【スト6】ワールドツアーが「奪った」格闘ゲームの面白さ
強さとは何か?
ーそれは人にとって永遠のテーマだ。
それは僕にとっても同様で、ある時はマンg、書物を読み漁り、ある時はゲーm、世界を旅してまわったことによって多くの有益な知見を得られはしたが、未だに答えは出ていない。きっとそれは自分の生き様で示していくしかないのだろう。
今年の6月にリリースされた人気格闘ゲームの最新作『ストリートファイター6』に新しく導入されたシングルモード「ワールドツアー」の中でも、この問いがメインテーマとして提示される。
だが、ワールドツアーが物語上でプレイヤーに提示する「強さ」とゲームプレイ上で求められる「強さ」はかけ離れているように思える。プレイヤーがゲームをプレイして手に入れていくのは、見せかけばかりで中身が伴っていない偽物の「強さ」だからだ。
ワールドツアーについて簡単に説明すると、格闘ゲーム従来の戦闘に、探索や育成といったRPG的な要素を取り入れたアクションアドベンチャーだ。しかし、このRPG要素は格闘ゲームの面白さを単純で空虚なものにしてしまっているだけだ。
格闘ゲームを面白くするもの
そもそも格闘ゲームの面白さとは何だろう?
「1on1で相手のHPを0にした方が勝ち」というルールはアクションゲームとしてとてもシンプルで目を引くものではない。
格闘ゲームが他のゲームと比べてユニークな点は、コマンドやコンボといった操作技術の熟達、それを駆使してどう立ち回るかの戦術的駆け引きなどが挙げられそうだが、それらを成立させているのは条件の対称性ではなかろうか。
格闘ゲームは1on1という特性ゆえ、バトルロイヤル型のゲームのように他の敵と戦って消耗したところを叩く漁夫の利ムーヴはできないし、一発逆転を狙えるアイテムがドロップしたり、試合途中で地形が変化して有利/不利の対面が生まれたりするわけでもない。ゲーム側からプレイヤーにコンタクトを取ってくる機会が無いため、頼れるのは自分の実力だけという、勝敗から外的要因を徹底的に排除したデザインになっている。(数少ない反例としては、パーティゲームとしての側面も有している「大乱闘スマッシュブラザーズ」が挙げられるだろうか。)
数少ない外的要因と言えば、選択するキャラクター間での性能差が思い浮かぶが、よほど杜撰な調整になっていない限りは戦術の自由度の範疇に収まるだろうし、性能差に対して「キャラバランスが悪い」という指摘はできても、同キャラ選択ができる以上は、それを自分が負けた言い訳に使うのは無理筋だろう。結局のところ、負けた時は自分の実力不足を呪うしかないし、勝つためには腕を磨くほかない。
だが、それゆえに強敵を接戦の末に打ち倒した時は自分の上達を肌で実感できるし、自分の実力によって相手を上回ったという達成感や優越感が得られることも間違い無いだろう。
そろそろ結論を出そう。
僕が思うに、格闘ゲームが面白いのは、シンプルなルールながらも、対戦相手以外の外的要因が絡むことを徹底的に排除したデザインであるがゆえに、誰のおかげでもない自分の実力で勝ったという確かな実感を味わえる競技性の高い遊びだからだ。実力が全てだからこそ、自分の成長を確かに感じ取れる。
格闘ゲームの楽しさを奪うもの
ワールドツアーのRPG要素は、そういった格闘ゲームの上達や駆け引きの楽しさを阻害する。
本モードをクリアする上でそんなものは必要無い。それよりも更にお手軽で確実性の高いアプローチが用意されているからだ。
具体的にはレベルを上げたり装備を整えてステータスを強化する、もしくはアイテムを使って体力を回復したり、バフをかけたりして優位に戦闘を進めることができるだろう。
試行錯誤の末に僕が辿り着いた最適解は、回復薬をがぶ飲みしながらガード不能のコマンド投げを連打するという上達や駆け引きとは無縁のクソムーブだった。
僕の戦術に対して、先述したキャラ性能の話を引き合いに出して「お前がその戦術を使わなければいいだけじゃん」という反論をしたくなるかもしれないが、このアプローチを半ば取らざるを得ないのが本モードを考える上で大事なポイントだ。
対戦モードでは互いに同じキャラ、例えばルーク同士で戦えば、(少なくともそのキャラに関しては)どちらの方が上手いのかが簡単に分かる。それはキャラクターのステータスが変動することはないという前提条件があるからだ。
だが、ワールドツアーは違う。敵ごとにレベルもステータスもバラバラで、お互いにイーブンな状態で戦闘に臨める機会は無い。先述した条件の対称性をはじめから放棄していると言える。
自分よりレベルの低い敵の攻撃を喰らったところで大したダメージを受けないし、こちらが相手に与えるダメージ量の方が大きく、極論ガチャプレイをしていても余裕で倒せる。逆に自分よりレベルの高い敵は必殺技やSAを当てても雀の涙ほどのダメージしか与えられないし、こちらは数発攻撃を喰らっただけで大ダメージを被るということも少なくない。異常なまでに攻撃できる部分が小さかったりスーパーアーマーの持続時間が長い敵の存在もストレスだ。
