『入退院支援の機能と最新の取り組み〜在宅の情報が持つ力とは?〜』【#在宅医療研究会 オンライン|2月度開催レポート】
本日は、「入退院支援の機能と最新の取り組み〜在宅の情報が持つ力とは?」とのタイトルでお話しいただきます。
講師は東京女子医科大学病院の医療連携・入退院支援部入退院支援室で入退院支援を専任でされている看護師の大塚祐輔先生です。
入退院支援は、在宅医療を行う上でとても大切な活動です。これは一方向の情報のやり取りではなく、在宅から病院、そして病院から在宅へと、双方向に情報のやりとりをすることを意味します。
それでは大塚先生、よろしくお願いします。
皆さま、よろしくお願いします。
本日は「入退院支援の機能と最新の取り組み〜在宅の情報が持つ力とは?」とのタイトルでお話をさせていただきます、大塚と申します。
まず簡単に自己紹介をさせていただきます。わたしは生まれが北海道で、函館で育ちました。看護学校を卒業後、臨床の経験を積むために東京女子医科大学病院の救急外来で仕事をしました。その後地元の北海道に戻り、人口1万人ほどの町で保健師として勤務します。小さい町ですので、わたしは介護保険課の行政看護師、また地域包括支援センターの保健師を兼務しました。その仕事をするうちに、人は地域の中で生まれ育ち、地域で亡くなっていきますが、入院という一瞬のライフイベントが、その方の地域での生活を大きく変えてしまう要因となり得るということに気づかされました。そして一人の方が入院を経ても、より良い人生を地域で全うすることができるように、地域と病院が連携する重要性を学びました。そこで、患者さんの入退院を支援する仕事をしたいと思い、東京女子医大病院に戻りました。
本日は、次のテーマに分けてお話しをいたします。
1. 地域包括ケアシステムにおける入院医療の役割
地域包括ケアシステムは、重度の介護が必要な状態になられても地域の中で生活していくことができるように、包括的に支援するシステムです。その中で、病院は障害の有無にかかわらず、治療を得て安心して生活に戻れるよう支援する役割を担っています。
この病院の役割は、変化しつつあります。厚労省による、第8次医療計画の資料では、医療需要の変化として入退院患者数が、全体として増加傾向にあることが挙げられています。
全国の入院患者数は増え続け、2040年にピークを迎えることが見込まれています。また65歳以上が占める割合は継続的に上昇し、2040年には入院患者の約8割となることが見込まれています。
二次医療圏によって、入院患者数が最大となる年は様々ですが、すでに2020年までに89の二次医療圏が、また2035年までには260の二次医療圏がピークを迎えることが見込まれています。
つまり病院は障害の有無にかかわらず、治療を得て安心して生活に戻れるよう支援する役割を担ってはいますが、病床数は将来徐々に減少していくことを念頭に置いておく必要があります。
ここで、少し豆知識として、病気によって「あらかじめ入院期間の目安って決まっている!?」という話しをします。
これは全国に1,700ほどあるDPC制度を導入している医療施設では、「傷病名」と入院期間中に提供される手術等の「診療行為」の組み合わせによって、1日あたりの診療報酬の額が決まる、というものです。この制度を導入していると、入院日数が長くなるほど病院の収入が減ってしまいます。結果的に、DPC算定病院の多くは、疾患ごとに定められているDPCⅡ期の退院を目指すことになります。
さて地域包括ケアシステムの話に戻りますが、地域包括ケアを目指すようになりますと、「“ほとんど”在宅、“ちょこっと”入院」という状況になります。今後は、このような考え方が主流となっていくと考えられています。
ただそうすると、入院してもすぐに退院させられるのではないか、と心配になる方がおられるかもしれません。そこで厚生労働省では、「ちょこっと入院」から安全な退院を目指す診療報酬の取り組みを行なっています。入退院支援加算です。
入退院支援加算
患者が安心・納得し退院し、早期に住み慣れた地域で療養や生活を継続できるように、施設間の連携を推進した上で、入院早期より退院困難な要因を有する患者を抽出し、入退院支援を実施することを評価するものである。
このような対応をすることで、安全な退院を実現できるようになっています。実は多くの診療報酬が削減されているなかで、この入退院支援加算は最近の診療報酬改定時に増加しています。いかに、国も力を入れている仕組みであるか、ということがわかります。
ちなみに、退院困難な要因として、次の14項目を厚生労働省が挙げています。
このような要因を早期に確認し、問題がありそうだったら早期に介入し、スムーズな退院につなげるように取り組む必要があります。
わたしの所属する東京女子医大病院では、高度医療を提供し、治療期間終了とともに、患者さんが安全・安心に療養できるようにすることを使命に日々の業務に携わっています。
3.当院の入退院支援への取り組み
当院では、入退院支援を業務とする看護師が12名、ソーシャルワーカーが8名在籍しています。
わたしたちは安全な退院を支援するため、最も厳しい基準である入退院支援加算1を算定しています。これは、
〇 全病棟に入退院支援を専従業務とする看護師を配置
〇 多職種カンファレンスで多面的に課題抽出、解決に向け連携
〇 退院に向けて地域連携
を満たす必要があります。
まずわたしたちは入院3日以内に入院患者を把握し、退院困難患者を抽出します。
