ウクライナ反転攻勢におけるロシア反撃の謎とその仮説

6月27日に「ロシア反撃に関する仮設」を追加しました

予想された苦戦

6月から本格的に始まったウクライナの反転攻勢が苦戦を強いられているということで、衆目が一致しつつある。

まあ、それ自体は事前からある程度予想されていたことで、そもそも今回の作戦自体がウクライナが過去にほとんどやったことのない攻勢作戦、しかもハルキウ反攻のときと違ってバレバレの状態、さらにカホクカ・ダム決壊でヘルソンから部隊が移動してきてると来ている。

ちょっと話はそれるけど、大手メディアに出ている元自衛官ってあんまり役に立たん(笑)。特に元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和が酷い。何が酷いって喋りがタルいのが一番なんやけど(笑)

ザポリージャ方面のロシアの防御線は、塹壕前、第1塹壕線、第2塹壕線、各都市等の守備と4段構えになっている。まあ、都市なんかは最悪兵糧攻めにできるとはいえ、3つは抜かないとアゾフ海まで出られない。で、現状のウクライナは0番目の塹壕前で苦戦している状態。

自分は第1塹線さえ抜ければ成功だと思っている。そこさえ取ってしまえば、相手が頑張って作った塹壕貰ってとりあえず足場の悪い冬前は守りを固めて、F16など航空機が供与されて寒さで足場が固まる年末年始から再び攻勢をかければよい。無理してこの夏の攻勢でアゾフ海目指して戦力消耗してしまっては意味がない。

どっちみち、この戦争は長い。アゾフ海まで抜けて、ロシア占領地を東西分断して、仮にクリミアまで取り返したとしても、ドンバス地方には年単位の時間がかかる。クリミアまでが半年で終わるか、1年で終わるかなんて些事に過ぎない。


ロシア反撃の謎

それよりも、自分はむしろロシアがルハンスク州や、ザポリージャ戦線などで、ロシア軍が反撃に出ていることに驚いている。もちろん、戦術的に反撃に出るのは軍事合理性もあるのだろうが、どうもロシアのは時間稼ぎにむやみに兵士を犠牲にしているようにしか見えない。まあ、兵士を犠牲にするのがロシアの伝統芸能だと言っても、兵隊さんの数にも限りがある。

毎日少なくとも500人、多い時で1000人失っている。これって少なくとも年20万人失ってることになる…去年9月に30万動員して、大体今年に入って本格投入しているが、このままだと今年持たずに使い果たしてしまうペース。果して、この夏の反転攻勢の間にもつのだろうか?


ロシアの反撃に関する仮説

前の節でロシアの反撃が過剰、つまり特に人員の犠牲が大きすぎるのではないかと述べた。もちろん、人の命をつぎ込んで戦果を得るのがロシア流だ。しかし、来年3月の大統領選を控えて、次に想定される空軍力を強化された”冬季”ウクライナ反攻の際に兵士が足りなくて追加動員となる事態は、プーチンは絶対避けたいはずだ。ではなぜ、こんな湯水のごとく人間を投入するのだろうか?

単純な議論は、とにかくザポリージャ、特にその裏にあるクリミアを守るのが絶対なので、後先考えてられないということもあるだろう。追加動員がタブーなのと同じぐらい、クリミアを失うこともあってはならない。むしろ、次の選挙さえ乗り切ってしまえば、なんやかんかで追加動員することさえ可能になるかもしれない。

ただ、もう少しミクロで、そして構造的な問題も考えうる。ロシアの軍事組織は上位下達が徹底されていると言われている。もちろん、命令が整合的なものであれば問題ない。ただ、「人命を損なわずに陣地を守れ」みたいなトレード・オフが発生して実行不可能な命令が出されると、現場は参ってしまう。

そうなった時に、現場指揮官がどうするか考えてみよう。私が現場指揮官なら、次のような兵士を集める。

  • 自分(指揮官)や同僚に不満を持っている

  • 不満を口にして雰囲気を悪くする

  • 戦闘能力や意欲に欠ける、チームの足を引っ張る

  • 命令に従順でない

  • 蔓延している病気に感染しているリスクが高い

  • 何となく気に入らない(笑)

そして、こいつらを特攻兵に仕立て上げ、ウクライナ軍を守勢に回らせ、時間を稼ぐ。もちろん兵士の数は減ってしまうが、上官には、敵の攻撃が自分の陣地に集中しているので追加で兵が欲しい、と嘆願する。上官も、本当にその陣地が抜かれてしまうと自分の汚点にもなるので、追加で兵を出さざるを得ないだろう。

こういうことを皆がやり始めると、兵士の無駄遣い競争が始まってしまう。その結果、何が起こるのかは自明だ。

また、結局の所、①時間も含めた訓練費用をケチって練度の低い兵を使うことと、②兵士を無駄に消耗するのは、悪い均衡に陥っていることも自明だろう。ウクライナは西側式に兵の命を重視する戦い方をしているが、それは人道上の理由だけではない。実際にウクライナ兵は西側でしっかりトレーニングされた、それなりに練度の高い兵士であるため、彼らを失うコストは大きく、彼らを死なせにくい作戦をとる必要があるし、危なくなってもなるべく助けようとするインセンティブが働くのである。また、こうした行動をとることで兵士の生存確率が高まり、兵士がよりリスクのある任務へのハードルが下がると共に、戦地での経験を蓄積して更に練度が高まるという好循環も考えられる。

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