恥ずかしがりやさんの言葉たち。
保育関連の記事の場合には、個人の特定につながらないように配慮して書かせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
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今回は、子どもの「言葉」について書いています。今はそういう話題には触れたくないな…というお気持ちの方もいらっしゃるかと思います。どうぞお気をつけください。
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Cくんの言葉たちはちょっぴり恥ずかしがりやさんです。
いつもCくんの中にかくれんぼしています。
じっと隠れてほとんど姿は見せない。
でも時々、チラッとこちらに顔を見せてくれる。
そっと目を合わせ声をかけてみる。
すると…あっという間に隠れてしまう。
恥ずかしいよね。
また会えるといいな。
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Cくんについて。1歳児クラスの先生との引き継ぎミーティング。
言葉は出ていないが、ジェスチャーや表情で保育士やお友だちとのコミュニケーションはビックリするくらいしっかりと取れている。
こちらの言っていることもきちんと理解している。
とのこと。
今のところ、Cくん自身が「自分が一番やりやすいコミュニケーション方法」で周りとやり取りをしていて、本人もそれで落ち着いているので今まで通り、「見守る」ことをクラスで共有します。
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1歳児クラスや2歳児クラスを担当すると、「言葉」について保護者の方からご相談を受けることが多くなります。
クラス内でのミーティングで話し合う機会も多いです。
子どもの発達は個々それぞれ。
十人十色。
それぞれのペースで歩いていてそれぞれのタイミングがあります。
だから、子どもたちの中にいる「言葉」が顔を見せてくれるタイミングもそれぞれ。
保護者の皆さんもきっと頭の中では分かっていると思います。
分かってはいるけれど…保育園という「同じ年齢の子どもが集まっている場所」では、比較対象がいるので、ついつい比べてしまい、いろいろ考えてしまう。
「○○ができる」「まだ○○できない」
そんなつもりはないのに、ずいぶんとざっくりした枠で、子どもを比べてしまう。
「どうしてうちの子は…」という気持ちとともに、「なんでこんなに比べてしまうんだろう…」と自分を責めて落ち込んでしまう方もいます。
そのような時、わたしたちにできることは、とにかく「お話を聞くこと」。
積もり積もった想いをどんどん出してもらいます。
心の中にモヤモヤがたまる。その想いが外に出てしまわないように我慢して押し込む。
どんどん押し込む。でも、心のキャパがある。押し込まれて詰め込まれた想いは、あふれてしまう。場合によっては、詰め込まれすぎて壊れてしまうこともあると思う。
想いがあふれてしまわないように…じっくりとお話を聞きます。
心配なこと、不安なこと、気になること…さまざまなことをすぐに解決できるわけではありません。
でも、パンパンに詰め込まれた心のままでは、苦しいと思いますし、なかなか気持ちを切り替えることもできないと思います。きっと解決への道を見つけることも難しくなってしまう。
保育園では、子どもへの対応はもちろんのこと、保護者への対応・ケア等もとても大切なこととして位置づけています。
保育士ができることは限られています。
でもその限られた中でできることは可能な限り対応したい。
そう思いながら日々保育をしています。
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Cくんの保護者様、特にお母様はCくんの「言葉」をとても心配されていました。
周りから、
「早生まれさんだからそのうちだよ」とか「男の子だからゆっくりだよ」とか言われて、それがもちろん悪意ある言葉ではないのは分かっているけれど、良い言葉として受け止められない、と教えてくださいました。
お母様は、とても明るくユーモアのある方です。
Cくんの様子も含めて楽しいお話をいつもたくさんしてくださいます。
その中で、時々ほんの少しだけ出てくる心の奥にあるモヤモヤ。
その部分をしっかりクラスで共有しながら丁寧に対応します。
Cくんは、お母様譲りのユーモアさがあり、周りを笑わせることが大好きで、愛嬌たっぷり。
周りのお友だちも言葉が出ないことに触れることはもちろんなく、これが当たり前。Cくんをそのまま受け入れています。
わたしたちもいつも通りの対応、特別な対応はしません。もちろん、必要なことがあればすぐにサポートする体制は整えていますが、基本は「見守る」、そっと見守り続けます。
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Cくんは、先生を呼ぶときは必ず「トントン」とたたきます。
保育士が座っているときは肩をトントン。
立っているときはおしりをトントン。
でもなぜか、わたしを呼ぶときだけは、「バンバンバンバン!」となかなかの力を込めます。
なぜだか分からないけれど、いつも力強く呼ばれていました。
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Cくんの恥ずかしがりやさんの言葉たちは、いつの間にかすっかり顔を出していました。
かくれんぼはおしまい。
今までためていた言葉を全て出すかのように、とてもおしゃべりさんになっていました。
あれ?いつごろ言葉が顔を見せてくれたんだったかな?と思い返してみましたが…思い出せません。それくらい自然な流れでした。
なにがきっかけだったのかは分かりません。
でも、Cくんのタイミングが「今」だったということなのだと思います。
わたしたちにできることは限られています。
その中で、「見守る」ということの大切さを改めて感じています。
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さて、先生を呼ぶための「トントン」ですが、言葉の登場とともに、「せんせー」と呼んでくれるようになり、いつの間にかなくなっていました。
でも、わたしを呼ぶときだけは「せんせー」という言葉とともに、力強い「バンバンバン!」が最後まできちんとセットになっていました。
・・・ということを、新しい年度になってからベテラン先生と懐かしく思い出しながら話していたところ、こう言われました。
「umeせんせー、がんばれー!!」って応援してくれてたんじゃない?
応援…??
実は、この時わたしは前年2歳児クラスをもち、次年度1歳児クラスに戻る予定でした。
例年、1歳児クラスから2歳児クラスへは担任を含め、ほとんどの先生が持ち上がる流れになっています。
なので、わたしは次年度は1歳児クラス。のはずでした。
ただ、この時は異例の展開で…人事を大幅に変え、ほとんど持ち上がりをなくし、わたしはそのまま2歳児クラスに残って、次年度この子たちを新たに受け持つことになったのです。
プレッシャー
とてつもないプレッシャーを感じていました。
ベテラン先生がサポートに入ることになり、万全の体制。
…だからこそ余計にプレッシャーでした。そのプレッシャーをひとりで抱え込んでいました。
子どもたちも保護者の方も、知っている方が多かったのですが、(いろいろなことがあり)いつもとは違う流れになっている…このイレギュラーな展開が、わたしにとってはとてつもなく大きな圧になっていました。
あとから聞くと、とてもありがたいことに周りの先生方もそれを感じとって気にしてくださり、ずっと見守ってくださっていたそうです。(段々落ち着いてきたので安心した、とのこと。)
そうか。
Cくんはいつもわたしのことを応援してくれていたんだ。
「バンバンバン!」とたたいて、がんばれー!と気合いを入れてくれていたのかな。
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Cくんをずっと見守っていました。
そんなわたしのことを、たくさんの方が見守ってくださっていました。