【読書】13歳からのアート思考/末永幸歩
アートの歴史の転換点と、そのきっかけとなった作品をメモ。
①緑のすじのあるマティス夫人の肖像/アンリ・マティス/1905年
ルネサンスの時代に描かれた作品の多くは、教会やお金持ちの要望によって描かれたもの。そこで一貫して求められたのは「写実的な表現」であり、それがアートの正解だと考えられていた。
20世紀になると、写真の登場によりアートの存在意義が揺るがされた。アートにしかできないことは何か?マティスは、「目に写る通りに絵を描く」という目的からアートを解放した。
②アヴィニョンの娘たち/パブロ・ピカソ/1907年
これまでとは違うリアルさを探究した結果として生まれた表現の花。リアルと聞いて多くの人が思い浮かべるのは遠近法で描かれた絵。遠近法の特徴は、描く人の視点が一箇所に固定されていること。つまり、裏側がどうなってるのか分からず、半分のリアルしか写し出せない。
ピカソは遠近法に疑問を持った。私たちはさまざまな情報を頭に取り込み、脳内で再構成して初めて「見る」ことができる。「さまざまな視点から認識したものを一つの画面に再構成する」という答えにたどり着いた。
③コンポジションⅦ/ワシリー・カンディンスキー/1913年
西洋美術史上初、この絵には具像物が何も描かれていない。「具像物を描く」という暗黙の了解から解き放った。
④泉/マルセル・デュシャン/1917年
2004年にイギリスで行われた専門家500人による投票では、「アート界に最も影響を与えた20世紀のアート作品」の第1位に選ばれた。これは便器を選んでサインし、「泉」と名付けただけ。ルネサンス絵画の世界では作品の美しさや精度などの出来栄えが、優れた作品であるかどうかの決め手とされていた。言い換えれば「視覚で愛でることができるかどうか」が重要だった。「泉」からは視覚で愛でられる要素がことごとく排除されている。デュシャンはこの作品によって、アートを視覚の領域から思考の領域へと移行させた。
⑤ナンバー1A/ジャクソン・ポロック/1948年
人は「窓を見てください」と言われると、窓そのものではなく外の景色を見る。一方で床を見てくださいと言われると、床そのものを見ることになる。絵画はまさに窓に似ていたが、ナンバー1Aは床に似ている。私たちに見えるのは、「表面に絵の具が付着したキャンバス」という物質である。ポロックは物質としての絵そのものに目を向けさせようとした。アートを何らかのイメージを映し出すためのものという役割から解放した。
⑥ブリロ・ボックス/アンディー・ウォーフォル/1964年
彼はただ、食器用洗剤のパッケージの商品ロゴやデザインを、そっくりそのまま木箱に写し取っただけである。これはアートか商品か?何がアートなのかを決める枠組みはアートというお城を取り囲む城壁のようなもの。デュシャンでさえ、アートという確固たる枠組み=城壁がそこにあることは前提として受け入れ、城壁の内部で革命を起こそうとしていた。ウォーフォルのブリロ・ボックスはこの城壁を壊すためものであった。この作品は城壁の内部に存在しているが、美術館を一歩外に出ると、街角やスーパーや家庭の台所にも外見的に全く同じものが存在している。