見出し画像

『落ち着いている在宅患者をみる際の6つのポイント』【#在宅医療研究会 オンライン|8月度開催レポート】

今回は、同善病院在宅医療センターでセンター長を務めておられる小笠原雅彦先生に、「落ち着いている在宅患者をみる際の6つのポイント」というタイトルでお話をいただきます。

1.同善会の紹介

まず同善会について、ご紹介させていただきます。
医療社団法人同善会は、136年の歴史がありますが、最初は小学校や夜間学校から始まり、保育所や助産所にも関わってきました。病院としては、最初は助産院から始めていますが、最近は在宅医療にも力を入れています。一貫して、地域から必要とされるものを提供し続けてきています。
 
在宅医療センターでは、4名の医師と3名の看護師、3名の理学療法士・作業療法士が在籍しており、MSWや事務職員とも協力し、台東区と荒川区を中心に、「全ての人に、あなたらしい人生を提供できるように」をモットーに、在宅医療を提供しています。

2.落ち着いている在宅患者をみる際の6つのポイント

今日お話しさせていただく内容は、「総合診療による在宅医療リアル実践ガイド」という本をベースに深掘りしながら、ご紹介させていただきます。
 
なぜ、落ち着いている在宅患者さんを診るポイントについてお話しするかと言いますと、落ち着いているときだからこそ、できることがあるからです。
 
まず課題解決型アプローチだけでなく、目標志向型アプローチが取れるということがあります。患者さんの抱える課題を解決することを目指す課題解決型アプローチは、落ち着いているときは「変わりないですね」だけで終わってしまうのですが、患者さんが持つ目標を実現することを目指す目標志向型アプローチは、落ち着いているからこそ一緒に考え、ともに取り組むことができる手法です。また目標志向型アプローチを取り入れると、落ち着いていることは、やることがたくさん出てきます。そして落ち着いているときの対応が良ければ、信頼関係が構築でき、有事のときのスムーズさにつながるというメリットもあります。
 
落ち着いている在宅患者をみる際の6つのポイントをあげると、次のようになります。
①  ライフビュー
②  ACP
③  ヘルスメンテナンス
④  家族介護者支援
⑤  ポリファーマシー対策
⑥  五快
 
この6つを日々の訪問診療のなかで意識していると、訪問診療の質が上がるようになります。また、これは訪問看護・訪問介護など、他の職種でも同様のことが言えるかと思います。
 
Comprehensive geriatric assessment (CGA)と呼ばれる、高齢者総合機能評価の項目を見ると、実はこの6つのポイントが網羅されていることがわかります。
 
CGAは、認知機能、うつ病、老年期にみられる転倒、排尿にまつわるトラブル、生活の質、栄養、またADLなどを網羅的に評価し、評価し続けようというものです。しかし、これらを全て評価するのは、非常に時間がかかるので、その実践は現実的ではありません。
そこで、実際は全体を小分けにして評価しています。
例えばCGA7という評価ツールでは、CGAの入り口部分だけを評価しています。意欲、認知機能(復唱)、IADL(交通機関の利用)、認知機能(遅延再生)、ADL(入浴と排泄)、情緒を評価し、このうち異常が見つかれば、次のステップでは詳しく評価を行います。
 
またs-CGAとm-CGAという評価ツールもあります。
 
s-CGAは、start-up CGAのことで、Support(公式・非公式のサポート)が得られているか, Cognition(認知機能)は問題がないか、Geriatric giants(うつ、尿失禁、転倒)はないか, ADLが保たれているかを評価します。
 
m-CGAは modified CGAのことで、Medication(薬剤)は減量できるか、Care the caregiver(介護者のケア)は適切に行われているか、Geriatric vitals:(五快である快眠、快食、快便、快動、快重(体重変化))は維持されているか、そしてAnalgesia(緩和ケア)は十分に提供されているかについて、評価します。
 
