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農業革命から考える盲目的な事業拡大の落とし穴

読書が大好きな私にとって、トップ5に入る名著「サピエンス全史。今回は上巻から考えさせられた内容をシェアします。シェアしようと思ったのも日経デジタル版でこんな記事を目にしてふと思ったからです。

シリコンバレー銀行を中心とした金融機関の破綻をきっかけに取り付け騒ぎが起きており、銀行前で右往左往する人たちがリアリティをもって頭に思い浮かんだからです。

こんな時代だからこそ、過去から学び、現在を鑑みて、行動に繋げることが重要ではないかと思い、サピエンス全史を読んで考えていたことと繋がったので共有します。

■ 農耕化による贅沢品は必需品となり、新たな義務になる


個人的に刺さったのは、多くの人が話題にしている「虚構」を切り口とした認知革命よりも、農業革命による暮らしの変化に関する話でした。

簡単に言うとこうです。

人類が農業を手にしてから定住し、食料の供給量が増え、人が増えた。

人が増えたので食料が足りなくなり、更に農業にリソースを投入。また、定住化に切り替えたことで動くに動けないため、収穫量が多いと敵に狙われることから見張り強化にもリソースを投入する。

安定的に食が手に入るぞと思っていたが実際のところは半端なく労働力が増えていて捉え方によっては負のスパイラルに入ってるという構造です。
これを筆者は次のように表現していました。

数人の腹を満たし、少しばかりの安心を得ることを主眼とする些細な一連の決定が累積効果を発揮し、古代の狩猟採集民は焼け付くような日差しの下で桶に水を入れて運んで日々を過ごす羽目になったのだ。農耕のストレスは広範の影響を及ぼした。

ユヴァル・ノア・ハラリ | サピエンス全史(上)

そしてハラリは次のように指摘している。

歴史の数少ない鉄則の1つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、と言うものがある。

ユヴァル・ノア・ハラリ | サピエンス全史(上)

痺れます。この一言にすべてが詰まっている気がします。これは今の時代に突き刺さるものがあるのではないかと感銘を受けました。

■ 人が増えると引き返せなくなるという事実

もう少しみてきましょう。筆者曰く、農業革命で後戻りできなかった理由のひとつとして、人口が増加したために、今更引き返せなかったと言う事情もあるとのことです。何だか、慣性の法則であり、太平洋戦争が脳裏に浮かびます(詳しくは「失敗の本質」を読んでみて下さい)

■ ビジネス視点で考えてみる

ビジネスで考えてみると、人口が増え、モノが足りない時代の高度成長期モデルで作れば売れるを前提とし、今もなお盲目的に兎にも角にも「成長だ」「規模の拡大だ」「スケールだ」と号令がどこか空しく響き続けている気がします。そこには今更感があり、盲目性があり、慣性の法則が働いているように思えてなりません。

農耕の話を読んでいると、規模の拡大を図り、売上を伸ばすために雇用を増やしたものの、いつの間にか雇用を維持するために売上をつくることに血眼になっている状態の企業そのものではないでしょうか。ここで企業の種類を分けて考えてみましょう。

 - 上場企業視点

上場企業にとって「成長」は宿命です。つまりど真ん中です。上場したら会ったこともない不特定多数の株主が大量発生し、彼らの殆どは売買差益を得るために株を購入しているため、企業価値を上げろ、売上、収益上げろ、お金になる事業をしろと、プレッシャーをかけるのは当たり前の構造です。

そして日本の労働法により、米国のように簡単に従業員を解雇することはできません。すると収益面から雇用維持にも限界がきて、プレミアムを乗せて希望退職を募る。また昨今では副業解禁で会社が将来を見据えた人材の流動化をスムーズにすべく外堀を固めていく流れがあります。

 - スタートアップ視点

最近ではM&Aによるエグジットも増えていますが、上場目指すところが多いですよね。VCやCVC、エンジェルからの資金調達を前提とした場合、構造としては上場企業と株主の関係とほぼ同じです。VCも当たり前ですがビジネスなので、運用してきちんと出資元にリターンを提供する必要があり、リソースも投下するので、むしろプレッシャーは強いと言えます。

