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穏やかな日々

2020年、テレワークになり7ヶ月半。ついに会社の方針として永続的なテレワークとなることが決まった。緊急事態宣言が出た頃は家に居ろとメディアや周囲からしつこく言われるので、休憩を含めきっかり9時間勤務し、3食食べては寝てを従順に繰り返した結果、体重は飛行機が上昇気流に乗るようにかろやかに右肩上がりとなった。やがて常に酸素不足のような息苦しさに加え、自分の肉がまとわりつく感覚が鬱陶しくなった。

そして始めたのが水泳だった。

水泳はいい。水の音は心地よいし、どれほど体重の重い人間ですら、等しく浮くことができる。ジムのプールなので、どれだけ鏡餅のような二段腹であろうが、大根足であろうが、誰もそんな事を指摘する人はいない。つらい膝の痛みなんて発生しないし、泳いだ後に身体に残るのは心地よい疲れと眠気だけだ。

ちょっとだけ無理なことしていこうぜ、と言ったのは「宇宙兄弟」の主人公ムッタだったか。しんどくなってきたところにこのセリフを思い出しながら週5ペースで泳いでいる。15年ぶりに泳ぎ始めたときは、50分のウォーキングに加えて25mのクロール1本だったが、1ヶ月も経つと、ウォーキング無しで30分で650m、1ヶ月半で60分で1,600m・75分で2,000mまで泳げるようになった。
そして、それを誰かに口頭で言っても信じてもらえないため、ついにはスマートウォッチまで購入した。ログを残すのは楽しみにも繋がるし証拠になるから、と自分に言い聞かせる毎日である。

誰かと一緒に生きていく事を30代半ばで諦めた。なので、痩せてきれいになりたいとも思わなくなっていたが、どう見られるかよりも「自分自身がしんどい」という思いの方が遂に勝った。

かつて「厳しい食事制限はなし!」という謳い文句にのせられパーソナルトレーニングに通ったこともあったが、実家で暮らしていることもあり糖質制限ができていないと毎回たしなめられては落ち込み、思うように動かない身体が悲鳴を上げ、終いには「誰のために痩せるのか」とまで思い始めた。決定的なきっかけは「人参と南瓜は糖質の塊なので一生食べるな」と言われた瞬間だった。心の糸がぷつりと切れ、あっさりと辞めてしまった。確かに短期間でコミットしないと店舗自体のコミットにも繋がらないから、糖質制限で会員に結果を出させるのに必死なのかもしれない。でも自分には合わなかった。(結局壮大にリバウンドした。)

今は食事制限はしていないけれど、体重は牛歩でも確実に落ち始めている。いまは自分のために、楽しく身体を動かせていることに大きな喜びを感じている。こういう事をきっと、「生きる喜び」というのかもしれない。

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