Vol.14 舞台での芝居と子どもとの関わり方。どちらも「嘘がつけない」
埼玉県在住の佐野 睦子さんは、3歳の子どもを育てる一児の母。
お仕事は、劇場の教育普及分野で、舞台芸術を担う若手人材の育成カリキュラム開発を担当されています。
大学時代に保育士の資格を取得した佐野さんが、資格を取得しようとした理由や、劇場のお仕事との繋がりについてお話をお聞きしました。
英語の授業がきっかけで保育園でのボランティアに参加
高校生の時、英語の授業で、世界には様々な環境の下で健やかに育てない子どもがいることを知りました。
当時、私は英語に関する仕事に就きたいと思っていたので、そのような子どもたちに何かできないかと思ったのが、子どもへの関心を持ったきっかけです。
とはいえ、私の周りには子どもがおらず、「まずは子どもを知ることから始めよう!」と、高校の家庭科の授業でボランティアを体験するというものがあり、ボランティア先の選択肢に保育園があるのを見つけて、迷わず保育園を選びました。
ボランティアの期間は1週間。1日1クラスを担当し、保育補助、食事介助、遊びを通して子どもたちと接していたのですが、子どものことを知りたいという思いが強くなりました。
また、保育の現場で子どもたちに接する保育士という仕事に魅力を感じて。この経験がきっかけで、子どものことが学べて保育士の資格が取れる大学に進みました。
舞台での演劇も子どもとの関わり方も本質は同じ
大学卒業後は、すぐに保育士にはならず、アルバイトをしながら舞台活動をしていました。
もともとクラシックバレエが大好きで習っていたのですが、そこから舞台芸術に興味をもち、知人の舞台を観に行ったことがきっかけで演劇を始めました。
演劇と保育、どちらも経験して気づいたのですが、
演劇の面白いと感じる部分が子どもと関わる時の感覚に似ています。
芝居も子どもと接するときも、どちらも嘘がつけない。
演劇は虚構ですが、だからこそ嘘があると途端に白けてしまいます。子どもと接するときも、嘘をついていたり心が入っていなければ見抜かれてしまうのと同じですね。演劇はそこが面白かったのでのめり込みました。これまでトータルで20年弱、舞台に関わっているのですが、あるときから知り合いの劇団の制作(広報やチケット管理など)に携わることに。舞台に自分が立つことは面白いですが「私にはずっとできる仕事ではない」と思っていたので、これなら舞台に関わっていけると思いました。舞台に関わる新たな可能性を感じましたね。
出産後にチャレンジした保育士の経験から学んだこと
結婚・出産後は、家族の協力を得ながら舞台の仕事を少しセーブして続けました。
同時に、保育士の経験を活かして、週1、2日ほど保育園でも働き始めました。
初めての保育士の仕事は小規模保育園でしたが、
いろんな子どもを見ることで自分の子どもの多様性も認められるようになったと感じました。保育園にいる子どもたちも、一人ひとり家庭でいろいろなことがある。お母さんじゃなくてもできることを保育園でサポートしたいと思いましたね。
また、保育士の経験を経て改めて気づいたことは、人の話をきちんと聞く大切さ。
子どもたちの話を流さずにちゃんと聞く。どうして困っているかを聞いてあげる。
週1日しか保育園にいないと、子どもたちとの信頼関係を築くのが難しい部分もありましたが、私がいる時は「ちょっと待って」をやめて、できる限りその場で対応するようにしました。
保育園のお仕事を1年半は掛け持ちしていましたが、劇場の仕事が忙しくなってきたタイミングで、残念ですが保育園を退職することにしました。
子どもから大人まで楽しめる劇場作りに貢献したい
私は劇場空間がとても好きです。舞台を観に行かなくても、ただ劇場に足を踏み入れるだけでも特別な空間なんです。
私の仕事は、いろんな人にもっと劇場に足を踏み入れてもらおうと考えること。
子ども向けの企画も年に数回ありますし、ワークショップなどを企画することもあります。
大好きな劇場のことを人に伝えられることは最高に魅力的な仕事だと思っています。
また、大学で育児支援専攻だったので育児支援センターなどに興味があります。
劇場にも育児支援のような機能があったらいいなと思っています。
子どもたちが楽しめることはもちろん、お母さんが負い目を感じずに劇場に来て楽しめることを考えたいですね。
子どもを預けてまで芝居を観にいくとプレッシャーに感じるお母さんもいると思いますが、それを少しでも軽減できるようにしたいと思っています。
編集後記
演劇、保育と2つのお仕事を経験された佐野さん。それらは一見すると全く別のお仕事のようでありながら、本質の「自分を隠さずに相手に表現する」という部分では同じだと気付いた佐野さん。
保育士の経験を劇場でさらに活かして活躍してほしいですね!