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字書き、自分の作風に合うフォントを探す
この記事のターゲット:
・同人小説書きの人
・フォントオタクではないけど、小説同人誌を出すときに本文のフォントを変えてみたいな、と思ったことのある人
ここでは、小説本文によく使われる各種明朝体(有償フォント)について、軽く解説していきます
本文ができてからの迷いごと
いつもSNSやpixivで小説をちまちま書いて、ある程度の分量になったら印刷して通販したり、イベントに出展しています
そして印刷前には、「今回の作風にはどのフォントが合うのか?」毎度悩む
時代モノはオールド系、現代モノではモダン系、ってジャンルによって使い分けたり(商業小説でもそうやってフォント選定をすることがあるようです)
極端な話、フォントなんて読めりゃ何でもいいんだけど、モノ作り大好きオタクだし、こだわれるならこだわりたい!
気にしない人は気にならないでしょうけど、フォントひとつで「読書体験が変わる」というか、フォントを変えて組版してみると「案外違うなー」といつも思う
フォントを変えることで、本文が
・エッジのきいたハードボイルドになる
・よりエロティックになる
・めっちゃ「文芸作品!」って感じになる
こうした効果が得られると思ってます。ある種のバフとでもいうか…
もちろん、質実剛健中身重視、俺はMS明朝で行くぜ!!もアリだと思う
でも、ここは少しフォントの持つチカラに頼って、お洒落にしたり遊び心を加えてみてもいいのでは?
こういうの、字書きならではの楽しみだと思う
世に溢れる大変ありがたいフリーフォント(源暎こぶり明朝、夜永オールド明朝等)であれば、自分で組んで確認すればよいのですが
有償フォントを使いたいなと思ったときは、そう簡単にはいかない
前の記事でも紹介しましたが、iPad持ちであれば、月額880円でモリサワフォントを使えるので、リュウミン等についてはお試しできるのですが…
Windows、Word使いの方などは、
・2万以上出して、清水の舞台から飛び降りる気持ちでフォントを買う
・血涙を流しながらAdobe税を払ってAdobeFontsを使う
こうでもしない限り、MS明朝、游明朝、源暎こぶり明朝くらいしか選択肢がないのではないでしょうか?
自分はいろんなフォントで見比べしたくて、悶々としてました
フォントの見本ページで、短文ならテキスト入力して確認することはできる
が、本文組見本で宮沢賢治のテキストを見ても、「このフォント、宮沢賢治の作風にはよく合うな」ってことがわかるだけで、自分の作風に合うかどうかは分からない
特に自分は、ラノベっぽい一人称で軽めの作風、現代モノにすることが多いので…全然参考にならんし、自作で組んでみないとマジで分からん
あと、組んでみて初めて「この漢字の組み合わせ、バランス悪い」って気づいた経験があります(漢字の横幅が微妙に違って、変にガタついて見えた)
で、それが推しキャラの苗字だったので、泣く泣くフォントを変えざるを得なかったという…
どのフォントを選ぶのがいいの?
ざっくりと一般小説に使われる有償の本文用明朝体ごとに、どのような特色があるのかを紹介します
かっこ内はウェイト(太さ)で、Lはライト(細い)の意。RはレギュラーでLよりちょっと太め
サンプル文は、ひらがな、各種記号、数字、濁点付きかな、セロ弾きのゴーシュの一部分です
サンプル画像は拡大してご覧ください。縮小されすぎてなんも分からん…
リュウミン(L-KL、KS+L)
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ザ・スタンダード。商業小説ではどこでも見るし大体これ、という印象
太さは、LではなくRを使ってる場合もある
作風を選ばず「とりあえずこれ選んどけば間違いない」
新潮文庫や各種ラノベ、他レーベルで数えきれないくらい採用されています
縦書き長文の場合は、かなスモール(KS+L)推奨
でもL-KLでもそんな悪くない、というか微差すぎて分からん
とても美しく読みやすい端正な姿は、王者の風格
リュウミンオールドかな(KO+L)
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上記のリュウミンの漢字・英数字に、オールドスタイルの仮名を組み合わせたもの
やや古めかしい「かな」は優美な印象がある
リュウミンなので基本的に作風は選ばず、わりとどんな文体にも合いますが、よりしっとりした作風のが似合うかも?
ヒラギノ明朝(W2、W3)
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シャープな印象の、これまたスタンダードな明朝体
講談社文庫等で採用されている。クリーンでキリッとしており、その美しさはスティーブ・ジョブズのお墨付き
Mac・iPadにはW3が標準搭載 サブスクに載っていないW2は本文用で、W3よりやや細く、漢字よりかなが小さい
※一般的に、小説の本文用書体は「漢字」より「かな」が小さいことが多い
筑紫明朝(LB)
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猫も杓子もリュウミンでは面白くないので、一捻りを加えたいときはこっち
スッキリ整って上品で高級感があり、これで本文を組むと一段格上の仕上がりになるような書体。これぞ高見え!
作風を選ばず、どんな文体でも「意外と合うじゃん」ってなることが多い
筑紫オールド明朝(R)
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上記、筑紫明朝のオールドスタイル版
筑紫Aオールド、筑紫Bオールド、筑紫Cオールドといろんなバリエーションがある
結構個性的、かつ優美で艶やかな印象なので、作風は選ぶけど、「合う」場合はこれ以上ないくらい効果的な本文になる
自分の作風に合うかどうか、ぜひ組んで試してほしい
(こっそり)えっちな作品にも合うと思うよ!
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この書体、なんかえっちだなって思いません?文字にえもいわれぬ色気があるんだよね
おそらく運筆に「くねり」があるというか、曲線が多いからだと思う
イワタ明朝体オールド(R)
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リュウミンに続き、商業小説で本当によく見る書体。迷ったらこれを使え!
