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バーガー&コーク

舗装も剥げて、凸凹の路。
街並みではなく町並みは、和風ではない。
先の戦争で、災禍を逃れた町並み。
昭和初期?大正?モダニズム?

空き地の目立つ新興の造成地。
郊外型の量販店やホームセンター、ドラッグストアーに葬祭会館、点在するコンビニ・・・
田舎なのに無機質な雰囲気が漂う街。
亘が白いレガを駆る。

「ちっと、腹空いたねぁ!何か食うていくかよ?」亘が言う。
「そうやのぉ・・・」と俺。

山々と海の間に在る小さな平野。
ラーメンや牛丼にファストフードなど、フランチャイズの飲食店はあるが、気が向かない。
しかし、街並みに対して人の動きが少な過ぎるように感じられてならない。
放置された映画のセットじゃないかと思う。

亘がハンドルを切り、小さな建物が密集する細い路へとレガを向ける。
おばあちゃんが歩いている。
何十年もそこに在り続けている事に何の疑いもなく、またそれが、いたって自然な町並み。

かつては、盛大な漁業で隆盛を極めた町並みが、
そこにあった。

「今日こそは、あれ、行く!」と亘。
「あぁ、えいでぇ」と俺。

すでに路は狭く、車がやっと擦れ違えるほどになっている。
亘は、入る路地を二度間違えて、未舗装に戻る寸前の路を進み、水溜まりを二つ蹴り飛ばしてから、その店の前にレガを横着けした。

「名店街」の一番店だと言うその店は、商店街の入り口角のベストポジションに在る。

「キリンハウス」
アメリカンテイストな個人経営のファストフード店だと。

外壁に掲げられたメニュー。
なんだか、よくわからない。
「キリンハウス」と言うメニューは、どんな食べ物か想像もつかない。

ベニアに壁紙、リノリュウムの床、後付けのエアコン・・・
奥の厨房から立ち上る油煙で白く霞む店内。
目が痛いが、肉が焼ける香ばしい匂いに満ちている。

入口すぐのカウンターで、60絡みのマスターにオーダーする。
「フィレオフィッシュとコーラのL」と俺。
「フィレオフィッシュとコークね!」とマスター。
たしかに、メニューには「コーク」と書いてある。
「ちょっと待ちよってや。お代は先でええ?フィレオフィッシュとコークで・・・さんびゃくろくじゅうまんえん!」
(^_^;)
「ほんなら、これで」と、百円玉を4つ渡す。
「あっ、よんひゃくまんえんね!お釣り、よんじゅうまんえん!」

フィレオフィッシュ¥160、コークL¥200

「亘、なんか、すごいね」と言うと
「そうじゃろう?人気店ながでぇ」と亘。

その通り、ひっきりなしに来店客がある。
持ち帰りで待つお客さんや、電話注文して受け取りに来るお客さんもいる。

「えー、・・・のお客さん!せんななひゃくろくじゅうまんえん!」
「すみません。これで・・・」
「あっ、いちおくえんね!」
はぁ!まぁ、1億円だわな、一万円札。

「はい!お釣りね!
ワン!ツー!さん!し!っ、えっと・・・」
マスター、噛む。
「いやぁ、ずっとこれでやりよぉけんねぇ!」
マスター、できてない。

「フィレオフィッシュとコークのお客さん!」

取りに行きました。

フィレオフィッシュは、鯖か鯵のフライ。
小ぶりなフライと少しのレタス。
ほぼマヨネーズなタルタルソースかなぁと思っていたが、タルタルソースではなくケチャップ(^_^;)
美味かったですよヾ(¬。¬ )

「ランチ、ふたつ」
カップルがオーダーしている。

「亘、ランチっちゅうが、どんな?」と聞くと
「ランチ!おまん!あらぁ一人前を一人で食べきれんぜよ!チキンとポテトが山じゃ!」と亘。
「あこのカップル、ランチふたつち注文しよったで」と俺。
亘がわざとらしく驚いた顔をしてみせた。

愛されてるお店なのが、よくわかります。
立ち位置?のしっかり感じられるお店です。
「コーク」ですよ!「コーク」

トレイを返し、お店を出た。
名店街を振り返ると、そこには閉店してから遥かな時間を経たシャッターがならぶ、幅一間半ほどの薄暗い空間がある。

帰ろうとした、その時、
振り返ったその先の細く薄暗い空間から、
どうしてだろうか?
なぜだかわからないけど、

当時の活気や喧騒が聴こえた気がしたんだ。

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