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同人小説を鈍器にしたくない

28万字書いたはいい。しかし鈍器小説にはしたくない…その戦いの記録です


何よりもまずは、読んでもらうために

最初に大事なこと
鈍器小説作ってる人にケンカを売るつもりは、全く!ありません!!
鈍器小説いいじゃない。頑張って書いたんだから
そもそも字書きなる生き物、本が好きで好きでたまらないはず
好きが高ずるあまり、自分で小説書いてるんだからさ
となると、分厚い本を見ただけでテンション上がるよね〜
名実ともに薄い本も良いものだけど、厚いといっそう達成感を得やすいし
自分へのご褒美、記念的な意味合いもある
同人誌って自由だから、どんな形式にしたっていいんだ!

一方で、せっかく同人誌作るんだから、まずは読んでもらいたい…
となると、読みにくいシロモノは避けねば
ただでさえなかなか感想もらえないってのに、読めないとあらば、感想なぞ湧いてくるわけもなし
もしかしたら、この世のどこかにあるかもしれない0.1%(感想を送ってくれる大変ありがたい人の率)を、0にするわけにはいかないんだ…!
もしかしたら「厚いっすね〜これから頑張って読みます」くらいのご意見はもらえるかもしれんが
私は読んだあとのご意見が欲しいんだわ

組版を考える

いっそのこと、本文が50万字だったら諦めもついたんだと思う
分冊すっか、と…
しかし目の前にあるのは28万字のテキストである
これはすっごい微妙なラインで、組版を工夫し、本文用紙を薄い物にすれば、ギリギリ一冊で収まる程度なんである
ここで選べる選択肢は3つ

判型

  • A5
    同人誌小説でよく見る。ただ、昔に比べると文庫サイズの本が増えたぶん、見かける頻度が減りましたね
    表紙をイラストにすると、イベントで(チッなんだ小説か)と戻されるリスクが高まる
    自分は、n年前まではA5で小説作ってました
    でも、300ページの再録本作ったとき、あまりの重さと読みにくさに慄き、そしてウッカリ足の甲(しかも裸足)に落として致命的なダメージを受けて以降、A5小説本を作るのをやめました…あれは悲しい事故だった…
    一般的には、文字数多めでありながらも薄く作れるのがメリット
    仰向けに寝転がっても、持ち上げて読める重さ・ページ数が限度かな
    (だいたい〜200pくらい?)
    A5ってA6の文庫本より薄く作れるのは事実だけど、一定のページ数を超えると、文庫より重いしデカイで、思った以上に読みにくくなる

  • B6
    そこまで多くはないけど、一般商業小説でもぼちぼち見る判型
    作ったことないです 同人誌でもあんまり見ないような?
    単純にあまり親しみがなくて諦めたのですが、よくよく考えたらこのサイズが一番適してたのかも、と思わんでもない
    手よりちょっと大きいけど、文字はいっぱい詰められるいいとこ取り?

  • A6(文庫サイズ)
    一昔前に比べると、よく見るようになりました
     ・カバーをかけると一般書籍に擬態できる
     ・手のひらサイズに収まるので、あらゆる場面で読みやすい
     ・大抵の場合、A5、B6より軽い
    などのメリットがあります
    今回は、A6の文庫本サイズにすることにしました

文字数と行数、フォントサイズ

小説の鈍器化を防ぐため、ページ数はあまり多くしたくない
となると、文字をギュギュッと詰めなくちゃいけないことになる
しかしあまり詰めすぎても、読みにくくなってしまう…
こういうときは、一般の小説(文字詰め詰め)のお手本を見るに限る!!

リヴィエラを撃て(上)髙村薫 新潮文庫 500ページ
これ持ってイギリスのドーヴァーに聖地巡礼に行きました。ああ伝書鳩…

組版は41字18行、フォントサイズ8.5pt、(多分)イワタ明朝体オールド
しかしこれを真似るためには、この本と同じくらい紙が薄く軽く、柔らかくないとダメだ
この本は手で保持しなくても、この角度で開いたままになるんです
てことは、それだけ柔らかく開きやすい紙だってこと すごいよね
そしてこの本のレイアウトを真似しようとすると、ノド側を詰めないといけないんです
手に力を入れずともガバッと大きく開けて、ノド奥までしっかり見えるような柔らかさ、これがあって初めて実現する組版ってこと
これが実は、同人誌では意外と難しくてなぁ…

