#18 【40代からの日向坂46】舞台はあちこちポップコーンだらけだぜ
舞台にあるもの
大学時代、同じ学科の先輩に横浜の街でばったり会ったことがあって、バイトにでも行くのかなと思って聞いたら、少し気恥ずかしそうに「劇団の公演があって」と言われた。「そろそろ就活始めないといけないから、この公演が最後なんだよね」そう言って彼は足早に去っていった。その先輩の舞台を見ることはなかったけれど、そんな若者特有の刹那的なエネルギーの矛先になるような「文化的」な何かを欲していたあの頃の僕は、毎週のように通っていた渋谷のミニシアターでの映画鑑賞のほかに、小劇場での舞台観劇を「ちょっとした」趣味のラインナップに加えることにした。それでも、下北沢や横浜の本多劇場、渋谷の道玄坂界隈の劇場に足繁く通っていたのはわずか2年ほどだっただろうか。
そんなこともあってか、「舞台」には「青春」の匂いを感じ取ってしまう。大人になって観るそれは、必ずしも野心あふれる若手の演劇人によるものだけではないし、むしろ名うての俳優陣による商業作品であることの方が多いのだが、「舞台」を「舞台」たらしめる主な要素が「生」であり「声」であり「汗」であり、その日その時一度きりの「ライブ」であることに関係しているのかもしれない。
2023年の夏以降、日向坂46のメンバーは4つの舞台作品に5人のメンバーが出演することになりました。幸いスケジュールとお財布の調整もついたので、全作品観劇することができました。(以下、日付は観劇した日)
7/13(木):舞台「Les Misérables~惨めなる人々~」(潮紗理菜)
7/14(金):舞台「幕が上がる」(森本茉莉 / 山口陽世)
8/21(月):ミュージカル「ヴィンチェンツォ」(富田鈴花)
11/24(金):舞台「ラフテイル・オブ・アラジン」(髙橋未来虹)
先日、最後のみくにんの舞台を見終わったので、振り返りとして少しずつコメント残しておきたいなと思います。
若い頃の、青春を迎えに行っていたような時代からこちら、自分から主体的に求めて舞台を観たのは本当に久しぶりでした。何度か同じようなことも言いましたけど、今年図らずも始めたアイドルの推し活が当初の想像を超えて、自分の趣味活動を拡げることになったことが、すごく自分自身うれしい出来事だったんですよね。やっぱり、間違いじゃなかったなあと思ってます。
潮紗理菜〜決意か、惜別か〜
作品全体を通してみると、なっちょの出番は決して多くはありませんでした。前後半に分けたときの後半部分からの登場になります。それでも、ある意味、「普段のなっちょ」とのギャップというか、役になりきった感じは今年見た中で一番だったかもしれません。舞台設定や衣装の豪華さも相まって、本当に美しかった。個人的には、本作の集団での芝居や踊り、登場する各グループがそれぞれ素晴らしい個性とパフォーマンスを発揮していて、特にその点において、観劇体験として秀逸でした。
なっちょについては、サリマカシーラジオで、並行して話を聞いていたり、メッセージアプリで随時、本人の心境も窺えていたので、舞台にかける想いも感じられました。正直、ポジティブさとネガティブさが共存して感じられていた気がします。松田好花さんに「舞台を観に来ないでほしい」と伝え、本当に来てもらわなかったというエピソードは、なかなかに重たいものでした。グループ卒業について正式にメンバーに伝えたのは、舞台の後だと思われますが、それぞれの関係者等個別への連絡は、舞台の前後であったんじゃないかと思います。なっちょが卒業後の動きについて、不思議なほどに語ろうとしないのが気になるのですが、この舞台は彼女にとって「決意」の場となったのか、それとも「惜別」を表すものだったのか。
僕が一つ心に残っているなっちょの言葉があります。それは、「日向坂のグループの中では年齢的にも上の立場になるのでしっかりしなきゃと思うけれど、舞台の期間中は人生の先輩方に囲まれて甘えることができた」というものです。ある意味、卒業発表の際のなっちょから発せられた言葉たちとは、真逆のベクトルにあるのですが、なんとなく、なっちょの7年半のアイドル人生と、これから進み方を考えた時に決して無視できない心の揺れのようなものを感じました。
森本茉莉 / 山口陽世〜青春ポップコーン〜
ただ、ただ、楽しんだ。笑いあり涙あり。舞台上で繰り広げられる「青春群像劇」。それだけじゃなかった。「まりぃ」と「ぱる」の2人が膨大なセリフ量と、過去に好評を博した作品の再演という重圧に、初舞台という立場で立ち向かう。制作発表から千穐楽を迎えたその後の余韻まで含めて、二人の一挙手一投足が2023年夏の最高の青春活劇だった。
個人的には、2列目という良席で、ぱるとまりぃがすぐ目の前で熱演を繰り広げるという最高の体験ができましたし、作品自体の素晴らしさに加えて、想像をはるかに超える二人の演者としてのパフォーマンスに、掛け値なしに感動させられました。同時に、その背後にある努力と葛藤の時間に思いを深くせざるを得ませんでした。
二人が話していた通り、二人一緒でなければこの壁は乗り越えられなかったのでしょう。そして、森本茉莉と山口陽世の「成長」はそれぞれの個人的なスペックアップに留まらず、「ぱるまりぃ」というコンビの、いや、日向坂三期生というグループの成長に直結したものと思います。それが日向坂46全体にどのような影響をもたらしたかは、みなさん日々目の当たりにして楽しんでいるところかと思います。この夏、「青春群像劇」を大成功に導いた二人は、自らが起こした化学反応をグループに持ち帰り、さらに連鎖的にメンバー同士を結びつけ、弾けさせ、あちこちポップコーンだらけだぜ!
