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2000年代後半のインターネット ブログ・ニコニコ・ネット右翼
2000年代後半のインターネットについて書きます。
・2000年代後半はブログの時代
2000年代後半にはブログが流行しました。当時はnoteは無く、有名なブログサービスは、はてなブログ・FC2・Yahoo!ブログ・エキサイトブログ・JUGEMブログ・gooブログ・Seesaaブログ・みんカラ等でした。芸能人はAmebaブログを使っていました。
ブログの流行によってアニメの感想や、自分が作った模型やイラストなどを公開するオタクが急増しました。以下に例を挙げます。
それに対して、ブログ以前はHTMLタグという一種のプログラミング言語のような物(マークアップ言語) を直打ちするか、わざわざホームページビルダーというソフトを購入して作る必要がありました。以下がその例です。
私も当時大学生だったんですがブログを開いてマンガやゲームの感想を書いていました。FC2だった筈です。私以外のオタク友達もブログやmixiをしている人が多かったです。このように、当時はSNSがmixi以外無かったのでオタクはブログがコミュニケーションツールでした。また当時は自分のブログに来てもらうには偶然検索でひっかかるとか、リンク集に載せてもらうぐらいしか無く、島宇宙的な感覚だったと思います。「はてな」はブログ界のプラットフォームあるいはネット論壇のような役割があったので人気があったのかもしれません。
mixiとは最初期のSNSで、友達オンリーで日記を書いたり、その日記を読むと既読(足あと機能)がついたり、いろんなmixiのコミュニティに参加できたりしました。スマホ時代以降はいつの間にか廃れた後、「サンシャイン牧場」というミニゲームで一旦盛り返したんですが、それも炎上していつの間にか完全に廃れました。今のmixiは「モンスト」のゲーム会社に変化したようです。と思ったらこの記事を書く一週間前に突如「mixi2」というSNSが始まったので驚いています。
・2000年代後半はニコニコの時代
2ちゃんねるやニコニコ動画のような匿名コンテンツもオタクなら誰もが親しんでいました。2ちゃんねるは過去に書いたので省略します。ニコニコはボーカロイド・東方・アイドルマスターの3つがニコニコ御三家と呼ばれていました。また、この3つが未だに人気があるのは驚くべきことです。アイマスは衰退傾向にありますが、今後復活するかは学園アイドルマスター次第でしょう。
それ以外には松岡修造・久本雅美のような有名人や、マクドナルドのドナルドのような有名キャラのMAD動画も人気でした。アニメでは特に遊戯王が人気だったと思います。典型的なタイプは「星のカービィSDXのグルメレースのBGM」のような有名曲に合わせて有名人やアニメキャラが叫ぶような動画です。
TAS動画や改造マリオも人気でした。TASとはエミュレーターのセーブ&ロード機能を使ってタイムアタックやスーパープレイを再現する動画です。著作権的にグレーながら私も大好きでしたが、TASを「TASさん」と呼んであたかも実在の人物のように扱う風潮は欺瞞的だなと感じていました。今はTASが廃れRTAが人気になり、ツールに頼らない自分の腕を競うジャンルになった事は非常に良い事だと思います。RTAプレイヤーはオタクとして本当に尊敬します。
ニコニコではハレ晴レユカイのようなオタク曲を素人が「歌ってみた」「踊ってみた」動画を投稿していて、現在の配信者の元祖だと言えるでしょう。ニコニコではゲーム実況というジャンルが誕生しました。当時の人は「ゲームは自分でプレイする物だ」と小馬鹿にしていたんですが、現在では有名配信者のゲーム実況を眺めるのはごく当然の娯楽になっています。ゲーム実況の元祖中の元祖はテレビ番組「ゲームセンターCX」の有野課長(よゐこ有野晋哉)です。ニコニコ動画では「永井先生」という実況者が人気でしたが、私はゲーム実況は見ていなかったのでよくわかりません。
当時の人気動画・キャラをまとめた物に「組曲『ニコニコ動画』」があります。原曲はメロディーしか無いので元ネタをまとめた動画を紹介します。
