ありがとうの価値観
人から感謝されるのはとても嬉しいですし、自分から「ありがとう」と言えるのも気持ちの良いものですよね。ただ、感謝の言葉ってとっても大事ではありますが、乱用して良いものでもないと私は思っております。以前、私が勤めていた保育園でとても職員に気を遣う上司の方がいました。私もその方には色々な面で力添えをいただき、今の私がいるのはその方のお蔭もあるのは過言ではありません。ですが、そんな上司の方でも一つだけ引っかかっていたことがありました。それは、口癖のように「ありがとうございます」と言ってくださることでした。
先にも書きましたが、感謝の言葉を聞いて不快に感じる方などまず少ないと思います。それでも、逐一その言葉が出てくることに私は時折疑問を感じてしまっておりました。ところが実は、そう感じていたのは私だけではなく、その時の私の先輩保育士も同じように感じていたところがあったようでした。そしてある日、その先輩保育士が上司の方から「ありがとうございます」と礼を告げられた時、「いえ、私は園のためにやっている訳ではないんですよ。クラスの子どもたちのために考えていただけですので、心遣いはとても嬉しいのですがありがとうはいりませんよ」と笑顔で発言しておりました。(余談ですが先輩保育士は、上司の方より年齢が上で保育経験自体も豊富な方でした)
さて、皆様はこの先輩の言葉を聞いてどう感じますでしょうか?恐らく、ただこの文面を見ただけでは、「ちょっとその先輩舐めてない?」「上司が感謝していりませんて普通言うかな?」と思われる方もいるかもしれません。ですが、元々上司の方から「ありがとう」を言われて疑問を感じていた私にとって、その先輩の発言は「正にそれだ」でした。
ちなみに、その先輩がその発言に至るまでに上司の方と話していた内容が、「子どもたちの次の行事には○○を体験させてあげたいと思っているんですよね」というようなものでした。それに対して上司の方は「そうなんですね。ありがとうございます」と返しました。一見おかしくはないように感じられるのですが、先輩曰く「ここでありがとうを伝えられることは子どもたちへの思いというよりは、業務としての報告みたいに感じてしまう」とのことでした。
ただ、その先輩もそれだけの経緯でその発言をした訳ではないことが私には分かっておりました。というのも、私ももう一つ気掛かりになっていたことなのですが、先輩と話すことによって確信へとかわりました。それは、後輩の子たちもやたらと「ありがとうございます」を使うようになっていくことでした。
全く無関係のクラスのことなのですが、残っていた職員に対して「遅くまでありがとうございます」と伝えていたり、その子にとって全く関係のない作業をしていた職員に「ありがとうございます」と伝えていたり。少しずつ、「ありがとうございます」が安売りしているような感覚になっておりました。
話は戻しまして、先輩が上司の方にそれを伝えた後どうなったのかと言いますと、実はその話を園長先生も聞いており、その月の職員会議で正に「感謝とは、職員同士のコミュニケーションにおいて重要なものである。しかし、何に対しても感謝をしてしまっているのではその気持ちの価値観は薄れてしまうことも考えられる。だからこそ、感謝の気持ちは本当に自分の中でありがたい、嬉しいと感じたことに対して行っていただきたいものです。」と発信していました。
「ありがとう」が言えることはとても大事なことです。ですが、本当に心の底から感謝をしている気持ちが相手に伝わるように使うべき時を考え、「ありがとう」の価値を大切にしていきたいと私も常々考えております