伊瀬谷四季に命を救われた話

 ちょっと仰々しい題名になってしまったが、本当にそうなのでそう書くことにする。

  概要としては、いちオタクがアイドルマスターsideMに触れ、伊瀬谷四季を好きになるまでの経緯である。
 ちょっぴり長くなってしまったので、興味のある方は興味のあるところだけ、かい摘まんでお読み頂ければと思う。



sideMを知るまでの経緯


  sideMそのものを認知したのはもう随分前で、大学のサークルに入った時だったと思う。

 オタクはオタクのサークルに入ったが(当然)、「アイマス」は世代を問わない共通言語だったし、めちゃめちゃ覇権ジャンルだった。カラオケのオールが開催される際、部屋の一つに「プロデューサー部屋」なるものがあって、夜の9時から朝7時まで途切れることなく盛況だった、といえば何となくは伝わるだろうか。

 その時は
「アイマスのカテゴリーに『sideM』ってのがあるらしい」
「男性アイドルのカテゴリらしい」
といった位の認識で、オタクからの受動喫煙はあったものの、直接に触れることはほとんどなかった。
 普段は所謂「男性向け」と呼ばれるジャンルに居住しているので、どちらかといえば周囲からはミリオンとかデレマスとかシャニマスとかを勧められていた。
 アイドルものが嫌いな訳ではなくて、かつては他のアイドルものにハマったこともあったので、おすすめされる『アイマス』はどれも良いなと思ったし、アイドルは皆可愛かったから、「『アイマス』は余裕が出来たらゲームやろうかな、アニメも観ようかな」位の感じだった。

sideM、伊瀬谷四季との邂逅

 その「余裕が出来たら」のタイミングが、ちょっと後にやってきた。
 就職が決まって、暇になったのだ。

 そこでふと、
「『sideM』に就職先一緒だった人居たな」
と思った。

 FRAMEである。
 就職先はFRAMEのメンバーに関係がある、という程度で勘弁してほしい(本筋にはあまり関係がないし)。

 オタクはsideMに詳しくなかったが、親友はsideMのPだった(以降は先輩Pと呼称させてもらうことにする)。
 「FRAMEの握野さん担当」という話や、ライブや朗読劇やストーリーが最高だった話は沢山聞いていた。どれも楽しそうで、全然知らないのに聞いているこちらまでワクワクする話ばかりで、だから覚えていた。

 最後のモラトリアムを謳歌するにあたって、これまで触れてこなかったコンテンツに触れてみることを決意したオタクは、先輩Pに手解きをお願いした。

 先輩Pとの会話の詳細は忘れてしまったが、「とりあえずアニメを観て、気になったアイドルが居れば参加しているライブを観てはどうか」、という話だったように記憶している。

 なのでとりあえずアニメを観た。

 めちゃめちゃ良かった。
 アニメが良かった話は詳細を述べると長くなってしまうので、全体の印象だけに留めておく(これも機会があればnoteにしてみたい。希望を言えば残り半分のユニットのエピソードも観たかった)。
 どのエピソードも良くて、皆様々に前職との間で悩むこともあれば経験を活かす場面もあって、皆「アイドルであること/誰かに伝えることを選んだ」決意に裏打ちされた輝きと重みがあった。
 説教臭いわけでもなくて、アイドルをする皆は楽しそうで、一生懸命で、キラキラしていた。
 とにかく良かった。

 その中で気になった一人が、伊瀬谷四季だった。
 アニメの彼は、時折空回りつつも、何事にも真摯に一生懸命だった。悩んで落ち込んでも、自分に出来ることを、何かしら行動に移そうとするひたむきさが、眩しいと思った。
 「歌しかない」と言いつつ楽しそうに歌う姿が、先輩達が卒業してしまう未来を予期しつつ、それでも「永遠」を口にする姿が、いじらしくて、強くて、素敵だと思った。
 どれも自分には無い純粋さだったから。

  他にも気になるアイドルは居たので、先輩Pにその話をしたら、「はちす(多分8thだと思う。間違っていたらごめんなさい)」の円盤の上映会をしてくれた。先輩Pのお宅にお邪魔して、借りたペンラを振ってライブを観た。

 ライブもめちゃめちゃ良かった。
 ライブそのものが良くて、知らない曲も、アニメに出てなかったグループも、凄く素敵で、あっという間に終わってしまった感じがした。
  終わった頃には、案の定というかなんと言うか、伊瀬谷四季のファンになっていた。煽りも歌も、あと「回転寿司(これも間違っていたらごめんなさい)」の姿も良かった。
先輩Pの家で崩れ落ちていた(比喩ではなく本当に)ので、先輩Pはかなりウケていた。

  帰ってCDを買った。これもあまり詳しくはなかったので、先輩Pが「ハイジョなら~」と勧めてくれたやつから幾つかを買った。職場は入社初期のうち、寮生活でスマホが没収される恐ろしい世界だったので、ウォークマンに入れた。暫くは、そればかりリピートして聴いていた。寮に持って行く鞄にも、ウキウキしながら入れた。