これを見ると御三家・深夜アニメ・ジャンプ作品(遊戯王・テニプリ等)・デジモン・スパロボ・レトロゲーム・アダルトゲームがニコニコ動画で人気があった事がわかります。これが2000年代後半のオタクが見ていた風景でした。2000年代後半ではあるが必ずしも2000年代後半のコンテンツがウケている訳ではない事、懐古的コンテンツも多い事に注目してください。
2010年代以降、Youtubeや動画定額配信サービスの画質がどんどんHD化していくのに対し、当時のニコニコ動画は「会員になれないと動画を見れない」「プレミアムユーザー以外は恐ろしく画質が悪い」「シークバーを動かせない」というように非常に低レベルなサービスしか提供できませんでした。動画サービスの改善を怠り、資金を「ニコニコ超会議」というリアルイベントに投入する事で現実逃避を続けた結果、ユーザー離れを引き起こし、クリエイターが全員Youtubeに移行する事でニコニコ動画は没落しました。その一方でMAD動画のようにYoutubeで収益化不可能なオタク文化はニコニコ動画に残りました。
ゲイについて。ニコニコ動画ではビリー・ヘリントンというゲイ男優の「ガチムチパンツレスリング」という動画のMADや、2ちゃんねるでは山川純一の「くそみそテクニック」というゲイ漫画が男性同性愛者をネタにしたコンテンツとして人気でした。2010年頃から上記コンテンツは廃れ、「真夏の夜の淫夢」というゲイビデオのMADが人気になり、その人気は現在まで続いています。有名配信者がみんなYoutubeに行ってしまったので、ニコニコ動画は淫夢MADぐらいしか楽しめるコンテンツが無くなり、2010年代以降のニコニコ動画にはどこか閉鎖的な雰囲気があります。それ以外ではMikuMikuDanceという3D動画作成ソフトを使った動画が人気でした。
↑2010年代以降はニコニコでも艦これが人気になったようだ
・ゼロ年代のネット右翼
当時のオタクは嫌韓・嫌中意識が強い代わりに、現在のような女叩きは少なかったです。
昔の僕は中学生の頃に小林よしのりのゴーマニズム宣言・戦争論を読んだり、「maaと愉快な仲間たち」というサイトの「世界史コンテンツ・○○先生の補習授業」というコンテンツを読んでからずっとネット右翼でした。
2005年に山野車輪のマンガ嫌韓流という本が出て、ネット世論ではネット右翼がブームになりました。当時大学生だった私は逆張りが好きなので逆にネット右翼って恥ずかしいなと思い、大学生の頃はずっとリベラル側に立っていました。当時のネット右翼は本当に暴走していて、韓国人に対して平気で差別語というか、人間扱いしないようなワードを使っており、人種差別主義者と言われても仕方ない状況でした。
「テコンV」というマジンガーZのパクリアニメやパラサイトのポン・ジュノ監督の「グエムル-漢江の怪物-」等を挙げて、ネット右翼は韓国の文化は全部パクリだ、ウリジナルだと言っていました。
また当時は中国のダンボール肉まんや冷凍餃子のメタミドホス混入などで、中国製品の信頼度は非常に低かったです。中国製品は毒入りだ、なんでも爆発すると言われていました。私も昔は中国製品を信頼していませんでしたがAnkerのイヤホンやバッテリーを使い始めてからは中国製品好きです。
2000年代のネット右翼がどれだけ中韓を貶めても、日本軍が日中戦争で行った戦争犯罪は消える訳ではありません。戦争を起こした日本が戦後繁栄し、韓国が分裂国家になって悲惨な内戦や軍事政権化で苦しんだ事も不合理で仕方がないです。それを無視してなぜ中韓を差別し続けたのか?それには、バブル崩壊以後の暗い労働環境や韓国に製造業で抜かれつつある事への怒りが、彼らネット右翼のフラストレーションに繋がったとも考えられます。
また、北朝鮮の核ミサイル開発、拉致問題。韓国が竹島を盗んだ事。中国の軍事大国化やチベット人・ウイグル人への虐殺・拷問。など中韓北の側にも責められる部分はあります。当時のマスコミは現在より遥かに左傾化していて、あらゆる問題で日米は悪で中韓北は正義だと言われていました。非武装中立まで唱えるような学者が称賛されていて、とにかく自衛隊や米軍は悪だ、自衛隊を廃止しろという人がいました。そのような状況下がかえってネット右翼の反動を強めてしまった部分もあると思います。
・10年代のネット右翼
その後、民主党政権の失態・安倍政権の一時的な景気回復・中国の強大化等によって、リベラルの信頼は地に落ちました。ネット右翼は2010年代以降から百田尚樹の「永遠の0」がブームになったように高齢者がネット右翼化する事が増えたようです。それで雑誌WiLLやHanadaのようにネット右翼はビジネス右翼化していきました。その一方で左翼も反原発デモやSEALDSデモなどを繰り返しましたが、その度にかえってネットで嘲笑されるという高齢化と支持率低下の悪循環を繰り返しました。
