ヒメヒナ物語『Refrain』 | 第五話
第五話
みとらじSS @病院の屋上
†††
「ヒナ…寝ちゃって……ねえ美兎ちゃん!ヒメ!ヒメのところ、行かないと!」
「まあまあ。さきほど親方さんにお会いしましたが、峠はこえたと」
「ほんと……?」
「ええ。鈴木の歌が届いたんじゃないですか?」
「ぅ………ぇええええ……良かった……良かったよぉ…………」
「よしよし。鈴木、頑張っていましたもんね」
「ぐすっ……そんなこと……ないよ」
「わたくし、中島さんから連絡をいただいて、わりと夜中から見ていたんですよ?そのわたくしが言うのですから、鈴木は頑張っていました」
「…ぐすっ」
「わたくしが保証します。田中が無事なのは鈴木のおかげだと」
「ぅっ……美兎ちゃん、やさしいね。声かけてくれたらよかったのに」
「お邪魔しては悪いかと。それはそうとして、わたくしの膝枕はいかがですか?」
「ふふっ……ぐすっ……うむ。なかなかに良いムチムチである」
「へへぇ……わたくし、かわいく頼れる委員長ですから」
「ヒナね、ふとももムチムチなおねーさんが好きなの」
「わたくしは、白くてふわふわしたモツが好きですが、女の好みとなるとなかなかひとつにはしぼれませんね」
「そうなの?」
「ええ。ガチで性格悪めのフランス人クォーター『中田・フランソワーズ・かほり』という女がメインヒロインのギャルゲーを作っているのですが、出したいキャラクターが山ほどいて悩むほどです」
「『中田・フランソワーズ』はふとももムチムチ?」
「どうでしょう。フランス人の血が混じっていますから、それなりにムチムチではないでしょうか」
「美兎ちゃんと比べると?」
「ムチムチ度では『かほり』でしょうか。なにせフランスですから。ですが清楚度で言えばわたくしかと」
「へへ。美兎ちゃんの清楚ふともも。いっぱいしゅき」
「ち、ちなみにですが、ふとももを抜きにしたら、鈴木はどんな女が好きですか?ギャルゲーの参考までに」
「……ヒメ」
「へ?」
「ヒメが好き」
「ふふっ。鈴木も田中も幸せものですね」
「でもヒナ、いまあんま幸せじゃないかも」
「産まれたばかりの赤ん坊を、こんちくしょうと愛している母親って、幸せな感じしませんか?この世の幸せをありったけ凝縮(ぎょうしゅく)してコトコト煮込んだ感じというか」
「うーん。ヒナ、子供できたことないから、ちょっとわかんないかも」
「もののたとえです。誰でも自分が可愛いはずなのに、誰かのことを自分より大事に思えること。そういうのを、幸せと呼ぶのかもしれないって思うんです」
「美兎ちゃん……」
「だから、田中のことをこんなに大切に思っている鈴木は幸せ者だと思います。まあ、16歳の小娘に語れる幸せなんて、たかがしれてるのかもしれませんけど」
「幸せって、ちょっと辛いね」
「そうかもしれません…その点、わたくしは自分のことが可愛くて可愛くて仕方がない不幸ものですから」
「ふふっ」
「ああ。わたくし可愛い。わたくし清楚。わたくし頼れる委員長。自分が可愛いすぎるわたくしは、きっと今の鈴木より不幸に決まってます」
「美兎ちゃん、ひょっとして……」
「なんです?」
「ヒナのこと、励ましてくれてるの?」
「……っ!ちょっと!やめてください。そんなまっすぐな目で見るの」
「じいぃっ…」
「ごっほごっほ。ごっほごほ…!うぇ。ちょっとどうしてくれるんですか!鈴木のまっすぐな視線が気管支に入ったじゃないですか!」
「励ましてくれないの?」
「し、しょうがありませんね。励ますと言っても、こんなシチュエーションなら誰でも言いそうなありきたりのムーブしかできませんけれど……ソシャゲのレアリティで例えるとノーマルくらいありふれたセリフなので、鈴木の経験値として肥やしになることを願うばかりですが……」
「うん。経験値にするね」
「田中は絶対元気になります。あの田中がこんなところでくたばるわけないじゃないですか。鈴木が信じなくて、誰が信じてあげるんですか!」
「ぶふっ!」
「な、なんで笑うんですか!人がせっかく…」
「ご、ごめん。でもだって美兎ちゃん、なんか可笑しいんだもん」
「なんでですか!」
「ぷぷ。くくくっ!だって…」
「わ、わたくしが余計なことを喋りすぎたってことかしら。やだやだ。わたくしって、どうしてこう前置きが長くなってしまうんでしょう」
「くくくっ!あははっ!」
「ちょっと鈴木!ああ、でもだからかもしれません。好きですよ。何の前置きもなくゲラゲラと飛び込んでくる田中のことが。……と、わたくしは結論を先に語って、田中への好意をストレートに示すことで回復を祈ってみましたけれども」
