いと酸素濃度が下がることもあります。ただ、酸素濃度が下がっていなくても、気道が閉塞されかけていることはあるので、やはり咳嗽と注意深い観察が必要になります。今回の対応は、素晴らしかったと思います。

Q.間質性肺炎の既往のある方で、慢性呼吸不全の状態です。普段は予約以外の主治医の受診を控えておられますが、どのようなときに受診を促すべきでしょうか?

A.このような方は、感染に弱い状態におられますので、発熱、普段に比べて酸素飽和度が低い、普段より呼吸数が多い、心拍数が普段より多い、血圧が普段より低い、また痰の量が増えた、色がついてきた、などが受診を促すタイミングではないでしょうか?
ご本人がご自身の症状などの記録をつけていることもあるので、その記録が悪い方向に向かっている場合は受診をお勧めするのがよいでしょう。ただ突然悪化して亡くなることもあります。受診のタイミングを判断することは、なかなか難しいかもしれません。でももし受診して何もなければ、「よかったですね」で済ませられますが、悪くなっているのに受診を控えてしまい、もしお亡くなりになるようなことがあれば、後悔します。受診に対しては、あまり慎重にならない方が良いと思います。
Q.気管カニューレが外れた時の対応はどうすれば良いでしょうか?

A.再び挿入するしかありませんが、これは医行為になるので、看護師が挿入することはダメかもしれませんね。バッグバルブマスクはしても構わないはずですので、主治医に連絡をし、換気をしながら主治医の指示を仰ぐのが良いのではないでしょうか。

Q.91歳の女性、月一回の往診。慢性気管支拡張症の既往あり。2ヶ月ほど前から98%あった酸素飽和度が93〜5%にベースが下がり、痰が増え、夜間苦しそうとの家族の訴えがありました。しかし往診医は年齢のこともあり、なにもできないとのこと。ある夜、発熱し、苦しそうとのことで家族が救急要請しています。結局搬送先の病院で肺炎として入院となりました。主治医に何もできないと言われ、積極的に受診を勧めることができませんでしたが、痰が増えて苦しそうになった時点で、大きな病院に受診を勧めた方がよかったのでしょうか?

A.苦しくなったその晩に、大きな病院に送っても問題ないし、翌日になって送っても結果的には問題なかったのではないかと思います。肺炎そのものは、主治医に話をした時から始まっていた可能性が高いと思います。ただ状況からすると、翌朝まで待ったとしても大きな問題にはならなかっただろうと思います。
夜間に病院に送ると、大きい病院しか受けることができないので、入院先が遠方になってしまう可能性があります。そのため少し待って昼間に行けば、近くの病院に行くことができるので、その方が良いかもしれない。この天秤の上で考えても良いでしょう。

Q.最近クラビットの点滴を1時間で行うように指示されたことがあります。訪問看護では30分以上かけて点滴することが難しいのですが、30分未満でクラビットを投与することで起こりうる副作用について教えてください。

A.それほど変わらないのではないかと思います。バンコマイシンは、急速に投与するとヒスタミンの遊離によるレッドマン症候群を起こすので、きっちり時間を守る必要がありますが、それ以外の抗菌薬は1時間内で投与しないといけないことはないのではないかと思います。薬の本を確認してみたところ、不整脈を起こしやすくする可能性はあるかもしれませんが、1時間を30分に投与時間を変えても、何も変わらないのではないかと思います。オーダーする側が、訪問看護の30分の縛りを理解していない可能性があるので、よく相談するのが良いのではないでしょうか?


今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。https://note.com/hokantokyo_study/m/m379b5331b401

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