民主党以前はとにかく民主党に任せてみよう、民主党が救世主だと思われていました。私もそうでしたし、麻生太郎を「ローゼン麻生」と呼んで持ち上げる2ちゃんねるユーザー達は不気味でした。しかし民主党政権の失敗から、オタクがどうこう若者がどうこうという話ではなく、全日本人が一気に保守化・右傾化したのが正解だと私が考えます。
それでしばらくは安倍人気が続きました。しかし自民党もアベノミクスの失敗が隠せなくなり、統一教会問題や裏金問題で国民の支持を失いました。
2010年代になってTwitterのようなSNSが普及し、学者の出鱈目を匿名の一般人がズバズバ切り捨てていくのが自然な光景になりました。自分が印象に残っているのはdadaさんというアカウントでした。SNS以降、マスメディア=嘘つき、文系学者=税金泥棒というのはネットユーザーのごく一般的な感覚になりました。もちろん、「たかじんのそこまで言って委員会」のようなテレビ番組も右翼雑誌も右派の学者も、全部マスメディアなので実際にはマスメディアVSマスメディア・学者VS学者の戦いなんですが。こうしてSNS時代になってから「何一つ信頼できる物は存在しない」というポストトゥルース状態になりました。私自身、2010年代以降は支持政党なしで選挙の度に投票先を変えています。
そうして自民党も立憲民主党もダメ、アメリカだと共和党も民主党もダメという事になり、先進国では政治に対して絶望感が広まっているように感じます。その結果がトランプ大統領の当選でしょう。今後は我々はイーロン・マスクのような超大富豪に支配されるディストピアに生きるのではないかと思います。トランプやイーロンやバンスやルペンやAfDを悪魔化する事は簡単ですが、やっぱりそうしたモンスターを生み出してしまったのは左右二大政党や官僚・大企業・既存マスコミ・御用組合が民を踏みにじってきた事が原因であって、カタストロフを防ぐためにはあらゆるステークホルダーが少しずつ譲り合う事が重要だと私は考えます。
余談ですが、ネット右翼には「日本は好きだが天皇が嫌い」という変わった特徴があります。2ちゃんねるの頃から今上天皇のAAがありましたし、最近だと悠仁親王が叩かれています。これも考察の余地がありますが今回の記事では書ききれないので問題提起だけしておきます。あと、最近では参政党のような「自然派愛国政党」も支持を集めているようで、第3のムーブメントです。
・男と女とオタクと規制
女叩きは不思議です。
私が記憶するに、ゼロ年代後半の頃は女叩きはオタク界に無かったはずです。当時はまだまだ恋愛至上主義だったので「女にモテない奴はカッコ悪い」という感覚が一般的でした。その一方でオタク界では「オタクのくせにモテたいとか言ってんじゃねえ!オタクならアニメや美少女ゲームのキャラに萌えんかい!」という風潮があったんですよ。その代表が本田透「電波男」です。フェミニズムもそんなに流行ってなかったし、それよりも嫌韓嫌中の事とか、あるいは任天堂派VSソニー派みたいなしょうもない争いが繰り返されていたように思います。
そもそもオタクという物は左派でリベラルなんですよ。元祖オタクの第一世代は手塚治虫のヒューマニズムや戦争で片腕を失った水木しげるの漫画を読んで育ち、反戦平和は当然だと考えています。特撮でもジャミラや沖縄人の金城哲夫が脚本を書いた、ウルトラセブン「ノンマルトの使者」・同じく沖縄出身の上原正三の帰マン「怪獣使いと少年」を通じて平和の大切さや差別はいけないという事を学んだのです。(すみません、「怪獣使いと少年」の方も金城脚本だと勘違いしてました。)
過去は「右派=表現規制派」「左派=表現規制反対派」だったんです。2010年には石原慎太郎都知事(たちあがれ日本)が青少年健全育成条例を作ろうとして、それを当時の漫画家や左派の政治家が食い止めたという事がありました(斎藤環『おたく神経サナトリウム』2015年 二見書房)。その当時は「マンガ・アニメを守るためにリベラルに投票する」というのはオタクとして十分理解できる行動だったんですね。例えば漫画家の山本直樹・山本夜羽音・高遠るいやライターの山本弘がこのタイプです。年齢が上ならば上なほどオタクは左派だし育ちも良いです。宮崎駿・坂本龍一・平田オリザのようなバラモン左翼(世田谷自然左翼)や、小林よしのり・筆坂秀世のように左派から右派に転向したタイプ、呉智英・高島俊男のような高い教養と中国への知識を持った反中反左翼タイプのように、年齢が上がるほどいろんなタイプがいます。