「くくっ。あはは。今日の美兎ちゃんおかしい!絶対なんか言い訳するんだもん。あはは。あは。あーだめ。おなか痛い」
「おなか痛いのは鈴木がいつもヘソ出してるからですぅ」
「あはは。あは。あは…だめ、苦しい…」
「なっ!なにもおかしなことなんて言ってません!鈴木がヘソ出しがちなのは事実じゃないですか」
「あははっ。うん。ははっ!そうだね。確かにヘソ出しがち」
「わたくしだって鈴木ほどじゃないにしろ、田中に目をさましてほしいって祈ってるんですからね。こい!ピカチュウって言ったら、ピーピカチュウ!って答えてくれるご学友の一人や二人いなければ、世の中つまらないじゃないですか。ね?ピカチュウ?」
「……?」
「ピーピカチュウ!って答えてくれるご学友の一人や二人いなければ、世の中つまらないじゃないですか」
「……??」
「ピーピカチュウ!って答えてくれるご学友の一人や二人いなければ、世の中つまらないじゃないですかっ!」
「……???」
「ね?ピカチュウ?」
「あっ!そういうこと!ぴ、ぴかぁー?」
「おーよしよし。いまわたくし、ポケモン金で幻のポケモンをゲットした時のような満足感を味わっています」
「ポケモン金?ずいぶん古いやつだね」
「ば、バーチャルコンソールで遊んだんですー!おーよしよしよしよし。ほれ、ぴかぁとお鳴き。ヒナピカよ」
「ぴかぁあ」
「おーよしよしよしよし」
「や、やめて。美兎ちゃん。アゴなでないで。くすぐったい」
「よーしよしよし。よーしよしよし。ごろごろー。ごろごろー」
「もーぅ!えいっ!反撃っ!……えへへっ美兎ちゃんの髪、いい匂いする~」
「ちょっと!髪に顔をうずめないでください!」
「ぴかぴーかぁ」
「もう。ヒナピカは甘えんぼさんなんですから」
「ね。美兎ちゃん」
「なんですか?」
「この後、落ち込むでしょ?」
「なんでですか!確かに田中のことで、多少なりとも落ち込んではいますけど、わたくしにこれ以上落ち込む要素があるとでも?」
「あのとき鈴木にこう言っておけばよかったって落ち込むような気がする。もっと上手く伝えられたんじゃないかって。励ますために考えてくれたこと、ほとんど話せなかったって」
「そ、そんなことあるわけ……」
「ヒナ分かるよ。ヒメと美兎ちゃんって、よく似てるから。二人とも、根はすっごい真面目」
「……田中と似てるというのには、多分に不満がありますけど、まあ否定はしません」
「ふふっ。美兎ちゃん、清楚」
「……ど、どうしたんですか。いきなり」
「美兎ちゃん、可愛い」
「……と、当然です」
「美兎ちゃん、いい匂いする」
「…………っ!」
「美兎ちゃん、頼れるいいんちょ。美兎ちゃんの気持ち、伝わったよ。励ましてくれてありがと」
「ああもう!なっ、なんでわたくしが、なぐさめられるみたいな感じになってるんですか。逆です。逆」
「あは。美兎ちゃん、ちょー目が泳いでる。いつもみたいに楽しくしてくれて、ありがと」
「だ、だまりなさい!鈴木っ!」
「ふふっ。あ!ごめん。そろそろ行かないと、親方また心配してるかも。ヒメのことも聞きたいし」
「謎の敗北感があって、釈然(しゃくぜん)としませんが、そういうことなら仕方ありませんね」
「こんな笑えるなんて、思ってなかった。本当にありがとう。またね!」
「ええ…また」
†††
「ふう……なんでわたくし、屋上に取り残されているのでしょう」
「着席ーっと」
「まったく……わたくしと田中が似てるんなら、田中が鈴木を好きな気持ち、ちょっと分かっちゃうってことじゃないですか」
「あーあ。ヘテロヘテロ」
■ 突然の次回予告っ!
はおー!ヒメヒナでーーす!
ねえねえ田中さん?ちょっとヒメヒメにしてもよろしいかしら?
なんですの?鈴木さん。ヒナヒナにいたしますわよ?
田中さんをヒメヒメにするのが先ではございませんこと?
う…ううっ…なんですのぉ……だまって聞いていればネチネチネチネチ、ヒメヒメヒメヒメヒメヒメとぉぉぉお……ブァーン!こっちはもとから田中ヒメだっつってんだよぉ!これ以上ヒメヒメにしたら、『田中ヒメヒメヒメ』になっちまうだろうがっ!
ブォォーン!こっちだってなぁ、鈴木ヒナつってんだよぉ。鈴木ヒナで完成してんだ。あぁん?それをよぉヒナヒナにしたらどうなるかわかんねーのかこのヤロー。『鈴木ヒナヒナヒナ』になっちまうんだよぉーっ!
「「次回!」」
『田中?ヒナヒナにしてやんよ!』の巻
え?ちょっとヒナ、これいったいどうなるの?
田中……ヒメヒナヒナ?
「「お楽しみにっ!」」
†††
第五話『みとらじSS@病院の屋上』
〜Fin〜
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