入院7日以内には、退院に向けての話し合いを始めます。大切なことは、多職種でカンファレンスをすることで、退院に向けた支援を進めます。
そして退院までに専従の看護師が退院に向けた支援、地域連携を進めていきます。
また入院時支援加算1というものもあります。
この加算を得るためには入院決定時に、以下の項目の確認がされています。
· 患者情報の把握
· 社会資源の把握
· 褥瘡の評価
· 栄養状態の評価
· 服薬中の薬剤確認
· 退院困難要件の有無
· 入院時の治療・検査の説明
· 入院生活の説明
また入院前には以下のことがなされています。
· 病棟に各リスクの共有
· 介護支援専門員との連携
· 短期入院患者は、外来看護師とリスクの共有
わたしたちは入院時に、
〇 入院予定の患者全員に面談を実施
〇 社会資源利用者には介護支援専門員に全件連絡
〇 退院(療養)困難リスクを病棟・外来へ引き継ぎ
を行うことにしています。
ここでわたしたちの取り組みである、入退院支援パスについてご紹介します。
これは地域・外来から病棟、そして病棟から地域・外来の各ステップにおいて、新人からベテランまで、全看護師が統一した看護の実践を可能とする取り組みです。
まず、入院前の情報収集が重要です。
フェイズ1では、退院先の決定(入院3日以内)、退院困難な要素がないか確認をします。
フェイズ2では、退院に向けて準備を始めます。多職種連携(入院から7日ごとに評価)も重要です。
フェイズ3では、退院日を決定し、退院に向けて最終調整を行います。
この一連の流れを入退院支援パスと呼んでいますが、やはり地域の情報を大切にし、地域の方とも退院のゴールを共有する取り組みです。まさに地域なくして円滑な退院なし、と言えるのではないかと思います。
また、安全な生活への療養支援は入院患者だけではありません。
わたしたちは、入退院支援専任看護師を外来にも配置しています。外来では、約2600人/日の受診あり、患者の高齢化も進んでいます。
ここでは、外来看護師の「ちょっと心配」、という声を地域の関係者へつなぐ連携、また地域からの「困っています」という声を院内関係部署へつなぐ連携を進めるようにしています。
そのほかにも入退院支援パスの普及に加え、入退院支援リンクナース連絡会を設けています。また「いいケアつなぐ会」という企画を行い、地域の方と顔が見える関係づくりをしています。
4.事例から見る入退院支援の実際
ここでは、3つの事例をご紹介します。
いくつか事例をご紹介しましたが、実は入院前から起こっている問題が多いことがわかります。また円滑な退院には、地域の情報が鍵であることが、わたしが感じているところです。
6.皆さんの声が“カギ“!?
円滑な入退院に欠かせない地域の情報
今後、入退院を円滑に進めるためには、以下の4つの要素が欠かせないと考えています。
① 家族関係・介護力
② 経済力
③ 嚥下機能
④ 地域とのつながり
① 家族関係・介護力
欠かせない情報
〇 主介護者の健康状態・家事役割
〇 主介護者以外の家族との関係性・介護力
〇 介護することへの思い
ご自宅での健康状態や家事の役割は本人、家族を理解するために大切な情報になります。また介護に対する思いなどの情報があると、ご本人の思いに配慮した対応が可能となります。
② 経済力
欠かせない情報
〇 介護サービス費の支払い状況
〇 具体的な経済面での困り
〇 必要なサービスに対する金銭的負担での拒否
経済力に関して確認することは、なかなか難しいことです。ただ早期に情報を得ておかないと、転院していただく必要が出てきたときの転院先の選定や帰宅後のサービスに影響が出ますので、教えていただけると助かります。
③ 嚥下機能
欠かせない情報
〇 食事形態
〇 誤嚥の有無
〇 誤嚥性肺炎罹患歴の有無
〇 栄養摂取カロリー
〇 食回数
〇 嗜好(甘いものが好き・嫌い等)
嚥下機能は、わたしたちが力を入れて対応しているところです。状態に応じて絶食する必要が出てきますが、食事を再開する際、もともとの嚥下機能は本人に聞いてもわからないことがあります。そのようなとき、地域から情報をいただけると、非常に助かります。
④ 地域とのつながり
欠かせない情報
〇 本人、家族とサービス提供者の関係性(一番関係性ができている人も)
〇 病気・生活に対する本人、家族の考え、
〇 介護がさらに必要になったときの本人・家族の考え
〇 サービス提供者と定期的に話されている
わたしが最も重要視している情報です。些細な情報でも構いません。ご本人と地域のつながりがわかると、本人が最も必要とするケアを提供することが可能になります。
「人生会議」でも話題になっていたかと思います。
人生の主役はその人自身です。大切にしていることは何であるか、どういう生活を望んでいるのか、障害や生活のしづらさがあるときはどう過ごしたいかなど、地域から情報をいただけると助かります。
というのも、ご本人がゆっくり話し合えるのは、その人の日常の場です。その日常の場から得られる情報は、本人の本当の気持ちが表れているからです。
最後に、地域から外来、外来から病棟、病棟から外来、外来から地域と一連の流れで患者さんを支える、生活と医療を分断しない対応を目指しています。ひとりの命を多職種で見守る、支える、つながる、地域包括ケアシステムの目指す好循環サイクルを共に目指しましょう。
5.質疑応答
今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。
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