あと、とある一人の熱狂的なおひさまを誕生させたことも忘れてはいけませんね。
富田鈴花〜自他共に認める正統進化〜
すーじーが出演したミュージカル「ヴィンチェンツォ」は、今回の4作品の中で、その制作規模、商業的な位置付けとしても最も大きなものだったかと思います。製作陣や他の出演者を見ても、「アイドル」という「肩書き」や「エクスキューズ」が意味をなすとは思えないレベルの作品でした。その環境において、やはり富田鈴花はやってのけたと思います。もちろん、ミュージカル出演に際して期待されていた歌唱力は、既に高い評価は得ていたと思いますが、それをミュージカルという毎回が一度きりという生の舞台で発揮するということは尋常なことではないと思いますし、その結果はアイドルファンに留まらず広くミュージカル・演劇ファン層にも大きなアピールを果たすことに繋がったと思っています。
何より大きいと感じるのは、ミュージカル出演後にすーじー本人が、決してためらうことなく自らの成長を公言し、語っていることです。歌唱への自信、演技への関心と情熱、成功体験からくるメンタル面の成長、そしてそれらが確実に他の仕事につながり、好結果を連鎖させています。スーパーフォーミュラ2023での国歌独唱はそのハイライトと言ってもよいでしょう。ここからさらにグループ活動の中でどれだけ富田鈴花の活躍が見られるのか、楽しみでなりません。
個人的には、「ヴィンチェンツォ」の「生しょうゆ」メールが、ラジオ『ほっとひといき』で採用されたので大勝利です。
髙橋未来虹〜4年目のお披露目会〜
2023年は日向坂三期生にとって、躍進の1年になったと思います。上村ひなのが10thシングル『Am I ready?』のセンターに選ばれたのを筆頭に、前述した「ぱるまりぃ」の舞台の成功とグループ内での大幅なプレゼンス向上。それらが夏頃までに集中していたため、もう一人の三期生である「みくにん」の活躍の場を期待する声は(僕の中で)最高潮に達していました。8月に行われた10thシングルのミーグリに初めて参加した僕が、みくにんに対して「下半期はみくにんのターンだと思ってる!」と伝えたのは本心でした。それに対して、「どうかな〜?頑張るね」とだけ答えてくれたみくにん。その頃すでに、舞台『ラフテイル・オブ・アラジン』への出演は決まっていたはずです。
舞台『ラフテイル・オブ・アラジン』は、そのタイトルの通り、本当に楽しくて笑えるお芝居でした。グループでのいつもの雰囲気とは少し異なり、「かわいさ」に大きくパラメータを振ったわがままなお姫様は、「髙橋未来虹」をあまり知らない日向坂ファン以外の観客はもちろん、普段から彼女を応援しているおひさまに対しても期待以上の印象を与えることに成功したのではないでしょうか。
三期生の「しっかり者」として、ときに「副キャプテン候補」としても囁かれ、最近はひなあいでの「がや」にも定評のあるみくにん。初の期別曲センターとしては「愛のひきこもり」を任せられるキャラクターですが、この舞台において「かわいさ」一本でも十分に華やかなスポットライトを浴びるにふさわしいことを証明してみせたと思っています。そして、グループ1の高身長を誇る抜群のスタイル、何より舞台上で披露した透き通る歌声と歌唱力は、今後のアイドル活動とその枠を超えた大きな飛躍を確信させるインパクトでした。個人的には、例えば松田聖子の『赤いスイートピー』や『青い珊瑚礁』のような80年代のゴリゴリ王道アイドルソングとか歌ってほしいと思わされました。
抜群のスタイルと着こなしを生かしたモデル仕事は、常にみくにんの今後の飛躍の舞台として期待されるところですが、それだけじゃない、王道アイドルとして更なる可能性に胸が高鳴る、そんなアイドル「髙橋未来虹」を改めてお披露目する舞台となったのではないでしょうか。
舞台を観にいこう
「ライブ」は文字通り「生」のステージである。2023年は四期生が初めて全編帯同した全国ツアー通じて、グループとしての結束を大きく高めたに違いない。同じく「舞台」もまた「生」であり、さらにグループを離れた稽古期間がその者の「個」を磨き、強くする。仲間との成長も、孤独を経た成長も、同じく「青春」を思わせる。観る側の僕らも、決して戻ることの出来ないその瞬間を眩しく感じるのだ。アイドル活動のサイドストーリーのような舞台仕事は、ちょっとしたスパイスに思わせて、見逃すことの出来ない彼女たちの青春のエッセンスなのかもしれない。
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