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指のかかりが良い(2024年7月①)

いつの間にか、パリオリンピックまで2週間を切ったらしい。

先日、TV番組の中で、バスケットボール日本代表の渡邊雄太選手が、漫画『スラムダンク』における名言のひとつ「左手は添えるだけ」について、「かなり昔なので。今は少し違うんですよ。」と話していたのを見た。僕も小中高と部活はバスケ一筋だったが、たしかに、今はと言わず、昔から「左手は添えるだけ」が正しいシーンは限られる。あの夏(だったはず)、桜木花道が特訓していたゴール付近でのジャンプシュートは、それで正しい。

しかし、例えばスリーポイントシュートを打つときなどは、右手で狙いを定めながら、左手も支えに加わる。それだけでなく、リリースの過程で左手の親指をボールにしっかりかけて力を伝え勢いをつける。別角度から力を伝えることになるので、軸がぶれないように利き手のコントロールが重要だ。左手の後押しも受けながら、フィニッシュは右手でしっかりスピンを利かせて中指の先で弾くように最後まで力を伝える。その指先の感覚がキレイに残ったとき、三井寿は独りごちる。静かにしろい、と。

30年も前の指先の感覚を今も覚えている。

ソファに寝転び、天井に向かって見えないボールを繰り返し放つ。左手の親指を押し出す。右手を連動させるように伸ばしながらスナップを利かせる。中指が残る。

数日前に観た「ひなた坂46」のライブを思い出していた。色褪せつつある自分の青春が、現在(いま)見た彩りに上書きされていく。ただの一人として添え物などいない、12人全員が輝いたステージだった。2日間のライブはたしかに見事であったが、これまで以上にその背景、そしてプロセスを意識させられた時間でもあった。

2日目に用意された高本彩花の卒業セレモニーでは、四期生の清水理央が行ったスピーチに不意を突かれ、涙が溢れてしまった。これまでそう多くは語られることのなかった2人の関係性、紡がれていた絆に心が動かされた。この期間、僕はこうした新鮮なメンバー同士のつながりを数多く目にしたように思う。よく知られた仲良しコンビではない、ともすれば意外な組み合わせを。同時期に進行していた「日向坂46時間TV」を通じた活動も含め、日向坂46はこれまでよりも数段進化(深化)した一体感を手にしたに違いない。

「ひなた坂46」のライブでは四期生曲は披露される機会がなかった。『見たことない魔物』をはじめ、ライブ映えもする名曲揃いでもあり、そこを惜しむ想いもある。『ロッククライミング』の歌詞もまた、今のグループの状態に嵌るところがある。

ロッククライマーよ いつか見た未来は指が掴んでる

日向坂46『ロッククライミング』より

今、彼女たちが手を伸ばして掴めるのは未来だけじゃない。たとえ態勢を崩したとしても、たとえマイナスにそびえ立つような険しい壁に阻まれたとしても、どの方向に手を伸ばしても掴める手がかりがある。グループ全体が獲得したお互いを支えあえる「ホールド」の存在が、自分たちを次の大きな目標に導いてくれるだろう。

これから武道館があり、ひなたフェスがある。ひなたフェスでは始球式を模した企画などはあるだろうか。あったとして、ピッチャーは誰が務めるだろうか。候補者は多士済々だ。ここの投手陣は今、指のかかりが良い。


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