保育園にICTシステムを導入すると保育士にはどのようなメリットやデメリットがあるだろうか?
近年では、ICTシステムを導入している保育園も珍しくありません。
ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、コンピュータやインターネット、アプリなどを活用して情報を管理・共有する技術のことです。
保育園におけるICTシステムには以下のようなものがあり、保育士の業務を効率化し、保護者との連携をスムーズにする役割があります。
登降園の管理
連絡帳の電子化
保育記録のデジタル管理
ICTを導入することで、保育士の事務作業が効率化されるだけでなく、保護者との連携強化や保育の質向上といったメリットも期待されています。
一方、導入コストや操作の習得、保護者の理解、セキュリティ対策などの課題もあり、慎重に検討する必要があります。
それでは、ICTシステムを導入すると、保育士にどのような影響をもたらすのでしょうか?
本記事では、保育のキャリア編集部が保育園におけるICT導入のメリットと、導入時に考慮すべきデメリットについて詳しく解説します。
ICT導入で考えられる5つのメリット
事務作業が効率的になることで負担が少なくなる
保護者とのコミュニケーションが取りやすくなる
離職率の改善や保育士不足の解消
アプリから欠席の確認を取ることができる
保育士間での情報共有が簡単になる
事務作業が効率的になることで負担が少なくなる
ICT導入で事務処理を省力化すると、保育士の負担は軽くなると考えられます。
例えば、登降園管理システムを導入すると、保護者がICカードやアプリで打刻するだけで自動記録されます。
つまり、手書きの名簿管理が不要になり、記入ミスや確認作業の手間が減るということです。
また、保育日誌や指導計画の作成を支援するソフトを活用すれば、フォーマットに沿って入力するだけで書類を作成できます。
手書きやExcel作業の時間を短縮でき、効率的に業務を進められます。
さらに、園児の体温や食事の記録もアプリで管理できるため、保育士同士でリアルタイムに情報を共有しやすいです。
こうした保育士の業務効率改善を目的に作成されたICTシステムを活用することで、事務作業の負担が軽減され、保育に集中しやすい環境が整います。
保護者とのコミュニケーションが取りやすくなる
ICT導入により、保護者との情報共有がスムーズになります。
例えば、連絡帳アプリは子どもの体調や食事の様子をリアルタイムで確認できます。
また、欠席や遅刻の連絡もアプリで簡単に送信でき、電話対応の負担が軽減されます。
さらに、緊急時の連絡や園からのお知らせも一斉送信できるため、情報伝達の精度が向上します。
このように、ICTシステムの導入により、保護者とのコミュニケーションが取りやすくなるため、保護者側の安心感の向上と保育士側の業務負担の軽減に期待できます。
離職率の改善や保育士不足の解消
ICTシステムの導入は事務作業の負担軽減につながるため、離職率の改善につながると考えられます。
保育士の業務は保育だけでなく、以下のように多岐にわたります。
登降園の記録
保護者対応
書類作成
これらの業務が煩雑になると、長時間労働や精神的な負担が増え、離職の原因となることがあるからです。
ICTシステムを活用すれば、登降園管理や保育日誌の記録をデジタル化でき、手作業による記入や集計の時間を短縮できます。
また、保育士同士の情報共有も円滑になり、業務の分担がスムーズになります。
こうした仕組みが整うことで、作業負担の軽減や労働環境の改善につながり、保育士の定着率向上が期待できます。
さらに、保育士不足の解消にもつながります。
なぜなら、離職者が減ることで、常に新しい人材を採用する必要がなくなり、人手不足のリスクが低下するからです。
このように、ICTは離職率の改善と保育士不足の解決に貢献します。
アプリから欠席の確認を取ることができる
ICTシステムは欠席や遅刻の連絡をアプリで簡単に管理できます。
従来の保育園は保護者が電話で欠席連絡をし、保育士が対応するのが一般的です。
しかし、朝の時間帯は登園対応や準備で忙しく、電話対応に追われることで業務の負担が増えてしまいます。
欠席や遅刻を連絡できるアプリを導入すれば、保護者がスマートフォンからワンタップで欠席や遅刻を報告できるようになります。
保育士はアプリを確認するだけで済むため、電話対応の手間削減につながります。
また、欠席や遅刻の情報がリアルタイムで一覧表示されるため、記録の抜け漏れを防ぎやすくなります。
例えば、「今日は何人が欠席か」「遅刻の子どもは何時に来るのか」といった情報を、保育士全員がアプリ上で共有できます。
この仕組みにより、子どもの受け入れ準備をスムーズに進められるため、業務効率が向上します。
保育士間での情報共有が簡単になる
ICTシステムを活用すると、保育士同士の情報共有が円滑になり、伝達ミスを防ぎやすくなります。
保育園では子どもの体調、食事の状況、保護者からの連絡事項など、多くの情報を共有する必要があります。
従来は、口頭やノートでの引き継ぎが一般的でしたが、口頭では伝え漏れが発生しやすく、ノートも後から確認しないと情報を見落とすリスクがあります。
ICTシステムを導入すれば、アプリやクラウドシステムを使って情報を記録・共有できるため、リアルタイムで必要な情報を確認できます。