本文用紙から印刷所を決める

市販の文庫本を手に取ったとき、「あ、これ同人誌の小説でよく使われている紙っぽいなー」と思ったことあります?
同人小説によく使われる紙、つまり淡クリームキンマリの62、72、90kgあたりの紙ですが
(別にメヌエットライトCでも美弾紙でもいいけど)
私はあんまりないです 同人誌の紙って、一般の文庫本と比べると激アツよな!と思うことが多い
もしかしたら自分の握力が弱いのかもしれないけど、同人小説を開いたとき「反発つよ!」と思うことが多い
70kg代の紙でも「開くのに力いるなあ」と思ってしまうんだよね
もちろんそれでも読むことはできるけれど
しかし今必要なのは、あの柔らかさと薄さなんだ
あのコシ、広げやすさ、軽くて薄くて裏透けしにくい紙は… どこの印刷所にあるの???

…さあ、お前が選べる印刷所はこれだけだ!!

ワンブックス様

・ミステリッククリーム 斤量32kg 紙厚0.073mm
・プリンセスノベル 斤量32.5kg 紙厚0.072mm
驚異の32kg、612ページまで印刷可能
重さ、厚さ、硬さ、それぞれの面で文庫本としての可読性を維持しつつも、鈍器化を回避しようとすると、きっとこれが上限なのかな…
(あるいは製本機の限界なのか?)
しかも1冊から作れちゃう! 存在自体に感謝を捧ぐ

コミックモール様

・ライト書籍用紙クリーム  斤量50kg 紙厚0.08mm
600ページまで印刷可能
20冊から注文可能なのですが、驚くべきはその値段 なんと単価にして1,492円!!!(600p/表紙カラー/20冊)
料金設定間違えてるのでは…?🤔
いつもお世話になっております、これからもよろしくお願いいたします…

よく引き合いに出るのが、ちょ古っ都製本工房様、おたクラブ様あたりですが、印刷可能ページ数上限がいずれも500ページ
多少は相談に応じてくれるかもですが、いずれにせよ最も軽い紙で斤量57kgなので、重量と厚さでやや鈍器になってしまう…
つまり実質、ワンブックス様、コミックモール様の2択ということ
いやね、老舗や大手同人印刷所なら、こちらの相談に応じて刷ってくださるとは思うんですよ
でも、紙が…紙がねえんだよ! いま必要なのは、斤量50kg以下の薄くて軽くて柔らかい紙なんだあああああ!!
62kgでもちょっと、いやかなりキツいの!!!
各印刷所様、どうか紙を…薄くて柔らかい紙を揃えてはくれませんか…?

<2024年10月現在の特記事項>
コミックモール様は、製本スタッフ様の急病で受注制限されています…
とはいえ、9月に500ページ越え背幅21mmの本の印刷をお願いしたら、シワなし綺麗な状態で納品されてきました!
(背幅制限は今のところ38mmまで)
それでも心配な方は、カバーを巻いてもらいましょう
カバーは紙・印刷費・巻きのコミコミで、一冊につき150円
仕上がりも綺麗ですよ〜

実際に組版してみる

制作環境はiPad&縦式です
↓くわしくはこちらの記事をご参照ください

試しに以下の設定で組んでみた
41字18行
フォントサイズ:8.5pt
行間:4.5pt
天:13mm
地:12mm
ノド:15mm
小口:11mm

レイアウト設定が赤字(エラー)になってしまった

想定する組版の設定を入れてみましたが、あえなくエラーとなってしまいました
となると、どこかを削らないといけない 
候補はフォントサイズ、行間、ノド、小口のどれか
結論から言うと、以下の組版にしました

実際はヒラギノ明朝じゃなくて、リュウミンL-KLを使用しています

文字を小さくし、ノドを大きく取りました で、コレ↓が出来上がり
一刷目(リュウミンL-KL)、二刷目(リュウミンL-KS)
印刷所はいずれもコミックモール様

ジャンルバレしてますが、見なかったことにしてください…
フォントの大きさを比較。右は自作(8pt)
左は「のっけから失礼します」三浦しをん(9pt)集英社

使用した紙は以下の通り
表紙:ペルーラ 135kg スノーホワイト
カバー:耐水紙 135kg
本文用紙:ライト書籍用紙クリーム 50kg
背幅:21mm

開きやすく、そこまで重くもないし大満足 鈍器とまでは言えないはず
ただ…やっぱり文字小さいね そして二刷目は若干フォントが細ってるのがお分かりでしょうか?
一刷目はフォント細らなかったので、フォントを変えて二刷目行ったのですが、ここで見事にフォントが細りました
コミックモール様は細るとは言われていましたが、ようやくこの現象を目にすることができた!
※写真だと極端に薄く見えてますが、実際はそこまででもないです

ただ、一刷目と比べて細ったというだけで、掠れてはいませんし、個人的にはコレでも十分読めると思っています
たとえばフォントをリュウミンL-KSから変えずとも、フォントサイズを大きくするだけで改善できるのでは、と推測しています

…まあ、買ってくれた人には、文字小さくて本当にすまないと思っている…
自分はまだ老眼が来てないのと、フォント小さめのが好きなんで許容範囲内だけど、これだと小さすぎて読めぬ!の人も多かろう

どうすればよかったか?