この他にも5MsやRGA (DEEP-IN)と呼ばれる、少し切り口の違う評価方法もあります。
 
こう言った評価の内容を、当院ではカルテやサマリーに工夫して記載し、日々の診療に取り入れています。
 
しかしこのような評価結果の情報を関係者間で共有するためには、人的・時間的コストがかかったり、共通するインターフェースがなかったりするなど、いくつかの課題があります。そこで当院では「みんなの伝言板」や「MedicalCare Station」「モバカルネット」というサービスを活用し、簡便に他職種間で情報を共有できるようにしています。

3. 五快

五快とは、次の5つを意味します。これを満たされていると、人間は幸せを感じるとされています。
 
それぞれ、どのような質問をすると良いか、ということも含めてご紹介します。
快眠、快食、快便、快動、快重(体重変化)
快眠:夜は眠れていますか?
快食:食欲はありますか?
快便:お通じの調子はどうですか?
快動:日中はどのように過ごされていますか?
快重:体重の変化はありませんか?
 
わたしはこのような質問を、日々の診療のなかで聞くようにしています。
 
このなかで、体重が特に大切だと考えています。体重は総合評価であり、数字は嘘をつかないからです。したがって体重は高齢者のバイタルサインのひとつと考えて良いと思っています。また体重の経過を電子カルテ上でグラフ化して、すぐに変化がわかるように工夫しています。

4. ヘルスメンテナンス

ヘルスメンテナンスとは、病気を防ぎ、最大限の機能を維持し、健康を増進するためのシステマティックなプログラムで、医療の中心を成しているもので、要は予防医療に重きを置いた考え方です。
USPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)というアメリカの予防医療に力を入れているグループのホームページでは、非常に詳しく、いろいろな情報を発信しています。このサイト(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/webview/#!/ )では、患者さんに関する情報を入力すると、どのような予防医療が推奨されるかが紹介されるようになっています。
 
これらをもとに、当院では以下のようなチェックリストを作成し、高齢者のヘルスメンテナンスをチェックするようにしています。
 
75歳以上男性であれば、
・生活習慣病:健診
・がん:検診、喫煙歴(本数x年数)、飲酒(1日あたりの飲酒量)
・うつ
・転倒
・大動脈瘤
・認知症
・難聴・視力障害
・肺炎球菌ワクチン:
・帯状疱疹ワクチン
・インフルエンザワクチン
・新型コロナワクチン
を確認します。
 
75歳以上女性であれば、
・生活習慣病:健診
・がん:検診、喫煙歴(本数x年数)、飲酒(1日あたりの飲酒量)
・うつ
・転倒
・骨粗鬆症
・認知症
・難聴・視力障害
・肺炎球菌ワクチン:
・帯状疱疹ワクチン
・インフルエンザワクチン
・新型コロナワクチン
を確認します。
 
コロナに埋もれてしまい、肺炎球菌ワクチン・帯状疱疹ワクチンにアクセスできていない人が増えていますので、ぜひ確認してみてください。
 
このような項目をチェックしつつ、がん検診やワクチン接種の重要性やそれぞれの予防効果を説明したパンフレットもお渡しして、説明をしています。
 
状態を鑑みたメンテナンスというのが大事で、同じ年齢でもベッド上で寝たきりの方と毎日ウォーキングをされるような方では、ヘルスメンテナンスの強度は変えるようにしています。明確な基準はないですが、関わっている人たちで多面的に評価していくことが重要です。

5. ライフビュー/ACP(アドバンス・ケア・プランニング)

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)と在宅医療についてですが、一般的に予後1年未満と考えたら、ACPを行った方が良い、と言われています。これはあまり早くやりすぎると現実味がないため、話し合った内容がケアに活かされないことがあるからです。ただ早く始めてはいけない、という訳ではありませんので、早くできる方は早く始めても構いません
 
在宅医療でACPに取り組むと、病院では聞けない、本人や家族の生の声を聞くことができることがあります。また家庭を訪問すると、家や身近にある物から患者さんの人生の歴史を一瞬で把握する、スナップショット的に人生を振り返ることができることもあります。
 
豊田地域医療センターのデータでは、訪問診療を開始して3か月未満で亡くなる方が全体の35%もおられました。また訪問診療を開始後の平均寿命は11か月でした。このことから、訪問診療を始める方は、全員開始するときにACPを始めることをお勧めしています。
 
