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第16回ベトナム語スピーチコンテスト参加者レポート①
去る10月29日に神田外語大学で行われた
「第16回ベトナム語スピーチコンテスト」参加者によるレポートを、
今週から2週連続で掲載します!
臨場感あふれるレポートをどうぞお楽しみください!
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ベトナム語と共に成長するってこういうことか!?
〜第16回神田外大スピコンに参加して〜
またまたお邪魔します。9期卒の清水です。つい先日、毎年神田外大で開催されるベトナム語スピーチコンテストに参加したのですが、その際すごく心動かされたことがあったので、どうしてもここに書かせて頂きたくまたお邪魔しています。
毎年、我らベト語専攻勢は同スピコンで優秀な成績を収めるのですが、今年は特に私が忙しくてほとんど指導の時間がなく、美佳さんとThơ先生に指導をお任せしたことが功を奏し、何とABC各カテゴリーの1位を総なめするという素晴らしい結果となりました(A1位: 大池さん、B1位: 倉島さん、C1位: 手代さん)!あとBカテゴリー第3位も我が専攻2年生の三木環さんが獲得し、申し分のない素晴らしい結果でした。改めて指導に当たられた先生と、毎年多大な労力を費やしてスピコンを開催される神田外語の皆さんに心から感謝致します。
さて、今回惜しくも入賞できなかった1年生が一人いました。その子(平田さん)は1年生対象の課題詩Nói với conとHôn kiểu Việt Namのうち後者を選び、夏休みも寸暇を惜しんで美佳さんとzoomで練習を重ね、発音練習に励んでいました。他の出場者4人と共に、スピコン前日には完璧なまでの仕上がりに漕ぎ着け、指導した教員一同入賞を確信していました。
その子の入賞を確信するのには、実は別の大きな理由がありました。課題詩の1つ目Nói với con(我が子へ)は、山岳地帯に住む作者が、新しく生まれてきた子への溢れる愛情とこれからその子の人生に待ち受ける困難への不安が錯綜する親の気持ちを謳い上げた詩で、大変理解しやすく指導もしやすかったのですが、平田さんが選んだHôn kiểu Việt Nam(ベトナム風の口づけ)は、指導する教員もその詩の解釈に苦しむ難解な詩でした。詩の作者Ocean Vươngは在米ベトナム人で、元々英語でKiss in Vietnameseを作詩し、それをPháp Hoanがベトナム語に訳したものです。その複雑な事情も詩の解釈を困難にしていました。
毎年恒例で、私が夏休み明けに詩の解説をするのですが、今回はまだその詩の意味がしっくりこないまま、アメリカで育った孫が熱烈な祖母の口づけに戸惑う気持ちを綴った詩と苦し紛れに解説しました。ところがその解釈では、ある意味グロテスクとも感じられる描写の数々が、単に奇を衒った言葉遣いにしか聞こえず、感情移入どころではないのです…
スピコンまで1週間を切ろうかというある日、平田さんが「この詩は戦争に関係ないんですか?」と私に聞きました。一体何を言ってるんだろうと「それはないんちゃう?なんでそう思うの?」と聞いたら、自分で見つけ出したという英語の解説文を訥々と訳し始めたのです。その瞬間、そこにいた私や美佳さんは、鳥肌が立つような感覚に襲われました。その解説に曰く、その祖母は戦争のトラウマに取り憑かれながら生きている中で孫に会い、とっくに戦争は終わっているにもかかわらず、まるで戦場で傷ついた我が孫を抱きしめるかのように、強く抱きながら口づけをする、その祖母の行動を、戸惑いつつも孫が受け止め綴った詩とのことでした。それを聞いた途端に、全てのグロテスクな表現が、お婆さんが見てきた戦場の光景に変わり、なぜ平田さんが頑なに哀しそうな読み方をしていたのかが、ストンと腑に落ちたのです。急いで次の週、1年生に謝りながら、平田さんにその詩の正しい解釈をみんなに説明してもらいました。それ以降、美佳さんの表情づけにみんなでうなずきながら、1週間で何とか納得いく形に仕上げ、充実感と共に当日を迎えました。
1年生の部(カテゴリーA)では、案の定多くの出場者が「我が子へ」を選ぶ中、3人が「ベトナム風の口づけ」を選びました。我が専攻から出場した大池さんの番がまず訪れ「我が子へ」を見事に謳い上げました。そして後の方にまとめられた3人が「ベトナム風の口づけ」を披露しました。平田さんの番が来ましたが、平田さん少々小柄なので、演台のマイクが頭の方に向いていました。
全ての発表が終わり、いよいよ結果発表です。固唾を飲みながら待つ中、カテゴリーAの3位、2位が発表され、いよいよ残るは1位のみとなりました。この時点でThơ先生と顔を見合わせ「あれ?」と…そして栄えある1位が我らが専攻の大池さんに授与されました!そのあふれんばかりの嬉しさと同時に、その場にいた我がベト語専攻全員が「あれ?」と思ったに違いありません。