候補1 ゆとりある組版にして、増ページ・価格変更する
候補2 フォントを大きくしてノドを詰める
…いったんは候補2でどうにかならないかなーと思っています
以下のような設定でどうだろう

フォントサイズ8.5ptに対して、行間4ptと狭め

まだ2刷目が完売してないんで、完売したら組版変えて3刷目行きたいなー!
もう需要自体がないかもだが

オンデマンド印刷で気をつけるポイント

  • PDFと印刷された紙を比較すると、一般的には紙面ではフォントが太りがちなので、フォントの太さに気をつけたほうがよいです
    Lで太く感じることはあまりない気がしますが、R、Mあたりは、フォントによっては文字が太くて「紙面の圧が強い」みたいなことになる、かも?

  • 本文用紙によっては、読んでいる時に紙面がやや眩しく感じられることもあるので、トナーの乗りが多くなる太いフォントは避けた方がいい気が
    ※紙のテカりは室内光の時に感じる。自然光ではそこまで気にならない

  • 300ページ以下なら、本文用紙の斤量が62kgでもじゅうぶん選択肢に入る

  • 可能であれば、ネットプリントで数ページだけでも原寸で印刷してみて、より良い組版を模索するとよいかも

小説同人誌を作るにあたり、参考になった書籍(同人誌)やウェブサイト

今回の記事は、ここがメインコンテンツです!!!

現在入手困難なものもありますが、どれも最高の資料です!!!
  • 『小説向け書体見本帖』文庫判
    https://moku-moku.shop/?pid=166088346
    同人印刷所の栄光(booknext)様の組版見本
    フリーフォント、OS付属フォントをメインに、あらゆる組版のパターンが掲載されています

  • 同人小説の為の明朝体比較 ver.2019

  • 同人小説の為のデザインの考え方と作り方
    いずれも現在は新刊では手に入らないと思いますが…
    特におすすめしたいのは「明朝体比較」のほうで、有償・無償フォントがなんと50種も掲載されています!!
    自分の作風と組版見本を見比べながら、次の本はどのフォントで組んでみようか…という夢が無限に広がる。フォントオタク同人野郎必携の書

  • 小説本文組版見本の本
    https://booth.pm/ja/items/5281896
    小説同人誌作る人で、このお方を知らないなんてモグリなのでは?ってくらい有名な方だと思いますが…
    本文には小説同人誌向け各フォントの組版見本があり、本自体は小説同人誌でよく使われる印刷所&本文用紙の束見本的なものになっているという、360度どこから見ても最高の「見本」です!
    いつも使用する印刷所、これから使いたい印刷所、って感じで複数冊買ってみることをお勧めします。印刷所ごとの特性、違いがよく分かる
    https://albalunaweb.net/memo
    こちらも激推し!サイトを隅から隅まで読むのは大変ですが、小説同人にまつわる知識の宝庫なので、読んだことのない方は是非

  • 創作おTips@地の文講座
    https://note.com/kashiri
    ペチカお嬢様が幅広く、懇切丁寧に記事を書いていらっしゃいます
    楽しくてためになる!癒される!!何も言わずに読んできて!!!
    コンテンツの幅が広いので、まずは気になる記事の拾い読みからはじめるのでいいんじゃないかなと
    そして読み進めていくうちに、あなたもいつしかお嬢様の虜に…!

  • モリサワフォントディクショナリー
    https://resources.morisawa.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/981/MFD3_web_1309.pdf
    読み物としても楽しい、フォント関連の辞書
    特に何も考えず本文ダダダッと書いてテンプレートに流し込んでPDF作って終わり!の段階を超え、プラスアルファのこだわりを入れたい、凝ったことをしたい…ってなったときに、途端にぶつかる技術用語の壁
    これを一つずつ解説してくれています

最後になりましたが、似たような悩みを持つ人の参考になれば幸いです


<おまけ>
トップ画は、前ジャンルと現ジャンルで作った小説本でした
足に落とした鈍器は、前ジャンルの一番下の本

前ジャンルは活動期間3年、今のジャンルは2年です

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