オタク、社会人になる
~そして伊瀬谷四季に命を救われる~

 そうして四月になって、オタクは社会人になった。
 FRAMEの方がかつてお勤めだった職場は、それなりに信念を持って、そこそこ望んで入った職場だったので、どんな職場であれ頑張るつもりでいた。期待して寮に入った。

 甘かった。

 詳しくは書けないが、制約が多く、厳しく、精神的にも体力的にもキツかった。
 入社初期は寮に泊まり込みになるのだが、その最初の数日が本当に辛かった。
 怒鳴られたし、怒られたし、自分の不甲斐なさを痛いほど感じた。理不尽なこともあった。
 オタクだったので、娯楽に一切触れられなかったのも辛かった。

 その結果、入社2日後には常に緊張しっぱなしで、いつも何かに怯える人間になっていた。自分の一挙手一投足、その全てが間違っているのではないか、次の瞬間には見えない誰かに怒られるのではないか、そんな気がしていた。
 怖かったし、ほとほと疲れ果てていた。
涙は出なかった。「泣いたら怒鳴られる」と思っていたなと、今振り返るとそう思う。

 入社して2週間経った週末、初めて外出が許された。同僚と別れて一人で買い物に出て、目的地までとことこ歩いていた。
 その道中に、踏切があった。
 休日昼下がりの、寮の最寄りの踏切は、あまりにものどかだった。周囲の家は、昼下がりらしい緩やかな静けさで満ちていた。
 オタクは遮断機の前で立ち止まっていた。遮断機は降りていなくて、普通に通れる状況だった。

 でも動けなかった。

踏切の中に立ってたら、寮に帰らなくて済むな。
電車が来た時に突っ込めば、月曜日は来ないな。

直感的にそう思った。

 死にたいと思った訳ではないけど、とにかく楽になりたかった。
 楽になる方法が、それしか思い付かなかった。

 警鐘が鳴って、遮断機が降りて、電車が近づいてきたあの瞬間は、スローモーションの様に今でも覚えている。多分これからも一生、忘れないと思う。
 もう一歩踏み出しそうなその時に、ふと脳裏を過ったのが、伊瀬谷四季の歌だった。

 まだ100万回は挫折してないなと、そう思った。
 足は止まっていた。
 衝動が引くのとほぼ同時に、電車が目の前を過ぎていった。

 おそらく、自分の足を止めさせた要因は複雑に絡み合っていて、無意識下には一杯あったのだと思う。
 でも確かに、それらの要素の1つが、そしてそれが表出して形を取ったのが、伊瀬谷四季の歌だった。

 そこで初めて唐突に、ウォークマンを持ってきていた事を思い出した。何の感傷もなく何曲かランダムで再生しているうちに『towerd pole star』が流れてきて、オタクはボロボロ泣いた。全然何でもない道端で、休日にボロ泣きしている人間が発生していたので、めちゃめちゃ怪しい人だったのではないだろうか。通報されなくて良かった。

"Pole Star 見上げて?
未来へ未来へ向かっている(イマを重ね)
迷わないように 目印として明るく光り
We are side by side"

 生きてて良かったと思った。
 本当に追い詰められていたんだなと思った。

 その後の寮生活は、伊瀬谷四季と、High×Jokerと一緒だった。辛いランニングも、自主トレも、しんどかった夜も、大体があのウォークマンに入っていたHigh×Jokerの曲達と、密接に結び付いている。
 心が折れそうな時、「まだ100万回目ではないな」と、「合宿の時の四季みたいに、もう少しだけ頑張ってみようかな」と、そう思えるように寄り添ってくれたのは、間違いなく伊瀬谷四季の、アニメの姿で、台詞で、そして歌声だった。

 結果として、100回目の失敗を数える前に厳しい寮生活は終わりを告げて、何とか半人前ながら一人暮らしで働き始めることができた。
 生活は平和になって、少しずつオタク活動を再開する余裕も出てきた。

 先輩Pに教えてもらって、ポータルサイトのストーリーやコンテンツも、楽しんで見ている。最近のファンコンライブも、配信ではあるが視聴することができた(すごくよかった)。次は朗読劇の円盤を購入しようかなと思っている。次のCDの発売前も、楽しみに待っている。カフェも行ってみたい。

 ちょっぴり未来の予定を立てたりして『プロデューサー』らしいことをし始めたから、そしてあの頃の事を振り返る余裕が出来たから、一区切りとして、今このnoteをしたためている。

ありがとう、アイマス。
ありがとう、sideM。
ありがとう、先輩P。
ありがとう、High×Joker。
ありがとう、伊瀬谷四季。

助けてくれて、ありがとう。
応援してくれて、ありがとう。

そして何より、
救ってくれて、ありがとう。

これからも、しがない新米プロデューサーを、どうぞよろしくね。

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