新潮文庫、ハヤカワSF他多数で採用されており、これまた作風を選ばず、何にでも合うような懐の深さを持っている
長文の物語・文学作品によく合い、ものすごく読みやすく「物語」に集中できる
ガチガチシリアスにも、まろやかなラノベにも合うので、自分はこれが一番好き
秀英明朝(L)
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大日本印刷(DNP)のカンパニーフォント。100年以上の歴史を持つオールドスタイル
かなが結構特徴的で、「い」を見ると一発で分かる
文芸系でよく使われる。芥川賞の受賞作品でも高頻度で使用されるし、広辞苑もこのフォント
自作が歴史物だったり文芸系の場合は、このフォントを使うと一味も二味も違った仕上がりになることうけあい!
活版印刷のインクの滲みを再現した「秀英にじみ明朝」というバージョンもあり、大変レトロ美しいので、時代がかった作品によく合いそう
絶対ゲ謎に合うに違いない…と常々思っている。鬼滅もきっと合う
凸版文久明朝(R)
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凸版印刷(TOPPAN)のカンパニーフォント。ヒラギノ明朝(W3)と同様、MacとiPadに標準搭載
文春文庫で採用されている
ちょっと教科書体っぽいイメージで、スッキリとして読みやすく、どこか柔らかさのある書体
これも作風を選ばないので、組んだら意外としっくりきた…となる
他にも
モトヤ明朝(カッチリ系で辞書等で採用)
精興社書体(岩波文庫は大体これ、門外不出の明朝体)
本明朝(MS明朝の先祖)
A1明朝(にじみ系で雰囲気があるのでタイトル向き)
石井明朝(2024年やっとデジタルフォント化)
本蘭明朝(写植しかない。そのうちモリサワでフォント化されるはず)
等様々あるのですが、とりあず上記8書体あれば、どんな作風でもカバーできるかな、と思っています
で、試すには¥いくらかかるんだい?
Windows、Macユーザーの場合:
・AdobeFonts
リュウミン、ヒラギノ明朝W3、筑紫明朝、筑紫Aオールド明朝、秀英明朝、秀英にじみ明朝、他多数ある
ソフト単体の年額プランを選ぶのが一番安そうだが(単月払いだとめちゃ高くなる)、それでも最安で年間約7000円。単月は最安1080円
・モリサワフォント(Select8)
リュウミン、リュウミンオールド、A1明朝、本明朝、文游明朝体等、多数から8書体選択できる
年間契約26400円
・LETS(フォントワークスLETSの場合)
筑紫系全部、秀英明朝がある
年間契約49500円
※イワタ明朝体オールドは、イワタLETSに入ってるんだけど、これのためだけに年間約5万契約するのはキッツイ。単体で買った方がいい
・mojimo
フォントワークスなので、筑紫明朝系が色々使える
プランが多数あって複雑なので、サイト行って確認してください
かなーりお安く使えるようになっているので、筑紫系行きたい場合はこれが第一選択になると思う
また、「お値段お手頃で、プロ御用達有償フォントで試しに組んでみたい」という場合もこれがオススメ。フォントワークスさんありがとう!
前述の通り、Macユーザーはヒラギノ明朝W3と凸版文久明朝はタダで使える
iPadユーザーの場合:
・モリサワパスポートfor iPad
リュウミン、リュウミンオールド、A1明朝、本明朝等多数
月額880円。リュウミン系行きたい場合はこれ一択
・mojimo
PCでもiPadでも使えるmojimo。値段はプランによるが、安いので大変良い
…とここまで並べてきたものの、色々試したい場合は結局高くなっちゃう…
ので!
フォントを選んでPDF・画像出力できるサービス、やってみたい
自作にはどのフォントが合うのか、本文書体迷子になってしまった方のために、任意の書体を選んでPDF or 画像で出力するサービスをやってみたい
自分が本を出すときに欲しかったサービスなのですが、世に無いようなので…
有償フォントの見比べ用で、印刷所への入稿には不向きだけど、
●WEBイベントでの展示作品
●ネップリでの印刷用
●X(Twitter)での作品展示
としては使用できる、って感じで
どえらいニッチ向けサービスですが、自分がかつて困ったことなので…
私の悩みが世界で唯一無二ってことは無いはずなので、誰かしら刺さる人はいるんじゃないかな
金儲けとか小遣い稼ぎってより(そこまで需要なさそうだ)、自分と同じように困ってる人に、安価で情報や判断材料を提供できればなー、という感じです
正式な組版サービスを展開されてる方は多数いらっしゃるので、印刷所にお願いするときは、そういうサービスを使うとよいかと
自分はその前段階で、印刷はしないけど試してみたい、というニーズに応えたいなと思っています
でも、ココナラだと3000円から、スキマでも1000円からなんだよなあ…正直500円でいいんだが
金額を自由選択できるプラットフォームは無いんか?別にダンピングじゃないんだからさ〜
似合うフォントを選んだその先は?
うまい具合に合うフォントを見つけたとしたら、じゃあ実際それをどうやって使う?って話になるんだけど
SKIMA、coconalaにある組版サービスなら、大体インデザで組んでるんで、AdobeFontsでカバーできる分は対応してもらえるんじゃないかな
イワタ明朝体オールドだけは、扱ってる組版屋さんにお願いするしかないだろうけど
ALBA LUNAさんとか
もちろん自力調達(買い切り、サブスク契約)もアリだと思います
同人小説、もっと本文用フォントや組版にこだわった本がたくさん出るといいな〜!