在宅医療の現場は、特に効率的にかつハートフルにACPを進める必要のある環境であると考えています。
 
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の定義は、今後の治療・療養について、患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う、自発的なプロセス、と紹介されています。
 
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、患者が望めば家族や友人とともに行われるものです。話し合いの結果は記述され、定期的に見直され、ケアに関わる人々の間で共有されることが望ましいと言われています。
 
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の話し合いでは、患者本人の気がかりなことや意向、価値観や目標、病状や予後に対する理解、治療や療養に関する意向や選好、またその提供体制などが含まれ、その内容は多岐にわたります。したがって、全ての内容を網羅することは難しくなりますので、最低限患者さんが表現したいこと、その内容が関係者全員に共有されていること、これが一番大切であると考えています。
 
わたしがACPをするときに大切にしていることは、患者さんを一人の人として尊敬し、その尊厳を守ることです。この内容に興味を持たれた方は、小澤竹俊先生が書かれた「死を前にした人にあなたは何ができますか?」という本を読んでみることをお勧めいたします。
 
このなかでディグニティーセラピー(Dignity Therapy)でという言葉が出てきます。
 
このディグニティーセラピーでは、9つの質問をしています。
①  あなたの人生において、一番覚えていること、最も大切だと考えていることはどんなことですか?
②  あなた自身について、家族に知っておいて欲しいことや、家族に覚えておいて欲しいことが、何か特別にありますか?
③  (家族、職業、地域での役割など)あなたが人生において果たした役割のうち、最も大切なものはなんでしょうか?なぜそれはあなたにとって重要なのでしょうか?そして、その役割において、あなたは何を成し遂げたと思いますか?
④  あなたにとって、最も重要な達成は何でしょう?何に一番誇りを感じていますか?
⑤  あなたが愛する人たちに言っておかなければならないと感じていること、もう一度言っておきたいことがありますか?
⑥  愛する人たちに対するあなたの希望や夢は、どのようなことがありますか?
⑦  あなたが人生から学んだことで、他の人たちに伝えておきたいことはどんなことですか?
⑧  将来大切な人の役に立つように、伝えておきたいことはありますか?
⑨  この永久記録を作るにあたって、含めておきたいものが他にありますか?
 
この質問をすることで、ご本人が大切にしておられることが何であるかがよくわるようになります。
 
あとライフビューという方法では、1訪問1テーマというように5~6回に分けてヒアリングを行います。初回は児童期、その後青年期、成人、壮年期において、覚えていること、思い出されること、感じたこと、また成し遂げたことなどを中心にお話をお聞きします。最後に、人生を振り返っていただき、ご自身の人生に対して感じることをお聞きしています。ただすべてを聞くことが重要なのではなく、そのかたの人となり、価値観などをできる限り理解するように努めることが大切です。
 
ACPにおける理想像は、本人や家族の思いを実現するため、わたしたちが支援者となることです。ただ現実は、日本の死を忌み嫌う文化であったり、非現実的な内容となってしまったり、また侵襲的な話になってしまったりするため、なかなか理想通りにはいきません。
 
ただ家族や本人が信頼する医師ならば、ACPのプロセスを任せてしまっても、本人は十分に幸せに感じることがわかっています。つまり、本人が必ずしも自分で決めることが、幸せとは限らないということです。
 
また実際ACPは未来のことを話していますので、機が熟していないと感じる人も多くおられます。
ACPは、人生の1ページを描く共同作業です。相互的なコミュニケーションのなかで、すでに得ている情報も含め、進めていくのが良いでしょう。大切なことは、情報の統合とそのプロセスにあると考えています。こういった話をし続けること、みんなでシェアすること、これはみんなで種を蒔いて、育てて、花を咲かせるというイメージをしています。
 
当院では、繰り返しになりますが、カルテやサマリに工夫を加え、様々な関係者が患者さんから得られた情報を記入するようにしています。またカンファレンスを行うなかで、密に情報を共有していきます。
 