全ての入賞者が発表され、全カテゴリーの最優秀賞を受賞したSさんにお祝いの言葉を伝えた後、大人気なくもThơ先生と二人で審査員の先生のところに押しかけ、どういう基準で採点したのか、審査員自身は「ベトナム風の口づけ」をどう解釈しているのかを問い詰めました。そしてある先生が「この詩よくわからないんだよね〜」と言った瞬間、この清水ブチ切れました…我々がどんなにこの詩を理解するのに苦労したことか、その中で平田さんにどれだけ助けられたことか、それに「ベトナム風の口づけ」を読んだ子がなぜ誰も入賞していないのか、疑義を示しました。後で思い返してみても実に大人気ない行動でした…(^^;
神田外大から駅までの道中、みんなにそんなこんなを話していると、美佳さんが「来年も出たいんだよね」と平田さんに言いました。平田さんは美佳さんに、今年は結果を出せなかったから来年はもっと頑張りたいと意志を表明していたのです!その瞬間、とてつもなく込み上げてくるものを感じました。色んな事情を耳にしつつも、来年こそは指導してくれた人に恩返しがしたいと純粋に考えていたのです。
ひょっとしたら私がいちばん入賞ってことにこだわっていたのかもしれません。と同時に、ベトナム語を一生懸命学んで、世にその成果を問い、出された結果に一喜一憂しつつもそれを素直に受け止め、次の目標を目指す平田さんやみんな。考えてみれば、これまで一生懸命ベトナム語を勉強してきて、理不尽なことも経験してきたけど、冨田先生はじめ周りの色んな人に支えられながら、なんとか生きてきたな〜ってことを改めて思い起こしました。そして、ベトナム語と一緒に成長するってこういうことやったんやな〜と、強く強く噛み締めた、そんな経験でした。
入賞したみんなに、そして入賞しなかったけど平田さんに、もう一度心から拍手を贈りたいと思います!
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以下、美佳さん訳「ベトナム風の口づけ」です。会場で配布された和訳も含め、これまで見た中で最高の和訳だと思います!
Hôn kiểu Việt Nam
ベトナム風のくちづけ
Ocean Vương作
Pháp Hoan訳
Bà tôi hôn
祖母がくちづける
như thể những trái bom nổ ở sân sau,
chỗ bạc hà và hoa nhài sực hương
len qua cửa sổ nhà bếp,
まるで裏庭に爆撃があったかのように
そこには薄荷と素馨が咲き誇り、
香りをお勝手の窓へと漂わせているだけ
như thể đâu đó, những phần thân thể rơi vãi
và những ngọn lửa tìm đường quay trở lại
qua mạch máu trên đùi đứa cháu trai,
まるでどこかしこで体が朽ちているかのように
そして、残り火が孫の腿の動脈を通って帰り道を探っているかのように
như thể bước ra khỏi cửa,
thân hình mi sẽ nhảy múa cùng những vết thương xuyên.
まるで戦渦へと飛び出していくかのように
傷だらけの身体で踊り狂うかのように
Khi bà hôn,
sẽ không có kiểu âu yếm hào nhoáng,
không nhạc ngoại
祖母がくちづける
それは心温まるふれあいなどではなく
そこに洋楽などありはしない
môi mím chặt,
bà hôn như hít lấy mi vào bên trong,
唇をきつく結ぶ
体ごと吸い込むかのように
mũi ép vào má
để mùi hương được hồi tưởng trong ký ức
鼻を頬にうずめる
記憶の中にぼくの香りを留まらせ、
và mồ hôi mi đọng lại thành những giọt vàng trong hai lá phổi bà,
ぼくの汗を金の滴に変えて
ふたつの肺に仕舞い込むように
như thể trong khi bà ôm thần chết cũng đang nắm chặt cổ tay mi.
祖母が抱きしめる
死神が手首を掴む
Bà tôi hôn
như thể lịch sử không bao giờ kết thúc,
như thể đâu đó những phần thân thể vẫn đang rơi.
祖母がくちづける
まるで、歴史が絶え間なく続くかのように
まるで、今なおどこかしこで体が朽ちているかのように
☆☆☆☆☆