調理法に「どう考えたら コンビニの三景」(東京都 21歳学生男性)
※本記事は朝日新聞に投書されたエッセイ「どう考えたら 新幹線の三景」をリスペクトしたものです※
11月も半ばの秋の夕暮れ。学校帰り、腹が相当に減っていたので最寄りのセブン-イレブンに寄ってみた。
お世辞にも広いとは言えない店内ではあったが、薄暗い外の街路とは対照的に煌びやかな店内には、所狭しと陳列された品々が彩りを加えていた。
ふと見ると、壁際の冷蔵陳列棚の一角にパック詰めされたおかず商品のコーナーが据えられており、その中にとりわけ目を引く「サバの塩焼」。
税込280円。
かねてより友人から「死ぬまでに一度は食っておけ」としきりに勧められていた一品だ。何でも死ぬほど美味いのだそうで、食わねば死ぬほど後悔するのだとか。
どのみち死ぬ。
以前の記事でも書いたことだが、私は「美ン味いものを食いたい」がために生きているわけで・・・美食に生きる以上、美食に死ぬはむしろ本望とも言えよう。
なので買う。食って死ぬもまた一興。
早速、件の「サバの塩焼」を手に取った。予期していたよりも数段重く、思わず声が漏れそうになる。口内に溢れる唾液を飲み込みながら、その表面を貪るように視線だけで舐め回す。
すると、不意に、その表面中央下に大きく示された、「蓋を少しだけはがし、電子レンジで温めてください」の表記が目に入る。
「電子レンジで・・・調理・・・?」私は虚を突かれた思いがした。
何を隠そう、私の下宿先には電子レンジが存在しない。
入居当時、初めての東京暮らしに浮かれ切った私が母からの強い勧めを「冷凍食品などという軟弱な食品には頼らぬ」と突っぱねてしまったためだ。
以来、この二年間、私は電子レンジのない生活を続けてきたのだ。
そう。メロスには料理が分からぬ。だいたいのモノはフライパンであっためてきた。けれども食感に対しては、人一倍に敏感であった。流石の私も既製品の焼き魚をフライパンで温め直すほどの阿呆ではないのだ。
絶対ボロボロになるし。
ともかく。
改めて周囲の商品を見渡すと、多くの冷蔵食品が並ぶその向こうに、パスタや牛丼などのお弁当系商品が顔を覗かせているのが見えた。あれも電子レンジで温めるのだろう。
少し面倒ではあるが、布団の中で一晩温めて食う他なさそうであった。
仕方なく焼きサバを手にレジに向かうと、そこには気の弱そうな若い男性の店員が佇んでいた。胸には新入バイトであることを示す、初心者マーク。
・・・・・・魔が差した。
「この焼きサバ、店の電子レンジで温めてもらえますか」と尋ねると、店員は数秒のフリーズの後、仕方なさそうに焼きサバのパッケージを少しだけ開き、彼の背後の電子レンジに放り込んだ。
私はそのレジ前で居心地の悪さを感じながら、このコンビニの中での三景をどう考えたらいいのか自問した。
●追記
焼きサバは泣きそうになるほど美味かった。
ほろりと崩れる身、脂ののったジューシーな皮。全てが完成されていて・・・気が付けば、二合炊いていたはずの白米がきれいに消え去っており、私は食い過ぎからくる腹痛により死を迎えることとなった。
「どう考えたら 新幹線の三景」(静岡県 63歳男性)
暮れの新幹線。相当の混雑なので指定車両に移ってみた。
ここも満席だったが、ふと見ると、座席に小さなバスケットが置いてあり中に小犬。隣に若い女性が座っていた。 早速「ここ空いてますか」と尋ねてみた。すると、その女性は、「指定席券を買ってあります」と答えた。私は虚を突かれた思いがした。
改めて車内を見渡すと、多くの立っている大人の中、母親の隣で3歳ぐらいの男の子が座っている座席もある。あれも指定切符を買ってあるのだろう。
仕方なくいっぱいの自由席に戻ると、ここにも学童前と思われる子が親の隣に座っていた。懲りもせずにまた「ここ空いてますか」と尋ねると、母親は仕方なさそうに子どもをひざの上に乗せ、席を空けた。
私はその座席で居心地の悪さを感じながら、この新幹線の中での三景をどう考えたらいいのか自問した。
(朝日新聞 より引用)
・・・セブンの店員さん、ご迷惑をおかけしました。どうしてもウワサの「焼きサバ」を食べてみたかったんです・・・。
恥ずかしすぎて、もう二度とあのセブン行けねぇ・・・。