もちろん、レベルを上げて適切な装備で臨めば、ある程度はCPUと対等(もしくは有利)に戦闘を楽しめる余地もあるのかもしれない。
だが、それを考える上ではレベリングの問題も忘れてはならないだろう。以下のリンクには本モードにおける効率的なレベルアップの手法が記載されているが、序盤から後半まで共通して沢山の敵を倒してレベルを上げることが推奨されている。そして効率よく敵を倒すのならば、行動はパターン化した方が作業ストレスを減らせるだろう。
このモードでは敵を倒す以外にレベルアップの手段は無い。メインクエストを追うだけでは敵のレベルに追いつかなくなってくるため、どこかでレベリングをする必要があるのだが、対等な戦闘を楽しむために退屈な作業を何時間もやらなければならないというのは、なんだか不毛に思える。なぜなら、ワールドツアーをやめて対戦モードを始めてしまえば、すぐに手に入るからだ。同じCPU戦をやるにしても、ステータス差でゴリ押すだけの前者よりも、なぜ勝てなかったのかを考えさせてくれる後者の方が遥かに面白い。
ゲームを進行していくと、各所で操作やテクニックのチュートリアルはしてくれるが、格闘ゲームの面白さをレクチャーするようなものは無い。それがワールドツアーの戦闘における最大の問題だ。
ワールドツアーの核となるもの
前項では、ワールドツアーの戦闘について「格闘ゲームの醍醐味である上達と駆け引きの面白さがRPG要素によって奪われている」という話を展開したが、ここまで誰でもクリアできるような調整にしたのは誰のためだろうか。本作のプロデュースを手掛けた松本脩平氏は以下のように語っている。
この発言を見るに、ワールドツアーは対戦を楽しみたい層よりも「ストリートファイター」の世界観やキャラクターとの交流を楽しみたい層を主なターゲットにしているため、そういった人でも気楽に遊べる調整にしたのではないかと解釈できそうだ。
確かに戦闘は面白くなかったが、要所で挟まれるカットシーンの出来は見事だし、対戦モードのプレイアブルキャラであるレジェンドファイター達をフォトモードで撮影したりすることに楽しみを感じなかったと言えば嘘になる。
だが、町中に点在する「この技を出せ」や「〇〇を倒せ(持って来い)」で埋め尽くされたサブクエスト、大したイベントもインタラクションも無い退屈なフィールド、最初から最後までありきたりで盛り上がりの無いストーリー、もしくは熟練度が上がるとテキストが少し変化する程度の会話システムが、「ストリートファイター」の世界観やキャラクターとの交流の楽しさを実現できていたとは到底思えない。
結局のところ、ワールドツアーの核となる遊びは戦闘だ。戦闘のためにレベルや熟練度を上げ、アルバイトをして装備やアイテムを買い揃え、メインクエスト/サブクエスト関係無くほとんどの問題を戦闘で解決する。それゆえ、その戦闘が根本的につまらない以上、ゲームとして見た時にワールドツアーは面白くないというのが僕の意見だ。
おわりに
実を言うと、僕は本作で初めて格闘ゲームを真面目に遊んだ。ワールドツアーを30時間、対戦モードを70時間の100時間程度、このゲームに打ち込んだ。
もちろん100時間程度のプレイタイムは、真剣に上達を目指している人からすればやっていないも同然だということは充分に理解しているつもりだが、それでも一般的な感覚からすると「ハマった」と言ってもよいだろう。
僕がこれまでに触れたことのある格闘ゲームといえば、『スーパーストリートファイターIV』や『ペルソナ4 ジ アルティメット イン マヨナカアリーナ』などが挙げられるが、どちらも10時間とプレイせずにリタイアした。友人と軽くガチャプレイで遊んでキャーキャーした楽しい記憶はあるが、それ以上を求める気にはなれなかった。僕の中で、それらと『ストリートファイター6』を分けたのは何だろう?
それは恐らく、面白さを感じるまでの学習コストが低くなったからだろう。本作から導入されたモダン操作の功績については、もう散々他の人が語り尽くしているので多くは語らないが、従来のクラシック操作の難しさに挫折した僕でも、「これならできそうだ!」と思えたし、簡単に必殺技やコンボが出せるようになったおかげで、格闘ゲームの上達や駆け引きの楽しさが少し垣間見えたように感じる。
だからこそ、僕はワールドツアーにも「これまでの格闘ゲームとは違う何かがあるに違いない」と胸を躍らせてプレイを始めた。ウダウダ文句を言いながらもメインクエストをクリアして、サブクエストもそれなりに潰したのも、「今は面白くないけど、もう少し進めたら面白くなるんじゃないか」という期待があったからこそだ。
結論から言うと、ワールドツアーにそういった「何か」は無かったわけだが、モダン操作然りワールドツアー然り、今までの格闘ゲームとは違う新しい試みの数々から、「もっと多くの人にストリートファイターを楽しんでもらいたい」という熱意が開発陣にあるということは充分感じられた。
次回作での更なる進化に期待したい。