例えば、園児の体温や食事の記録、保護者からの特別な依頼(アレルギー対応や薬の服用)などをアプリに入力すれば、全保育士がすぐに情報を共有でき、統一した対応が可能です。
また、職員が交代制で勤務する場合も、デジタル記録があればスムーズに引き継ぎができ、情報の抜け漏れを防げます。
さらに、写真や動画を活用して、子どもの様子を視覚的に共有することも可能です。
例えば、「午前中に元気に遊んでいたが、午後から少し元気がない」「食事の際に咀嚼(そしゃく)がうまくできていない様子が見られた」といった情報も、写真付きで記録すれば、より正確に伝えられます。
このように、ICTの活用により保育士間の連携がスムーズになり、業務の効率化と保育の質向上につながります。
ICT導入で考えられる4つのデメリット
ICT導入にあたり初期費用がかかる
パソコンやスマホの操作が苦手な方の負担が増える
保護者から理解を得られないこともある
個人情報を管理する上でセキュリティ対策が求められる
ICT導入にあたり初期費用がかかる
ICTシステムの導入には、まとまった初期費用がかかります。
システムの導入や端末の購入にかかる費用は少なくなく、園の規模によって負担額も変わります。
例えば、登降園管理システムや保育記録アプリを導入する場合、初期設定費やライセンス費が発生し、年間で数万~数十万円のコストがかかることがあります。
また、業務効率化のためにタブレットを導入すると、1台あたり3〜10万円の費用が必要です。
保育士が全員が使えるように台数を揃えると、さらにコストが増えます。
さらに、Wi-Fi環境が整っていない保育園では、通信環境の構築も必要になります。
安定したネットワークがないとシステムがスムーズに動作せず、ICTのメリットを十分に活かせません。
とはいえ、ICT導入によって業務負担が軽減され、長期的に見れば人件費の削減や業務の効率化につながる可能性があります。
導入前に費用対効果を十分に検討し、無理のない範囲で段階的に導入する必要があります。
パソコンやスマホの操作が苦手な方の負担が増える
ICTシステムの導入は業務の効率化に役立ちますが、スマホやパソコン操作が苦手な保育士にとっては負担です。
紙の書類や手書きの連絡帳に慣れている保育士にとって、タブレットやパソコンの操作はハードルが高い場合があります。
例えば、タッチ操作に慣れていないと、文字入力に時間がかかることがあります。
これまで手書きで短時間で済んでいた作業が、慣れるまでは逆に時間がかかってしまうこともあります。
また、ICT導入時に研修が不十分だと、保育士がシステムを使いこなせず、業務の混乱を招く可能性があります。
特に、システムのトラブル時に「どう対応すればいいかわからない」となると、業務が滞ってしまいます。
このような問題を防ぐためにも、導入時には十分な研修を行い、操作に慣れるための時間を確保することが重要です。
また、ICTに不慣れな職員でも使いやすいシステムを選ぶことで、導入のハードルを下げることができます。
保護者から理解を得られないこともある
ICTシステムの導入は保育士の業務効率を高めますが、すべての保護者が歓迎するとは限りません。
スマホやパソコンの操作に慣れていない保護者の中には、「紙の連絡帳のほうが分かりやすい」と感じる人もいます。
例えば、連絡帳アプリを導入すると、「使い方がわからない」「スマホの操作が苦手」という理由で、保護者が戸惑うことがあります。
また、一部の高齢の祖父母世代は、デジタルツールを使いこなせない場合もあります。
このような状況を防ぐためには、導入前に保護者向けの説明会を開き、ICTの利便性や使い方をしっかり説明することが大切です。
デモを行い、実際の画面を見てもらうことで、安心感を与えることができます。
また、どうしてもICTに抵抗がある保護者には、紙の連絡帳と併用するなど、柔軟な対応を行うことで不安の軽減につながりますよ。
個人情報を管理する上でセキュリティ対策が求められる
ICTシステムの導入は業務の効率が上がりますが、個人情報の管理にはより慎重な対応が求められます。
保育園では園児の名前や健康状態、保護者の連絡先など、重要な個人情報をデジタルデータとして扱うことになります。
例えば、システムの管理が甘いと、不正アクセスやデータ漏洩のリスクが高まります。
万が一、外部に情報が流出すると、園の信用問題にもつながりかねません。
これを防ぐためには、次のような対策を徹底することが重要です。
データの暗号化:情報を暗号化し、不正に読み取られないようにする
アクセス制限:必要な職員のみが閲覧できるようにする
パスワードの定期変更:強固なパスワードを設定し、不正ログインを防止
また、ICTシステムを導入する際は、セキュリティがしっかりしたサービスを選ぶことも重要です。
国内サーバーを使用しているか、データのバックアップ体制が整っているかを確認し、安全な運用を心がけましょう。
ICTは便利なツールですが、個人情報の保護を徹底することで、安全かつ快適に活用することができます。
このように、ICTシステムにはメリットとデメリットがあるため、園の規模や運営体制に合わせたシステム選びが重要です。
導入を検討する際は、保育士の業務効率化を目的に、ICTの活用によって、保育士が子どもと向き合う時間を増やし、より質の高い保育を提供できる環境づくりを目指していきましょう。