【第32話】幻想の中で生きる③
子どもの理解において順子が大切にしていることは、複数の推測をすることだ。つまり、「ああかもしれない」「こうかもしれない」と、決めつけをせず色々な可能性を考えることだ。そうすることで、保育者の関わりも多様になる。保育には「こうすれば必ずこうなる」という正解がないからこそ、そのような保育者の姿勢が大切だと考えていた。
しかし職員に対してはどうだ。なぜか対象が大人に変わっただけなのに、いつも決めつけてしまう自分がいる。飛田が記録を書けないのも、努力や熱意が足りないせいだと決めつけていた。その他の可能性を考えようともしていなかった。
そんな自分のまなざしを、飛田はどう感じていただろうか。おそらく、理解してもらえない悲しさや虚しさを感じていたのではないだろうか。
これは幻想ではなく現実だろうな、と順子は思って自嘲気味に笑う。
記録のことについても、飛田に話を聴いてみようと思った。自分の捉え方と現実との乖離を埋めるにはそれしか方法はないのだろう。たしかに手間はかかるが、的はずれなアプローチをして効果がでないよりは良い。
保育において、子どもと信頼関係を形成するために、保育者がカウンセリング・マインドを活かすことが重視されている。カウンセリング・マインドとは、カウンセリングの考え方や、態度、技術などを用いて人に関わることである。決して、子どもに対して、心理カウンセリングを行うことではない。
カウンセリング・マインドの基本は、受容と共感である。そのために、相手の話を傾聴する。保育者は、子どもの言葉にならない心の声を傾聴し、受容と共感することで信頼関係を築こうとする。
カウンセリング・マインドは、子どもだけではなく保護者や職員間との信頼関係構築においても重要だ。そのため、まずは傾聴するという時間や機会を確保することが求められる。
しかし、相手が大人になると、丁寧さが欠けてしまうことがある。まさに順子がそうであった。
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https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1
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