業績や展望が下方修正に入って行き詰ってくると、実質的な主導権が徐々になくなり、気づけば人件費という巨大な固定費の蓄積に会社が埋もれて、とにかく数字を追う毎日になることはありがちと言えます。

 - 中小企業視点

中小企業の場合、通常はオーナー系が多く、株もほぼ100%創業者兼社長、もしくは同族100%が多いですから、外部株主からのプレッシャーがほぼないので、自分たちの意思に反して外部から「成長」を常に求められることはありません。

また、資金調達は銀行からの融資がメインであり、出資ではなく、融資ゆえに相対的にフェーズ関係なく赤字に対してシビアですから、そもそもビジネスとして成り立っていない赤字続き(あるいは見込み)の企業に多額の資金を融資することはあまり考えられません。融資後に事業が行き詰まり、債権回収が難しくなると銀行からのプレッシャーは同様にあります。

但し、もちろん中小企業も市場で競合と鎬を削っているため、主体的な成長は必要であり、そのために雇用もするでしょう。但し、「個人的にはどうしても雇用したい人ではないけれど、予実のこと考えると取らざる得ない…」的な思考にはなりにくいため堅実な意思決定がし易いとも言えます。そのためそもそも人を採用し過ぎることがないと言えます。

 - 働き手の視点

一方で雇用される側はどうでしょうか。時代は変わり、個の力がより発揮できるインフラが急ピッチで整ってきています。

終身雇用はお手上げと財界の大物がメディアの前で言及、そして副業解禁の流れ、またコロナでのリモートの流れから中央集権的にオフィスに集まることなく個人がリモートで働く分散型のワークスタイルが加速化、クラウドソーシングも汎用的な仕事から、専門性の高い仕事まで、またコンサル的なプロフェッショナル系の業務もプロジェクトベースで個人を集めては解散するサービスモデルが台頭しています。

過去を振り返り、現状を鑑みることの重要性

以上纏めると以下3点です。

①農業革命を手にした人間の想定外の苦しみ
②現在の口を開けば隣習えのスケールイズム
③個のワークスタイルの変化

以上の3つの観点から、盲目的な規模の追求は勿論のこと、会社にとって規模の追求がビジネスモデル上必須でない限り、マーケット設定やビジネスモデル、業務プロセス、雇用モデル、オペレーション体制で目的の実現をカバーできないかを改めて考えてみることも一案かもしれません。

ちなみにですが、突き詰めればグローバル競争に紐着くから規模を追求しないと淘汰される、という考え方は設定しているマーケットやどういう戦い方をするのか等のビジネスモデル次第と言えます。

また、中小企業の老舗の多くはずっと同じビジネスをしているのではなく、変化して老舗に至ります。進化論を持ち出すまでもなく、時代に合わせたビジネスモデルにアジャストしていく必要があり、盲目的にとにかく規模という発想は裏を返せば知恵ある戦略のオプションが品切れで力業で行っているだけという捉え方も可能です。前提を決めつけずに考える姿勢が鍵を握ると言えそうです。

今後の企業と雇用のあり方

業種にもよりますが、今後より雇用形態が流動的となり、有機的に案件毎に個人が集まって、終わったら解散するというプロジェクトベースがもっと普及していくと思います。その意味で会社の看板ではなく、より個が前面に出てくる中小企業や小規模事業者がもっと増えていくのかなと思います。そのためのキャリア形成をすることが重要になると言えそうです。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ

有名な言葉ですね。農業革命の恩恵が現代の生活のベースとして脈々と受け継がれていますが、一方で人が増えすぎた際に後戻りできなかったという学びのポイントがあります。

この農業革命の歴史からの学びを、ビジネスに限らず物事を考える際の一つの評価項目としてとらえてみてはいかがでしょうか。


■ 今回の書籍について


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