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いらない感情
採血のために保定される動物と接するとき、私は「かわいそう」と思っていました。
それは、ストレスを抱えて動物病院にやってくる動物たちを見たとき、いつも感じる気持ちと同じです。
でも、その感情が役に立ったことはあったでしょうか?
やるべきことは、やらなければいけないのに。
「かわいそう。かわいそう。」
「言葉がわからないのに、こんなところに連れてこられてかわいそう。」
そう思うことで、なんとなく良い動物看護師になったつもりでいたのかもしれません。
だけど、もし私が「かわいそうなことをしている」と思っていたら、それは動物にも伝わり、「これからかわいそうなことをされる」と身構えさせてしまうのではないか? そう考えました。
痛みやストレスを軽減する方法には配慮しつつも、できるだけ心はニュートラルでいたい。
こうした医療従事者としての心の持ちようは、仕事を続けるうちに少しずつ身についていくものなのかもしれません。
ただ、忙しさに流されて患者への思いやりを失うのとは違う。
なんていうか、余計な雑念を省いて、手際よくやるべきことをする。
それが結果的に、動物が嫌がることを短時間で終わらせ、みんながハッピーになれることにつながるんじゃないかと思うんです。
嫌がることをする申し訳なさや、動物の信頼関係のバウンダリーに踏み込む感覚。それらは心得たうえで、一度しっかり心の奥にしまい、閉じ込めておくのです。
こんな話、どうでもいいと思う人もいるかもしれません。
でも私は、いろんな人(動物)の気持ちを、さまざまな局面を想定してぐるぐると考えてしまう癖があるので、心の置き所を整理しておかないと、溜まって苦しくなるんです。
そういう、心得ておくべきだけど、常に背負っていると重くなる感情ってありませんか?
謙虚さ、緊張感、真面目さ、正しさ、同情心。
いったん、それらをすべてゼロにする。
いちいち相手に示さなくても、大丈夫だと信じる。
「忘れないように」と意識しなくても、ちゃんと自分の中にあるから大丈夫。
私の言っていること、分かる人はいるでしょうか。