アラスカ1人旅記録 vol.16


道路が見つかった。
私は助かった。

しかし人とは不思議なもので、何か手に入れるともっともっと、と欲しくなるらしい。
命が助かった。
あとは道路の近くにいて、明日まで無事を確保していればいい。はず。なのに。。
私はある気持ちに支配されていた。

「やっぱりケータイが諦められない!」

何と愚かなんでしょう。。
我ながら呆れる。
この1ヶ月の旅を、写真を通して家族友人たちに共有したい。
こんなにも壮絶な旅を、遭難を乗り越えた話をしたい。
その気持ちで私の心はいっぱいだった。
時間は確かにある。
しかしケータイが見つかるとは到底思えない。
人間が誰もいない四国の中で落とし物を探そうとしているのだ。無謀すぎる。
でも、どうしても諦められない。

散々迷った挙句、私は決めた。
迷いそうになったらすぐに引き返す。
身の安全が第一。
道路を歩いて、初めにバスを降りたキャンプ場からスタートする。
とルールを決め、もう一度探してみることに決めた。
諦めたところで残りの半日モヤモヤしていたらどちらにせよ楽しむ事はできないと考えたからだ。
気の済むまで探そうじゃあないか。
今回の旅は誰でもなく自分の為の旅なのだ。

道路を歩く。
結構な距離があるが、舗装された道にいる、その事実に気持ちは高揚していた。
(これから再び山に入ろうとしているのに)

キャンプ場に着いた。
昨日の記憶を頼りに、地図を片手に山に入っていく。
やはり簡単ではない。
大まかな道は合っているようだが、何だか景色が少し違う。
歩いては元の場所に戻り、と繰り返していたが全然見つかりそうにない。
2時間ほど歩いただろうか。
体力的にも気力的にもくたびれてきた。
すると向こうのほうに見覚えのある丘が見えてきた。
不貞寝してテントを張った場所に似ている。
よし、あそこまで行って見つからなかったらケータイは諦めよう。

見つかりますように。
祈りながら丘に登ると、そこに居たのは
ケータイ、ではなく
3頭のトナカイ🦌🦌🦌

手を伸ばしたら触れそうなほどの距離にいる。
彼等も私と同じく面食らった表情でこちらを警戒している。
まずい。このまま突っ込んで来られたらひとたまりもない!!
緊張の中、しばらくの沈黙の後、彼等はゆっくりと後退し始めた。
私も習うように後退りし、お互い徐々に距離を空けていった。
危なかった。
しかし旅の目的だった野生動物との遭遇が
こんなところで叶うとは。
ムースとは何度もあったが、トナカイ達の雰囲気は別物で、何よりこの距離感は全くの別体験だった。
彼等がここアラスカで日々を生きている事が
一発で分かってしまうような、
星野道夫さんが綴るエッセイの続きを見たような、そんな時間だった。

あぁ、これを見るためにもう一度山に入ったのかもな。
ケータイは諦めよう。
となぜか素直に思えた。
ケータイのかわりに何か大事なものをもらえた気がした。

地図を見ながらスタート地点のキャンプ場に無事到着し、テントを設営。
この2泊3日は壮絶すぎる時間だった。
来てよかった。
カメラもない。でもこの景色をしっかり目に焼き付ける事以外に重要な事はないように思えた。
真っ赤に燃える夕日、
それに染まる山ちゃん達。
どうもありがとう!
と手を合わせてお礼をし、眠った。

翌朝、
テントをたたみ、道路でバスを待つ。
が、なかなかバスが来ないので散歩がてら橋まで歩くことにした。

無事に帰れる。
その事が当たり前でないと
旅に出る前の私は知らなかった。
仕事に一生懸命で、生きてる事に感謝する、なんて少しもできていなかった。
今の私は絶対的にその事を知っているのだ。
今日を無事に生ききる。
その繰り返し。
それは当たり前ではないという事。
この気持ちは日本に帰ってからも忘れないようにしよう。

橋について暫くすると、エンジンの音が聞こえてきた。
今日朝一番のバスが私の目の前に停まった。
「乗るかい?」とバスの運転手が私に尋ねる。
2日3日ぶりの人との会話。
何だかジーーンとしてしまって声が出ず、
子どものように大きく頷いて
バスに乗り込んだ。

私はこれからやらなくてはならない事をおさらいしていた。
ケータイをなくした事でいくつかの問題が起こっていたのである。
それが、チケット、時間、連絡手段がない事だった。
特にチケットに関してはメールに予約情報が全て入っている為、下手をすると電車と飛行機の予約が全てパーになる可能性があるのだ。
私が遭難中に考えていた作戦は、
デナリ国立公園のPCを貸してもらってGoogleにログインし、Gmailから予約ナンバーをゲットする、というものだ。

少しして落ち着いたので隣の夫婦に今は何時か尋ねると朝の9時半頃だった。
よかった、時間はオッケー。
帰りの電車にも間に合いそうだ。

さぁ、チケットナンバーはゲットできるのか!

次回タロコジ帰還編✈️
お楽しみに。

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