さらに他事業所連携にも取り組んでおり、また医者への情報共有のハードルを下げるために、意識してケアマネさんや訪問看護師たちに電話をし、お話を聞くようにしています。
 
今後の課題として、他事業所とのさらなるシームレスな関係を作ることがあります。その課題を解決するため、ケアノートの使い方を含めた普及活動、担当者会議への出席や施設間カンファレンスを実施するなど、顔の見える関係を作っていくことを考えています。
 

6. 総合診療・コミュニティホスピタル

コミュニティホスピタルとは、コミュニティ(地域社会)とホスピタル(病院)を掛け合わせて作られた言葉です。わたしは、このコミュニティホスピタルを作りたいと考えています。
 
Community & Community Hospital Associationによると、コミュニティホスピタルは地域医療機関との連携、病棟・外来・在宅をシームレスに繋ぐ、地域との関わりを大切にすることだとしています。
 
なおコミュニティホスピタルの役割は、
①  総合診療を中心とし、地域住民の健康管理や救急医療をはじめとする、必要な医療を提供する病院
②  充実した在宅医療体制を有し、地域の医療・介護・福祉機関と協力して、地域包括ケアシステムの構築に貢献する病院
③  地域医療に関わる人材が体系的に学び、成長できる環境を整え、人々が集い交流する地域に開かれた病院
であると考えられています。
 
コミュニティホスピタルの一例として、豊田地域医療センターでの取り組みをご紹介します。トヨタ自動車で知られる豊田市にある豊田地域医療センターは、コミュニティホスピタルとして地域を結ぶ活動を行っています。
 
具体的には総合診療医を中心に、地域におけるリハビリ、地域住民の健康増進、さらに地域活性化にも取り組んでいます。これらの活動を通した人材育成も行っています。
 
ここでいう総合診療は、基本領域専門医のひとつに加えられた、専門分野です。総合診療医は、「人間を診る専門医」とも言われています。特定の臓器に着目するのではなく、地域に住むあらゆる年齢、性別の方々の健康問題に向き合い、治療を行います。患者さんを多角的に診療し、家族や家庭背景まで考慮し、地域全体を診る、そのような医師です。
 
プライマリケアの定義は、ACCCAで表現されることがあります。その内容は、Accountability(責任性)は丁寧、正直に、Continuity(継続性)はずっと、いつまでも、Coordination(協調性)はみんなで、協力、Comprehensiveness(包括性)は誰でも、何でも、そしてAccessibility(近接性)はいつも、すぐそばに、ということを意味しています。
この内容をいつも意識して診療することで、コミュニティホスピタルの実践につながると考えています。
 
わたしたちは、コミュニティホスピタルに関係する取り組みとして、在宅医療の展開、健康問題への効率的な多職種による介入、プライマリ・ケア在宅医療連合学会への全員参加、医療現場の業務改善などを行っています。
また地域でのリハビリにも取り組んでいます。看護・介護と結びつけたリハビリの介入、季節のイベントづくり、転倒予防・フレイル予防、そして院内に家屋モデルルームを作成することも行っています。
 
人づくりとしては、職員が感じたことを実現するアイデアの森、困難事例のロールプレイ、家庭医療・在宅実践塾、地域診断、カイゼン、リーダーシップ研修などを行う強化合宿、またワークライフバランスの実行やサークル活動にも取り組んでいます。
 
さらに町づくりとして、病院・診療所で使うものを地元産業から支援を受ける、YouTube、Facebook、Instagramでのアウトリーチ、リノベーション型町づくりへの参画、病院・診療所の一部を地域住民のWS開催場所にする、街中で屋台をひいて医療相談に対応するよろず相談所、健康相談のできるカフェスペースの設置、またこどもの職場体験などを考えています。
 
最後に健康づくりとして、社会的処方マップの作成、職員の食事を本気で考える(地場食品、食器、味付け、意味など)、薬局協働のヘルスケアデバイス、地域の小中高等学校で健康WSの開催などにも対応しています。
ぜひ多くの方々とも協力して、コミュニティホスピタルに関する活動を進めていきたいと考えています。


今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?