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不適切保育の原因は「低賃金・長時間労働」なのか?
5月3日に、認定こども園で給食を食べきれない園児を4時間座らせ、失禁させてしまったという事案が報道されました。
給食については、昨年来からの不適切保育及び虐待の事案に多く登場しており、子どもの好き嫌いを認めず、嫌いなものも我慢して食べることをよしとする根深い風潮が感じられます。
一方で、この記事の最後はこう結ばれています。
実際、本誌が過去に100人の保育士にアンケート調査をおこなった結果、「園児を虐待したことがある」と回答した保育士が1割近くに及び、「園で虐待が問題になったことがある」という回答も、16.4%にのぼった。1日の労働時間が8時間以上という回答が73%だったのに対し、年収300万円以下の保育士が半数以上だった。
低賃金・長時間労働の現場で虐待が起きないわけがない。
この最後の一文に、非常に違和感を感じました。
なぜ、低賃金・長時間労働が虐待の原因だと言えるのでしょうか?
文中にある保育士100人へのアンケート結果についての記事も読んでみました。
週刊誌のデジタル版ということもあるのか、見出しも本文もかなりセンセーショナルで極端な事例を取り上げている印象です。
ただ、アンケートについては調査表や集計結果が見当たらず、低賃金・長時間労働と虐待の因果関係は読み取れません。
では、保育園での虐待や不適切保育の原因は何なのでしょうか?
これについては、こども家庭庁が令和5年5月付けで保育所の虐待、不適切保育への対応の実態調査の調査結果を公表していますが、これはあくまで虐待や不適切保育への「対応」に焦点が当てられており、「なぜ」虐待が起こったのかについては明言されていません。
また、令和3年3月に厚生労働省が外部委託して実施された「不適切保育に関する対応についての調査研究」には、不適切保育が起こる背景を「認識の問題」と「職場環境の問題」に分け、それぞれ下記のように記されています。
①認識の問題
保育士一人一人の、子どもの人権や人格尊重に関する理解が十分でないなどにより、本人は問題ないと捉えている行動が、不適切な保育に該当することがある。
また、かつては特段問題とは認識されていなかった行為であっても、子どもの最善の利益の尊重という考えの定着により、慎重な対応が求められるようになっているものもある。
(中略)また、保育士本人は子どものために良かれと思った行為であるために、その行
為が子どもの権利を侵害するという重大さに気づいていない等の状況も考えられ
る。
②職場環境の問題
保育所を利用する子どもとその家庭の多様化などにより、保育士一人一人にかかる負担は大幅に増加している。このように、保育士が多様な対象に対して多様なニーズに対応することを求められる状況においては、保育士が子どもや保護者一人一人に丁寧に向き合い、対応するための十分な時間が確保できない状況も生じうる。
例:
・気持ちの焦りなどから、保育士本人も「そうあるべきではない」と感じている子どもとの関わり(大きな声を出してしまうなど)を行ってしまう
・保育士が一人きりで保育を任されている状況が多いなど物理的な環境の問題
ただ、この厚生労働省の調査は、調査表には不適切保育の原因についての項目はなく、施設側が回答した内容から推し量ったものと考えられます。
いずれの調査もどちらかというと予防策としての研修や、事後対応としての行政報告等の実施状況についての調査結果に記載が偏っており、なぜ原因を特定しないまま対応を決められるのか、不可解に感じました。
(悪意ある見方をすると、研修実施や事後通報など、行政はきちんと手順に則って指導していたというのアリバイ作りのための調査のようにも見えます)
明確な調査結果が探せない中で(もし知っている方がいらっしゃったら教えていただけるとありがたいです)、私が個人的に思う虐待、不適切保育の原因は、下記の3点です。
①子どもを大人の言うことに従わせるのが集団保育の目的と考える園長、主任の方針
→嫌いな食べ物を無理やり食べさせる
→昼寝しない子を無理に寝かせる
→厳しすぎる運動会練習
②子どもの活動に対して保育士の数が足りない
→行動を禁止、制限するしかなくなる
③不適切保育の認識がない(厚生労働省調査の背景と同じく)
→昔は許されたしつけが、今では不適切に当たる
→本人に全く悪意がない
この中で、一番重要だと感じるのは圧倒的に①の園長、主任の方針です。
今回の4時間給食を食べさせた件も、昨年の裾野市の件も、いずれも園長、主任クラスは確実に把握していたと考えます。
もし園長や主任がそこに問題意識を持っていれば、そこで指導できたはずが、そうならなかったということは、日常的に子どもに無理やり言うことを聞かせることを、部下である保育士に求めていたということです。
不適切な保育についての知識があっても、人員に余裕があっても、まして給与や労働時間がどうでも、上司に「好き嫌いさせないで、食べさせて」ときつく言われれば、保育士は無理やり食べさせるか、または食べさせるふりをするかしかありません。
保育士の処遇改善のための事業では障害児保育や保護者支援等、定められた研修テーマがありますが、子どもの人権について、昨今の事件を土台にした研修を園長、主任クラスに受けさせる方が先決ではないかと感じます。