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【テレビの害をわかってもらうには】
【はじめに】
保育をしている中で、テレビが原因で子どもの状態が大変になっていることが明らかだが、それをどのように保護者に説明したら良いかわからない、という方がいらっしゃるかと思います。そもそも保育者であるはずの人が「テレビが害だなんて知らなかった」ということもありますから、テレビが子どもにとって害である理由も含めて、皆さんに知っていただければと思います。
【テレビ無しの子育ては考えられない現代】
テレビの害を理解する前に、現代の生活がどれだけテレビと共にあるかを知っておくことは非常に大切なことでしょう。(本来なら癒着、という言葉を使いたいのですが)
現代は子どもにとって非常に生きづらい世の中です。核家族化による地域との交流の減少、アパートやマンションでの生活により、普段以上に音に気を遣わなくてはいけない状況。ほとんどの両親が8時間労働の後に家事や子育てをしていますから、精神的にも肉体的にも過酷な状況であることはいうまでもないと思います。
言い方が悪いですが「子どもはテレビを見せておけば静か」です。その理由は後ほど説明していきますが、ひと時も体を動かしていたい子どもをうまくコントロールしてくれるテレビはとても便利な代物になってしまっているのだと考えられます。保育者は、この現実を受け入れながらも「子どもにとってテレビは害である」という立場を崩してはいけません。子どもにとって害のあるものが入ってくることを許してしまったら、私たちは何も守ることができません。
私たち保育士の使命は子どもにとって害で溢れた現実をしっかりと受け止めた上で、そこからどのように良い方向へ改善していくか、ということです。決して「仕方がないよね」という言葉で終わらせてはいけません。それはプロのする仕事ではありませんし「少しでも良い子育てがしたい」と日々奮闘している親御さんにも最善を尽くしたということにはならないからです。
【なぜ子どもはテレビに夢中になるのか】
保育者の皆さんは、子どもがなぜテレビに夢中になるのかを考えたことはありますか?健康な状態ならばひと時も止まっていることのない子どもが、不自然なほど釘付け状態にされています。しかも長時間です。保育士はこの状態に違和感、不信感を覚えなければいけません。
多くの人がテレビを見ている子どもの姿を見て「楽しんでいる」という印象を覚えるようですが、それはとんでもない間違いです。楽しんでいるのはあくまで「表面上」のことです。実際では脳は異常に興奮し、子どもによっては四六時中落ち着きのない子どもになっています。(誤解のないようにお伝えしておきますが、『健康な状態の子どもはひと時も止まらない』という状態とは全くの別物です。)
子どもがテレビに釘付けになるのは、テレビに映し出されている絵面に釘付けになっているのではなく、テレビから発せられる激しい光の点滅と、電子音による強烈な刺激によって釘付けにさせられているに過ぎません。
乳幼児期は感受性が非常に高く、また自分を守る器官も十分に育っていないため、過度の刺激は子どもを異常に興奮させ、結果的に子どもをより大変な状況に晒してしまうのです。
これは私の経験からの答えですが、テレビを見て育った子どもと、見ないで育った子どもの声質は明らかに違います。前者がとても甲高く耳に障るような声に対し、後者は聞いていても違和感を感じないのです。
乳幼児期は「模倣」つまり「真似」をすることによって自身を成長させていきます。それを音に関してあてはめてみるならば、テレビを長時間見て育った子どもは機会音を学習し、そうでない子どもは自然の音を学習して育ったということになります。子どもの学習能力の高さとともに、できるだけ自然のものを与えて育てるということの大切さが理解していただけるのではないでしょうか。
【自分から動くから『動物』】
植物が地面に根を張って、栄養を摂取して生きていくのに対して、動物は自ら狩りをしたり、木の実をとったりして生きていきます。これは皆さん、承知の事実かと思いますが、人間にも同じようなことが言えます。とりわけ乳幼児期の子どもは、この「自ら動く」という行動が人間として成長していく上で必要不可欠な行動です。
人間は(もちろん他の動物もそうですが)自ら動くことによって周りの世界を一つ一つ認識し、脳を発達させ、身体を育てていきます。0歳児の赤ちゃんが手に触れたものをなんでも舐めたり、ハイハイをして親や保育士を追いかけたり、大泣きして抱っこを求めるのは誰かに命令されてのことでしょうか。赤ちゃんは誰に命令されたわけでもなく、全て自分の意思でそうしています。
これが人間にとって非常に大切なことなのです。これが受け身の状態になってしまうと子どもは成長をストップさせてしまいます。
「テレビを見ている」と言うのがまさしく受け身の状態なのです。テレビを見ていると、体をほとんど動かしません。自分で考えることもしません。「テレビに合わせて楽しそうに体を動かしている」と言われる方がいますが、それはテレビから発せられる強い光と電子音によって異常に興奮しているだけに過ぎません。
人間は植物ではありませんから、動かない状態では成長のしようがありません。むしろ動かないという状態は人間を退化させてしまいます。
【健康な子どもですら大変になる】
健康に生まれてこられたのにも関わらず、長時間のテレビ漬け生活をしてしまったことによって、大変な状態になってしまってた子どもがいます。その子どもは言葉もあまり話さず、自閉症などの脳機能の異常が疑われていました。その子どもの家庭での生活を丁寧に聞くと、どうやら家にいる時間はほとんどテレビを見せて過ごさせていたようです。保護者からは「子どもが夢中になって見ているので、良いと思った」というお話があったそうです。
その後、その家庭はテレビを見せることをやめ、子どもをできるだけ害に触れさせないで育てたところ、その子どもは話をするようになり発達していったとのことです。長い時間、受け身の生活をしていたので、まだまだ大変さは残っているようですが、これからも害の無い生活を心がければ、その大変さも取れていくことと思います。
これは極端な例ですが、健康な子どもでさえ大変な状況になってしまうのですから、生まれが大変な子どもは更に悪影響を及ぼすことでしょう。「テレビとの付き合い方」というものがありますが、子どもの立場から見たら、付き合うこと自体が間違っています。子育てをする上でテレビは無いに越したことはありません。
【心に落とし込む語りをしよう】
多くの人が「子どもにとってテレビは良くないものである」と、頭ではわかっていても、心に響いていない状態がほとんどです。残念ながら人間というのは、心に響かなければ行動するのが難しい生き物です。
ですが裏を返せば、保育士が心に響く語りをしてさえあげれば、親は必ず変わります。そのためにはまず保育士がしっかりとテレビの害について学び、テレビを「見ないで」育った子どもがどれだけ素晴らしい発達をしているかを実際に目の当たりにして、心に落とし込む必要があります。
「他人に変わってほしいように、自分が変わる」この姿勢が保育士にとって非常に大切なことです。親がテレビを生活から取り除きたいけれど、どうしたら良いかわからないと悩んでいる時は、一緒に考えてください。子どもを第一に考えて、保護者に寄り添っていくのが、本当の保育です。
いきなりテレビを見ない生活をするのは難しいと思いますので、少しづつ減らしていけるようにし、最終的には全く見ない状態になるのが一番スムーズな形かとお思います。テレビの時間が減った分、親子のコミュニケーションが増えたり、夫婦で会話する時間が増えたりと、良いことがたくさんありますので、保育士の皆さんには是非、頑張ってもらいたいと思います。
今回の記事が少しでも保育士の皆様に役に立つことを願っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ライター:斎藤保育を愛している保育士
斎藤公子氏の「さくらさくらんぼ保育」実践園に勤めている保育士。
決して時代に流されない「子どものための保育」に感銘を受け、様々なツールを用いて情報を発信している。
Instagram:sakura.sakuranbo1920
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