『ハリウッド映画の終焉』(宇野維正) ハリウッドの終わりと世界オタク時代の始まり
こんばんは。今日は宇野維正・著『ハリウッド映画の終焉』(2023年・集英社新書)を読みました。
ここ数年、自分でも映画館の上映スケジュールを調べる度に「全然見たい映画が無いな」と疑問に思っていたんです。それで私は何となく「最近アニメ映画が強いから配給が邦画中心になっているのかな?」程度に思っていたのですが、この本を読んでハリウッド映画界が想像以上にとんでもない事になっている事がわかりました。
・製作本数も観客動員数も半減。
・ME TOO とキャンセルカルチャーにより、次は誰がキャンセルされるのかわからないという恐怖が蔓延した。(ただし、ハーヴェイ・ワインスタインのように過去のハリウッドでは相当悪辣な性的暴行が行われていたのは事実だそうです。)
・ポリティカルコレクトネスの推進。海外向け戦略もあり、あらゆる映画にポリティカルコレクトネスが盛り込まれるようになった。
・マーベルシネマティックユニバース映画(MCU)がディズニープラスで乱発されるようになり誰もついていけなくなる。
・映画がアメコミヒーローのこれまでのお話を知っていなければ全く楽しめなくなった。
・映画批評の崩壊。ネットの映画情報が全てファン向けになり、ファンの暴走やハッシュタグアクティヴィズムが起きるようになった。
・もはや多くの大物監督が「自分が今作っている映画が最後の映画かもしれない」と思いながら映画を撮るようになり、ノスタルジックな映画ばかり作られる。
・映画スターの消滅。
・ハリウッドではもはやオリジナル脚本映画が成り立たなくなり、版権ものしか作れなくなっている。
書籍ではそうした状況に抗う大物監督や新進気鋭の監督が取り上げられています。現在のハリウッド映画が危機的状況にある事がよくわかりました。本書のオチに当たる部分なので内容は読んでからのお楽しみとしますが、本書の末尾220p,225p~227pの文章は洋画好きの人にとってはまさに絶望といえる内容ではないでしょうか。
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以下は私が本書を読んだ感想と、私の目から見た2024年の映画界です。
本書では「IMAXのビッグスクリーンが映画の原体験を蘇らせる」として、IMAXを映画再生の突破口として書いています。一理あると思いますが、自分としては鼻白みました。それはなぜかというと僕は三重県の田舎に住んでいるんですが、三重県にはIMAX無いんですよ。
だからIMAXが映画を蘇らせるっていっても、結局都会のシネコンの話でしょって思ってしまいますね。
逆に僕が注目しているのはヘッドマウントディスプレイ(HMD)です。8年前に3Dゲームブームがありましたがあまり流行らず終わりました。今でも新しいHMDが発売されていますが、今後HMDが普及して大画面でネットフリックス等の配信を見れるようになったら、いよいよ洋画の存在価値が無くなるかもしれません。
↑HMD=21世紀のキネトスコープ?
この本によると2018年にネットフリックスで「ローマ」という映画が配信されたそうです。私も題名だけ知っていたんですが、ベンハーやグラディエーターみたいなローマ帝国の映画かと思っていました。
そうではなくて、1970年のメキシコのローマ地区が舞台の極めて芸術的なモノクロ作品だそうです。それがアカデミー賞を3つとり、ローマに続く芸術的作品が続々作られるようになったそうです。SNSを見ても、話題になるのは「地面師たち」「極悪女王」のようなネットフリックス製映画ドラマばかり。ネットフリックスの製作力は物凄い物があります。元々、ハリウッド映画が世界戦略でヒーロー物のように内容が単純化される一方で、例えば「ブレイキング・バッド」「ハウス・オブ・カード」のようにテレビドラマが良質になっていった経緯があるそうです。自分はエンディングが無い作品が嫌いなので洋ドラはほとんど見ないのですが、今思うと勿体なかったかもしれません。
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私の住んでいるような田舎の映画館は、日本のアニメ映画・コンサートのライブビューイング・応援上映のようなオタク向けの「推し活」のための施設に変貌しているようです。
三重のシネコンの上映日程を見ると、毎週のようにコンサート(アイドルだけでなくロックバンドも)や演劇のライブビューイングをやっています。しかも映画館では映像を見るだけなのにチケットが4000円以上もします。アニメ映画も特典グッズで何度も何度も同じ映画を見させようとします。自分の場合、こうした銭ゲバ商法に呆れてオタク文化への興味を無くした部分も少なからずあります。田舎のシネコンにとってはライブビューイングやアニメ映画が主で、アメコミ映画を除けば洋画はオマケみたいな物なのかもしれません。
もっとも、オマケながらシネコンではマイナーな洋画もシアターを埋めるためにポツリポツリと配給されていて、客は入らないんでしょうが何だかんだでシネコンがあってくれて有難いなあとは思います。
(余談ですが、こうした同じ映画を何度も見る風習がオタクに広まったのは2015年の「ガールズ&パンツァー 劇場版」からでした。実写だと「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」というラジオ番組のムービーウォッチメンというコーナーで、「バトルシップ」や「パシフィック・リム」のような映画を何度も見るというネタがあり、それが起源だったのかもしれません)
そのような視点で考えますと、アメコミ映画というものは「世界一成功したオタク向け映画」だと言えるのかもしれません。まず根本的に漫画のキャラが元ネタです。最新作を理解するのに過去のシリーズを50時間も100時間も観ないといけないなんて、まさにオタクの世界です。そうした背景がわからなくとも、世界戦略として英語が通じない&字幕も読めないような人が見ても満足できるぐらい派手でわかりやすくて楽しめるストーリーになっていますし、そうした派手さも日本のアニメーションに似ています。そう考えると、アメコミ映画の繁栄はまさに「オタク達の、映画(ハイカルチャー&サブカル)に対する勝利宣言」として誇るべきものだと言えるのかもしれません。
今では考えられないでしょうし私も生まれてないんですが、1980年代以前はアメコミ映画って存在しなかったし、あったとしてもキワモノ・ガキ向け扱いだったんですよ。昔はマーベルよりDCの方が人気があって、1978年からのスーパーマンシリーズも人気だったし、何といっても1989年からのバットマンシリーズは監督はティム・バートンだしジョーカーはジャック・ニコルソンで世界中の映画ファンから絶賛されたんです。その頃のマーベルは「ストリートファイターのキャラと戦ってるよくわからない人」程度の扱いで本当に影が薄かったんですよ。何ならイメージコミックのスポーンの方が知名度が高かったぐらいです。
↑そういえばマーベルVSカプコン・ファイティングコレクションが今年9月から好評発売中ですって。自分はこれのせいでサイクロップスとサイロックは有名キャラなのかと思っていました。
それが、今では「スパイダーマン:ノーウェイホーム」が週末興収の92%を独占するようになって、1950年代、60年代、70年代に撮られていたような映画映画した映画を撮ることが収益予測的に不可能になって、やっぱりハリウッド映画というジャンルは死につつあるのだろうなと私も思わされます。今後残るのはハリウッド映画ではなくアメリカ製オタク映画という訳です。もちろん日本のアニメ映画しかり、中国やインド(RRR等)の映画しかり、映画という芸術は今後も二、三十年は続くと思いますが、ハリウッド映画は歴史的役割を終えたそうです。少なくとも2024年現在ではオタクの勝利の凱歌とともに。
(タイトル画像はBing Image Creatorで作成)