脳内ヒットチャート
幼い頃に聞いた音楽というのは、実によく覚えているものである。大人になってからどれだけ色んな音楽を聞こうとも、無垢な子供時代に聞いた音楽の衝撃に勝るものはない。殆どが家の中で完結している幼少期、アニメや教育番組・コマーシャルなどのテレビから流れる音楽や、スピーカーを通して聞いた親の趣味の音楽などは、無意識の内に耳へと入り込み、時折り強烈なインパクトを残してゆく。思い返せば皆様にも幾つかあるように、私の中にも存在する。そんな音楽の話をこれからしようと思う。
幼少期に私がよく耳にした音楽はというと、圧倒的に父の趣味であるビートルズだった。家で聞いた洋楽全てをビートルズだと誤認していた可能性はさて置き、そのビートルズであろう音楽をBGMに兄妹たちと遊び、そして育ってきた。時には、映像作品の『Yellow Submarine』を好んで何度も繰り返し見ていた事もある。奇抜な形をした黄色い潜水艦のロゴが入った、父お手製のTシャツを兄と揃いで着ていたし、全く英語が分からないながらに適当に口ずさんだりもしていた。「いぇーろさんばりんっ、いぇーろさんばりんっ」と、飽きもせずに歌っていた表題曲の「Yellow Submarine」や「Lucy in the Sky with Diamonds」は、今でも鮮明に思い出せる。このように繰り返し聞いたり、日常的に耳にしていて覚えている、という分かりやすいものもあれば、また違った記憶の残り方をした音楽もある。
母が長らくファンである福山雅治さんの、特に2000年〜2010年代の曲を、我々兄妹は揃って非常によく覚えている。最近になってそういった話題になった際、母によると、聞こえる所で曲を流したのは、新しくCDを買って特典のDVD(ミュージックビデオ)をリビングで一度見たくらいだと言う。「どこまでも美しくて〜」のフレーズと共に、雅治さんがデジタル世界でギターを弾きながら何かに乗って飛んでいる(ような印象を受けた)「想 -new love new world-」のミュージックビデオはとても記憶に残っている。思い返せば確かに、母がスピーカーで流しているのを一度も聞いたことはなかったし、人前で口ずさむような人でもなかった。私が自ら調べるなどして聞いた記憶もない。それでも、このように瞬間的に記憶に残った音楽もある。
そして時に、同じ曲から2度の衝撃を受け、記憶に残り続けることもある。初めの衝撃は、私の幼少期に登場する。一家団欒、テレビ番組を見ていた合間のCMにて流れたその曲は、何とも魅力的だった。耳にした瞬間から取り憑かれたかのように「あーびぃだぶぅ〜」と真似を続け、私の中で空前の大ブームを引き起こした。映像も印象的で、縦に4分割ほどされた画面の中で、上戸彩さんがカラフルに色を変える衣装を纏って歩いていた。執筆時のわたくし調べ(不確か)によると、それはソフトバンクモバイル PANTONEのCMで、2007年にお父さん(北海道犬のカイくん)の「父変身篇」と、2012年に上述の「アヤ変身篇」が放送された。私の年齢的に、2007年時点で歌は聞いていたものの、どうやらアヤ変身篇の映像しか記憶していないことを今知った。それは兎も角、そこで流れていたのがノーランズの「I’m In the Mood for Dancing」であった。この衝撃は、おおよそ現在30代以上の方々が“だんご3兄弟”で受けたであろうものと同等、もしくはそれ以上であったと思う。そもそもこの曲は、1980年に「ダンシング・シスター」の邦題で発売されたノーランズの日本デビューシングルで、オリコン1位も獲得した大ヒット曲である。この曲を皮切りに数曲のヒットを飛ばし、ちょっとしたブームになったらしいが、もちろん私は生まれていないし、2007年当時にそんな背景など知る由もなかった。それから15年ほど経ったある日、突如としてYouTubeのおすすめに目を惹く4人組が現れた。躊躇いなく再生した映像は、画質からして古いものであるのは明らかだったが、流れた歌はあまりに聞き覚えのあるメロディーだった。これが2度目の衝撃であり、ノーランズとしては初対面となった。グループ歌手だったことにも驚いたが、何より軽快なリズムに合わせて、長い脚が繰り出す4人(時期によって5人だったりもする)のステップの美しさは、暫し呼吸を忘れるほどであった。特に探してはいなかったものの、大好きだった曲の題名と、歌っている歌手の名前を突然知った衝撃はあまりに大き過ぎて、強烈に脳に焼きついた。
その翌週、長らく無記名だったこの曲は、私の脳内ヒットチャートにて、正式に「I’m In the Mood for Dancing / The Nolans」として見事15年ぶりの1位へと返り咲いていた。そして現在、アルバム『Making Waves』を引っ提げた脳内ライブツアーの敢行に伴い、「Sexy Music」や「Attention To Me」「Gotta Pull Myself Together」などがチャートトップへと急上昇している。脳幹公演の熱狂も冷めやらぬまま、前頭葉公演を間近に控え、まだまだブームは衰えそうにない。