それがオタク第二世代から怪しくなります。この世代は東京埼玉連続幼女殺人事件によるオタクバッシングを受けた世代で、なおかつ就職氷河期世代だから社会から踏みにじられてきた世代なんですよね。だから強い被害者意識がある世代なんです。また、ダウンタウンやとんねるずの笑いを通じて日本人は「弱者を踏みにじるって面白~~い」と学習してしまったので、この時代を通過した非オタクの人はいつまでもオタクはバカにしたり差別してもいいと考えている風潮もあるんです。90年代末~ゼロ年代にエロゲーや萌えが流行ってオタク文化が軟弱化した事も理由の一つでしょうね。それで2000年代は秋葉原のメイド喫茶に行っているオタクを馬鹿にするようなテレビ番組もありました。
2010年の青少年育成条例以降からSNSの時代に入り、状況が突然反転したように感じています。SNS時代以降は急激にフェミニストによるオタクバッシングが増え、それに対抗するように男性擁護派のアカウントが大人気になりました。自民党はオタクを票田として見定め、秋葉原で選挙の最終演説をしたりオタク系の議員を擁立しました。それに対してリベラル系はどんどんフェミニストに向けた政策を主張するようになりました。
自分も正直昔はこういう男性擁護派のアカウントをフォローしていた時期もありました。何て言うか「既存メディアが誰も言っていない真実を発した」「自分が被害者だという事を気づかされた」事で自分がWokeしたような気分になったんですね。でも2010年頃からず~~~~~~~~~~~~~~~~~っとフェミニストとオタク系男性擁護派のアカウントが戦ってて、議論も何も進展せず、自分はもうこの争いに飽きていてどうでもいいわと思っています。
その原因は「何だかんだ言っても30代・40代にもなってずっとアニメ見たりゲームばっかりしているだけの男がモテるわけないじゃん。自分が女でもそんな奴と結婚するの嫌だろ」「自分も30代になって、社会全体でとても結婚・育児が出来るお金が無い人だらけでさらに物価も高騰しているのに、この状況で男女がどうこうとかもうどうでもいい。」「男も女も、フィクションやアイドルの世界に耽溺しすぎ。」「女叩きもアニメ美少女ももうどうでも良いから、自分の目の前の仕事とか、健康とか、そういう事を考えたい。」「恋愛や結婚自体が社会の富裕層向けの娯楽になってる」「子育てに対する親の責任や重圧が大きすぎ。資本主義社会において子育ては親本人に対しては何のメリットも無く、教育費も削られ社会福祉は全部老人向けに投入され、社会の壊死が進んでいるんだから、まずその状況解決が大事で、男がどうの女がどうのアニメ絵がどうのLGBTがどうのという事は疑似問題に過ぎない」などと考えるようになったからです。
韓国にしてもそうで、10代の自分はネット右翼成立以前の保守論壇に騙されて嫌韓的な思想を持っていた。しかし、日本が泡沫(うたかた)の繁栄をしつづける中で韓国人は国家分断・軍事政権に苦しみ続けてきた。また、徴兵制によって中露北の脅威に正に身を挺して惰眠をむさぼる日本人を守ってくれていた。それに対しては感謝の念しかない。申し訳なかったと思っている。
そして韓国は電子産業のみならず映画・アイドル・ソシャゲのオタク分野で日本に勝利したが、その一方で先進国最悪の少子化に見舞われている。あと数十年で韓国は国家存亡が危ぶまれる状態になるだろうし、それは日本も欧米も同様だ。その状態で「嫌韓・親韓」とか言ってもしょうがない。どうせ韓国も日本も将来的に消滅してしまうのに、そういう2ちゃんねる時代の古臭い論争で遊んでいられる状態ではない。
日本がこんな事になってしまった事に対して、オタク文化は結局の所鎮痛剤にしかならなかったんじゃないかと憂鬱に感じている。虫歯に対して鎮痛剤を使って放置するとそのうち根幹が腐って体中にバイ菌が回って死んでしまうように、オタク文化、いやあえて言うとゲームやハリウッド映画やロック音楽のような先進国のあらゆる大衆文化は、資本主義が暴走していって人々の生活がどんどん苦しくなっていく事に対しての鎮痛剤にしかすぎなかったのかもしれない。それを思うと本当に絶望的な気持ちになる。